★ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログ★

ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

(その55)リンゴのドラミングの凄さについて(その5)

リンゴのドラミングについて最後の解説です。

 

  I FEEL FINE(シングル、1964)

この作品で、リンゴは、ジョー・チェンバーズに匹敵するテクニックで、シンバル/タムタムR&Bシャッフルをやってのけました。実際、このドラム・トラックを聴けば、リンゴが、往年のソウルやジャズのブルーノートスケールをこの曲に見事にはめ込んでいるのに気付きます。このリンゴのスウィングの天賦の才能は、まず最初にビートルズとともに彼に世間の注目を集めさせたのです。 
 
ポールは、こう語っています。「彼のドラムは、基本的に『ホワッド・アイ・セイ』(レイ・チャールズ)にあると我々は考えていた。それは、オリジナルのレコードでプレイされている、レイ・チャールズのドラマーのミルト・ターナーによる一種のラテンのR&Bによるもので、我々はそれが好きだったんだ。バンドのドラマーとしてリンゴが成功した要因は、彼がとても上手くそれをプレイできたということだよ。」    
 
それから、これはジョージが後から思い出したことですが、ビートルズは、「Watch Your Step」というボビー・パーカーの曲に影響を受け、カントリーっぽいギター・リフを加えました。そして、この曲は、シングル・カットされ、見事にヒットしました。 ってなわけで、今改めて「Watch Your Step」を聴いてみると…あらら、ギター・リフがそっくり(^_^;)

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 TICKET TO RIDE(HELP, 1965)

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この作品は、轟き渡るビートからスタートし、スマートに走り、フェイドアウトでテンポが速くなるという、車で楽しくドライブするかのような演奏です。そして、ジョンは、この作品を「最も初期のヘヴィーメタル・ロックの一つ」と好んで呼びました。確かに、あの重厚な地鳴りのようなサウンドは、テンポこそゆったりとしているものの、もっとアップテンポに変えれば、そのまま後年のヘヴィー・メタルに変身するでしょうね。フェイドアウトで逆にテンポアップするというのも斬新なアイデアです。  

レコーディングの背景を無視すれば、まるでリンゴがドラムをデタラメに教えられたアマチュアのように演奏していることが、逆にこの作品の斬新さを示す例でもあります。もっとも、リンゴ自身は、ヴォーカルに合わせてプレイしだけで、大したことはしてないと謙遜してますけどね。  

この曲全体を通して、リンゴは、失恋というテーマに自分の気持ちをシンクロさせ、ジョンがBメロの高いキーに向かっていく流れに足を伸ばして付いています。また、コーラスと小音節との間に入れるフィルにも、ある種の才能を感じさせます。良いミュージシャンは聴き上手でもあり、リンゴは、この曲を良く聴いてピッタリと当てはまるドラミングを行いました。  

「リンゴは、バーンと弾けるようなスタイルで演奏する、すべての若いドラマーのお手本となるリーダーだ。」と、ポリスのドラマーであるスチュワート・コープランドは語っています。「彼は、あれこれ色んなことをやるよりも、むしろいつも正しい奏法で演奏した。」 

今にして思えば、これは、リンゴがこの後披露することになる「階段から下へ流れ落ちるようなサウンド」と表現された「Rain」のドラミングの一種のプレビューでもありました。 

  A DAY IN THE LIFE(SGT. PEPPER’S LONELY HEARTS CLUB BAND, 1967)

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この作品は、おそらく、プログレッシブ・ロック(代表的なバンドとして、ピンク・フロイドキング・クリムゾン、イエスエマーソン・レイク・アンド・パーマージェネシスなどが挙げられます)の先駆けといえます。そしてメインに作曲したジョンとその素晴らしいアレンジに対し、今なお惜しみない称賛が与えられています(実際、ローリングストーン誌のリストは、この作品をビートルズ最高の楽曲と宣言しています。)しかし、それと同時に、これはリンゴとしての傑作でもありました。  

リンゴのドラムを良く聴くと、彼がいかにして音色に微妙な違いを持たせているかが分かります。「『A Day In The Life』を覆うドラムの音色は、非常に良くできた合成の産物だ。」と、1992年のインタビューでジェネシスのドラマーのフィル・コリンズはこう語っています。「今日、偉大なドラマーをここへ連れて来たとしよう。そして、『リンゴのように演奏してくれ。』と言ってみる。しかし、彼らは、そう言われてもどうしていいか分からないのだ。」 

 

リンゴのドラムがもたらす遠くで響く雷鳴のような効果は、特に曲の最後のパートでジョンの大きく反響する声をパーフェクトに支えています。リンゴは、巧みなティンパニー・プレーヤーとしてのテクニックで、彼のドラム・キットを調整しました。 

1967年にリンゴが演奏したその一日は、彼がジンジャー・ベイカー(クラプトンとクリームを結成し、2010年の「ローリング・ストーン誌の選ぶ歴史上最も偉大な100人のドラマー」で第3位に選出された程の名ドラマーです)より優れたドラマーとなった日でした。  

 I’m Down

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この曲は、リンゴの安定したテクニックがなければ、ビートルズの演奏は、制御できないほどグダグダになってしまう危険がありました。 

この曲について音楽評論家のティム・ライリーは、1988年にこのように記述しています。「バンドのメンバーは、息を切らして向きを変え、ヒステリーの極致に達する寸前だった。だが、リンゴの腕があったからこそ、演奏が奈落の底へ落ちずに済んだのだ。」

「あらゆるドラマーに課せられる最も厳しい課題は、他のメンバーが頼りにする安定したビートを提供して、メンバーがとんでもない所へ行ってしまわないよう引き留めることだ。これが腕の劣るバンドになると、簡単にノリをぶち壊し、穴を開けてしまって混乱してしまうことになる。」

「リンゴは、確実だが誰にも邪魔されることなくバックビートを維持して、あらゆる物の中で最も強い接着剤ともいえる狂気を抑え込んだのだ。」 

この曲は、ポールのお気に入りで、それまでコンサートの締めにはリトル・リチャードの「Long Tall Sally」を演奏していたのをこれに代えたんです。とてもノリのいい曲なんですが、それだけにメンバーが暴走してしまう危険もある曲です。シェイ・スタジアムのコンサートの様子を観ても、みんながハイテンションになっているのが分かります。ジョンがエレクトリックピアノを肘でギャンギャンかき鳴らすのがカッコいいんですが、もうこの時には頭が完全にイッちゃってます(^_^;)でも、そこで踏みこたえたのがリンゴです。彼がしっかりとリズムをキープしたおかげで最後まで演奏できました。 

ドラマーは、バンドにおけるコンダクターの役割を演じます。彼がしっかりとリズムを刻まなければ、演奏全体がグダグダになってしまいます。つい、派手なギターやキーボード、ヴォーカルに目が行ってしまいがちですが、ドラマーの重要性を再確認していただきたいと思います。 

7 その他

「Glass Onion」では、リンゴが陽気に前へ駆け足で進んで行きました。「In My Life」では、素晴らしい、穏やかなハイハット/スネアのファンキーなリズムを刻みました。「Something」では、微妙な喜びを表現し、「Sgt. Pepper Pepper’s Lonely Hearts Club Band (reprise)」では、ダイナミックなオープニング・ビートを繰り広げます。また、「She Said、She Said」は、彼のストレートなロックスタイルの素晴らしい例です。「She Loves You」では、ハイハットのシャーンというサウンドが特徴的です。そして、「Come Together」では、リンゴが、彼のドラムをポールのベースと巧みに絡ませながらジョンの「シュッ」というヴォーカルに重ねています。その頃は、まだ誰もこんなプレイはできなかったのです。 

あ、そうそう、忘れてましたf^_^;)彼がビートルズ時代のレコーディングに参加しなかった曲が何曲か実はあるんです。「PS I Love You」については、もうお話ししました。それ以外にも、「Back In The USSR」「Dear Prudence」「Wild Honey Pie」「The Ballad Of John and Yoko」のレコーディングには参加していないんです。それには色々と理由があるんですが、そのことについて書き出すと長くなるので、本編でご説明します。 

さて、ここで再びリンゴに登場してもらいましょう。「ロックの殿堂入り」のセレモニーにおける彼のスピーチをご紹介します。若かりし頃を思い出しながら、彼は、次のように語りました。なお、前半は省略しています。 

「私は、スキッフルバンドのドラマーであり、そのバンドは、望まれれば何処ででもプレイしました。そして、私は、2つのバンドに同時に所属していたのです。」 

とここまでリンゴが語ったところで、ポールがスピーチを遮って自分の腕時計を彼に見せ、もう時間が無いよとアピールしました(もちろん、ジョークです!(笑))。すると、リンゴは、それに対してこう返しました。「もう用は済んだから、ここにずっと座ってろってのかい?」それを聞いた瞬間、観客の殆どが爆笑しました。二人ともリヴァプール出身ですから、ユーモアのセンスに長けているんですね。 

そして、彼は、アラン・フリーズのラジオ番組をルクセンブルクで聴いた時のことを語りました。その時、リトル・リチャードの「Shag on down to the union hall」という曲が放送されていたのです。彼は、こう語りました。「それは、あなた方アメリカ人にとっては、大して意味のないことだったかもしれません。しかし、我々にとってはとても意味のあることだったんです。」

そして、ビートルズ時代を振り返り、「私は、こんな凄い曲を作った仲間達と一緒に旅をしたのです。我々が1曲を仕上げるのに要したのは1時間半位でした。とても楽しかったです。」

「私が、すべてのバンドに対してアドヴァイスしたいことは、もし、あなたが怠けているなら、素直にそれを認めなさいということです。我々は、バンド内でメンバーがもし怠けているなら、それを認めるという約束をしていました。それで上手くやって来られたんです。」 

 

以上でリンゴのドラム・テクニックの凄さについての説明は終わりですが、伝わったでしょうか?何度も繰り返しますが、純粋にスピードや手数などのテクニックの面だけを取り上げれば、レッドツェッペリンジョン・ボーナムザ・フーキース・ムーンの方が上です。しかし、リンゴは彼らとは別世界でプレイしたのですから、そもそも比較すること自体が間違いなのです。 

繰り返しになりますが、リンゴのドラミングが高く評価されるのは、誰もが出したことのないサウンドを初めて出した、その独創性にあります。メトロノームのように正確なリズムを刻む天賦の感覚に加え、常に新たなサウンドを求める貪欲さ、どんな曲であろうとガイド演奏を聴いた瞬間にもうそれにピッタリ当てはまるドラミングをマジックのように生み出すセンス、左利きでありながら右利きのドラムキットを使い、誰が聴いても彼のドラミングだと分かるが、一流のドラマー達がコピーしようとしてもできない独特の個性的なサウンド、決して他のメンバーの邪魔をせずしっかりと自分の役割を果たすチームプレイ。そして、何よりロック・ドラミングのあり方を初めて世界に知らしめ、しかもそれを進化させていった功績はとてつもなく大きいといえるでしょう。

次に皆さんがビートルズの作品を聴く時に、「そういえばこんな話もあったなあ〜」なんて思い浮かべながら聴いて頂ければ、また新たな楽しみが見つかるかもしれません。 

(参照文献)Joe Johnson's BEATLE BRUNCH, YOUTUBE.COM, ULTIMATE CLASSIC LOCK, 100.7 WZLX, SOMETHING ELSE, Book of rare Beatles photos offers inside peek at iconic band, RADIO.COM. CLASSIC ROCK Forums, Beatles Archive. BEATLES MUSIC HISTORY!

(続く)