- 1 Beatlesqueとは?
- 2 ビートレスクと呼ばれるアーティスト
- 3 専門家の見解
- 4 ピアノ
- 5 壮大なエンディング
- 6 ブルーグラスの影響を受けたハーモニー
- 7 チェロ
- 8 ジョンとポールの作風の違い
- 9 左利き、右利きのドラミング
- 10 オーディエンスの反応
- 11 結論
1 Beatlesqueとは?
(1)Beatlesqueの意味
皆さんは、「Beatlesque(ビートレスク)」という言葉をご存知ですか?もし、ご存知なら相当なビートルズ・フリークだと思います。かなりのファンだと自称している方でもご存知ない方が多いと思います。いや、そう思ってるのは私だけかもしれませんが(笑)今回は、このビートレスクとは何かについてお話しします。
「esque(エスク)」は、「~のような」「~に似た」という意味の接尾辞で、よく知られている言葉としては「Romanesque(ロマネスク)」があります。「古代ローマのような」という意味ですね。
(2)定義することは難しい
ですから、ビートレスクを翻訳すると「ビートルズのような」「ビートルズに似た」といった形容詞になります。つまり、「ビートルズをこよなく愛し、リスペクトするアーティストが制作する楽曲が、ビートルズのそれに似ていることまたはそのアーティスト自身」ということです。
しかし、ビートレスクという概念自体が非常に多義的、つまり、色んな性質を含んだ概念であり、何がビートレスクであるのかを定義するのはとても難しいのです。
ビートルズ登場以来、彼らから直接的であり間接的であれ、影響を受けたアーティストは世界中に星の数ほどいます。ただ、楽曲の構成とか演奏スタイルなどについてビートルズを全面に押し出してしまうと、限りなくコピーバンドに近づいてしまうので、多くのアーティストは、彼らの影響を受けつつ、自分のスタイルを確立しています。
2 ビートレスクと呼ばれるアーティスト
(1)The Bangles(バングルズ)
それでも、楽曲や演奏などの端々にビートルズの片鱗を感じ取れるアーティストがいるんですね。これも感覚の問題なので人によりますが、典型的なビートレスクとしては1980年代を中心に活躍した、女性メンバー4人で構成されるロックバンドの「The Bangles(バングルズ)」が挙げられます。最大のヒット曲は、「Walk Like an Egyptian」(1986)で100万枚のセールスを記録しました。
www.youtube.comバングルズ自身が様々なメディアで、子どもの頃から大のビートルズファンであることを公言しています。何人かのリスナーが、彼女たちの楽曲を聴いて「何となくビートルズっぽいな」と感じているようです。
例えば、バングルズのファーストアルバム「All Over the Place」の中の「More Than Meets The Eye(瞳をみつめて)」という曲は、何となく「Yesterday」っぽいと感じる人もいるようです。まあ、そう言われてみればそんな気がしなくもありませんが…。私は、あまりそうは感じないんですけどね(^_^;)
彼女たちも「ネクスト・ビートルズ」と呼ばれることが時折あったらしいのですが、そう呼ばれることには拒絶反応を示しています。
「ビートルズ愛が強すぎて、どうしても楽曲が彼ら寄りになってしまうけれど、私たちは、絶対ネクスト・ビートルズなんかじゃない。だって、ビートルズは、唯一無二の存在なんだから。」というのが彼女たちの主張のようです。ビートルズを心から敬愛していることがわかりますね。
(2)その他のアーティスト
オアシス、バッドフィンガー、クラトゥ、ELO(エレクトリック・ライト・オーケストラ)などもビートレスクと呼ばれることがあるようです。しかし、ビリー・ジョエル、レッド・ホット・チリ・ペッパーまで含まれるとなると、一体、何を基準にして選んでいるのか分からなくなります。
3 専門家の見解
ここで、3人の専門家の見解を参照してみましょう。ただし、専門家といっても、あくまで「個人の見解」を主張しているのであって、それが広く受け入れられているわけではありません。そういう見解もあるのだという程度だと理解して下さい。
その専門家とは次の3人です。
◯ケヴィン・ハウレット
ビートルズの研究者の一人です。彼は、「オン・エア~ライヴ・アット・ザ・BBC Vol.2」でプロデューサーを務め、そして、ビートルズを徹底的に研究した「BBC アーカイヴズ 1962-1970」の著者です。
◯ロブ・ボウマン
ヨーク大学の音楽教授で、グラミー賞を受賞しました。
◯テリー・ドレイパー
カナダのトロント出身のプログレッシブ・ロック・バンドである「Klaatu(クラトゥ)」のドラマーです。
彼らの見解では、ビートレスクであるための要素は、必ずしも一致しておらず、論者によって異なります。こういう曖昧な概念であることが、イマイチ受け入れられなかった大きな要因でしょう。「ビートレスクであるための要素」を以下に挙げてみます。
4 ピアノ
ハウレットは、こう主張しています。「ビートレスクという概念の中心となる曲は「Penny Lane」、特にそのピアノである。 ポール・マッカートニー特有のピアノの演奏スタイルは、正にビートレスクそのものだ。左手でオクターブを演奏しながら、右手でトライアド(三和音)を演奏している。」
(下の動画の再生は、左下のYouTubeのボタンをクリックして下さい。別ウィンドが開きます。)
また、イアン・マクドナルドは、ビートルズの音楽を分析した彼の著書の中でも最も重要な「Revolution in the Head」でスタッカートに注目しています。
彼は、「ポールは、ある音符とそれに続く音符とをスタッカートで明確に区別して演奏している。彼は、このテクニックを「Getting Better」と「With a Little Help From My Friends」などで繰り返し用いている。」としています。
5 壮大なエンディング
クラトゥが最も明確にビートルズの影響を受けた「Sub-Rosa Subway」という曲で彼は、「アルバム「Yellow Submarine」に収録されたジョージ・ハリスンの「It's All Too Much」のサウンドを意識して制作した」と語りました。
彼は、そのアルバムのもう一つの有名な曲である「Calling Occupants of Interplanetary Craft」も制作しました。エンディングでヴォーカルが何度も「Brahmsian tunes」と繰り返します。「It’s All Too Much」も「it’s ‘too much」「too much」と何度も繰り返して終わります。さらに、ホーンや他のバック演奏で終わります。
6 ブルーグラスの影響を受けたハーモニー
ボウマンは、こう語っています。「ビートレスクを一般的に定義するとすれば、私は、正にハーモニーがそれだと思う。」
ビートルズのハーモニーの拡がりは、 「Crosby, Stills, Nash & Young(クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング)」のそれとは全く異なる。むしろ、ビートルズは、マイナーをあまり使わず、4度(音階が4異なる)を使った、ブルーグラスにより近いハーモニーを歌っていた。」
7 チェロ
「I Am the Walrus」のチェロのサウンドは、音楽に魅了された多くのクリエイターの心に深く浸透しています。ビートルズのアルバムを制作するために使用されたスタジオ機器やテクニックについて詳細に解説した「Recording The Beatles」という書籍は高く評価されていますが、その中でもこの作品を絶賛していて、実際に多くのアーティストに対して大きな影響力があったとハウレットは主張します。
ELOのジェフ・リンは、「I Am the Walrus」のチェロを聴いて、彼の人生が完全に変わったとまで語っています。チェロから影響を受けたというところが面白いですね。彼らのレコードは、ビートルズの影響を強く受けています。
ビートルズ自身、ジェフがELOでやっていたことに関心を抱いていました。これが、ジョージがジェフに呼びかけ、1987年にリリースされたアルバム「Cloud Nine」を制作した理由です。ジェフがビートルズの音楽的指向をちゃんと理解していたからです。
アルバムの収録曲である「When We Was Fab」は、ビートレスクの典型例とされています。しかも、ビートルの一人だったジョージがレコーディングしているのです。
8 ジョンとポールの作風の違い
ビートレスクであるかどうかは、ビートルズの前期より後期の楽曲に類似しているかどうかが基準となるとしています。
「ポールの作品の方が、ジョンのそれよりはるかにコピーしやすい。」とボウマンは語っています。「ジョンは、とても独創的な作品を制作する傾向があり、おそらく彼が制作した個々の楽曲よりも、より広い範囲をテーマにしていた。それが意識的なものであろうと無意識的なものであろうと、それについて語ることは大変に困難である。」
9 左利き、右利きのドラミング
リンゴは、左利きでしたが、右利き用にセットされたキットで演奏していました。ギターもそうですが、ドラムも右利きの人が演奏することを前提として設計されています。そのため、タム回しも、普通は右利きの人が利き手でリードしながら右回りにやるのですが、左利きだとやりづらくなります。逆に、それが独特のスタイルを生み出したのです。
Eストリートバンドのドラマーであるマックス・ワインバーグは、こう語っています。「アル・ジャクソン(・ジュニア)は、アル・グリーンのレコードに使ったタムタムのフィルのパターンを聴いたのだが、グリーンは、それをリンゴからコピーしていたのだ。私は、それをビートレスクとは呼ばないが、おそらくリンゴからヒントを得たのだろう。」
10 オーディエンスの反応
「クラトゥは、密かに再結成されたビートルズの覆面バンドだ。」という噂の元となったアルバム「3:47 EST」を今になって聴いてみると、ほとんどの曲は、実際にはビートルズのようには聴こえません。しかし、このアルバムがリリースされた頃にはそんな噂があったのです。
「1976年のことだった。」とドレイパーは語っています。「ビートルズの解散からまだそれほど時間が経ってはいなかった。私は、彼らに戻って来て欲しいと思っていた。大衆は、ビートルズの再結成を望み、彼らの作品を聴きたいと思っていたのだ。」
もちろん、これが単なる噂に過ぎないことは後でわかったのですが、「ビートルズに再結成してほしい」と願うファン心理がこんな噂を生み出したのかもしれません。
11 結論
まあ、こんな風に検討してみると、「ビートレスクという概念を一般化して、定義づけることは困難である。」という評価になりますね。何となくそれらしいものはイメージできても、これだという決め手になるものはありません。
ビートルズ自身が、あまりにも色々な要素を持っているモンスター・バンドであるため、「ビートレスク」を定義できないのも無理はないかもしれません。
(参照文献)THE STAR
(続く)
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