1 関心の高さ
前回(その96)の記事について様々な反響がありました。予想通りアクセスも一気に増えました。リンゴのドラム、ポールのベースに関して過去に書いた記事も相変わらずアクセスが多いことからして、全体的にビートルズの演奏のテクニックに関する関心の高さが覗えます。
2 ブログを書くにあたって心掛けていること
このブログを書いていることからもお分かりいただけるかと思いますが、私はビートルズをこよなく愛し、尊敬してやみません。しかし、だからといって事実を歪曲することは許されないので、できるだけ客観的に書くよう心掛けています。
しかし、「事実と評価」は違います。事実は客観ですが、評価には主観が入ります。ビートルズが存在したことは事実ですが、それをどう評価するかは人によって全然違います。これは当たり前のことで、皆が同じ考えになったらそれこそファシズムであり、恐ろしい世の中です。
アンチ・ビートルズの人達は、特に音楽の知識のある人程彼らにケチを付けたがります。特に、彼らがターゲットにするのは「演奏のテクニック」です。「ビートルズなんか大したことない。もっと上手いバンドは他にたくさんいる。」などと主張します。アンチの人達に一々反論するのは徒労ですからやりませんが、事実だけは厳然として残ります。
事実だけは残しておきたい。ただ、それをどう評価するかは人それぞれに任せるしかありません。もちろん、私なりの評価はありますが、それはあくまで個人的な見解として紹介するに留めています。
例えば、ジミー・ペイジもエリック・クラプトン、ジェフ・ベックと並んで「三大ギタリスト」と称される一方、アンチの人達からは「下手だ」と昔から言われてきました。でも、この批判も意味がありません。何をもって下手だというのか定義していないからです。また、定義することもできないでしょう。物事は色々な角度から見ることができますから、ある角度から見た評価と別の角度から見た評価が異なるのは当然です。
演奏のテクニックだけを切り取って議論すること自体意味のないことは、ビートルズファンならずとも少なくとも音楽に関心のある方ならお分かりいただけると思います。なるほど、現代のアマチュアバンドでも、腕があれば彼らの演奏を完全にコピーすることはできるでしょう。だからといって、それが彼らの偉大さを否定する理由にはならないのです。
何故なら、あの当時、あの環境で、あのサウンドを生み出したのがビートルズであることは揺るぎない真実であり、他の誰もがなしえなかったからです。あらゆる面で彼らは時代の最先端を走りました。他人がやらないことを初めてやることほど勇気が必要なことはありません。しかも、名声が高まれば高まるほど周囲の期待は高まります。実験的な試みをやって失敗したら酷評されます。しかし、彼らは失敗を恐れず挑戦し続け、8年足らずという短期間に音楽史上に残る数多くの傑作を残してくれました。
音楽に限らずおよそ「作品」と称されるものは、あらゆるものの合成物です。そこには全体的なバランスが要求されます。その点、ビートルズの4人は、本当に強く結束して相互に助け合っていました。メンバー一人一人がそれぞれの役割を果たして、作品の中に溶け込んでいたのです。
3 当時の音楽環境
現代のアーティストはとても環境に恵まれています。コンピュータ等の設備やソフトの発達によりどれほどサウンド作りが楽になったか。ビートルズは、あれもやりたいこれもやりたいと思っても、設備が現代とは比べ物にならない程貧弱で技術が追い付かなかったのです。イギリスでは60年代初頭は2トラックしかなく、やがてそれが4トラックになり、ようやく60年代後半になって8トラックになりました。
ステレオ技術もようやく商業的に使用され始めたばかりで、ビートルズの前期はまだモノラルが主流でした。オープンリールテープに収録した音源を手作業で編集することがどれほど大変かを考えただけでも、ビートルズだけでなくジョージ・マーティン、ジェフ・エメリックなどのプロデューサーやエンジニアの偉大さが分かります。
4 スチュアート・ケンドールさんの意見
ところで、ジョンとポールの共通の友人だったスチュアート・ケンドールさんに「ジョージのビートルズ時代のギターで良いと思う作品はどれですか?」と尋ねたところ、「彼のギター・ブレイクはすべて好きです。クラプトンとの『ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス』も良いし、『サムシング』『ヒア・カムズ・ザ・サン』なども良いですね。」
「でも、初期の作品でいうと、ジョンの『アイ・ドォント・ウォント・トゥ・スポイル・ザ・パーティ』のカール・パーキンス風のロカビリーっぽいソロがとても気に入っています。これは私が好きなジョンの作品の一つです。素晴らしい作品です。コードもソロも素晴らしい。私がこれをマスターするには少々時間が掛りました。」という回答を頂きました。
この作品は、ビートルズの中でも「隠れた名曲」といわれています。リンゴがC&Wを好きだったので、アルバムには必ず1曲は入れるようにしていたとジョンが語っています。
ケンドールさんは、今でもイギリスでアマチュアバンドをやっていますが、動画を見た限りではアマチュアながらなかなかの腕前です。しかし、その彼にしても上記の作品におけるジョージのソロを習得するには少々てこずったと漏らしています。具体的にどこが難しかったかまでは聞けませんでしたが、右手のアプローチ辺りでしょうか?それはともかく、そういった奏法を採用し、なおかつしっかりと作品に仕上げたところがジョージの凄いところです。
次回は、もう少しジョージのギターの特徴について触れた後で、具体的な作品について検討してみたいと思います。
(続く)