1 「アイ・フィール・ファイン」のリックはその後も使われた
後にオールマン・ブラザーズ・バンドは、「ワン・ウェイ・アウト」という曲の中でこのリックを使いました。オリジナルを制作したのは彼らではないのですが、それについて語りだすとキリがないのでここではおいておきます。
1969年1月26日のゲットバック・セッションで、ビートルズは、「マイ・イマジネーション」という曲をジャム・セッションしてますが、その時にも似たようなリックを使っています。
2 世界で初めて「フィードバック奏法」をレコーディングに使った!
(1)フィードバック奏法とは何か?
この曲の特徴である印象的なイントロは、まずポールがベースでA弦を弾き、ジョンがギターをアンプに近づけて出したのです。それは、彼らが世界で初めて「フィードバック奏法」をレコーディングで使用したケースで、これにより、彼らは、ライヴだけではなくレコーディング・アーティストとしての実力があることも証明してみせたのです。
フィードバック奏法とは、ギターをアンプに向けると共鳴する現象を利用した奏法です。講演会などでマイクをスピーカーに近づけると「キーン」という耳に不快なハウリングを起こすことがありますが、それと同じようなものです。
普通は演奏の邪魔になるのでそんなことはしませんが、ジョンは、あえてそれをやったのです。やり方はこんな感じです。
これの難しいところは、ただ単にギターをアンプに近づければ良いというわけではなく、距離や角度などにちょっとしたコツが必要だということです。ですから、ライヴでやるのはなかなか難しいですね。
(2)実は掟(おきて)破りだった
フィードバック奏法を使用することは、パーロフォンの厳しいレコーディング方針に違反するので、ビートルズは、こっそりレコーディング中のアクシデントを装って使用しました。実際には、彼らは、かなり早い時期のテイクで使用していたのです。ジョンがこのことを明かしたのは1980年になってからです。
それまでの公式なスリーブノートの解説では、ジョンのミスで雑音が入ってしまったので、普通なら編集でカットするところを、面白いからそのまま使用したということになっていました。私も長年そう信じていたんですが、そうじゃなくてワザとやってたんですね(^^ゞ
(3)どうやってこの奏法を発見したのか?
ポールは、こう語っています。「ジョンは、ギブソンのセミ・アコースティックギターを持っていた。それにはピックアップが付いていたから、アンプを使えた。ジョージも同じのを持ってたよ。僕とジョージは、ジョンがギターをアンプに近づけているところを見に行った。まだその時の光景をよく覚えているよ。彼は、電源をオフにしておかなきゃいけなかったんだ。彼がもう一度ほんのちょっとギターをアンプに近づけると、『ヌワアァァ〜〜〜〜』って音が聴こえた。僕らは彼の所へ行って『それなんだい?ヴードゥー教のおまじないかい?」て言った。『違うよ。フィードバックさ。』『ワオ、そいつはすごいサウンドだ!』ジョージ・マーティンがそこにいたんで、僕たちは彼に『これレコーディングに使っていい?』ってお伺いを立てたんだ。そしたら彼は、『まあ、やってもいいけどね。どうせ編集でカットできるし。』それは、ギターをアンプに近づけたために偶然生まれたサウンドだった。」
マーティンは、英国紳士を絵に描いたような人でしたから、自分がミュージシャンだったらちゃんとルールを守って絶対にやらなかったでしょう。でも、彼は、ビートルズには好きなようにやらせ、自分は徹底して彼らのやりたいことをサポートするように努めました。
マーティン、そして、ポールとジョージがアンソロジーで当時の想い出を語っています。
マーティン「ジョンは、フィードバックを使って、サウンドをいじり回していたね。それを使って適切なサウンドを拾い出すのはなかなか難しかったんだ。レコードにしたのは、おそらくビートルズが初めてだったんじゃないかな?ともかく、ジョンは、そういう実験をやることが好きだったし、彼のアイデアは素晴らしかったよ。」
ポール「ジョンとジョージは、エヴァリー・ブラザーズ(アメリカ出身の兄弟のミュージシャンでその美しいハーモニーはビートルズにも影響を与えました)が持っていたようなギブソンの大きなギターを持っていたんだ。セミ・アコースティックギターだったから、電気的なサウンドを出せた。ジョンがそれをエンパイアのアンプに立てかけておいて僕たちと話をしていたら、突然、A弦が勝手にフィードバックしたんだ。『ンニャオ~~~ン』ってね。それで『何だい、どうやって出したんだ、あのサウンドは?』ってびっくりしたんだ。」「あれは、偶然発生したサウンドだった。編集作業で生まれたんじゃないんだよ。それをうまく取り入れたんだ。」これがエヴァリー・ブラザーズです。
ジョージ「ジミ・ヘンドリックスは我々が開発したのさ(笑)ステージであれをやるのは、なかなか難しかったんだよ。A弦を鳴らしてアンプにこうやって近づけるんだ。」
(4)レコーディングしたのはビートルズが世界初
面白いのは、ジョンが1980年に語ったレコーディング当時の想い出と、アンソロジーでポールとジョージが語っていることやその他の証言が若干食い違っていることです。
別の記録では、ジョンがギターのピックアップのボリュームを下げるのを忘れたままアンプに立てかけていて、ポールが何気なくベースでA弦を弾いたらフィードバックしたとあります。つまり、実際にベースを弾いたのはポールで、それにジョンのギターが共鳴したということです。
これも何年も前の話ですから、当事者の証言が食い違うのも仕方ないでしょう。ただ、ビートルズが、世界で初めてフィードバックを意図的にレコード化したのは揺るぎない事実です。
ジョンは、この奏法をレコードに使用したことについて誇りをもって語っています。「フィードバックをレコーディングに使うという世界で初めての試みだった。1920年代のいくつかの古いブルースのレコード以外ではね。今じゃ、ステージでは誰でもやっているけどさ。ジミー・ヘンドリックスみたいなプレイにしたって、誰もが以前からやっていたんだ。今、パンク・ロックの連中がやっているのも、昔僕たちがやってたことだよ。だから、僕はこう主張する。『ヘンドリックスよりも、ザ・フーよりも他の誰よりも、ビートルズが先にやったんだ。初めてレコードでフィードバック奏法を使ったのは僕達だ』って。」
ジョンが語る「1920年代の古いブルースのレコード」が具体的に何を指すのかは分かりません。ただ、フィードバック奏法自体は、少なくともステージの上では使われることはあったようです。しかし、それを明確な意思を持ってレコードで使用したのは、ビートルズが世界で初めてだったということです。
3 難しいリズム・パターン
![関連画像](https://cdn1.thr.com/sites/default/files/imagecache/landscape_928x523/2011/12/Ray_Charles_a_h.jpg)
ポールは、「曲そのものは、僕というよりジョンのものだね。僕たちは座って、ジョンのオリジナルのアイデアに協力して書いた。ジョンが歌い、僕はハーモニーを付け、そして、ドラム演奏は、基本的にホワッド・アイ・セイのものを使うことにした。この曲は、レイ・チャールズのドラマーのミルト・ターナーが、オリジナルのレコードで演奏した一種のラテンのR&Bだった。そして、僕たちはそれが好きだったんだ。ドラマーとしてのリンゴが、とても上手にそれを演奏できたのが成功の要因だね。」
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