★ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログ★

ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

(その57)ア・ハード・デイズ・ナイトのオープニング・コードの謎

1 鮮烈なイントロ

 

正に名曲の一語に尽きます。リリースから50年以上経った今聴いても、全く古さを感じさせません。特に、オープニングのイントロは、強烈なインパクトで人々を魅了させます。これですね。

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2 長きに亘った論争

しかし、実は、この印象的なオープニングにどんなコードが使われたのかについては、長年論争が繰り広げられてきたのです。例えば、次のような沢山の候補が挙げられてきました。

 

A dominant 9th of F in the key of C
G-C-F-Bb-D-G
C-Bb-D-F-G-C in the key of C
A polytriad ii7/V in Ab major
G7sus4 (open position)
D7sus4 (open position)
G7 with added 9th and suspended 4th
A superimposition of Dm, F, and G
Gsus4/D
G11sus4
G7sus7/A
Dm11 with no 9th
Gm7add11
G9sus4/D

 

 
これだけ候補が挙げられたのは、世界中のバンドがいくらコピーしようとしても、完全にレコードと同じサウンドが得られなかったからです。 そのため、これは長い間、 「A HARD DAY'S NIGHT CHORD MYSTERY」(ア・ハード・デイズ・ナイト・コード・ミステリー)とか、THE BEATLES’ MAGICAL MYSTERY CHORDザ・ビートルズ・マジカル・ミステリー・コード)と呼ばれました。名前からしてダ・ヴィンチ・コードみたいですね(笑)「ビートルズには謎が多い」と以前にも書きましたが、ホントにファン泣かせの困ったバンドですf^_^;
 

3 論争の歴史をたどる 

ざっと、その歴史をたどってみましょう。1990年頃までは「G7sus4説」が有力だったようです。その後、ジョージが2001年にオンラインチャットでFadd9だったと明らかにしたことで一件落着かと思いきや、ことはそう単純ではありませんでした。確かに、彼のギターはそのコードで演奏したんでしょうが、彼以外のメンバーの演奏したコードがまだ分からなかったのです。
 
 
多くのビートルズに関する書籍を書いたドミニク・ペドラーは、2003年に出版した「 The Songwriting Secrets of the Beatles」の中で、いろいろな音源から21種類のコードを推測し、彼自身の理論を含めて40ページ以上を割いて議論しました。ギターをかき鳴らして、かなり近いコードを再現することはそれ程難しくないのですが、それでも正確に再現することはできませんでした。

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4 数学者による研究

(1)ジェイソン・ブラウン教授の研究

2004年になると、この曲がリリースされて40周年の記念日にあたるとのニュースが流れ、これを読んだカナダにあるダルハウジー大学の数学科のジェイソン・ブラウン教授が、数学的な手法を用いてこのミステリーを解明しようと挑戦しました。彼の専門は数学であり、音楽に関しては全くの門外漢でした。しかし、それまでミュージシャン達が試したものとは全く異なるアプローチを使いました。それがフーリエ変換です。これは、ある一つの波形を分かりやすくそれを構成するいくつかの簡単な波形に分解することです。

 

 

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彼は、コンピュータ・ソフトを駆使し、どのような周波数がレコードに記録されているかを解析しました。しかし、そうして彼が発見した周波数は、ビートルズが使用した楽器とは合わなかったんです。つまり、科学的な分析ですらビートルズは跳ね除けてしまったのです。
 

ブラウンは、こう語っています。「ジョージは12弦リッケンバッカー、ジョンは6弦ギター、ポールはベースを使用していたが、彼らの誰一人として、私が見つけた周波数とは一致しなかった。この事実は私に衝撃を与えた。そして、私は、5人目のビートルを見落としていたことに気付いた。そう、ジョージ・マーティンだ。彼のピアノが問題の周波数だったのだ。」
 
「私は、ギターを練習し始めた。それは、私がピアノの練習のためにビートルズのレコードを聴いたからだ。何年もの間、私は、いくつもの最初のコードのテイクを演奏しなければならなかった。アーティストがこんな単純なレコーディング技術を使用して、ミステリアスなコードを作成できたのは、異様とも思える。それは、正に注目に値することだ。」
 
ビートルズのプロデューサーは、ギターで演奏するのが不可能なFのキーを含んだピアノ・コードを加えたのだ。その結果、生まれたコードは、この曲を掲載したいかなる歌集や譜面とも完全に異なっていた。」こういった驚くべき結果が出たことは、ブラウン博士の調査結果が国際的な注目を集めた一つの理由です。「私は、『Guitar Player Magagine』という音楽雑誌で論文を発表した唯一の数学者だった。」と彼は笑いながら語りました。
 

(2)ケビン・ヒューストン博士の研究

2012年にイギリスのリーズ大学のケビン・ヒューストン博士は、ジョージの親指で押さえられたE弦から生まれたサウンドが重要な構成要素であると主張しました。

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彼は、高度なソフトウェアを使用し、レコードのサウンドを曲の構成要素となった周波数に分解しました。コンピュータのモニターには、幾つかの周波数のパターンが表示され、そのうちどれが最も重要であったかを明らかにしました。他の人々が主張したジョージのリッケンバッカーの12弦エレキ・ギターの特殊な奏法ではなく、むしろシンプルにFadd9を演奏したと彼は考えました。同時に、写真で確認するとジョージは、親指をギターのネックに回しているように見えます。そして、ポップスやロックギタリストが良くやるように、E弦の第一フレットを押さえています(クラシックギターでは左手の親指は使いません)。
 

 

 
彼の理論は、カナダのブラウン教授が主張した理論よりはシンプルです。ブラウン教授は、ジョージ・マーティンのピアノがギターに置き替えられていると主張しました。ギターのバックグラウンドになっているため、ピアノのサウンドは聴き取るのが困難です。それでも、ブラウン教授によれば、それは、コードをとても特徴的にするための不可欠な要素だったとのことです。
 

 

 
これに対し、ヒューストン博士は、ピアノが存在したこと自体は認めつつ、その重要性には疑問を呈しています。ただ、彼もジョンが同じコードをアコースティックギターで演奏していることは確認しています。ステレオ・ヴァージョンでは、ジョンとジョージのサウンドは、別々のスピーカーから聴こえます。
 
 
ヒューストン博士は、2012年9月10日にイギリスのアバディーン大学で開催された科学フェスティバルにおける講演で「ア・ハード・デイズ・ナイトのオープニングコードはミステリーだ。」と語りました。「結局、真実はまだ誰にも分からない。このことを知る関係者は口を閉ざしている。恐らく、ジョージ・マーティンは、真実を良く知っているであろう。しかし、彼は、それについて敢えて語らないというこの上ない幸せを手に入れていると私は思う。」
 
「私は、完全に真実を解明したと言うつもりはない。ただ、真実には近づいたと思う。少なくとも、音楽と数学のセンスを磨くことはできた。」
 
 
まあ、負け惜しみに聞こえなくもありませんが、科学者が必死に研究しても解明できなかったと率直に認めている点は評価すべきでしょう。それより、50年も掛かって色んな分野の専門家が研究しても、たった一つのコードすら解明できない不思議なサウンドを生み出したビートルズの偉大さを称賛すべきです。
 

5 ついに真相が解明!

しかしながら、2015年の「GUITAR WORLD」の記事は、最近投稿されたビデオが、真実を明らかにするのではないかとしています。それは、1964年にビートルズが行ったマルチトラックによるセッションをフィーチャーしたものです。それを観れば、メンバーとプロデューサーのジョージ・マーティンの誰がどんな楽器を演奏しているかが分かります。
 
 
マーティンは、こう語っています。「その映像とサウンドトラックのLPが全てを明らかにしてくれるだろう。我々は、強烈で効果的なオープニングを求めていたんだ。強烈なギターコードは、完璧な出だしだった。」
 
 
種明かしすると、ジョージの12弦リッケンバッカーにマーティンのピアノが重ねられましたが、それは半分の速度でトラッキングされ、ミキシングの時に速くされたのです。これは、「A Hard Day Night」のソロのスタジオ・ヴァージョンが、「Beatles Live at the BBC」のアルバム・ヴァージョンとは異なり、とても微妙に編集されているため、他のライヴ・ヴァージョンと同じ様に聴こえないのです。YOU TUBEにアップされた解説です。
順番に音源が分解されていきます。
 
 
まず、ジョンのアコースティックギターのコードはFadd9で全部の弦を鳴らしています。これは、フーリエ変換による周波数の解析結果からも明らかです。低音のFとAが重要です。ここにはDは含まれていません。これはGコードかあるいはDsus4と同じです。
 
 
なるほど、スタジオで編集されてたんですねf^_^;)だから、ライヴでいくらコピーしようとしても、正確にはできなかったハズです。科学者が解明できなかったのも頷けます。
 
 
しかし、ビートルズもマーティンも人が悪いというか、世間で論争が巻き起こっているのをみんなで楽しんでたんでしょうねf^_^;「あいつこんなこと言ってるぜ、違うのになあ〜。」なんて。マーティンは、「ついに正解に辿り着いたね、おめでとう。実は、死ぬ直前にネタばらししようと思ってたんだ。」と言うところでしょうか?50年間、誰に聞かれても「さあ、覚えてないなあ〜」とニヤニヤしながらはぐらかして来たんでしょうね。
 

数学の「ポアンカレ予想」は世界中の数学者が証明に挑戦し、100年掛かってロシアの数学者、グリゴリー・ペレルマンによって証明されました。数学はカラキシな私ですがf^_^;、それまでどの数学者も思いつかなかった独創的な手法で証明したそうです。ビートルズもこの疑問を50年間も引っ張って来たんですから、大したもんです。
 
 
これで長きに亘って論争されてきた謎がまた一つ解決されました。っていうか、どれだけ謎があるんですかね、このバンドはf^_^;)
(参照文献)
YOU TUBE, MailOnline,GUITAR WORLD, SCEIENCE2.0, metr, The State News, University of Leeds
(続く)
 
 

 

 

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