※この記事は、映画「Get Back」の「ネタバレ」を含んでいるので注意してご覧ください。
1 なぜ多くの人々が誤解してきたのか?
これまで全世界の多くの人々は、「ゲットバック・セッションの頃のビートルズは、険悪な関係だった。」と思ってきました。それが完全な誤解だとは言えませんが、必ずしも適切な解釈ではないことが、今回の映画でようやく明らかになりました。アンソロジーなどの著作物におけるメンバーの発言など、そこかしこにそれを否定するヒントは隠されていたのですが、それでも多くの人々が誤解してきたのです。
それは、やはり前作「Let It Be」の影響が大きかったと思います。映像のインパクトは、文章よりも遥かに大きいですからね。あれを見たら、誰しもメンバーの仲が険悪だったと思いますよ💦
ピーター・ジャクソン監督は、前作は必ずしも悪い作品ではないと擁護していますが、少なくとも、全世界の人々にビートルズ末期の暗い部分だけを強烈に印象付けたことは確かです。あれであの頃のビートルズのマイナスイメージが出来上がってしまいました。その呪縛から解き放たれるために、実に50年以上の歳月がかかってしまったのです。映像の持つ魔力ですね。
2 話がまとまらない
(1)堂々巡りが続いた
「I’ve Got A Feeling」の音合わせが終わり、ポールとジョージ・マーティンがスタジオの隅でリンゼイ=ホッグ監督や制作担当のデニス・オデールらと話し合いました。やっとここでマーティンが「音響のいい場所が要るな。」と発言しました。ポールも「ここはダメ。ここの音響には誰も満足していない。ジョージも言ってた。」と不満を漏らしました。元々映画撮影用のスタジオですから、音響機材の用意はありませんでした。
こんな話し合いがこの後も何度か行われるんですが、なかなかまとまりません。やはりプロジェクト全体を統括する人間の不在が大きいですね。堂々巡りを繰り返しているだけです。一日一日が容赦なく過ぎていくので、メンバーや関係者のイライラが募ったのも無理はなかったでしょう。
新曲作りがなかなか進まないので、ビートルズは、オールディーズやボブ・ディランなどの曲を暇つぶしに演奏していました。
(2)ヨーコは関与していなかった
ビートルズは、チャック・ベリーの「Jonny・B・Good」の演奏を始めました。その間にヨーコは、裁縫をしていたんですね。彼女は、まるでメンバーであるかのように、ジョンと同伴でスタジオに現れ、ずっと彼の隣に座っていました。今回の映画で明らかになったのは、彼女は、特にセッションには何も関与しなかったということです。彼女は、ジョンと一心同体みたいな感じでしたね。
ジョン以外のメンバー、特にジョージは、彼女の存在にイライラしていたとこれまで伝えられてきましたが、この映画全体を観ても特にそれを窺わせるようなシーンはありません。となると、これも「都市伝説」に過ぎなかったということになります。今回公開された映像を見る限り、彼女がセッションにあれこれ口出しして、ジャマをしていたような形跡は全くありませんでした。
(3)手書きの歌詞
1枚の紙片に手書きされた歌詞が、何種類かメンバーの手元に置かれています。これも貴重な映像ですね。最初に登場したのは「Two Of Us」のようです。チラッと写るだけなので分かりづらいのですが(^_^;)
リンゴのタムの上にテープで貼り付けられていたのは「I’ve Got A Feeling」ですが、これはハッキリ読み取れました。っていうか、譜面台を使わなかったんですね。これじゃあ、タムを叩くときにジャマになりそうですが、曲を覚える段階だから、そんなことはどうでも良かったんでしょうか?こんな風にして、それぞれの作品を他のメンバーが覚えていったのは、とても興味深いことです。
3 Don’t Let Me Down登場!
ここで唐突に「Don’t Let Me Down」の演奏が始まりました。この段階だとどうでしょう、粗方はできていますが、まだ完成には至っていませんね。
「I’m in love~」のところをポールがミドルエイトみたいだから曲の後半に入れたらどうかとジョンに提案しました。ここで驚かされたのは、この頃のビートルズは、メンバーがそれぞれ一人で自分の曲を完成させたのではなく、他のメンバーの意見を聞きながら作り込んでいったという事実です。本当に仲が悪かったのなら、こんなことは絶対しませんからね。こうやってメンバー間で意見を交わしながら曲を作り込んでいったことに感動すら覚えました。
もっとも、彼らにとっては別に目新しいことではなく、それまでもずっとこういうやり方でやってきたのでしょう。そうなると、あの曲もこの曲もそうだったんだろうなと思いますよね。でも、この時点で完成していないのに、28日後のルーフトップでライヴをやっちゃうんですよ。それがビートルズの凄さです。
4 Two Of Us登場!
(1)屋外のライヴ
ポールがプロデューサーのグリン=ジョンズにずっと屋外でライヴをやりたかったと話しました。しかし、条件が悪いんですよね。ただでさえイギリスは雨の日が多いですし、しかもこの時は真冬でしたから、寒くて手がかじかんでしまいます💦
ここで監督のリンゼイ=ホッグが、リビアのデニスにある円形劇場をライヴ会場にしたらどうかと提案しました。確かに、イギリスよりは暖かい外国の方が環境としては良かったでしょう。しかし、それをやるにはあまりにも時間がなさすぎました。
当然のようにポールに外国は無理だと一蹴されてしまいました。リンゴが強硬に反対しているとも言っていました。そりゃ、彼が出演する映画の撮影も迫ってましたからね。外国に行っているヒマはないですよ。
(2)名曲が次から次へと
ここで「Two Of Us」がサラッと登場しました。これもスケッチができ上がっていますが、まだ細かいところの作り込みまではできていませんでした。ポールが、ミドルエイトでコードをBフラットと指示し、それにジョンやジョージが一生懸命ギターを合わせています。リンゴもドラムでしっかりリズムを刻んでいます。
でも、ポールのヴォーカルのメロディーが実際にレコーディングされたものとはちょっと違うんですよね。ということは、この段階から修正したということになります。この曲もルーフトップで演奏しましたが、いやはやこの時点でこの仕上がりなのに、ライヴに間に合わせてしまうのですから恐れ入ります(^_^;)
(3)「A Quarrymen Original」の意味は何か?
歌詞がカメラでクローズアップされ、その最後にポールが手書きで「A Quarrymen Original」と書いていたのが印象的でしたが、これはどういう意味でしょうか?クオリーメンは、言わずと知れたビートルズの前身のアマチュアバンドの名前です。
ポールは、ジョンと仲良く作曲していたあの頃に戻りたいという心境だったのでしょうか?でも、この曲は、リンダとあてもなく旅行したことについて書かれたと言われていて、ジョンのことについて書かれたものではないはずなのですが。もし、何か情報があれば提供して頂けるとありがたいです。
ここまでで1月2日の撮影は終わりました。まだ1曲も完成していないんですよ!こんな状態でライヴをやるなんて信じられないですよね。
5 リンゴがピアノを弾いた!
(1)和やかな雰囲気
翌日、ポールとリンゴがスタジオに来て、ポールがピアノでラグタイムを演奏し始めると、それに合わせてリンゴがタップダンスを踊りました。結構うまいじゃないですか。さすが、天才ドラマーだけにリズム感は大したもんですね。
ジョージが「月間ビートルズ・ブック」という雑誌をパラパラとめくって見ています。紫の衣装を着てヘッドフォンをつけたリンゴが表紙になっています。表紙をめくるとマッド・デイ・アウトのときに撮影された写真が掲載されています。そこに掲載されている記事について、メンバーがあれこれ雑談しています。あることないことが書かれていたようですね。
ジョージがポールのヒゲを似合っていると褒め、ポールも照れくさそうに笑顔でうなずきました。仲の良いバンドじゃないですか。
(2)新曲ができない
ジョージ「今手持ちの曲はどれもスローなやつばかりだ」ポール「僕もさ」ジョージ「僕らだけでライヴでやれるのは2曲だけ」と話しています。ロックバンドのライヴですから、やはりアップテンポでビートの効いた曲が欲しいですよね。しかし、この時点ではまだ1曲もありませんでした。
そこで、リンゴが「Taking A Trip To Carolina」という自作曲を披露しました。何とピアノを弾いているではありませんか!彼がギターを多少弾けるのは知っていましたが、まさか、ピアノまで弾けるとは知りませんでした(^_^;)もっとも、ちょこっと弾いただけなので、多分、本格的には弾けなかったのでしょう。
6 方針がブレていた
ここで、ポールもジョージもレコーディング機材が無いことについて不満を語り合っています。これまでは、彼らが言い争うシーンばかりが強調されてきましたが、ここまではむしろ多くの点で意見が一致しています。これも新たな発見でした。
ビートルズがEMIに対して4トラックの機材を貸してくれと頼んだのに、8トラックの機材をビーチ・ボーイズに貸していたことも分かりました。この辺りでもこのセッションの無計画ぶりが明らかになりましたね。
要するに本格的にレコーディングするのか、単にテレビの特番用にリハーサルしているシーンを撮影するだけなのかがはっきりしていなかったのです。当初の計画では、レコーディングする予定ではなかったはずです。「Hey Jude」の映像が念頭にありましたから。このように、一番肝心な方針がブレていたので、セッション自体がまとまらなくなってしまったのも当然でしょう。
(続く)
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