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ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

映画「Get Back」~ジョージが「All Things Must Pass」を提案した(354)

※この記事は、映画「Get Back」の「ネタバレ」を含んでいるので注意してご覧ください。

1 ジョンの曲をポールが歌い出した

(1)ジョンが昔作った曲

ビートルズは、オールディーズの中から「One After 909」を掘り起こしましたが、他にも使えるものはないかと探していました。ジョンは、彼が昔作った未完成の「Give Me Some Truth」という曲を提案しました。

これは、レノン=マッカートニーではなく、ジョン・レノンとだけクレジットされています。ジョンの曲なのにセッションではポールが歌い出したんですが、ポールもジョンがボツにした曲なのによく覚えてましたね。彼の記憶力の良さには驚かされます。

(2)突然オルガンが持ち込まれた

それを演奏していると、ビートルズの背後でマルとスタッフがオルガンを運び込んできたので、ジョンが「え?何だ?」とちょっと驚いた顔をしました。ビートルズが機材がないことに不満を漏らしていることを知り、スタッフが気を利かせてメンバーが知らないうちに手配したのでしょう。

この辺りからも、このセッションが計画性のないまま進められていたことが見て取れます。でも、これはあくまで音源であって、レコーディング機材じゃありませんけどね。

 

2 「All Things Must Pass」が提案された

(1)ジョージが自作曲を提案した

ジョンとポールが行き詰っていたので、ジョージは、「スローな曲だけど使ってみるか」と自分が作った曲を使うことを提案し、ジョンも「いいね」と応えました。全員が大急ぎで歌詞を書いたノートをジョージのものに差し替えました。

ということは、セッションが始まる時点ですでにこの曲を用意していたんですね。ジョンもポールもジョージの提案をすんなりと受け入れました。これまで二人は、彼の楽曲には全く興味を示していなかったように伝えられてきましたが、このやり取りで必ずしもそうではなかったことが分かります。

(2)All Things Must Passが登場

www.youtube.comポールは、「今をサンライズ(朝焼け)にしてくれたら助かるけどな」と発言しましたが、これはこの曲の冒頭がSunriseで始まることに気づいて、先が見通せないセッションに対する苛立ちを表したのでしょう。

ここで「All Things Must Pass」という発言が飛び出しました。ノートに書いてあったタイトルを読んだのでしょう。ストーリーの流れからして、ジョージがこの曲をメンバーに紹介したのは、この時が初めてだったと思われます。

ジョンは「これはハリソングか?」とジョージに尋ねましたが、これは、彼が設立した音楽出版社のハリソングス社のことを指しています。ここは、その説明がないと知っているファン以外には「ハリソングって何だ?」ということになってしまうでしょう。ジョンがダジャレを言ったと勘違いする人がいるかもしれません。

3 ビートルズの楽曲制作の手法が垣間見えた

(1)まずは機械的にやってその後に改善する

ジョージは、自作曲である「All Things Must Pass」のリードヴォーカルを取り、ジョンとポールが伴奏しながらコーラスをつけています。ジョージは、歌詞のAll Things Must Passのところは、オーバーダブかコーラスを加えるといったアレンジを提案しましたが、ポールがまず普通にやってみようと提案しました。さらに、全て機械的にやってその後で改善すればいいとも付け加えました。

ここでもビートルズが楽曲制作に取り込む場合の一つの典型的なパターンが見て取れますね。つまり、誰かがメインになるオリジナルの曲を提供し、メンバー全員が意見を交わしながら仕上げていくわけです。絵画で言えば、ラフスケッチの段階から手を加えてスケッチとし、そこから絵具で様々な色彩を乗せていくわけです。大まかなデザインから初めて、細部を作り込んでいくという手法ですね。

クリエイティヴな作業をやろうとする時は、おそらくどんな仕事でもこういうやり方をすると思います。ビートルズは、音楽でも同じような作業をしていたということが分かります。これは、一番効率的かつ合理的な手法ですね。

(2)ジョンが歌詞を修正した!

これは言わずと知れたジョージの曲です。ビートルズが解散してソロになった後、アルバムタイトル曲としてリリースされ大ヒットしただけでなく、今でもロックの名盤として人々の記憶に刻まれています。2021年に50周年記念盤がリリースされました。

ジョンがオルガンを演奏し、ジョージがメンバーにコードを教えます。E F#m E A E F#m E A…。これは、後にリリースされた曲とはちょっと違いますね。あくまで公開されているコードブックが正しければの話ですが。

ジョージが「A wind can blow cloud away(ひと吹きの風で雲を吹き飛ばせる)」と歌うと、ジョンが「my mind can blow thouse clouds away(心ひとつで雲を吹き飛ばせる)」の方がいいと意見を述べました。さらに「サイケデリック風だろ。社会主張だ。」と付け加えました。

サイケデリックと言っても、若い人には何のことだかわからないでしょう。1966年頃のアメリカから次第に流行した文化を代表する言葉ですが、薬物によってもたらされる幻覚症状による視覚や聴覚を元にしたアート文化のことです。当時のビートルズも、大いにそれを自分たちの楽曲に取り入れたのです。「Lucy In The Sky With Diamonds」などはその典型ですね。

(3)ジョンの意見を受け入れた

後にジョージがリリースした曲の歌詞は、正にジョンの意見を受け入れた形になっています。ということは、ジョージもジョンの歌詞の方がより適切だと判断したということですね。確かに、単に風が雲を吹き飛ばすと歌うより「私の心が雲を吹き飛ばす」と歌った方が、主人公が人生に込めた想いがリスナーに伝わり、味わい深い歌詞になっています。

一瞬でこのようなフレーズをひらめくところがジョンの天才ぶりを物語っていると思いますし、その瞬間を垣間見てちょっと興奮しました。繰り返しになりますが、こうしてメンバーがディスカッションしながら、徐々に曲が完成していったという事実は、ビートルズの歴史のみならず音楽史上においても、特筆すべき重要な意義を有すると思います。

ジョージが提案したものの、この曲は、ビートルズのアルバムには採用されず、彼がソロになってから、アルバムとしてリリースされ大ヒットしました。結果的には、ここで採用されなかったことが、彼にとっては幸いだったということになります。世の中何が幸いするか分かりませんね。

 

4 メンバーはセッションに積極的に取り組んでいた

(1)メンバーはセッションに肯定的だった

これも繰り返しになりますが、このセッションは、ポールだけがやる気があり、他のメンバーは、仕方なく彼に付き合わされたというイメージができ上がっていました。しかし、映画の中でジョージは、ポールに対し「オーバーダブは一切なしという今回のアイデアはすごくいいと思う」とむしろ肯定的な意見を述べています。おそらく、ジョンもリンゴも同意見だったでしょう。ということは、彼らは、このセッションの目的を理解し同意したうえで、積極的に取り組んでいたということになります。

確かに、映画全体を通してみると、ビートルズが真剣にセッションに取り組んでいるようには見えません。彼らは、なかなか新曲の制作に取り掛からず、ただあてもなくダラダラとセッションを続け、オールディーズを演奏したり、ふざけたりしていましたから。

(2)メンバーは真剣だった

この辺りは、1970年公開の前作「Let It Be」でも見られた光景です。そして、前作ではこの部分ばかりがクローズアップされたため、この頃のビートルズは、メンバーの仲が険悪になっており、このセッションもやる気のないまま行われたというイメージがずっと付きまとってきました。しかし、今回公開されたこの映画の至る所で、それを否定する映像が記録されていたのです。この箇所もそうですね。

 

5 編集次第でイメージは変わる

(1)ドキュメンタリーであっても

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マイケル・リンゼイ=ホッグ監督

人は、記録映像が客観的な事実を表現していると思い込みがちです。しかし、気を付けなければいけないのは、それが「編集という作業を経ている」という事実が存在することです。この作業が加わることによって、制作者は、たとえドキュメンタリーといえども、視聴者のイメージを特定の方向へ誘導できてしまうのです。

前回の作品と今回の作品とを比較してみると、そのことがとてもよく分かります。リンゼイ=ホッグ監督がどのような意図で前回の作品を制作したのかは分かりませんが、ビートルズの暗い部分だけに焦点を当てていたことは間違いありません。その影響で50年以上に亘り、解散に伴うネガティヴな情報が世界中で流布され、ビートルたちがどれだけそれらを否定してきても、払拭するまでには至りませんでした。

(2)全体を総合的に観る必要

この頃の彼らを暗い影が覆っていたことは否定できないとしても、それは、あくまで全体の一部に過ぎなかったのです。それどころか、全体を総合的に分析すると、むしろ彼らは、このセッションに積極的に取り組んでいたということが分かります。

この映画に限らず、我々は、毎日のように様々なソースから情報を獲得していますが、ほとんどの場合、そこには編集という作業が入っていることを忘れがちです。制作者は、編集によってイメージを誘導できるのです。この映画は、そういう意味でも非常に良い勉強になったと感じました。

 

 

(続く)

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