★ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログ★

ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

「Love Me Do」の謎~ジョンが使用したハーモニカとテクニック(406)

1 アドヴァイスは受けていなかったとする説もある

前回の記事でハーモニカ奏者のデルバート・マクリントンがジョンにハーモニカのテクニックについてアドヴァイスを与えたと書きましたが、この説を否定する見解もあるんです。ビートルズは、ブルース・チャンネルとマクリントンのヒット曲である「Hey! Baby」をすでにこの段階でレパートリーに取り入れていたので、改めてアドヴァイスを受ける必要がなかったということを根拠にしています。

しかし、レパートリーに取り入れているからこそ、なおさらアドヴァイスを求めたともいえます。私は、次の点からやはりマクリントンがアドヴァイスしたと考えています。

①マクリントンがアドヴァイスしたとされる1962年6月21日の前と後で、ジョンのハーモニカのサウンドが変わっている。アドヴァイスを受ける前は、これといったテクニックは使わず音程を正確に出すことに専念しているが、その後は、ヴィブラートなどのテクニックを加えてよりブルースっぽくなり明らかに改善している。

②マクリントンの証言は、具体的かつ詳細であり信憑性がある。

③マクリントンがジョンにアドヴァイスしたとされる日に、ビートルズが彼らの前座を務めたことは間違いなく写真も撮影されていて、ジョンがこの絶好の機会にマクリントンからアドヴァイスを受けたと考えた方が自然である。

①の具体例を示します。まず1962年6月6日のまだマクリントンからアドヴァイスを受ける前の「Love Me Do」の音源です。これは、アンソロジー1に収録されています。

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次に、アドヴァイスを受けた後の9月4日にレコーディングした時の音源です。

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両者を比較すれば明らかな通り、9月4日の方がハーモニカにヴィブラートがかかっていて、よりブルースっぽい仕上がりになっています。さらに1963年7月23日にBBCで放送された「Pop Go The Beatles」では、さらにテクニックが向上し、冒頭で二つの穴を素早く往復してサウンドを出す「トリル」というテクニックを使用しているようです。あくまで聴いた限りなので断定はできません。ジョンがどのようにヴィブラートをかけたかについては後でくわしく説明します。

 

 

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2 人生で初めて演奏した楽器

ジョンがまだ幼かったころ、彼の家に居候していたハロルド・フィリップスという人物からハーモニカを譲ってもらいました。フィリップスは、ハーモニカの奏法をジョンに教えてくれたのですが、1日に1曲も覚えられるわけがない。もし、覚えられたらこのハーモニカをやるよとジョンと賭けをしたのです。

ビートルズ研究家のマーク・ルーイスンによると、ジョンは、1曲どころか2曲も覚えて見事にハーモニカを勝ち取りました。このようにジョンにとってハーモニカは人生で初めて演奏した楽器であり、独学とはいえ長く演奏していたために相当テクニックも磨かれていたのでしょう。彼がもしハーモニカを演奏できなかったら、「Love Me Do」を始めとするハーモニカを使ったビートルズの曲は存在しなかったか、あるいは違うテイストになっていたかもしれません。

 

 

3 ジョンが使っていたハーモニカの種類は?

(1)特定が困難

ビートルズが使用していた楽器の名称は、メーカーから型番まで正確に記録されていますが、ジョンが使用していたハーモニカについては、それほど厳密に特定されていません。というのも、そもそもハーモニカの名称とか種類自体が結構曖昧で、実際に演奏している人たちの間でも呼び方が違っていたりするからです。

おまけにハーモニカは、小さくて形もだいたい同じなので、余計に見分けるのが困難です。それに演奏するときは、ジョンが両手で覆うように持っているためほとんど見えません。でも、やっぱり彼が何を使用していたのかは知りたいので、できるだけ特定してみます。

ハーモニカの種類をざっくり分けると、①ダイアトニック・ハーモニカ(全音階だけを出せるもので、10個の穴が空いた「テンホールズ・ハーモニカ」が代表的「ブルース・ハープ」ともいう)②クロマティック・ハーモニカ全音階と半音階を出せるハーモニカ)③複音ハーモニカの三つです。

この中でギターの弾き語りの時に使われるのは①が殆どです。 これならホルダーで首からぶら下げて手を使わずに演奏できるからです。②は両手を使わないといけませんし、③はサウンドの層が厚すぎて弾き語りには向いていません。

(2)ホーナー社製のシグネチャ

前回の記事で書いたとおり、ジョンが使っていたハーモニカは、ドイツのホーナー社が製作したダイアトニック・ハーモニカ、つまり「全音階」を出せるハーモニカで、その中の「シグチャー」として販売していた商品です。なぜ断言できるかというと、同社が自社の広告で「ビートルズが使用していた」と明記しているからです。さらに、同社が、2022年にビートルズのデビュー60周年記念ヴァージョンのハーモニカを発売しています。ここまで堂々と名乗っているのですから、流石に間違いないでしょう。

ホーナー社の広告(The Beatlesと表記している)

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このハーモニカは、フォーク、ブルース、ロックなど多くのジャンルのミュージシャンに愛用されています。10個の穴が空けられていて、吸うことと吹くことで20個の音を出せます。ただし、半音階は出せないので曲ごとに違うキーのハーモニカを使わなければなりません。ジョンが「Love Me Do」で使用したハーモニカはCメジャーとされています。ちなみにこの曲のキーはGですが、曲のキーの4度上のキー、つまりCのハーモニカで演奏する形式をセカンドポジションと呼びます。

この曲のハーモニカのテクニックを解説している全員が「最初の音は5番目の穴を吸う」と解説していますが、これは、ダイアトニック・ハーモニカのCがキーになっているタイプのF(ファ)で正に冒頭のサウンドです。VII度を半音下げたブルーノートになっています。これで間違いないですね。

(2)クロマティック・ハーモニカではない?

「ジョンが使っていたのはクロマティック・ハーモニカだ」ともよく言われるんですが、これは、ハーモニカの右側のボタンを押すことによって半音階を出せるように開発されたハーモニカです。「クロマティック」とは半音階のことです。半音階を出せるので、キーが変わっても一本のハーモニカで演奏できます。

下の動画は「I’m A Loser」のライヴ映像ですが、ジョンは、ハーモニカにホルダーを装着して首からぶら下げ、ヴォーカルとハーモニカを使い分けています。おそらく彼が使っているのは、ボタンのないダイアトニック・ハーモニカでしょう。ホーナー社の広告のクロマティックのところにも「ビートルズ」の名前は掲載されていません。

また、「ブルース・ハープだ」と主張する人もいますが、同社によればこれも正確ではありません。同社は、ダイアトニック・ハーモニカとシグネチャーを明確に区別しており、前者を別名ブルース・ハープと呼んでいるからです。ただ、ブルース・ハープは、ダイアトニック・ハーモニカの通称として広く普及しているので、あながち間違いともいえません。

 

 

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4 ジョンのハーモニカのテクニック

(1)あまり語られていない

ジョンのハーモニカのテクニックについては、それほど多く語られていないのではないでしょうか?ギターと違ってハーモニカを演奏する人が少ないせいかもしれません。ハーモニカって、昔は小学生が音楽の授業で習ったので、簡単な楽器だと思われがちです。しかし、プロが演奏で使うとなると相当なテクニックが必要です。

Love Me Do」のハーモニカは、テンポもゆったりとしていますし、音符の上下もそんなにないので、普通に演奏する分にはそれほど困難ではなさそうです。しかし、ジョンのようなかっこいいニュアンスを出そうとすると、結構手こずるのではないでしょうか?

(2)二つのヴィブラート

れについて詳しく解説した資料も見当たりませんし、ジョンが演奏している動画を見てもハーモニカが手で隠れていて見えません。さらには彼の唇や口の中がどう動いているのかまで確認できないのでなかなか難しいところです。あくまで私なりに分析した結果ですので正しいかどうかは分かりませんが、可能な限り解説を試みてみます。

まず、イントロの冒頭のサウンドを聴けば、ヴィブラートがかかっているのが分かります。これを使うことで非常に聴き心地の良い味わいのあるサウンドに聴こえます。このヴィブラートの一つとして、「ハンド・ヴィブラート」という左手でハーモニカを支えながら、右手を開いたり閉じたりするテクニックがあります。

しかし、ジョンが演奏している動画を見る限り、ホルダーを使わず左手で持っている時でも彼の右手は全く動いていないので、このテクニックは使っていないようです。おそらく、唇、舌あるいは喉の動きでヴィブラートをかけているのではないかと思います。残念ながら、具体的にどうしているかまでは分かりません。ただ、相当練習しないとあのニュアンスは出せないと思います。

Love Me Do」では、もう一つ違う種類のヴィブラートが聴こえますね。上記の箇所よりもさらにサウンドが小刻みに上下しています。譜面では5小節目、コードはGでEの音のところです。これも推測ですが、舌を巻いて素早く振動させる「タング・ヴィブラート(トゥルルルルと聴こえる)」というテクニックを使っているのではないかと思います。

 

 

(参照文献)グルンジ

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