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ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

ジョンとヨーコを逮捕した麻薬取締官ノーマン・ピルチャー(336)

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1968年10月18日、法廷を後にするジョンとヨーコ

1 スーパースターを麻薬で次々と逮捕した

(1)強引な捜査手法

ジョンがビートルズ時代の末期にヘロイン中毒に陥っていて、そのことが解散の一つの要因であったことは以前にお話ししましたが、彼を含め当時、麻薬を使用していた数多くのアーティストを検挙しようと躍起になっていたイギリスの警官がいました。それがノーマン・ピルチャーです。

ノビーことノーマン・ピルチャー巡査部長は、ビートルズローリング・ストーンズのメンバーを逮捕したことで一躍有名になりました。ジョン、ジョージ、ヨーコ、そしてローリングストーンズのメンバーといったスーパースターたちを逮捕したイギリスの刑事です。彼は、1966年にスコットランドヤードに新設された麻薬捜査班への異動を命じられました。

2020年、ミラー紙の取材に応えたピルチャーは、次のように語っています。「私は、麻薬取締りの宣伝に利用されたが、現実にはこれは勝てる戦争ではない。50年経っても我々は何も学んでいない。薬物関連の法律は時代遅れなのだ。」確かに、全世界で薬物使用者は後を絶ちません💦

ところで、「ノーマン・ピルチャー」と聞いて何かピンときませんか?ファンの方がよくご存じのあれですね。

(2)「I Am the Walrus」のヒントになった

www.youtube.com

ピルチャーを有名にしたもう一つの理由は、ジョンが「I Am the Walrus」を作曲したときに彼のことが頭にあったのではないかとされるからです。その歌詞の中に「Semolina pilchards(セモリナ・ピルチャーズ)」という言葉が登場しますが、このピルチャーズが彼を指しているのではないかと思われます。ちょっと珍しい言葉ですから偶然の一致とは考えにくいです。

セモリナは、穀物を製粉して製造される粗い穀粉で、すりつぶすと小麦粉になります。ピルチャーは、ヨーロッパマイワシのことです。

「セモリナ・ピルチャーズがエッフェル塔を登る。」って何のことだかサッパリ分かりません(^_^;)ジョンのビートルズ時代の作品の中でも、最もブッ飛んだ歌詞でしょうが、このシュールさが最高ですね。

2020年10月、84歳になったピルチャーは、回顧録「ベント・コッパーズ」を出版しました。彼は、この回顧録でこれまで世間が誤解して語ってきたことをこれによって正確に改めるとしており、その中で、当時の麻薬取締局の多くのターゲットと同様に、彼自身も陰謀の犠牲者であったと主張しています。彼の主張にどれだけの信ぴょう性があるかはこれからの評価次第です。

 2 「泥の中を歩けば服が汚れる」

ピルチャーは、1960年代にイギリスの有名なロックスターたちに目を付け、最も注目された人々を逮捕しました。彼は、憲兵隊を経て1956年にロンドン警視庁に入りましたが、その理由は「心から役立つことをしたいと思ったから。」という純粋な動機からでした。

しかし、彼は、すぐに「犯罪捜査をしようと思えば、清廉潔白な警官は決して汚れないままではいられない......ロンドンも警視庁も腐っていて、泥の中を歩く必要があれば、服が汚れることを覚悟しなければならない」ことを知ったのです。彼の主張どおりだとすれば、ロンドンの警官は、犯罪者だらけということになってしまいますが、流石にそれは言い過ぎでしょう。しかし、犯罪を捜査しようと思えば、犯罪者にならないまでも悪の世界に飛び込む覚悟が必要なのは確かです。

麻薬捜査は、特にそうですね。なかなか表に出てこない密行性の高い犯罪なので、客に成り済まして取引に応じる「買受け捜査」も認められています。つまり、捜査官が自らおとりになって、取引しないとなかなか摘発できないのです。

しかし、「ミイラ取りがミイラになる」例えのように、捜査をキッカケに悪の道に進んでしまったり、逆に摘発することに執念を燃やして違法な捜査をする捜査官もいます。ピルチャーは後者のタイプですね。

 

3 内務省は「大物を逮捕しろ」とハッパを掛けた

(1)大物を逮捕すれば麻薬犯罪は減らせる

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1960年代と2020年代のピルチャー

ピルチャーによると、イギリス内務省は、若者の麻薬離れを加速させるために、できるだけ多くの有名人を逮捕したいと考えていたようです。情報提供者からの密告を受けて、歌手のダスティ・スプリングフィールド1999年、ロックの殿堂入り)の自宅を家宅捜索しました。彼は、彼女から浴びせられた罵声を無視して捜索を続けて麻薬を発見し、最終的に彼女は罪を認めて罰金刑に処せられました。

内務省は、もっと大物を捕まえろとハッパを掛けていた。」と彼は振り返りました。1967年にはローリング・ストーンズブライアン・ジョーンズがターゲットになりました。

(2)著名人をターゲットにしたわけではなかった?

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ブライアン・ジョーンズ

ピルチャーは、こう語っています。「私は、麻薬取締の部署に配属されるまで麻薬について何も知らなかった。配属された時、その部署は、あまり活動していなかった。」

内務省は、著名人が麻薬を使用していることを問題視し、我々に彼らを逮捕させようとしていたが、我々はそのような人々をターゲットにしようとは考えていなかった。我々は、ジョー・ブロッグスであろうとジョン・レノンであろうと、リストに載っていれば捜査するつもりだったのだ。」

内務省が麻薬撲滅のため、著名人を逮捕するよう麻薬取締官たちにハッパを掛けていたのは事実です。それに対して、ピルチャーは、特別に著名人をターゲットにしたわけではなく、たまたまリストに載っていたからだと主張しています。

私の個人的な感想は、この主張は、半分は本当で半分はウソではないかと思います。彼に全く功名心がなかったといえばウソになるでしょう。しかし、それと同時に、ひたすら麻薬犯罪の摘発に心血を注いでいたということも事実だったと思います。

 

4 著名人を次々と逮捕

(1)郵便配達員に変装して家宅捜索

1968年10月18日、郵便配達員に変装したピルチャーは、班員を率いてジョンとヨーコが住んでいたメリルボーンのモンタグ・スクエア34番地にあるアパートに突入しました。

彼は、笑いながらこう語っています。「でも、ジョンとヨーコには通用しなかった。彼らは、堂々とした態度で我々を迎え入れた。ヨーコは全裸で応対し、ジョンが2階から降りてきたが、彼も全裸だった。麻薬を持っているかどうか尋ねたが、もちろん持っていないと応えた。」

ピルチャーは、ジョンの態度に感銘を受けました。「彼の平和と優しさの思想は、その態度と姿勢に表れていて実に謙虚だった。」ジョンが取り乱さず、紳士的な態度を取ったのであろうことは推察できます。

ピルチャーは、話を続けました。「捜査令状があったんだ。彼らが服を着て、我々は、彼らの弁護士が到着するのを待ってから、麻薬探知犬で捜索を開始した。」

「犬は、ラウンジに置いてあった双眼鏡ケースに真っしぐらに向かった。中には親指ほどの大きさの大麻樹脂の塊が入っていた。逮捕するには十分だった。」

「署内では、ジョンの生き方について語り合った。彼は、平和と友情と愛を信じていて、自分の体のことだから大麻を吸おうが自分の勝手だと強く思っていた。」

薬物犯罪は、いわゆる「被害者なき犯罪」と呼ばれます。つまり、他のほとんどの犯罪と違って、罪を犯しても対象となる被害者がいないんですね。ですから、実行犯に罪の意識が薄くなりがちで、それが犯罪を誘発してしまう要因の一つに挙げられます。

(2)ジョンはピルチャーの考えを変えた

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ジョンと彼のアメリカ移住を支援した弁護士のレオン・ワイルズ

「彼は、薬物所持についての私の考えを変えてくれた。私は、彼の小さな有罪判決が彼の人生に大きな影響を与えることに罪悪感を感じていた。彼がアメリカに行くのにも問題があるだろうと思った。」

なんと、ジョンは、逮捕されたにもかかわらず、むしろ、ピルチャーと話し合っているうちに彼に後悔の念を抱かせたのです。麻薬犯罪者の摘発に執念を燃やしていた麻薬取締官の考えを変えさせてしまったのですから、彼のインフルエンサーとしての力は相当なものだったということでしょう。実際、ニクソン大統領やフーバーFBI長官は、彼の反戦平和のカリスマとしての存在を極度に恐れていました。

そして、皮肉なことにピルチャーの懸念が現実のものとなりました。1972年3月6日、ジョンのアメリカ滞在のための短期ビザが取り消されたのです。当局の発表によれば、それは、正に彼が1968年に大麻所持で逮捕されたことを理由とするものでした。

しかし、これはあくまで表向きの理由に過ぎず、実際には、彼がアメリカで反戦平和活動を続ければ、若者たちが刺激を受けてヴェトナム戦争の継続に大きな障害となると、アメリカ政府が脅威を覚えたことが本当の理由だと噂されています。

ジョンは罪を認め、罰金刑で済みました。ピルチャーは、こう語っています。「すべてが終わったとき、彼は、サイン入りのレコードと6本のブランデーを送ってくれた。敵意はなかった。」

「彼は、よく私にハガキを送ってくれた。日本から送られてきたものを覚えているが、そこには『無事を祈るよ、ノビー。今、君は、私を逮捕することはできないよ!』と書いてあった。残しておきたかったんだが、悲しいことに家の引っ越しの際に紛失してしまった。」

ジョンは、ピルチャーに逮捕されたことがきっかけでビザを取り消されるというハメに陥ったにも関わらず、彼に対して敵意は持っていなかったのです。それどころか、彼にハガキやプレゼントまで送っていました。日本にいる自分を逮捕できないとは、なかなかユーモアのセンスに溢れた彼らしい言葉ですね。受け取ったピルチャーも苦笑いしたことでしょう。

長くなるのでこの続きは次回で。

(参照文献)ザ・ガーディアン、ミラー
(続く)

 

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