★ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログ★

ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

(号外)ムッシュかまやつさんを偲ぶ

2017年3月2日、ムッシュかまやつことかまやつひろしさんが78歳で亡くなりました。かまやつさんは、ビートルズに影響を受け、堺正章さん、井上順さんらとともにロックバンド「ザ・スパイダース」のメンバーとなり、日本のグループサウンズブームを巻き起こした人物であり、日本のロックバンドの草分け的存在でした。今回は、ビートルズとかまやつさんとの関わりについてお話します。

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1    ビートルズとの出会い

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1964年、かまやつさんは、日比谷にあった輸入雑貨を取り扱っているショップに立ち寄ったのですが、そこに輸入レコードのコーナーがありました。そして、アメリカ版のビートルズのアルバム「ミート・ザ・ビートルズが置かれていたのです。

 

それを見た瞬間、かまやつさんは、「彼らのビジュアル、伝わってくる雰囲気、すべてひっくるめて、あのグリニッジ・ヴィレッジの空気と同じだった。まだ日本では無名だったが、僕はジャケットを見ただけで、彼らを一瞬にして理解した。「これだ!」そう直感した。」と語っています。

 

いや、正にこのエピソードこそ、アルバムのタイトル通り「かまやつひろし・ミート・ザ・ビートルズ」(かまやつひろしビートルズと出会う)じゃないですか!

 

やはり、一流の人の感覚は鋭いですね。ジャケット写真を見ただけでもうビートルズが凄いってことに気付くなんて。このアルバムのジャケット写真は、ビートルズがカメラマンのロバート・フリーマンに対して、ハンブルクに巡業していた頃に知り合ったカメラマンのユルゲン・フォルマーのハーフ・シャドウ(顔の半分を陰にする)という撮影手法を使うよう依頼して作製されました。

 

レコードジャケットの写真はカラーが当たり前であった当時、あえてモノクロで背景を真っ黒に塗りつぶすという斬新なアイデアが高く評価されました。それに気づいたかまやつさんは流石です。

 

かまやつさんは、それを買って家に帰ると何度も聴きました。特に気に入ったのが2曲目の「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」です。かまやつさんは、こう語っています。「カントリーを始めとするアメリカの音楽は乾いた響きがするが、ビートルズは全体に紗がかかったような、ファンタジックな音だった。その時、僕には近未来が見えたと思った。次に来るもののフックを捕まえたという確信があった。震えるくらいの感動だった。」

 

2 ビートルズのサウンドを分析

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そして、かまやつさんは、このアルバムをスパイダースのメンバーに聴かせたところ、感激したメンバーは、ほぼ毎日かまやつさんの自宅を訪れては聴いたそうです。ビートルズのレコーディングでは、録音したテープを後で半拍だけ切り取って編集したりするなど、時にはトリッキーと思われる加工が加えられていました。

 

スパイダースは、メンバー全員がこのアルバムで完全にビートルズの魅力に憑りつかれ、彼らを目標にしました。譜面なんかありませんでしたから、耳で聴いてコピーするだけです。驚くべきなのは、歌詞まで完全にコピーしていたことです。サウンドだけならまだしも、歌詞までとなると相当ハードルが高かったはずです。

 

それもそのはずで、実は、かまやつさんのお父さんは、ティーブ・釜萢(かまやつ)さんで、日本におけるジャズの草分け的な存在でした。日系二世のため英語しか話せなかったとのことですから、息子のかまやつさんもネイティヴの英語を幼い頃から聞いて育ったので、英語はかなり話せたはずです。

メンバーは、何回も聴き込んでビートを身体に覚え込ませたのです。しかし、なかなかビートルズのサウンドを再現することができませんでした。そして、色々と工夫をして演奏しながら気づいたのは、全員がエイトビートで演奏するのではなく、ギターとベースはエイトビートでも、ドラムはシャッフルビートで叩けば、ヴォーカルとバンド全体が前へ前へと突っ込んでいけることを発見したのです。

 

変に理屈から入るよりも、こうやって試行錯誤を重ねたことが却って良かったのかもしれません。しかし、この奏法を開発したビートルズが凄いことはもちろんですが、それを耳で聴いただけで解明したスパイダースもまた凄いですね。

 

3 エド・サリヴァン・ショー放映開始

1965年2月から日本でもエド・サリヴァン・ショーが放映されました。かまやつさんは、こう語っています。「僕の家のテレビで、スパイダースのみんなと一緒に、ビートルズの出演する「エド・サリバン・ショー」を観たときのことも忘れられない。ブラウン管を通してとはいえ、初めて見るビートルズのライブに、感激はひとしおだった。スパイダースのメンバーもに夢中になった。100%彼らを真似しようというわけで、7人で本格的なボーカル・インストルメンタル・グループに編成しなおすことになった。」

それまでは歌手のバックバンドだったスパイダースは、1965年からかまやつさんを正式にメンバーに加え、ロックバンドに衣替えしたのです。そして、グループサウンズブームを巻き起こしました。 

4 日本一早くビートルズをカヴァーしたバンド

スパイダース

日本で一番早くビートルズをカヴァーしたバンド(それも完璧に)というのがスパイダースの誇りでもあったそうです。「ミート・ザ・ビートルズ」も日本版が出る前に入手していましたし、FEN(在日米軍軍人向けのラジオ放送)までチェックしていました。日本のどのバンドよりも早く多くのビートルズのナンバーをカヴァーするとともに、他の洋楽のカヴァーもしていました。

 

「ディジー・ミス・リジー」をカヴァーしているスパイダースです。繰り返しますが、これ耳コピだけですからね。

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そして、その実力を認められ、来日したビーチボーイズなどの殆どの来日アーティストの前座を務めたのです。ビーチボーイズが来日した時は、ブライアン・ウィルソンが不在で手抜きの演奏だったそうですが、前座のスパイダースの方が大受けして完全に本家を食ってしまったようです。

 

アストロノウツの日本公演では、スパイダースが前座でビートルズの「ペイパーバックライター」を演奏すると、アストロノウツは、それがカヴァーだとは知らず彼らのオリジナルだと勘違いし、素晴らしい曲だと絶賛したとか。いや、あれがスパイダースのオリジナルだったら凄すぎますって(^_^;)

 

その頃の想い出を語る井上堯之さんです。「抱きしめたい」をカヴァーする際にイントロのギターの入り方で、大野克夫さんともう一人のギタリストがケンカになって辞めてしまい、それでそれまでギターを弾いたことのない井上さんは、「明日からお前がギターをやれ」と言われたそうです。なかなか面白いエピソードですね。

 

その頃、まだエフェクターが普及していなかったので、ギタリストたちがあの手この手でギターにファズを掛けようとしたそうです。スパイダースがやっとエフェクターを使わずにファズを掛けることに成功し、それをリハーサルでやったらスタッフから「音がひずんでます」と言われ、「いや、わざとひずませてるんだ」と答えたとか(笑)

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こちらはアレンジを加えた「デイ・トリッパー」です。これはこれでクオリティーが高いですね。

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5 東京公演の前座を断った!

「budokan beatles」の画像検索結果「日本一のビートルズのカヴァーバンド」と称されたわけですから、当然のことながらビートルズ日本武道館で来日コンサートを開催する時に、スパイダースにも前座をやってくれとオファーが来たのですが、かまやつさんは断ってしまいました!

 

あんなスーパースターの前座をやれるなんて、この上ない名誉なことなのに何でそんなもったいないことをしたんだろう、と不思議に思いますが「前座をやったらビートルズの演奏を観られなくなってしまう」という理由でした。まあ、確かにね(^^;)そりゃ、観たいですよね。前座で出演したら舞台の袖で観るぐらいしかできませんし、それも警備の警察にストップされたかもしれませんから。で、客席で演奏を観ました。

それほど完成度が高かったのに、本家のビートルズを前にした公演で前座を辞退したのはいかにももったいない気がしますが、あまりに完成度が高過ぎてこれで前座をやったら、却って観客の興を削いでしまうかもしれないという配慮もあったようです。井上さんも同じことをおっしゃってますね。

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実際、ビートルズの東京公演のパフォーマンスの初日はツアーの疲れもあり、リハーサルなしのぶっつけ本番でしたから、特に出来が悪かったのは事実です。何より観客が欧米のファンに比べて静かだったため、自分たちのパフォーマンスが良く聴こえて、ビートルズ自身がその酷さに愕然とした位ですから。これでもし、スパイダースが完璧なコピーで前座をやっていたら、本家の面目は丸つぶれになったかもしれません。そういう意味では、かまやつさんの判断は正しかったということになります。

 

でも、逆に今となっては聴いてみたかったですね。日本のロックバンドの実力は当時でもこんなにすごかったんだ、というところを世界に観てもらいたかった気もします。

(参照文献)「ムッシュ!」、TAPthePOP、「作家で聴く音楽」第十五回 大野克夫、WebBANDA

(続く)

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