1 「サージェント・ペパーズ」で音楽界に革命を起こした
ビートルズは、アルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」で音楽界に革命を起こしました。当時の最新の技術を駆使し、スタジオで奇想天外な編集を加えた楽曲は、その完成度の高さと斬新さで、世界中のアーティストに衝撃を与えました。
そして、時は流れ、1969年1月30日、ビートルズ最後のライヴとなった、ロンドン、アップル社の屋上でのゲリラ・ライヴ、いわゆる「ルーフトップ・コンサート」のシーンも登場します。予告なく突然ロンドン市内に鳴り響くビートルズのサウンドに、ロンドン市民は足を止め、何事かとビルの屋上を見上げました。何とか彼らの姿を見ようと、他のビルの屋根に登って見物した人もいました。
2 映画の特典
ここでエンドロールが流れます。普通は、これで映画は終わりなのですが、特典としてアメリカ、シェイ・スタジアム・コンサートが30分ヴァージョンで放映されます。4Kでレストアされた美しい映像とリマスターされたサウンドは、正に当時のコンサート会場にタイムスリップしたかのような錯覚に陥ります。
特に、私は、ジョンが最後の「I'm Down」という曲で、エレクトリック・ピアノを肘でグリッサンド(鍵盤を左右に滑らかに押さえて切れ目のないサウンドを出す奏法)するところがカッコよくてお気に入りです。
ファンは、何度も観ている映像ですが、大画面で4Kでレストアされた映像とリマスターされたサウンドは全く別物です。観終わった後、ビートルズの素晴らしさに浸りました。
ジョンもジョージもこの映画を観ることはできませんでした。ブライアン、マル、ニール…懐かしい名前が沢山出てきました。最後に「ジョージ・マーティン 1926-2016に捧げる」とのクレジットに一抹の寂しさを覚えました。あともう少し長生きしていれば、彼もこの映画を観ることができたのに。
(NME)
なお、この部分は、映画だけの特典でDVDにはならないそうです。何故なら、このシーンの権利をアップルが所有しておらず、アメリカで初めてビートルズをプロモートした故シド・バーンスタインの遺族がアップルに対し訴訟を起こしたりと、なかなか面倒なことになっているためです。今回、映画に使用することについてのみ、特別に許可が下りたんだそうです。
3 撮影秘話
これ以降は、ビートルズ研究家の藤本国彦氏と野口敦氏の講演で聴いた話です。この映画でロン・ハワードが描きたかったのは、ビートルズがツアーを止めるに至った動機を中心として、彼らを描きながら、当時の世相とか時代背景などですね。ハワードは、他のビートルズの映画は全然観ずに、まっさらの状態でこの映画を撮影しました。
藤本氏は、映画のエンドロールに名前が挙がっているように、日本語の編集作業に携わりました。藤本氏によると、アップルはかなりの秘密主義で、たとえスタッフといえども、なかなか映画の全容は開示してくれなかったそうです。
同社は、過去には放漫経営で破綻の危機に瀕したり、権利を巡ってドロ沼の法廷闘争を繰り広げた苦い経験があることもあって、権利関係には殊の外うるさいですからね。ビートルズの楽曲のネット配信も2016年になってやっと認めたぐらいですから。
藤本氏が未編集のラフ・フィルムを見せられた時は、監督の意図がさっぱりわからず、「何だ、これは?」「これはマニアには絶対評判悪いぞ」と心配したのですが、完成版を何回か観て初めて監督の意図が分かったそうです。そして、それさえ分かれば結構手堅い作りになっている、というかむしろカッチリし過ぎじゃないかという程の出来栄えだと語っていました。
映画の中で画面には登場しませんが、浅井慎平氏の聞き役になっていたのが藤本氏です。実際にはもっと長いインタヴューで1時間収録したんだそうです。藤本氏が若干不満に思っているのは、もっと面白い話があったのにアップルがカットしてしまったことと、画像があまり良くなかったことだそうです。元々日本向けの特典映像なので、ちょっと手を抜いてるんじゃないかとも思ったとか。
その映像の権利は、未来永劫アップルが所有することになっていたので、処理も全て同社がやりました。ただ、日本語がわかるスタッフが少なかったので、藤本氏が英語に翻訳して使えるとアップルが判断した所を使いました。
浅井慎平氏のコメントは、藤本氏も4回耳を澄まして聞きましたが、日本語としてはつながりが悪くて何を言ってるかサッパリ分からなかったそうです(笑)却って英語の字幕の方が意味がちゃんと通じていたとか。
ちゃんとアップルも編集の際に藤本氏の意見を聞けば、もっと分かりやすくなったでしょうにね。それより、前座を務めた尾藤イサオ氏にインタヴューした方が、もっと面白かったんじゃないですかね?
同氏は、誰も観客がいないアリーナ席という最高の席で、内田裕也氏とたった2人だけでビートルズの全ステージを目の前で観ることができたんです。この時の日本のテレビ番組の取材に応じたインタヴューの方が余程面白かったですから。
(SANSPO)
この撮影の前に、アップルから送られてきた6月30日の公演のロック・アンド・ロール・ミュージックの演奏のシーンを見せてから取材を開始したんだそうです。でも、画質はあんまり良くなくて、むしろブートの方が良かったとか。
7月1日の日本公演の様子は、ブライアンが撮影して保管していたのですが、彼の死後そのビデオテープは行方不明になっていました。ところが、80年代に入ってから、ある男性がアップル社を訪れて、これは私が持っているよりアップルが持っている方が良いからと、お金も要求せずに引き渡したんだそうです。全部で5本あったんですが、オークションに出していれば大金を手にできたでしょうに奇特な人ですね。映画で使われたのもその内の1本だとか。
(45spaces)
この映画全体を通して感じられることは、マニアに向けた映画というよりも、むしろビートルズを知らない一般の人に向けられた映画なのだということです。ですから、マニアからすればいささかもの足りない印象を受けるかもしれないとのことでした。私は、十分楽しめましたけどねヾ(@^▽^@)ノ 4回見ましたよ。最後は、発声可能上映で、思う存分スクリーンに向かってシャウトして来ました。
お2人のお話では、ビートルズを映画にするのは難しいとのことでした。どこをどう編集しても必ずファンから批判されますから。あれが入ってないなどと批判するのは簡単なんですが、じゃあ、それをどう入れたら良いんだってなると途端に難しくなるんだとか。そりゃ、そうでしょうね。ファンだって好きな曲を何曲か選べって言われるだけでも困りますもん。
私もこうやってブログを書いていますが、どのエピソードをどこまで入れたら良いかいつも迷います。あれも書きたい、これを書きたいという想いはあるのですが、あまり詰め込み過ぎてしまうと、収拾がつかなくなって訳が分からなくなってしまいますから。
結局、ビートルズが劣悪な環境にも拘らず、確かなテクニックでライヴを続けていた事実、しかし、そのうち色んなめんどくさいことに巻き込まれてライヴがイヤになっていった過程、そういったものを描きたかったのだろうとのことでした。
それともう一つ、この映画ではリンゴが大きくクローズアップされているとのことでした。これには、リンゴのテクニックの素晴らしさについて、日頃から声高に主張している私も「我が意を得たり」と大いに意を強くしました。例えば、ワシントンコロシアムのライヴの「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」を観て下さい。特に間奏では左利きの彼が利き手ではない右手で、神が降臨したのではないかと思える程高速のスティック捌きを見せているのは見事というほかありません。
実際、彼が扁桃炎でオーストラリア・ツアーを休演した時、代役としてジミー・ニコルが起用されましたが、彼もかなりのテクニックを持っていたものの、あれ程高速のスティック捌きはできていませんでした。
4 おまけ
2016年10月29日、大阪南港ATCセンターで「第6回 南港ビートルズ・ストリート」が開催されます。多数のアマチュア・バンドが集結して、ビートルズ・ナンバーを演奏します。無料ですので、お近くの方は是非どうぞ❣️
http://beatlesstreet.web.fc2.com/
(続く)