★ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログ★

ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

商業的には失敗に終わったが、後世に多大な影響を残した(322)

The Beatles 'Magical Mystery Tour' coming to home video on Oct. 8 - Los  Angeles Times

1 プロジェクトの開始を決定

(1)ポールが他の3人を熱心に説得

ビートルズのメンバーは、9月1日にポールの自宅に集まり、今後の方針を決めました。キング・クリムゾンフォリナーのメンバーであったイアン・マクドナルドは、こう語っています。「マッカートニーは、何か新しい創造的なことに焦点を当てなければ、彼らを支えている心理的な力がたちまち消滅してしまうことを認識しており、今こそ『マジカル・ミステリー・ツアー』のプロジェクトを進めるべきだと主張した。他のメンバーは、不承不承ながらそれに同意した。レノンは、エプスタインがいなければビートルズはすぐに崩壊してしまうことをいつものように冷静に見抜いていたにもかかわらず、これを黙認した。」*1

ポールは、他のメンバーに対して、映画に挿入する楽曲を制作することを含め、プロジェクトを始動することを熱心に他のメンバーに提案しました。何だかその時の光景が目に浮かんでくるような気がします。ポールがプロジェクトについて熱心に説明し、他のメンバーを説得しようとしています。

それに対して、ジョン、ジョージ、リンゴの3人は、ややうつむき加減で憮然とした表情で黙って聞いています。そして、彼らは、半ばポールに引きずられる形でプロジェクトを開始することに同意したのです。

 

(2)ジョンは反対しなかった

彼らは、ポールに対して直接何も言いませんでしたが、内心では「ブライアンが亡くなったばかりだというのに、こいつは一体何を考えているんだ?」という思いだったでしょう。まあ、そう考えるのが普通でしょうね(^_^;)

本来なら、リーダーのジョンが血気にはやるポールをいさめて、もう少しじっくり考えようと押し留めるべきところです。しかし、彼は、そうしませんでした。ジョンがこの時のことについて語ったかどうかは分りませんが、おそらくブライアンを失った直後で気持ちの整理がついていなかったのでしょう。

彼は、もうビートルズは終わったという気持ちだったのではないでしょうか?かといって、ポールに反対するほどの気力も失っていました。サージェント・ペパーも成功したことだし、この際、ポールに任せてみようと思ったのかもしれません。

2 プロジェクトがスタート

(1)「I Am The Walrus」のレコーディング

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プロジェクトを開始することに決めた4日後、彼らは、EMIスタジオ1に入り、いつものように仕事を進め、ジョンが作ったばかりの曲「I Am The Walrus」をレコーディングしました。この名作は、ビートルズが最愛のマネージャーの死後にレコーディングした最初の曲というユニークな特徴を持っています。ジョンは、その曲の中で「I’m crying」と歌っていましたが、その時の彼は、ブライアンというかけがえのない人を失って、正に泣きたい心境だったでしょう。

彼らが得意とする映画に挿入する楽曲は、こうして無事にスタートを切りました。しかし、問題は、彼らの専門ではない映画撮影の部分でした。

(2)撮影開始

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9月11日の午後、正式な脚本もないまま、ビートルズとスタッフは、サイケデリックに塗装された黄色のツアーバスでロンドンを出発し、ウェストカントリーへと向かいました。ポールは、ウェストカントリーを目指した理由をこう語っています。「ウェストカントリーに決めたのは、そこがとても面白くて変化に富んでいる場所だからだ。」

脚本がない映画なんて、いくら何でも無茶ですよね💦確かに、即興性を重視した映画も存在します。しかし、それは、一流のプロである映画関係者が制作するからこそ成功するのであって、映画に関しては全く素人のビートルズがその手法を取り入れても、うまくいくはずがありません。

彼らは、ブライアンの死を引きずったまま46人でバスに乗り込み、旧A30号線を西に向かって進み、途中、ウィンチェスターのレストラン「パイド・ピア」に立ち寄りました。

 

3 船長不在の船

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橋の上で立ち往生するバス

ブライアンが生きていれば、このプロジェクトにある程度の秩序をもたらしたかもしれません。しかし、彼のいないプロジェクトは、いわば船長不在の船のように方向を見失い、失敗の連続でした。バスでイギリスを旅する5日間の行き当たりばったりのツアーは、スケジュール調整の失敗、労働組合の問題、参加者の士気の低さ、脚本の欠如という大きな問題を抱え、最後までそれらを克服できませんでした。

降りしきる雨の中、ビートルズは、400人の地元のファンが待つテインマスの旧ロイヤルホテルで一晩を過ごした後、再び出発しました。次の目的地は、ダートムーアのワイドコム・イン・ザ・ムーアで、そこで開催されるフェアを見学する予定でしたが、バスが近くの細い橋で立ち往生してしまい、そこへは辿り着けませんでした。

バスが交通渋滞に巻き込まれ、ただでさえ気性の荒いジョンは怒りを爆発させ、バスから降りて、バスの側面からプラカードを引き剥がしました。渋滞からバスが解放されるまでにかなりの時間がかかり、道路を800mほどバックさせなければならなかったため、一行は予定を変更してプリマスに移動しました。

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プリマスに到着したビートルズ

4 ビートルズにとって初めての商業的失敗

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一事が万事この調子で、撮影どころかツアー自体がマトモにできませんでした。観光バスツアーでこんなことをやってたら、乗客が怒って金を返せと騒いだでしょう(^_^;)撮影された10時間のフィルムは、わずか55分に編集されました。使えないシーンがあまりにも多すぎたのです。

12月26日、この映画はBBCで放映されましたが、ほとんどの視聴者はストーリーを理解できませんでした。多くの視聴者から不評を買い、放映の翌日のデヴィッドフロストショーでポールは謝罪を余儀なくされました。アメリカのNBCは、映画の放映を予定していましたが、キャンセルしました。

散々な出来に終わった映画「マジカル・ミステリー・ツアー」は、ビートルズにとって最初の大きな商業的失敗でした。「ビートルズは商業的には失敗しない。」という神話がついに崩れたのです。そして、後にも先にも彼らが大きな商業的失敗を犯したのはこの時以外にありませんでした。

しかし、そこはビートルズ、映画では失敗しても音楽では成功を収めたのです。サウンドトラックは、イギリスでは12月8日に2枚組EPが、アメリカでは11月27日にLPがリリースされ、それぞれチャート2位、1位を獲得しました。

 

5 再評価する意見もある

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インタヴューに応ずるマーティン・スコセッシ

放映当時は酷評されましたが、2012年12月に放映されたテレビ番組「マジカル・ミステリー・ツアー・リヴィジティッド」は、この作品を検証しました。このドキュメンタリーでは、ポール、ジョージ、リンゴ、「タクシードライバー」(1976年)などの作品で世界的にその名を知られたアメリカの映画監督であるマーティン・スコセッシ、「イージー・ライダー」(1969年)に主演した俳優のピーター・フォンダらが出演しています。

スコセッシは、マイケル・ジャクソンの大ヒット作品である「バッド」のショートフィルムの監督も務めました。彼を含めこの番組の出演者は、「この映画が過小評価されてきた。」とし、その後の音楽や映画などに多大な影響を与えたと主張しています。

彼らの主張によれば、「I Am the Walrus」は、初期のミュージックビデオの誕生を思わるとのことです。その後、多くのアーティストが音楽だけではなく、その音楽に合わせたストーリー性のある動画も合わせて制作するようになりました。それまでの常識では、音楽とダンスを主要な要素とする映画といえば、ミュージカルしかありえなかったのです。

「Your Mother Should Know」に合わせた陽気で古風なダンスシーンが存在しなければ、マイケルの楽曲とともにダンスを前面に押し出したMVも誕生しなかったかもしれません。ひょっとすると、スコセッシは、「バッド」のショートフィルムの監督を務めた時に、この作品から何かをインスパイアされたかもしれません。その他のシーンは、「2001年宇宙の旅」(1968年)や「イージー・ライダー」などのアメリカ映画を通じて、多くの観客に届けられたサイケデリックなイメージを予感させるものがあります。

全体としてまとまりを欠いたきらいはありますが、ビートルズの溢れ出る才能をコラージュのように張り付けたサイケデリック・アートであり、後世のアートに多大な影響を与えたエポックメイキングな作品と捉え直せば、有意義な存在であるといえるでしょう。

しかし、これは後世になって再評価されたことであり、ビートルズの作品が商業的に失敗した事実は否定できません。そのことがポールと他の3人との間の溝を深める結果になってしまいました。


 

(参照文献)カルチャーソナー、ザ・ビートルズ・ミュージック・ヒストリー、コーンウォールライヴ、アイオワ・ソース、ブロウビート
(続く)

 

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*1:「Revolution In The Head」イアン・マクドナルド