※この記事は、映画「Get Back」の「ネタバレ」を含んでいるので注意してご覧ください。
1 考え方の違いが露わになった
3日目のセッションも終わりに近づいた頃に、セッションの進め方を巡って一時メンバー間に緊迫した雰囲気が流れて中断しましたが、そこはお互い冷静になり再開しました。
ポール「とにかくやらなきゃ。なんとか解決しよう。特番用に曲を仕上げる必要がある。取り組んだのはまだ4曲だけ。20曲~30曲は仕上げないと。ちゃんと覚えるんだ。コードを覚えれば即興だってできる。必要なソロも弾ける。とにかくサウンドの向上だよ。」
いくらなんでもこれは無茶ですよ💦アイドル時代ならともかく、もはや世界的なアーティストになった彼らが、たった12日でそんなに多くの新曲を仕上げるなんて不可能です。ところが、不思議なことに誰もそれを指摘しないんですよね。
ここまでで理解できることは、ポールの方針は、曲の構成やアレンジをしっかり組み立ててから、それを覚えてセッションするというものでした。それに対してジョージは、そういったことは試行錯誤しながらやればいいと主張しました。2人の対立点は、ここに集約されます。
実際のセッションは、これらが混合してできていますから、どちらが正解でどちらが間違いとも言い切れません。その後も彼らは、色々なアレンジを試しましたが、ルーフトップで演奏された我々が知っているヴァージョンは登場しませんでした。こうして3日目は終わりました。
2 次のシングルとは?
(1)会話の盗み撮り?
4日目の1月7日を迎えました。ポール、ジョージ、リンゴの3人は、すでにスタジオに入ってジョンの到着を待っていました。彼らが雑談していると、ホッグ監督が高性能のマイクを準備したという話になり、彼は、「会話の盗み撮りも楽になる」とジョークを飛ばしました。すると、ポールが笑顔で「そのとおり」と返しました。
この時、視聴者の殆どは、「ふ〜ん」という感じでこのやり取りを聞き流したと思いますが、これが後にとんでもない結果につながったのです。後で考えてみると伏線かとも思いましたが、ドキュメンタリーですからそれはありませんよね。単なる偶然です。
(2)次のシングルってどの曲だ⁉️
ポールがベースを弾きながら、メロディーらしきものを口ずさみました。「焦りから新曲のアイディアを探るポール。現れる曲は次のシングルとなる。」と字幕が入ります。
「え?何だって?シングル?この時期だったらあれか?」と、おそらくここで多くの視聴者が色めき立ったでしょう。シングルとくれば、その殆どがチャート1位を獲得したビートルズですから。しかし、すぐそれが演奏されたわけではありませんでした。
3 名曲「Get Back」ついに誕生!
(1)始めは意味のないハミングだったが…
ポールは、ベースをかき鳴らし始めると「〜♪Woo Hoo」とコーラスのような歌を歌い出しました。この時点では、まだ曲にはなっていません。ただ、適当にメロディーらしきものを口ずさんだだけです。その時は「ん?これがシングルか?こんな曲知らないぞ。」と思いました。
しかし、次第にメロディーとコードができあがってくると、何とあの「Get Back」であることが分かりました!リリース当時も大ヒットし、その後も50年以上にわたって世界中の人々に愛されてきた名曲です。それが誕生した瞬間を目の当たりにして感動しました。
(2)即興で名曲を制作した
おそらく、ポール自身もここで初めてこの曲想が浮かんだのだろうと思います。それまで彼らがセッションしていた新曲は、どれもすでにある程度までは自分で作り上げて、スタジオに持ち込んだものでした。しかし、「Get Back」はそれらと異なり、このスタジオで産声を上げたのです。あの名曲がこんな風に即興で誕生したと知っただけでも興奮します。
ポールが天才だとは分かっていても、こんなイリュージョンを見せつけられると、もはや言葉もありません。もしかしたら、ライヴまで時間がないのに1曲も仕上がっていないという切迫した状況が、この名曲を誕生させたのかもしれません。
(3)メロディーとコードは着手から1分もかからずに完成した!
ジョージもリンゴも黙って耳を傾けていましたが、やがてジョージがギターでコードを合わせて弾き始めました。彼らがジャムセッションを続けていると「それいいね。音楽的に最高だ。」と声がかかりました。
リンゴは、ドラムキットに座っていなかったので、両手を叩いてリズムを取り始めました。すでにこの段階でAメロはできあがっていたんです!後は、Bメロまたはサビと歌詞をつけなければなりません。
驚くべきことに、ポールは、さらに続けて歌詞の「Get back」以降のフレーズも最終形の歌詞で歌い出したのです!そして、歌い始めてから1分もかからないうちにメロディーとコードを完成形に仕上げてしまいました。呆れるほどの天才ぶりです。普通のコンポーザーなら試行錯誤しながら何日もかけて作りこんでいくところです。
やがて、ジョージもリンゴも「Get back」とポールと一緒に歌い始めたのです。そして、リンゴは、キットに座ってドラムを叩き始めました。彼らが演奏を続けていると、遅れてきたジョンがポールの隣に座り、ギターを取り上げると彼らに合わせて弾き始めました。後は歌詞さえあてはめれば完成です。正に神が降臨した瞬間でした。
4 バラバラだという自覚はあった
(1)ショーの案がない
ポールは「曲はリハーサルしてるが、ショーの案が何も出てない。」と危機感を露わにしました。ここでまたホッグ監督が、派手な演出をしようとビートルズに持ち掛けますが拒否されます。ホッグは、いいアイデアを出してもいつも言い負かされると不平をこぼします。ちょっと、彼が気の毒になりました。
ポールは「入っちゃいけない所は?そこで追い出されたら立派なショーだ。」「演奏中に警官に強制退去される図だ。」と思いついたアイデアを口にしました。今度はホッグが「それはやり過ぎ」と止めました。総責任者の彼が刑事責任を問われてしまいますからね。しかし、結果的には、このアイデアが採用されることになるのですから、分からないものです。
(2)ジョンはライヴをやりたかった
行き詰ったホッグは、孤児院でのライヴを強引に決めようとしますが、これはいかにも偽善の匂いがします。リンゴは、「孤児院とか慈善がいいとは思えない。」と反対したのも、おそらくそれを感じ取ったからでしょう。
ここで、それまでずっと沈黙していたジョンが初めて口を開きました。彼は、ライヴを行う理由について「僕はコミュニケーションのためだ。テレビもそう。『愛こそはすべて』では皆に微笑みかけた。僕の動機はそれだ。」と語ったのです。
ジョンは、決してライヴを嫌っていたわけではないどころか、むしろ積極的にやりたがっていたのです。そして、それは、人々とのコミュニケーションを図るためだと言っています。ここも意外でしたね。彼とジョージは、ライヴには消極的だったというイメージがいつの間にかできあがっていましたから。
5 ついに解散に話が及んだ
(1)大きな痛手だったブライアン・エプスタインの死
ビートルズは、ライヴを実現しようと話し合いますが、一向にまとまりません。彼ら自身、バラバラになってしまっていることを自覚しています。ジョージの話が象徴的ですね。「皆、反対しては『これをやりたい』と言い合い、結局誰もやりたくないことをやるんだ。」「エプスタインの死で変わってしまった。」
やはり、こうなってしまった大きな要因はそこにあったんですね。彼らを統率する人物がいなくなってしまったのは大きな痛手でした。今やスーパースターとなった彼らに命令できる人物などどこにもいません。
(2)ついに解散の話題になった
ポールは、ライヴをやるのかやらないのか決断するようメンバーに迫りました。しかし、誰も決断しようとしません。以前ならジョンがリーダーとしてこうすると決め、メンバーがそれについていくという感じでした。しかし、この頃の彼は、まるでオブザーバーのような存在になっていて、積極的にリーダーシップを発揮しようとはしませんでした。
そして、ジョージが「離婚するか?」とついに解散を口にしました。それに対しポールは、「前にも言ったけど、その時は近づいてきてる。」と応えました。ということは、ビートルズの間で解散が話題になったのはこのときが初めてではなかったということですね。彼らも解散する日は近いと自覚していたわけです。いつ誰がそれを切り出すか、お互いに顔を見合わせていたというところでしょうか?しかし、その後、アビイ・ロードでもう一度かつての結束力を取り戻したかに見えたんですが。
(3)ホッグが休憩にした
ジョンがポールに「『子ども』はだれが?」と尋ねました。彼らが制作した楽曲をどうするのかということですね。ポールは「ディック・ジェームズ」と応えました。彼らの楽曲の出版権を握っていた人物です。彼に出版権を握られていたことが、解散の一つの要因となったのです。
思わぬところで解散に話が及んでホッグは、慌てて思いとどまらせようとしました。そりゃ、今解散されたらプロジェクトが終わっちゃいますから。彼は、少し演奏したらランチにしようと提案しました。不穏な空気になったので、ここは休憩を入れた方がいいと考えたのでしょう。
ホッグは、「マリファナでも差し入れる?」とサラッと聞いていました。カメラが回ってるんですよ?60年代って、こんなのが当たり前の時代だったんですね〜(^_^;)それにしても、とうとう「解散」という一番聞きたくない言葉がメンバーの口から出てしまいました。
(続く)
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