前回に続いてジョンのギター・テクニックについて具体的な作品を通じて解説します。
1 ビートルズの演奏テクニックに対する関心の高さ
このブログを書きながらいつも感じるのは、読んで下さっている皆さんのビートルズの演奏テクニックに対する関心がとても高いことです。なぜそれが分かるかというと、ブログのデータを解析すると、上位にズラ~っと4人の演奏テクニックに関する記事が並び、いつも変わらないからです。それ以外だと、「アビイ・ロードでジャケット写真とそっくりの写真を撮ろう!」「ビートルマニアの凄まじさ」「ア・ハード・デイズ・ナイトのオープニング・コードの謎」なども結構人気がありますね。
このテーマが難しいのは、ビートルズが実際にどう演奏していたのか、正確に確認できる資料があまり残されていないことです。ビートルズの前期のライヴの映像ではメインヴォーカルをカメラで抜くことが殆どで、ギターやベースの手元はあまり抜いていないですし、後期に入るとライヴ自体を止めてしまいましたから。
また、彼らは、歌詞は書きましたが、譜面には落とさずコードだけを書いていたんです。後はスタジオで実際に演奏しながら曲を作り込んでいきました。ともかく、60年代って、今では信じられない位アバウトでしたから、ちゃんと記録を残しておくという習慣が無かったんです。
ですから、彼らが実際にどう演奏したのかは正確なことは分からないんです。同じサウンドを出すにも色々な方法がありますから、そのどれを実際に選択したのかを特定するのは難しいんです。それどころか、作品によっては、誰がギターやベースを演奏していたのか、なんてことが未だに議論されていますから。
色々と解説しておいて実際には異なる奏法だったかもしれない、なんてちゃぶ台返しかもしれませんが(^_^;)、その辺りはご容赦下さい。
2 アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア
ジョンのジャンキーなリズム・ギターが冴えている作品です。ポールの「ワン、ツー、スリー、フォア!」のカウントが終わるやいなや、メンバー全員が全速力で一気に突っ走ります。
ビートルズは、こんな完成度の高い作品を既に下積みのキャヴァーン時代に完成させ、演奏していたんですから恐れ入ります。しかも、かなりアップテンポな曲にもかかわらず、3人がヴォーカルをやりながら演奏するんですからね。
ジョンのギターは、「ジャラ〜ン」と単にダウンストロークするのではなく、アップとダウンを繰り返しながら、「ズズズズン、ジャッ、ジャッ、ジャッ」と、ブリッジミュート(ギターのブリッジの所で右手を使ってサウンドを消す)を使いながら、歯切れよくストロークしてあのノリを作っています。ピックを弦に叩きつけるようなちょっと乱暴な感じですが、これが独特のジャンキーなフィーリングを生んでいるんですね。この辺りは、チャック・ベリーの「ロール・オーヴァー・ベートーベン」のリズム・ギターの弾き方に近いかもしれません。
また、解放弦を巧みに使って作品全体にパワーを与えています。Bメロでは左手の小指を巧みに使って、チャック・ベリーっぽいロカビリー風のサウンドを出してます。ここでは、右手のピッキングがかなり忙しくなります。
これもアマチュア・ギタリストの演奏を参考にしてみましょう。
作品自体の素晴らしさに加え、ポールのヴォーカルとベースランニング、ジョージの軽快に走るリードギターと粋なソロ、リンゴのスネアを使ったパワフルでスピーディーなドラム(特にワシントンコロシアムでのライヴは圧巻)、正にFAB4オールスターズが生んだ傑作です。
3 ユー・キャント・ドゥ・ザット
印象的なギター・リフは、作品のイメージをリスナーの脳裏に刻み込むというロックでは欠かせない要素ですが、ビートルズはこの作品でそれを取り入れています。そして、これ以降の作品、例えば、「アイ・フィール・ファイン」「デイ・トリッパー」「ティケット・トゥ・ライド」などの作品でも盛んに用いるようになりました。
ギターに限らずピアノでもそうなんですが、リフに関しても彼らは、実に素晴らしい作品を数多く残しています。ビートルズとしては、恐らく「マネー」がリフを効果的に使った最初の作品ではないかと思います。
もちろん、ポピュラー音楽の世界では、以前からリフを入れることは行われてきましたが、それを効果的に使って普及させたのは、ビートルズが初めてではないかと思います(違ってたらすいません)。
実際、60年代に入ってから、リフを効果的に使った作品が目立つようになりました。典型的なのは、ローリングストーンズの「サティスファクション」ですね。キース・リチャーズがリフと出だしを作り、残りはミック・ジャガーが作りました。リフから先に作るなんて、当時ではあり得なかった発想です。
これはライヴの映像ですが、ジョンが自分のヴォーカルが終わって間奏に入ると勘違いして、「アオ!」とシャウトした後にポールとジョージがコーラスを続けているので、「え?まだオレのヴォーカルだっけ?」と慌ててマイクに向かうところが笑えますね(笑)
ポールとジョージを2度見して、半笑いでヴォーカルを続けてます。幸いなことにポールもジョージも演奏に集中していて気づかなかったようで、「やれやれ、上手くごまかせたぜ(^_^;)」って思ってたんでしょうね。
こんな風にジョンは、ライヴで間違えることはしょっちゅうでした。どうせ、観客の絶叫で殆ど聴こえてなかったんですがね。
それはともかく、ジョンは、ジョージのアルペジオで始まるイントロに続いて、「ジャ~ン、ジャッ」ってな感じでリズムを刻んでいますが、これがたまらなくカッコいいですね。シンコペーションを巧みに使ってノリを出しています。ジョンのリズムギターの中では、これが最高傑作だとする人もいます。
彼は、1964年にこう語っています。「オレは、いつもはリズム・ギターに魅力を感じていた。でも、偶にはリード・ギターもやりたいと思う時があった。この曲がそうさ。」
ジョンは、リズム・ギターの要素を兼ね備えた、ジョージとは全く異なる荒々しいソロを叩き出しました。リズム・ギターの要素を取り入れた力強いストロークで、ダブル・チョーキング(2本の弦を同時にチョーキングする)を入れるなど、ジョージのカントリーっぽい繊細なソロとは全然違うワイルドな感じですね。「この野郎!」ってな感じで、2本の弦をギュイーン!っと引っ張っています。
その荒々しさが、恋人に対して「今度あの男と口を聞いたらタダじゃおかねえからな。」なんて物騒な歌詞にもピッタリ合ってます。
「気が向いたらソロもやった」というのは、この時のことも含んでいるのでしょう。リズムに関してもジョージが几帳面に刻むのに対して、ジョンは、はずしてしまうギリギリのタイミングで荒々しく刻んでいます。
これもアマチュア・ギタリストの演奏を参考にしてみましょう。
ジョンは、この時リッケンバッカー325というネックが短いショートスケールを使っていました。このギターは、ハイポジションになるとフレットが詰まっていてとても弾きにくいんです。ジョンみたいながっしりとした体格で、手の大きな人が弾いたらさぞ弾きにくいだろうという、そもそもリード・ギターを弾くには不向きなギターです。
それを彼は、コードを巧みに入れながら弾いているのですから、やはり只者ではありません。しかも、リード・ヴォーカルをやりながらですからね。
そして、ジョンは、ジョージの12弦リッケンバッカーのリード・ギターも褒めています。「ピアノみたいな感じでなかなかイカすだろ?」エンディングがリード・ギターとベースのユニゾンになっているところも特徴的で、ジョンは、この点を自慢していました。リタルダンド(演奏のテンポを次第に落としていく)で余韻を残して終わるところもなかなかシャレています。
(続く)
(参照文献)THE BEATLES MUSIC HISTORY