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(その66)ポール・マッカートニーのベース・テクニックについて(その3)

ポールマッカートニーのベース・テクニックについて、具体的な作品を通じての解説を続けます。

 

SOMETHING(ABBEY ROAD  1969)

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(JamBase)
1 ポールの代表的ベースラインの一つ
TAXMANと双璧をなすといっても過言ではない見事なメロディック・ベースです。これが彼のビートルズ時代におけるベースの最高傑作だと主張する人もいます。TAXMANの攻撃的なベースに比べ、こちらはバラードでしっとりとした情感を漂わせている点が対照的です。ベースだけを聴いてるだけでもウットリしてしまいます。あれ、ちょっと待ってくださいよ。これもジョージの曲じゃないですか!何でポールってジョージの曲の時に張り切るんですかね?一つには自分の曲じゃないし、メイン・ヴォーカルをやらなくてもいいという気楽さも大きいかもしれません。
 
 
 
この曲は、ジョージが、ビートルズ時代に唯一シングルA面を飾ることができた曲です。ビートルズの数ある名曲の中でも屈指の名曲の1つと言えるでしょう。他のアーティストによるカヴァーもYESTERDAYに次いで多いと言われています。 
 
 
 

2 TOO BUSY(ベースがやり過ぎだ)

これは、ジョージの甘く響くギター・ソロが聴ける作品でもあります。ところが、ここでもールのベースが目立ってるんですねf^_^;)すぐに気が付くのは、ヴォーカルのメロディーとギター演奏の隙間を最後まで埋めようと、ベースが忙しく演奏していることです。全然休まずに最初から最後まで弾き続けてるんですよ。

 

ジョージが素晴らしいメロディーをヴォーカルでもギターでも演奏しているのに、思いっきりメロディアスなベースをぶつけてます。まるで、コードを行ったり来たりうねるように、曲全体を通してベース・ソロを演奏しているかのようです。特にサビの所は飛び回ってますよね。流石にちょっとやり過ぎなんじゃない?と思っちゃいますけど(^_^;)でも、それが素晴らしいアクセントになっているところが、ポールのポールたるゆえんです。

 

 

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TAXMANの時は、作曲に不慣れなジョージを手助けするつもりでベースを頑張ったポールですが、この曲は完成度が高かったのでそれ程手助けする必要はありませんでした。しかし、それでもまた頑張っちゃったんですね(^_^;)レコーディング・エンジニアのジェフ・エメリックはポールのことを「ワーカホリック(仕事中毒)」と呼んでいました。作品にとことん完璧なクオリティを求めるんですね。この曲のベースにも彼のそんな一面が垣間見られます。流石にジョージも「Too busy(ベースがやり過ぎだ)」と後で文句を言ったそうです。


ただ、ポールが後に語ったところによれば、あくまでもこの曲を完成度の高いものにしてやろうと一生懸命やったということなんです。これは嘘ではないと思います。というのは、ビートルズって不思議なバンドで、この曲をレコーディングする頃には4人、特にポールと他の3人との間はかなり険悪なムードになっていました。しかし、普段はそんな人間関係であっても、いざスタジオに入るとプロフェッショナルにパーフェクトな仕事をやるんですね。普通、そんなに人間関係がギスギスしてたら仕事も上手くいかないはずなんですが、この4人に限っては仕事と人間関係とはビシッと一線を画すことができたんです。

 

3 ベースラインの特徴

ともかくポールは、ジョージの曲を完成度の高いものにすることに焦点を当てて集中しました。彼は、AメロのCとC7で16分音符の2拍目にクレッシェンドを入れています。これがオーケストラのティンパニーのような打楽器っぽい、劇的な効果をもたらしています。Gへ進行する中で僅かですが、自然なクレッシェンドを入れています。

 

曲の間ずっと、ポールは、通常のベース・パターンにこだわることなく、リズム感すら一貫していません。ポールは、4分音符、付点付き4分音符、8分音符、16分音符と併せて演奏しています。16分音符は、大体1拍目と2拍目に入れています。彼は、3拍目と4拍目は少しスペースを残す傾向にあります。

 
ベーシストを悩ませるのは、ポールがこういう演奏をランダムにやっていて、独特なグルーヴ感を出していることです。おそらくアドリブでしょう。曲全体を通して同じコードでも、ベースラインは全部変えています。彼がその時のフィーリングで弾きたいように弾いているのでしょう。しかし、他の楽器は、ベースが演奏している間は沢山スペースを取っています。さながらベースの独演会ですね。ですから、ベーシストは、完コピは諦めて、自分が一番いいと思う弾き方で演奏するしかありません。逆に言えば、腕に覚えのあるベーシストにとっては、やりがいのあるベースラインです。
 リンゴは、最初の2回のAメロで3回も普通では考えられない位、僅かなバックビートでフィルを入れています。最初のAメロでリズム・ギターのストロークが入り、オルガンはAmをスタッカートで演奏しています。最初のAメロの最後のギターをベースは支えています。最初の2回のAメロでは、ヴォーカルとベースだけが動いています。ベースは、ハーモニーの基礎を作り、メロディーを下から支え、パーカッションの機能まで果たしているのです。
 
 
サビに入るとリンゴのドラムがよりアクティヴになるとともに、ポールのベースは、ストレートな8分音符のパターンに戻ります。ここはヴォーカルを支えるところですが、彼は、最初にEペダルを踏み、Aの音階を下降する面白いベースラインを弾いています。
 
 

ポールは、すべての2~4小節でフレーズを区切るためにハッキリと16分音符を入れ、ジョンとジョージが演奏する繊細に協調して演奏するギターとは明らかに異なる、2分あるいは4分音符を響かせています。彼は、ベースラインをコードのルート音から初め、コードチェンジの際にサウンドを歪ませる傾向にありました。こういう奏法がポールのベースラインを際立ったものにしています。彼は、コードを歪ませたり、波立たせたり、様々な音符を選択して、他の楽器とのリズムの違いを出す能力がありました。


サビの部分で最初に目を引くのは、ゆったりしたギターと比べて忙しく動き回るベースラインです。ジョージが作曲したコード進行に合わせ、ベースでミュージカルにリードしている点がとても興味をそそる一つの例です。サビの部分で、ポールは、良くアクセントを入れてサウンドを強調しました。スライド、ハンマリング、オクターブ・ジャンプなどの奏法を盛んに取り入れています。これらは彼のベースの特徴ですが、特にサビの部分でそれが良く表れています。

ギター・ソロの前にジョージのヴォーカルが最高潮に盛り上がってクライマックスに達すると、ポールは、低音のCへ降りる前に16分音符の速弾きを入れています。このベースラインは、その際立った特徴から、他のベースラインとは演奏の構成の点で明確に区別されます。ギター・ソロが始まる時にこのサビが終わります。

 

4 レコーディングそして名曲の誕生

アビイ・ロード・セッションでは、ポールは、リッケンバッカー4001Sと前年のホワイト・アルバム・セッションで使用したフェンダージャズ・ベースを使用しました。何人かのレコーディング・エンジニアは、この2つのセッションで交代していました。アビイ・ロード・セッションの時のエンジニアは、何曲かベースを違うパターンで収録したいと考えました。

 

何曲かは、マイクをベースのキャビネットの前に置き、何曲かはDI(ダイレクト・インジェクション・ボックス。ベースから出力された信号を効率よくミキサーに送るための機材)を使用し、また何曲かは両方を組み合わせました。SOMETHINGのベースは、DIを使用してオーヴァーダビングしたため、ジャズ・ベースに近い感じになりました。エレキベースを補強するために、キーボード・ベースも使用されており、オクターヴかあるいはユニゾンでダビングされています。

 

エメリックはこう語っています。「ポールが凝ったベースラインを弾き始めると、ジョージが『違うよ。もっと、シンプルにやってくれ。』と注文を付け、ポールはそれを受け入れた。そのことに関しては、何ら意見の対立はなかった。しかし、私は、そんなことは過去にはなかったと思う。ジョージがポールにベースの弾き方を教えるだって?考えられない。しかし、この曲はジョージの作品だ。そして、それが親しみやすいクラシック音楽であることは誰もが知っていた。」

 

ジョージがポールのベースに注文を付けたのはこれが初めてだったんです。そりゃそうですよね。今までの曲は殆どレノン=マッカートニーだったんですから、ジョージが口をはさむ余地はありませんでした。しかし、これは正真正銘ジョージが作った、しかも名曲ですから、流石に大人しいジョージも口を挟まざるを得なかったんでしょう。

 

しかし、ポールの「職人気質」は抑えられなかったんですね。結局、ジョージにとっては「耳障りな」ベースになってしまいました(^_^;)もっとも、多くの人々が素晴らしいベースだと絶賛してますから、結局、ポールの選択は正しかったんですね。そして、この曲を名曲たらしめた貢献度はかなりのものだったということになります。

 

TAXMAN、SOMETHINGの2曲だけで大きなページを割いてしまいました(^_^;)次回は、もう少しコンパクトな説明にします。

(参照文献)Smart Bass Guitar, BASSMUSICIAN, THE BEATLES BIBLE

(続く)

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