★ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログ★

ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

(その63)ポール・マッカートニーのベース・テクニックについて(その1)

Help! Hunt launched for Paul McCartney's original 'Beatle bass' - The Irish  News

1 メロディックベースの創始者

数々の名曲を生み出したポールのコンポーザーとしての才能は高く評価されていますし、ヴォーカリストとしての才能も高く評価されています。しかし、ベーシストとしての才能は、リンゴのドラマーとしてのそれ程ではないにせよ、あまり高い評価を受けていない感があります。というか、全体としてビートルズの演奏の才能そのものがそれ程でもないというのが、一般的な評価のようです。

果たしてそうでしょうか?ジョンは、後年、「ポールは、最も革新的なベーシストだった。彼が今披露している才能の半分は、正にビートルズ時代に築き上げられたものだ。」と語っています。彼の言葉を借りるまでもなく、ポールは、ある曲を名曲とするためにはどのようなベースが必要なのか、その素晴らしい基準を創造したのです。

 

 

ポールのベースの特徴を一言でいえば「メロディック(メロディアス)なベースライン」です。すなわち、まるでギターでメロディーを弾いているかのようなベースです。それまでベースといえば、ルートと呼ばれるコードの最低音を忠実に弾き、コードチェンジの時にネックで指を上下にスライドさせるという、短いパターンを繰り返すことが一般的でした。 

もちろん、ポールは、そういう基本的なベースもやっていますが、それに対向する形で、メロディックなベースラインを創造しただけでなく、一つのコードから次のコードへ滑らかに演奏するという優れた才能を発揮しました。間違いなく現代ロックベースの基礎を作ったベーシストです。

メジャーデビューする前に完成させていた「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」のベース・カヴァーです。メインヴォーカルを担当しながら、こんなベースを弾いていたのですから驚きです。しかも、ニコニコ笑いながらですから(^_^;)

www.youtube.com

もっとも、メロディックなベースラインを始めたのは彼が最初ではなく、ジャズの世界ではポール・チェンバースという50年代から60年代にかけて活躍したベーシストがいますが、彼はウッド・ベースですし、ジャズですからジャンルが違います。 

そこで今回は、ポールのロック・ベーシストとしての才能に注目してみたいと思います。

 

2 ギタリストからベーシストへの転身

「beatles paul mccartney bass 1961」の画像検索結果

ポールは、ビートルズに加わった時点では、元々ギターを担当していました。しかし、彼らがドイツのハンブルクへ巡業した際、当時ベースを担当していたスチュアート・サトクリフが現地の女性と恋に落ち、そこに留まってメンバーを脱退することになりました。元々彼は画家志望で、音楽にはあまり興味が無かったんです。  

ベースがいなくなってしまったので、誰が担当するかメンバーで話し合いました。この時のことについて、彼は、1995年に発刊された「Bass Player」という雑誌のインタビューでこう語っています。 
「スチュがいなくなって誰かがベースをやらないといけないってことになったら、皆んなが一斉に私を見たんだ。何だか私に押し付けられそうになったから、『ジョンがやったら良いんじゃない?』って言ったんだ。ムダだとは思ったけどね。そしたら、ジョンは、『冗談じゃない。オレは新品のイカしたリッケンバッカーを持ってるんだぜ!』って言うんだよ。私は、その頃ピアノを弾いていてギターすら持ってなかったんだ。ホントは、ギターをやりたいとは言えなかったよ。」結局、彼がベースを担当することになりました。 

 

 

ここが大きな転機でした。歴史に「たられば」はありませんが、もし、ポールがベースを担当していなかったら、その後のビートルズサウンドは大きく変わっていたかもしれません。少なくとも、彼の革新的なベース・ランニングが開発されることはなかったでしょう。その意味において、ポールがベースを担当したことは、ビートルズが世界的なアーティストとして君臨する一つの要素となったのかもしれません。 

3 ポールが使用したベースのスケールが持つ意味

(1)ヘフナー500/1ヴァイオリン・ベース

ここでいうスケールとは、音階の意味ではなくベースのネック(正確には弦)の長さのことです。 一般的なベースは、もっとサイズの大きいロングスケールかミディアムスケールです。ポールが初期の頃(1962~1965)に愛用したヘフナー500/1ヴァイオリン・ベースは、彼が使用するまではそれほど有名ではありませんでしたが、彼がそれを愛用したことにより世界で最も有名なベースになりました。  
彼は、これをドイツのハンブルクへ巡業した時に楽器店で見つけて45ポンド位で購入しました。しかし、これは右利き用で彼は左利きでしたから、これをひっくり返して演奏しました。
これはショートスケールのベースで、発売当初は安価なベースでした。 ポールは労働者階級出身であまり裕福ではなかったこともあって、これを選んだんです。普通のスケールのベースに慣れたベーシストならば、ヘフナーを手にすることはあまりありませんでした。ギターがメインで珠にベースもやる人が使うことはありましたが。小さくてとても軽いです。

 

 

これを使用すると、速くて小刻みなラインを刻む傾向があります、ポールが使用しなかったなら多分誰も使用しなかったでしょうし、小さくて扱いづらかったでしょう。 特に欧米人は体格が良いですから。ただ、そのことが逆にギターのようにベースを演奏できるという有利さを生み出し、ポール独特のメロディックなベースラインを生み出すきっかけになったともいえます。
ポールは、この小さなヘフナーを使用してロックにおけるベースのプレイスタイルを大きく前進させました。彼は、アルバム「Rubber Soul」の時まであらゆるコンサートとレコーディングでヘフナーを使用し続けました。

(2)リッケンバッカー4001S

それぞれのアルバムのどの曲でどのベースが使用されたかについては様々な論争があります。間違いないとされているのは、「Drive My Car」と「Think For Yourself」で、1964年製のリッケンバッカー4001Sを使用したことです。 

ポールは、次のように語っています。「ヘフナーはとても軽いから、まるでギターみたいに演奏できるんだ。私がよくやっていた高音のトレモロは、ヘフナーだからできたんだと思う。だから、フェンダーのようなもっと重いベースの時はちょっと座って、ベースらしく弾いたよ。でも、映画の『Let It Be』の時は、ヘフナーを弾き続けて『Get Back』とか色んな曲を演奏した。それは、これがとても軽くてどこへ持って行っても弾けたからさ。ホント、これだとちょっと自由に弾けるんだ。」 

ポールがベースをリッケンバッカーに変えると、効率的にネックを使用して演奏することできました。 ヘフナーのネックは、オーナーがその能力にピッタリと合った最高の感じに仕上げるまでは、製品毎にバラバラで安定していなかったのです。なるほど、だから、安かったんですね(^_^;)っていうか、そんな不安定なベースを使いこなしていたポールが凄いんでしょう。 

ポールがベースをリッケンバッカーへ切り替えると、重いので彼は座って演奏しましたが、そのおかげで自在にネックを操り、それまでより遥かに安定した強力なスタイルで演奏できました。 彼の演奏は、「Rain」「Paperback Writer」アンソロジー2の「And Your Bird Can Sing」で聴くことができます。

(3)的確なベースラインの選択

ポールのベースプレイ全体を通じて見られる面白さは、彼が単なるベーシストではなかったということです(今でもですが)。彼は、曲全体を的確に把握してベースラインを開発したのです。
彼には、ギターやキーボード、ドラムがどんな演奏をすべきかについて確かな考えがありました。 そして、彼は、それらの楽器も何度も演奏したため、適切なベースラインを生み出すことができました。コンポーザーとしての能力が傑出していたことも役立ったのでしょう。 
ただし、間違えてはいけないのは、彼がギターのようなベース・サウンドを出している時であっても、あくまでベーシストに徹していたということです。 あえていえば「リード・ベース」を演奏したのであって、決してヴォーカルやギターの邪魔はしませんでした。 

4 ドラムとの関係 

(1)ベースとドラムの深い関係

「ringo starr paul mccartney drums bass」の画像検索結果ビートルズの初期の頃、ポールは、ギタリストから転身したベーシストが良くやるように、ハンマーのようにピックで弦を弾いて、弾むようなサウンドを出すというスタイルを採用していました。これは、ローリング・ストーンズビル・ワイマンも同じスタイルで何年もやっていました。 
ハンブルク時代に、ビートルズは、トニー・シェリダンの「マイ・ボニー」のレコーディングにバックバンドとして演奏しました。ポールはベーシストとして参加し、この時のドラマーはピート・ベストでした。 

 

 

とても興味深いことですが、ポール/ピートのリズムセクションと後のポール/リンゴのそれとは好対照で、そのことが重要な意味を持つことになります。ピートは、ソフトなタッチでドラムを叩き、スネアを多用しました。これに対しポールのベース・スタイルは、それよりもっと重厚なサウンドを出していたため、リズム・セクションはとてもバランスを欠いていました。

「デイ・トリッパー」のベースとドラムだけを取り出した音源です。

www.youtube.com

(2)リンゴのドラムと相性がピッタリだった!

未だに「何故ピートをリンゴに替えたのか?」という疑問が出されますが、リズム・セクションに焦点を当てて比較してみるとその答えが出ます。ロックにおけるベースとドラムが固く結合するという重要性を軽視すべきではありません。この二つは、ロックのサウンドにエネルギーを与える上で、とても重要な役割を果たすのです。 
これを改めて確認することは、ポピュラー音楽におけるベースの役割を見直す良い機会かもしれません。「ベースとドラムが固く結合する」というのは、両者が相互に協調することなのです。ベースとバスドラムは、相当な頻度で正確かつ同時に演奏されます。それだけに留まらず、バンドのノリは、この両者が協調して醸し出されるのです。
 
関連画像「drums beatles」の画像検索結果
「The End 」を例に挙げれば、ギターソロのバックでベースとドラムがいかに相互に協調しているかが分かります。 

www.youtube.com

とかくそれまでは、「地味で目立たない」印象を与えるベースに光を当て、その魅力を最大限に引き出した功績には多大なものがあるといえます。ポールは、ベースという楽器で「その曲にピタリと合ったベースを弾き、目立たないように目立った」というある意味矛盾した神業をやってのけたのです。 
次回は、具体的な作品を通して彼のベース・テクニックを分析します。
(参照文献)
abbeyrd.best.vwh.net, Smart Bass Guitar, BASSMUSICIAN
(続く) 
 
 

 にほんブログ村 音楽ブログ ビートルズへ

にほんブログ村