1 初じめて紹介された二人
(1)お互いを知らなかった
ヨーコの個展を訪れたジョンのお話の続きです。ジョンは、こう語っています。「私は、とても感銘を受け、ジョン・ダンバーが我々を紹介してくれた。我々は、二人ともお互いが誰なのか知らなかったし、彼女も私が誰なのか知らなかったし、彼女は、リンゴという言葉しか聞いたことがなかったんだ。」
「ダンバーは、彼女をせっついた。『いいお客さんだから、彼と話をしに行くか、何かしてきなさい。』と。ジョン・ダンバーは、大富豪に挨拶しろと言うと、彼女が近寄って来て私にカードを渡した『息をしなさい』と書いてあった。彼女の指示の一つだった。だから、私は、言われたままにそうした。これが我々の出会いだった。」
(2)個展に懐疑的だったジョン
ジョンは、女性アーティストをバッグに入れて展示すると聞いていたので、何かしら性的なものが展示されているという誤ったイメージを抱いていました。彼が会場に足を踏み入れると、林檎や途方もない値札が付いた爪の袋など、さまざまな概念的な作品が展示されていました。
「これは詐欺だと思った。一体、これは何なんだ?」ジョンは、後にBBCにこう語りました。「バッグの中で何も起こっていなかった。私は、乱交パーティーを期待していたが...何も起こらなかった。」
がっかりしたジョンは、ディスプレイと、「呼吸しなさい」と書かれたカードで彼を迎えたアーティストに対して懐疑的な気持ちを抱きました。彼は、指示通りに呼吸しました。ジョンは、最近獲得した財産の一部をこれらの前衛的な作品に費やす、世間知らずの田舎者として招待されたのではないかと疑いました。
無理もないでしょうね(^_^;)その頃、彼は、もはや世界的スーパースターになっていて、蜜に群がる蟻のように、彼にすり寄ってその富と名声を利用しようとする連中は掃いて捨てるほどいましたから。
2 想像の5シリングと想像の釘
(1)釘を打たせてくれ
「天井の絵」という作品を見て、ジョンは興味を抱きました。彼の好奇心は高まり、別の作品である「ハンマーで釘を打つ絵画」を前にして、彼は、この作品に釘を打ち込んでみたいとヨーコに依頼しました。それは、壁に掛けられた何もないボードにただ観覧者が釘を打つという作品でした。
「『釘を打ってくれ』って書いてある所に行った。『釘を打ってもいい?』と聞いたら、彼女は断った。それでオーナーのダンバーが『彼に釘を打たせてあげなさい。』と言った。『彼は、億万長者だから、それを買うかもしれないよ。』ってね。彼女は、オープニングのために、作品をまっさらな状態のままにしておきたいと思っていた。彼女は、それまで作品に値段を付けたことがなかったし、それを守ろうといつも必死だったんだ。」
「それで彼女とちょっと話をしたら、彼女は、最終的に言った。『5シリング払ってもらえば、釘を打ってもいいですよ。』って。それで生意気な私が言ったんだ。『じゃあ、想像の5シリングを払うから、想像の釘を打ち込むよ。』と。我々は、その時に本当に出会ったんだ。目が合った時だ。その時に彼女は私を理解し、私も彼女を理解した。それがすべてさ。」*1
オープン前日ですから、当然のことながら、釘は、まったく打ち込まれていない状態でした。オープンして最初に個展を訪れた観覧者に最初に釘を打ってもらわなければ、作品のコンセプトが台無しになってしまいます。それで、ヨーコは、ジョンの申し出を拒否しました。
(2)ユーモアで拒否したヨーコ
彼女は、ジョンに対して拒否の意思をやんわりと伝えるために、彼に釘を一つ打つごとに5シリングを払うようにジョンに求めました。もちろん、5シリングなんて小銭ですから、いくらでも払えます。ユーモアのセンスのない人なら、本当に払って釘を打ち込んだかもしれません💦
しかし、ユーモアのセンスに溢れたジョンは、それが彼女の婉曲的な拒否のメッセージだとすぐに理解し、想像の釘を打つために想像の金を払うと返したのです。ヨーコのとっさのユーモアを交えた拒否に、ジョンが素早く反応してこれまたユーモアで応えたんですね。
ジョンをヨーコに惚れ込ませたのは、作品の前衛的なユニークさと彼女のユーモアのセンスに加えて、「いくら金を積まれようと、自分の作品には指一本触れさせない」という彼女の芸術家としての固い信念、そして、ビートルズのジョン・レノンを前にしても一歩も引かない意志の強さだったのでしょう。これこそ彼が求めていた理想の女性像だったのです。ここでヨーコがただ単に拒否したり、安易に妥協したりしていたら、二人のその後はなかったかもしれません。
3 ヨーコはジョンを知っていた?
(1)ポールの証言
さて、ここで気になる情報をお伝えします。当時も後年も、ヨーコは、ジョンやビートルズについて知らず、メディアで「リンゴ」という名前を聞いただけだと主張しています。それを根拠に「ヨーコは、ジョンのことを知らなかった」と考えているのがおそらく通説的見解でしょうが、当時ジョンとヨーコの周囲にいた人々の中には、二人の出会いについて異説を唱える人もいます。ジョンが11月にインディカギャラリーを訪問したことについて異議が唱えられたことはありませんが、実は、それより前に二人がすでに知り合っていたという情報があるのです。
ポールは、1年前の1965年にヨーコからアプローチされたことを覚えていると語っています。彼女は、友人で実験作曲家のジョン・ケージ(アメリカ出身の音楽家で実験音楽家として前衛芸術に影響を与えた)と一緒に取り組んでいる本のプロジェクトの曲の原稿を探していました。インディカの共同所有者であるマイルズは、ポールの証言を裏付けました。
(2)バリー・マイルズの証言
「彼女は、(ビートルズ)が誰であるかを正確に知っていた。」とマイルズは、2002年にデイリーテレグラフの取材で語りました。「彼女は、すでにジョン・ケージの原稿の題材を求めてポールに接近していた。彼は、彼女に何も渡さなかったが、ジョンに会いに行くことを提案した。しかし、彼女は、ジョンにビートルズのことを聞いたことがないと言い、彼は、彼女を信じていた。」
ポールとマイルズは、ジョンが1966年のロンドン公演の数か月前に、ケージの本のためにビートルズの曲「The Word」の歌詞をヨーコに渡したと証言しています。ただ、個人的な接触はなく、どういう形で彼女の手に渡ったのか詳細は分かりません。接触があったら、流石に初対面とは言えませんよね。
これは彼の作品ですが、なぜ、彼女に渡したのかは分かりません。それまでの男女間の具体的な恋愛関係を語ったラヴソングとは異なり、愛全般についてビートルズが初めて描いた作品です。そのメッセージ性が本のヒントになると考えたのでしょうか?
(3)レッグ・キングの証言
ロンドンのバンドであるアクション(ビートルズと同じようにジョージ・マーティンがプロデュースしていた)のヴォーカルを担当していたレッグ・キングは、当時、風貌がジョンに似ていると評判だったのですが、クラブでヨーコから声をかけられたと回想しています。確かに、当時の彼の写真を見る限り、ジョンを少し華奢にした感じで目鼻立ちなどはそっくりです(^_^;)
「彼女は、 『レジー、あなたはジョンにとてもよく似ている。』と言った。」とキングは、語っています。「彼女が望んでいたのは私ではなくジョンだった。だから、私はこう言った、『良いことを教えてあげよう。ジョンは、時々スピークイージー(1966年にオープンしたロンドンのクラブ。ビートルズなどの有名なアーティストたちが時々来店していた。キング・クリムゾンは、1969年にここでデビューした。)に来るよ。僕は、火曜日の夜に時々彼を観たことがある。」
「次の火曜日、彼女は店に来ていた。その夜、ポールとジョンがやって来た。ヨーコはあ然としてそこに立っていた、『うわ~、あなた、本当にビートルズを知っているのね。』」
「15分まで彼女はそこにいた。そして、その残りは歴史だ。」彼の最後の言葉は、何だか意味深ですが、何を言いたかったのでしょうか?
う~ん、これは、ちょっとまずいなあ~(^_^;)三人も証言者がいて、なおかつ彼らの証言は、具体的かつ詳細に亘っています。特にキングの証言は、かなり信ぴょう性がありますね。こうなってくると、ヨーコがジョンに会うまで彼のことを全く知らなかったというのは、どうやら真実ではないことになってしまいそうです。
まあ、そこのところはとりあえず置いておきましょう。ヨーコがジョンと出会う以前から彼のことを知っていたかどうかは、ビートルズの解散を語る上では、それほど重要な意味はありません。むしろ、彼女がその後、ジョンにどれだけ影響を与えたかという方がより重要ですから。
4 次第に深い関係に
インディカの個展でジョンとヨーコは出会ったのですが、彼らの関係がすぐに深くなったわけではありません。二人は、それぞれ別のパートナーと結婚して家庭を持っていました。その後の数か月間、彼らは、ヨーコの芸術について連絡を取り続けました(マイルズは、彼女ははがきでジョンを質問攻めにしたと語っています)。
ヨーコは、手紙の中でジョンにとても惹かれていることを認め、彼は、1967年にロンドンで開催予定のヨーコの個展を後援すると約束しました。シンシアが休暇で自宅を留守にしている間に、ジョンとヨーコは、アルバム「Two Virgins」で初めてコラージュ・サウンドを制作して恋愛関係になったのです。ヨーコと出会ってからジョンの人生、そしてビートルズは大きく変化することになりました。
(参照文献)アルティメット・クラシック・ロック、ザ・ビートルズ・バイブル
(続く)
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