- 1 「Maxwell's Silver Hammer」が登場
- 2 「Across The Universe」も
- 3 武道館公演のシーンが登場
- 4 「I Me Mine」はテレビ番組からヒントを得た
- 5 クラシックからヒントを得た
※この記事は、映画「Get Back」の「ネタバレ」を含んでいるので注意してご覧ください。
1 「Maxwell's Silver Hammer」が登場
ビートルズは、ランチ休憩に入る直前にポールがピアノを弾きながら「Maxwell's Silver Hammer」をセッションしました。軽く合わせた後すぐに休憩に入ったのですが、ポールは、ローディーのマルにハンマーと金床を用意しておくように指示しました。彼の頭の中には、それらを使うアイディアがすでにあったんですね。それを聞いたマルが「そんなもの何に使うんだ?」と、明らかに戸惑った表情で耳を掻いていたのがおかしかったです。
休憩が終わった後セッションが再開されたのですが、ポールの合図でマルがハンマーで金床を叩いていました。セッションに参加できて、とても楽しそうでしたね。彼は裏方ですから表に出ることはあまりなかったんですが、公の映像でこんなに笑顔を見せている彼は珍しいでしょう。
この曲は、最終的にはアルバム「Abbey Road」に収録されたんですが、他のメンバーにはとても不評でした。曲のイメージこそ「Ob-La-Di, Ob-La-Da」のようなほんわかしたものですが、歌詞は、猟奇的な殺人事件を描いたもので、ちょっと怖くて聴いてられません。
なぜポールは、この曲に執着していたんでしょうね?ただ、相変わらずポールがメンバーに指示しながらセッションしていますが、他のメンバーは、素直にそれに従っていてそんなにイヤがっているような様子には見えませんでした。
2 「Across The Universe」も
(1)シングルとして採用されなかった曲
「アクロス~の歌詞は?」とメンバーがジョンに声をかけました。ここから彼の「Across The Universe」をセッションすることになりました。スタッフがレコードをプレーヤーにかけると、曲が流れてきました。
メンバーの手元に歌詞を書いた用紙が届きましたが、今までの歌詞が手書きだったのとは異なり、丁寧にタイプ打ちされてありました。歌詞が画面に大きく映し出されましたが、一言一句レコードに収録されたされたものと変わっていません。この曲だけは完成していて、しかも、レコーディングされていたことが分かります。
映画ではこの曲の経緯について何も触れられていませんでしたが、1968年2月にビートルズがEMIスタジオに集合し、他の曲とともにこの曲もレコーディングしたものです。ジョンは、この曲をシングルにしたいと望んでいました。しかし、他のメンバーの同意が得られず、結果的にシングルとして採用されたのはポールの「Lady Madonna」でした。
(2)歌詞を書いた用紙をマイクに貼り付けた
エンジニアのグリン・ジョンズがポールに何やら耳打ちしました。何だろうと思ったら、ポールがジョンに「歌詞の紙でマイク・バランスが悪い。」と笑顔で話しかけました。ジョンは、歌詞カードを譜面台に置かずマイクにテープで貼り付けていたのです。映像がないので分かりづらいですが。
普通、ミュージシャンは、歌詞カードを譜面台に置くのですが、ジョンは、マイクスタンドの先端を下方へ長く伸ばし、ヴォーカルマイクを下に向けて手で持つところに直接貼り付けていました。彼は、視力が悪かったので、譜面台に置いたのでは見えづらかったのかもしれません。スタジオはあまり明るくないし、文字も小さいですから。
でも、マイクに直接貼り付けるなんてことは、普通はしません。ジャマですし、音を拾うマイクのヘッドケースの部分に紙がかぶさってしまって、音響の面で問題が起こるのも当然です。ジョンは、本当にそういうところは、何も気にしない人だったんですよね。彼は、指摘受けて紙をマイクから外し、マイクスタンドに貼り付けました。
3 武道館公演のシーンが登場
彼らは、しばらくセッションを続けていましたが、やはり、この曲も完成には至りませんでした。ここでまた彼らは、オールディーズを演奏し始めました。「Rock’n Roll Music」です。日本のファンにとっては嬉しいことに、1966年の武道館公演の映像がここで挿入されます。「66年ワールド・ツアーのオープニング曲」と字幕が入ります。
ジャクソン監督は、このシーンとスタジオのシーンを交互に入れ替える形で結構タップリと使ってくれました。客席の日本人も大きく映し出されましたから、自分が写っていることを改めて確認した人もいるでしょうね。ところで、彼がこのシーンをこんなに使った意味は何だったのでしょうか?
ツアーをやっていた頃のビートルズがとても仲が良かったのに比べ、このセッションの彼らはバラバラだったということを対比してみせたかったのでしょうか?このセッションがカラーで撮影されたので、カラー映像でないとバランスが悪いと考えたのでしょうか?その辺りの彼の意図はわかりません。しかし、みんな、随分と風貌が変わりましたね~(^_^;)こうして4日目は終わりました。
4 「I Me Mine」はテレビ番組からヒントを得た
(1)ジョージが観たテレビ
撮影5日目に入り、ジョージとリンゴが既にスタジオに入っていてホッグと雑談しています。吐く息が白いんですよ。いかに寒いかが分かります。ジョージが昨日見たテレビ番組の話をしています。雑談だけで終わるのかと思ったら、何とここで彼の曲が飛び出しました。
テレビで観たSF映画の話が終わった後の番組の話になりました。舞踏会のダンスのシーンです。「その後が勲章をもらった連中のバカな番組でね。それで曲のアイデアが湧いた。」え?どの曲だ?とまた思いました。資料には出てくるんですが、直接本人が語っている映像が残っているのは貴重です。
(2)ワルツがヒント
舞踏会のシーンで「ヨーロッパ 欧州人から見た輝きと壮観」と字幕が入ります。ジョージが話を続けます。「勲章の連中が舞踏会に行くんだ。その舞踏会で流れる音楽が3/4拍子の曲でね。そのワルツが「I me mine」という歌詞にフィットしたんだ。」
ビートルズは、新聞の記事とか広告とか、日常の何気ないことからヒントを得て、曲を作ることが多かったですね。そういうところから発想を飛ばす能力は、おそらく古今東西のアーティストの中で一番優れていたのではないかと思います。他のアーティストがどのような方法で曲を作っているのか知りませんが。ビートルズに関しては、むしろ全く何もない状態から作った曲の方が少なかったかもしれません。その代表例は「Yesterday」ですね。
5 クラシックからヒントを得た
(1)ほぼできあがっていた
少し遅れてボールがスタジオに入りました。ジョージが彼に「昨夜、書いた曲を聴く?」と尋ねました。ここで初めてジョージが他のメンバーに「I Me Mine」を披露しました。
メロディー、コード、歌詞も結構出来上がっています。メロディーが実際にレコーディングされたものとは少し違っていますが、一晩で作ったにしてはかなりの完成度です。Aメロは、ほとんど出来上がっていました。ホッグは一言「素敵だ」と感想を述べました。
ポールは、ジョージの歌詞をのぞき込んでいます。ジョージは、「そこはFlowing more much frely than wineで正しい?」とポールに尋ねました。どうも文法的に正しいか気にしていたようです。ジョージは、「Flowing much freer?が正しい。「freer」だ。書いてると気づかない、僕は…。」とこの時は「freer」にした方がいいと考えたようです。
しかし、最終的には、彼が最初に書いたものになっています。思い直して書き換えたんでしょうか?どっちにしろ、ポールに意見を求めながら作っています。こういうところは、ちゃんとコミュニケーションが取れていますね。
ただ、ジョンは、この曲が気に入らなかったらしく「オレたちはロックンロールバンドだろ?」と採用に否定的でした。確かに、ワルツはロックっぽくはありませんが、元々ビートルズは、ジャンルにとらわれないところが他のバンドと違う強みですからね。
ジョージは、「君が気に入るかどうかはどうでもいい。僕は気に入っている。」と譲りませんでした。サビのところは四拍子にして、ロックっぽい仕上がりにしました。
(2)ヨハン・シュトラウスの「皇帝円舞曲」
ジョージが話題にしていたのは、「Europa」というBBCが毎週放送していた番組で、1969年1月7日の放送回は、「The Titled And The Unentitled」というタイトルでした。その内容は、「フランステレビがこの夏に行われたプリンス・オブ・ウェールズの叙勲について行った特別報道を題材にして、ヨーロッパの目を通して華麗さや状況の側面を見る」というものでした。いかにもBBCらしいお堅い内容ですね。
ジョージにとって、授与されるメダルの話はどうでもよかったのですが、バックに流れていた音楽が彼の興味をかき立てました。その夜、9時55分から10時25分の間に流れた音楽は、ヨハン・シュトラウスの「皇帝円舞曲」でした。ジョージがこの曲を書くきっかけとなったのは、実は、クラシックの大家シュトラウスだったのです。*1
もっとも、この二つの曲を比較してみると三拍子という点では共通していますが、曲想はまったく違っていてとてもヒントになったようには思えません。彼の参考になったのは、あくまでもリズムであってメロディーではなかったと思います。
(続く)
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