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ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

(その64)ポール・マッカートニーのベース・テクニックについて(その2)

それでは、具体的な作品でポールのベース・テクニックを分析してみましょう。トップバッターはTAXMANです。

 
TAXMAN – REVOLBER(1966)

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(GENIUS)

1 メロディアス・ベースの極致

ビートルズにおけるポールのベースラインの中でも、これは最も特徴的な作品かもしれません。ある意味、彼のメロディアス・ベースの極致といっても過言ではないでしょう。前回ポールのベースは、「目立たないように目立った」と書きましたが、この曲では結構目立ってます(^_^;)しかも、これ、ジョージの曲なんですけどね。
 
一回、ベースに耳をそばだてて聴くと「ボン・ボー・ボ・ボ・ボーン」という繰り返されるフレーズが耳にこびりついて離れません。従来の伝統的なベースラインからは完全に外れてますが、そもそもビートルズに伝統的なルールなんてどうでも良くて、「新たなルールを作った」のが彼らなんです。
 

 

2 シンプルながら革新的なベースライン

この作品のポールのベースは、非常にダイレクトかつ明瞭でメロディアです。攻撃的といっても良いくらいのサウンドを叩き出しています。ジョージとジョンがヴォーカルとコーラス、ギター・ソロで2拍目と4拍目をダウンストロークで弾いている間、ポールは、このベースラインを盛り上げるために、ベースの中央から上のフレットのポジションをずっとキープしています。 
 
Aメロのベースライン自体は、結構シンプルなパターンの繰り返しです。ベースラインの最初のパターンは、5フレットのコードのルート音のDから始まって、G弦の7フレットのオクターブ上のDへジャンプします。それから、D弦でハンマリング(弦を抑える方の指で弦を叩く)を入れてGからAへ移り、高音のCへ戻って終わります。このパターンは、ポールがコーラスに自然に合わせてAから始め、2つ目のコーラスに合わせてGへ下げるまで続けられます。リフの高音のDのところは2度弾きしてるんですね。それまでのベースにはなかった革新的な奏法で、シンプルながら実際に演奏するのはかなりハードルが高いと思います。 
 
彼が元々ギタリストだったことが、こんな革新的なベースラインを誕生させたのでしょうか?根っからのベーシストだったら無難なベースラインを選択していたかもしれません。正に「歌うベース」です。
 

 

3 ポールが実際にどう弾いたかは分からない!

ただ、実は、ポールがこのベースラインを実際にどのように演奏したのかは正確には分かっていません。TAB譜も色んなのがあって、どれが本当なのか分からないんです(^_^;)ですから、ベーシストは、みんな自分がやりやすい奏法でこの曲を弾いています。本当にオリジナルのベースラインをコピーしたければ、実際に色々と試してみるしかありません。ポールが演奏している動画が残っていればハッキリするんですが。例えば、ある人はこんな風に弾いています。

Beatles - Taxman Bass Cover

YouTube

10フレットという高音部をキープしながら演奏するベーシストもいます。こんな感じです。


taxman bass

YouTube 

4 ポールのベース・テクニックの凄さ

ポールは、コードが変わってもベースラインに基準となる音を設定し、ネックの上で自在に指を滑らせ、フレットのどこを演奏してもサウンドとベースラインのリズムはずっとキープしました。これは彼のベースの原点というか、どの曲でも大体同じスタイルです。圧巻なのは、「If you drive a car」で始まるBメロで16分音符のスタッカートを刻むところです。ここは、超高速で弾かないといけませんからかなりの難度です。しかもベースだけでも大変なのに、コーラスをやりながらですからね(^_^;)
 
従来はこんなベースはあり得ませんでした。ベースは低音ですから、それまでは速弾きしたところであまりサウンドを拾えなかったんです。リッケンバッカーを使ったことと、録音技術の向上で可能になったのでしょう。このことが、俄然、ポールのやる気に火をつけたのかもしれません。
この曲を聴いて「ベースってカッコイイ!!」と、その魅力に取り憑かれた人も多いと思います。正に「メロディアス・ベーシスト」としてのポールの面目躍如といったところでしょう。
 

 

5 ギターソロもポール!

因みに間奏とエンディングのギターソロもポールです。本来ならジョージのパートですが、彼が何度テイクを重ねても上手く弾けなかったので、見かねたプロデューサーのジョージ・マーティンがポールに代わるよう指示しました。どうやらポールもやりたくてうずうずしてたみたいです(笑)ジョージは渋々ポールと交代しました。そりゃ、ギターが本業の彼がベーシストのポールにギター・ソロをやられたんじゃ立つ瀬がありませんからね。 
 
ところが、ポールが代わりに演奏したらテイク1か2でOKでした。まるでインド楽器のシタールエレキギターで再現したかのような捻じれたサウンドです。ポールは、2005年のローリングストーン誌のインタヴューで、天才ギタリストのジミ・ヘンドリックスを意識して演奏したと語っています。しかし、ヘンドリックスがメジャー・デビューしたのは1966年10月であり、リヴォルヴァーがリリースされた後です。
 
ですから、このポールの発言はおそらく彼の記憶違いでしょう。何しろインタヴューを受けたのが収録から40年以上も経過してからのことですから、記憶もあいまいになっていたとしてもおかしくありません。彼は、ヘンドリックスをとても尊敬していたので、どこかで混同してしまったのでしょう。
 
ポールの記憶によれば、いきなり彼がソロを弾いたわけではなく、ジョージに自分の考えを説明したところ、ジョージがソロを譲ってくれたとのことです。
 
マチュアギタリストのカヴァーを参考にしてみて下さい。
 
音楽評論家のイアン・マクドナルドは、「リフにオクターブ・ジャンプを入れ、途中で面白いインド風の下降するメロディーを付け加えた荒々しい7小節だった」と論評し、現場にいたレコーディング・エンジニアのジェフ・エメリックも「燃えるようにエネルギッシュで、衝撃的で残酷な程素晴らしかった。ジョージにはとても真似ができなかった。」と証言しています。
 
ジョージは、お株を奪われてプライドを傷付けられたでしょうね。もっとも、1987年にポールが上手く演奏してインド風のサイケデリックなサウンドを出してくれたことに感謝したと発言しています。まあ、これは後付けで「大人の発言」ってヤツで、当時は面白くなかったでしょう。逆に、ポールはポールで、皆があのギター・ソロは素晴らしいと誉めるので、ジョージに嫌な思いをさせたかもしれないと気を使ったと、ギター・プレイヤーという雑誌のインタビューで答えています。
 

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BEATLES MUSIC HISTORY)
 
ギター・ソロを演奏しているポールです。エピフォン・ES-230TD・カジノですが、ピックガードの位置から見ても右利き用ですね。でも、ジョージは、この時、ソニック・ブルー・フェンダーストラトキャスターを使ってましたから、自分で持ち込んだんでしょう。
 

 

 
上記のインタビューで、このギター・ソロは自分でも気に入っていると答えています。面白いことに、彼がソロを弾き終わってそれをフィードバックして聴いた時に、ジョージに向かって「君もこんな風に弾けるだろう。でも、どうやって弾いたのか全然覚えてないんだ。誰かがもう一回弾いてくれって言ってもできないよ。」と話しかけました。つまり、フィーリングで弾いたってことですね。もう一回弾けと言われてもできない?やれやれ、天才は何をやっても天才ですね(^_^;)  

6 4人で作った名曲

ジョージは、ジョンとポールに比べ作曲を始めたのが遅かったこともあり、この曲ではかなり苦戦して2人の兄貴分に助けを求めています。それでポールも張り切ってベースをやったんですが、張り切りすぎてジョージのヴォーカルとギターが霞んでしまいました(^_^;)
 

 
リリースからちょうど50年も経って、日本人のファンの私がブログでああだこうだ書いてるぐらいですから、いかにこれが名曲かが分かります。でも、ジョージには悪いですが、この2人の助けがなかったら、恐らくこの曲はこれ程の名曲にはならなかったでしょう。それに傑作と名高いアルバムのトップを飾ることができたんですから、やっぱり2人に感謝でしょうね。
 
あ、そうそう、リンゴのタンバリンとカウベルも見事にピタリと決まっています。ドラムだけでもかなり書くことがありますが、それこそ今回の主役はポールなのでこの辺にしときます。この曲については改めて詳しく解説しますが、要するに「FAB4オールスターズ」の作品なんですよ、これは。
 
TAXMANだけでこんなに長い記事になっちゃいましたf^_^;)それもほぼベースの話だけなんですが。それだけ奥が深い作品なんです。作品自体の解説は、また別の機会に譲ります。
 
他の作品のベースについては、次回で解説します。 
(参照文献)Smart Bass Guitar, BEATLES MUSIC HISTORY, Abbeyrd.Best.Vwh.Net

(続く)

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