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ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

「The Long and Winding Road」の意味するもの(317)

Pin by Nancy Jochamowitz Frisancho on Album covers | The beatles, Beatles  albums, Beatles album covers

1 「The Long and Winding Road」の意味するもの

この曲は、ビートルズが最後にリリースしたアルバム「Let It Be」に収録されており、彼らの最後の瞬間がレコーディングされたと考えられています。このアルバム中の楽曲のほとんどは、ビートルズにとって実質的なラストアルバムとされる「Abbey Road」を制作する前にレコーディングされたものでした。この曲は、そのアルバムがリリースされた後にあまり芳しくない状況の中で完成しました。

1980年にジョンは、彼にとって事実上最後のインタヴューとなったプレイボーイ誌のデヴィッド・シェフとの対談で「ポールは、我々が解散する直前にちょっとしたスパートをかけたんだ。」と語っています。「ヨーコのことなど彼にとって不快なできごとが色々とあったことが、『Let It Be』」や『Long And Winding Road』などの創作活動に拍車をかけたんだと思う。あれが彼の最後のあえぎだったんだよ。」その当時、ポールは、メンバーから孤立してとても追い詰められていました。「最後のあえぎ」とジョンは表現しましたが、苦しい状況にあっても素晴らしい作品を作ったという、ジョンらしいポールへの賛辞だったのかもしれません。

 

2 解散を歌った曲ではない

(1)ホワイトアルバムのセッション中に制作した

ポールは、ビートルズが「ホワイト・アルバム」の制作でメンバーがギスギスしていた時期に、シンプルなピアノ・バラードとしてこの曲を作曲しました。アルバムのセッション中にデモがレコーディングされたんですが、その時は日の目を見ませんでした。

ポールは、著書「Many Years From Now」の中で、この曲について次のように語っています。「あの時の私は、ちょっとハイな気分になっていたんだ。この曲は、手の届かないもの、決してたどり着けない扉について歌った悲しい曲だ。これは、最後までたどり着けない道なんだよ。」

歌詞もメロディーも切なく、リリースされたのが解散の時期と重なるので、解散の頃のビートルズの悲しい様子を歌った曲のように誤解されるかもしれません。しかし、元々はホワイトアルバムのセッション中に制作された曲なので、決してビートルズが置かれた厳しい状況について歌った曲ではないのです。解散の時期と重なったのは、巡り合わせかあるいはそれがこの曲の宿命だったのかもしれません。

(2)レイ・チャールズにインスパイアされた

Ray Charles | 1001 sang

いかにもポールらしいこの曲は、彼が尊敬してやまないソウルの帝王レイ・チャールズにインスパイアされて作曲したものです。彼は、レイをこよなく尊敬していましたが、作家のバリー・マイルズにこう語っています。

「私が歌っているんだし、私の演奏じゃあレイのサウンドには似ても似つかない。でも、誰しも時おり、心の中にある人物が現れて、自分の態度や行くべき場所を決め、心があらぬ場所へ行ってしまわないように導いてくれることがある。おお、私は、レイ・チャールズを愛している、そして、考えるんだ、彼ならどうするだろうってね。」

ポールは、自分はレイ・チャールズにはとても及ばないと謙遜していますが、作曲で行き詰まった時に、彼ならどうするだろうと彼の立場に立って考えてみることで、難局を切り抜けたんですね。自分が尊敬する誰かに自分を置き換えるという思考方法は、物事に懸命に取り組んでいる人なら、似たようなことを誰しもしているのではないでしょうか?

 

3 異質な制作過程

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フィル・スペクター

ビートルズが作曲する場合、通常、レコーディング・セッションの一環として、メンバーの一人が制作した曲をグループ全員が協力してレコーディングできる状態にし、プロデューサーのジョージ・マーティンがプロデュースしてテープにまとめます。このシンプルなプロセスは、彼らの作品の大部分に当てはまりますが、「The Long and Winding Road」の場合は少し異質でした。

1969年1月のGet Backセッションで録音されたこの曲は、アップル社の屋上や「アップル・スタジオ・パフォーマンス」と呼ばれるスタジオ内で何度か演奏されていました。しかし、アルバム「Let It Be」のベースとなる「Get Back LP」に収録するためにプロデューサー兼エンジニアのグリン・ジョンズが選んだのは、1月26日のセッションでレコーディングされた音源でした。

エンジニアのブライアン・ギブソンは、ビートルズ研究家マーク・ルーイスンの著書の取材にこう応えました。「フィル・スペクターは、ウォール・オヴ・サウンドを実現するために『The Long And Winding Road』では、オーケストラと合唱団をオーヴァーダビングしたかったのだが、テープにはもはや空きのトラックがなかった。そこで彼は、自分のオーケストラを入れるために、ポール・マッカートニーの二つのヴォーカル・トラックのうち一つを消してしまったんだ。」と語っています。

ポールのヴォーカル・トラックは、元々二つあったんですね。スペクターは、自分のオーケストラをオーヴァーダビングするために、そのうちの一つを勝手に消してしまったんです。アップルから、発売前のアセテートが送られ、それを聴いたポールは激怒しました。オーケストラが入っているだけでなく、自分のヴォーカルの一つまで勝手に消されたんですから当然でしょう。激昂した彼は、クライン宛に抗議の手紙を送りました。

 

4 ポールの「弾劾状」

(1)激越な文面

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ポールの抗議の手紙


その手紙には、普段は温厚なポールが、自分の芸術が侵害されたことに激怒している様子が描かれています。具体的には次のような文面です。

「アラン・クライン様

拝啓 

今後、誰であろうと、録音した私の曲に私の許可なくサウンドを加えたり、削除したりすることは許されません。私は「The Long And Winding Road」をオーケストレーションすることを考えましたが止めました。そこで、この曲を以下の仕様に変更してもらいたいのです。

1.弦楽器、管楽器、ヴォーカル、その他すべてのノイズの音量を下げること

2.ヴォーカルとビートルの楽器の音量を大きくすること

3.曲の最後のハープを完全に消去し、オリジナルのピアノ・サウンドを代りに使用すること

4.このようなことは二度とやらないこと

ポール・マッカートニー

フィル・スペクター

ジョン・イーストマン様*1

その文面は、彼の創造性を物語るかのように完璧なまでに辛辣なものでした。オーケストラを「ノイズ(雑音)」と決めつけていますからね。ただ、驚きなのは、ポール自身がこの曲にオーケストラをフィーチャーすることを検討していたということです。

私は、てっきり、オーケストラをフィーチャーすることは、最初から全く彼の念頭にはなかったと思い込んでいました。しかし、そうではなく彼自身もそれを検討した結果、不要だと判断したんですね。

さらに驚きなのは、ポールがオーケストラを全て消去しろと要求したわけではなく、音量を下げろと指示してバッキングとして残すことを容認していたことです。おそらく、彼としても最大限譲歩したというところでしょう。

ちょっと分からないのが、この手紙の日付が1970年4月14日となっていることです。すでに10日にはポールがデイリー・ミラー紙に「今後ビートルズのメンバーと創作活動をすることはない」と事実上の脱退宣言を掲載させていますから、その後ということになります。新たな創作活動はしないと宣言しながら、今後の楽曲の制作について注文をつけたのは、どういうことでしょうか?

 

(2)マーティンも憤慨した

激怒したのは、ポールだけではなくジョージ・マーティンも同様でした。「Let It Be」は、スペクターの「The Long and Winding Road」のカットを残したままリリースされましたが、これに彼は憤慨したのです。

「私は、腹が立ったし、ポールは、怒り心頭に発していた。我々は、そのことについて何も聞かされていなかったからね。我々を差し置いてアラン・クラインとジョンが結託し、フィル・スペクターを呼んでジョージとリンゴもそれに従ったのだと思う。彼らは、EMIと協定を結び『これは、我々のレコードになる』と言っていたんだ。」

「もうビートルズに自分の居場所は無くなった。」とポールが感じたのは、おそらくこの時でしょう。スペクターが勝手にオーケストラを入れただけではなく、それを他の三人が支持したのですから。

こう言ってしまうと何か三人が悪いように聞こえてしまいますが、ポールにも自己中心的な振る舞いがあったことは否定できません。ですから、どちらがいいとか悪いとかいう問題ではなく、ポールと他の三人との関係がどうしようもなくこじれてしまっていたということです。

(3)アンソロジー3に収録

www.youtube.com

ポールが当初意図したオーケストラを入れないオリジナルのヴァージョンは、最終的には「アンソロジー3」に収録されて日の目を見ることになりました。このヴァージョンが1970年に公式にリリースされたオリジナルと比較してどうなのかは、ファンの間でも好みが分かれるところです。多くの人は、オーケストラが入ったヴァージョンを聴き慣れているので、そちらを選択するのではないでしょうか?

ポールも自身のソロ・ライヴでは、オーケストラを入れたヴァージョンを採用しています。彼がそれを受け入れたのか、それとも未だにオーケストラを入れないヴァージョンを好んでいるのかは、本人に聞いてみないと分かりません。

(参照文献)ファーアウト

(続く)

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*1:ポールの弁護士