★ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログ★

ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

坂本龍一はビートルズから大衆性と革新性を学び世界的名作を創作した(419)

追悼 坂本龍一氏「もうちょっと枯れたらいいなと思ってます」:日経ビジネス電子版

1 テクノポップの旗頭

(1)テクノポップを世界に広めた

日本が誇る偉大な世界的アーティスト、坂本龍一さんが2023年3月28日に他界されました。世界中の人々から哀悼の意が表されています。YMOのメンバーの高橋幸宏さんに続いて訃報に接しとても悲しい気持ちです。今回は、坂本さんに焦点を当ててビートルズとの関係を探ります(以下敬称略)。

坂本と高橋はともに1952年生まれで、1978年に細野晴臣と3人でイエロー・マジック・オーケストラ(通称YMO)を結成しました。シンセサイザーなどの電子楽器を多用した「テクノポップ」と呼ばれるジャンルの旗頭となり、日本だけではなく全世界に影響を及ぼしました。電子音楽が、ポピュラー音楽に取り入れられて大衆の間に広まったのは、1969年にリリースされたガーション・キングスレイのシンセサイザー音楽の名曲である「Popcorn」が一つのきっかけです。

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因みに、ディズニーランドのアトラクション「エレクトリカル・パレード」のテーマ曲「Baroque Hoedown」も彼の作品です。

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(2)YMOが世界的にブレイク

YMO(左から細野晴臣坂本龍一高橋幸宏

YMOは、1979年にロサンゼルスでアメリカのバンドであるチューブスのオープニングアクトを務めたところ観客に絶賛され、それをきっかけにアメリカでの知名度が上がりました。日本より先にアメリカでブレイクし、いわば逆輸入されるような形で日本での人気が高まったのです。

同年にリリースしたアルバム「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」はオリコン・チャート1位を獲得し、そこに収録された「テクノポリス」「ライディーン」は、YMOの代表作となりました。

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2 坂本龍一がいなければビデオゲーム音楽は存在しなかった

YMOビデオゲーム業界のつながりは、70年代後半のアーケードブームにさかのぼり、バンドは1978年のセルフタイトルデビューアルバムで「スペースインベーダー」「エクシディサーカス」の効果音をサンプリングしました。その6年後、バンドのドラマーである細野晴臣ナムコと共同でリリースした「Video Game Music」は、初のビデオゲームサウンドトラックアルバムとして広く知られています。

YMOのデビューアルバム、坂本のソロアルバムや映画音楽の成功は、第一世代のビデオゲーム作曲家に大きな影響を与え、80年代を通じてYMOと坂本の音楽は様々なビデオゲームに登場しました。YMOのセカンドアルバムに収録されている「Rydeen」は1982年のセガのゲーム「Super Locomotive」に登場し、ロブ・ハバードはコモドール64の「インターナショナル・カラテ」のスコアで1983年の映画「Merry Christmas, Mr Lawrence」の坂本のスコアから音楽をサンプリングしています。

 

 

3 坂本とビートルズとの出会い

(1)最初はビジュアルからだった

少年時代の坂本龍一

坂本がビートルズと出会ったのは、1963年、彼が11歳の時でした。面白いのは音楽から入ったのではなく、ビジュアルから入ったところです。たまたま中学生か高校生位の女性が持っていた雑誌の表紙にビートルズが掲載されていてかっこいいと思ったそうです。

モノクロ写真だったようですが、何の雑誌だったか気になりますね。というのも、1963年といえば、まだビートルズがイギリスでブレイクしたばかりで、アメリカを制覇する前年です。当然、日本ではほとんど知られていない存在でした。

(2)ビジュアルがいかに重要か

坂本龍一(アンディー・ウォーホル作)

ネットなど存在しない時代に、この雑誌の関係者は、どうやって彼らの存在を知ったのでしょうか?アメリカですらまだほとんど知られていなかった時代に、日本でビートルズに注目していた雑誌があったとは驚きです。

それはともかく、かまやつひろしさんが「With The Beatles」のジャケット写真を初めて見て、「すごいミュージシャンだ」と衝撃を受けたエピソードと似ています。ミュージシャンにとって音楽がメインの武器であることは当然ですが、それと同じぐらいビジュアルも重要だということを教えてくれています。

 

 

4 複雑なコードに驚いた

(1)聴いたことのないコード

Vintage photos capture the day The Beatles played their first ever Plymouth  show - Plymouth Live

坂本は、クラシックからポップスまで様々なジャンルの曲を聴いていました。ビートルズについてはハーモニーが美しく、アレンジがカッコいいというイメージを抱きました。それまでのアメリカンポップスによくある単純な3コードだけではなく、複雑なコードを使っていることに関心を抱いたのです。

坂本が、子どもながらビートルズが使っているコードの複雑さに気付いていたのは驚きです。この頃、彼は、もう作曲を始めていたので、彼らがどんなコードを使っているのかに関心があり、それを分析していたようです。それで、とにかくビートルズが出しているのと同じサウンドを出してみたいと、ピアノで弾いてみたのですがわかりませんでした。彼らが複雑なコードを使っていることに11歳で気づいたことが坂本の非凡さを物語っています。

(2)9thコードを知った

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そして、坂本がようやく辿りついたのが9thというコードでした。これは、テンションコードと呼ばれるものの一つです。テンションコードとは、ルート・3th・5th・7thの4音で構成される7thコードに、さらに3度上の音を足したコードです。シャレた感じに聴こえるコードで、ジャズやフュージョンなどではよく使用されます。ただ、ポップスでシンプルなコードが使用される楽曲でこれを使用すると、そこだけ浮いた感じになってしまうのでなかなか扱いが難しいコードです。

1963年のビートルズの作品でこのコードを使っている作品となるとカヴァーですが「Till There Was You」辺りかなと思いますがはっきりしません。これは、坂本が後に大好きになるドビュッシーが愛用したコードです。それに気がついた時、彼は、とても興奮しました。それにしても、デジタルな情報が飛び交っている現代ならまだしも、アナログだった時代に11歳の少年が聴いただけでこのコードに気づいたこと自体が驚きです。

 

 

5 坂本がビートルズから受けた様々な影響

(1)ジャンルにとらわれない

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ビートルズがジャンルにとらわれず様々なスタイルの楽曲を制作し、スタジオで数々の実験を行い、レコーディングや編集の技術を革新的に変えたことは、坂本に大きなインスピレーションを与えました。ビートルズが行った実験と革新は、ロック、ポップス、クラシック、エレクトロニック、ワールドミュージックなどの要素を取り入れた、坂本自身の音楽へのアプローチの基盤となったのです。彼は、ビートルズが築いた「大衆性と芸術性の両立」というアーティストにとって困難なレガシーを継承し、発展させたアーティストの一人だといえます。

(2)偉大なメロディーメイカ

また、坂本は、ビートルズの多彩なメロディーを制作する才能に惹かれました。さらに、型破りなコード進行や、インドの古典音楽を取り入れた楽曲、テープループや電子エフェクトなど新しい音や技術を取り入れたことなども同様に、彼の音楽スタイルやアプローチに大きな影響を与えたことは間違いありません。

彼の楽曲が世界的に受け入れられ、時代を超えて愛されるのも、ジャンルにとらわれず美しいメロディーを華麗なテクニックで表現したからでしょう。DTMが普及した現代ならパソコンで楽にできる作業も、坂本が電子音楽の制作を開始した頃は、そう簡単なものではありませんでした。

 

 

6 ビートルズの影響を受けた作品は?

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上記のように坂本の作品は驚くほど多岐にわたっており、彼の作品がビートルズの影響を受けていることも明らかですが、具体的な作品からその影響を見出すことは困難です。ビートルズの作品自体が、例えば「コード進行がビートルズらしい」と表現することはできても、これがビートルズの音楽だと断定できるほどお決まりのスタイルを持たないこともその一因かもしれません。

例えば「Merry Christmas Mr.Lawrence」は、映画「戦場のメリークリスマス(1983年、大島渚監督)」の主題歌です。映画音楽も演技も未経験だった坂本ですが、監督に出演する代わりに音楽を担当させてほしいと要請し、歴史的名曲を制作しました。坂本は、この作品で英国アカデミー賞作曲賞を日本人として初めて受賞しました。また、やはり映画音楽である「ラストエンペラー(1987年、ベルナルド・ベルトルッチ監督)」も坂本を代表する作品です。この作品は、その芸術性の高さを評価され、日本人として初めて米アカデミー賞作曲賞を受賞しました。

いずれの映画も日本や中国という東洋の国が舞台となっていることから、坂本が制作した映画音楽も、背景に東洋を感じさせる神秘的で壮大なメロディーとアレンジになっています。これらからビートルズの片鱗を感じ取るとすれば、音楽における東洋と西洋の融合、誰もが魅力される華麗かつ壮大なメロディー、空間を浮遊するかのような幻想的なイメージでしょうか。

かつてビートルズが、様々な音楽の影響を受けながらも革新的な作品を次から次へと創造したように、坂本も彼らや多くのアーティストたちの音楽を消化して独自の世界を展開したのです。

(参照文献)「音楽は自由にする」(坂本龍一)、PEN、NME

(続く) 

(追記)

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