
1 写真をたくさん使った
(1)ありとあらゆる方法を試した
Revolverのカヴァーのデザインを制作したクラウス・フォアマンの話の続きです。彼は、ペンとインクを使い、コラージュにはハサミ、メス、糊を使いました。まずはあらゆる方法を試しました。木炭を使ったり、ペンと少しの筆を使ったり。企業や自分のレコードカヴァーアートでそういうスタイルを使ったことがあったので、ペンとインクを使ってそういう絵を描くのはとても快適でした。それで試してみて、「ああ、これいいな」と思って、その技法を使うことにしました。
コラージュには、「With the Beatles」「A Hard Day’s Night」「Help!」「Beatles for Sale」「Rubber Soul」など多数のアルバム・カヴァーを撮影したロバート・フリーマンの写真を使用し、ビートルズ本人からも個人的な写真を撮りました。裏表紙の写真は、「Revolver」のレコーディングや日本公演の写真で知られるロバート・ウィテカーが素晴らしい写真を撮ってくれました。でも、メンバーの写真はずっとフリーマンがメインで撮ってくれました。フォアマンは、フリーマンのところに行って彼が持っていた写真を選びました。EMIから入手した写真と、ブライアン・エプスタインの会社NEMSエンタープライズから入手した写真がありました。
(2)ビートルズから写真を提供してもらった
それからメンバーに電話してこう言いました。「いいかい、君たちが思いつく限りの写真を全部集めてくれ。画質は関係ない。僕が気に入ったものを選ぶから。もし気に入らなかったら、最終決定権は君たちにある。『いや、気に入らない』と言ってくれて構わない。とにかく僕に任せてくれ。全部写真を集めて。スキーをしている写真でも、田舎にいる写真でも、笑っている写真でも、何でもいいから送ってくれ。コラージュに合う写真を選ぶよ」と依頼しました。翌日、封筒が届き、メンバーから送られてきた写真がたくさん入っていました。フォアマンは、それらの写真を使うことにしました。
カヴァーの表紙にはフォアマン自身も載っています。ビートルズの写真をレイアウトした直後に、ジョージの髪のところにこっそり入れました。「いいんじゃない? 自分をそこに載せてもいいよね?」と思ったのです。それで、自分の名前も書いて「よし、写真も載せよう」と思い載せました。
ジョンは最初に気づいて「厚かましいやつだな、自分の写真を入れるなんて」と言いました。でも、彼らはこれもアートだと受け入れてくれました。実際の作業には2週間くらいかかりましたが、手作業の割にはそれほど長くはないですね。
2 最初の反応は微妙だった
(1)ポールがトイレに座っていた

フォアマンは、デザインが完成するとそれをバンドに見せるために、スタジオではなくEMIハウスにあるジョージ・マーティンのオフィスに行きました。彼らがちょうどドイツでの小さなツアーから戻ってきたばかりの時でした。彼はそこに行って、人が見える高さのキャビネットに試作品を置きました。もちろん、ビートルズもそこにいました。ブライアン・エプスタイン、ジョージ・マーティン、その他の関係者も同席していました。
意外にも彼らの最初の反応はあまり芳しいものではありませんでした。彼らは作品を観て静まり返り、何とも言えない微妙な雰囲気になったのです。あまりにもシュールなデザインだったので戸惑ったのかもしれません。最初は誰も何も言いたがりませんでした。やがてポールが作品のところに来て「ねえ、僕がここに載ってるぞ」と口を開き、左上の隅の写真を指差しました。そこにはトイレに座っているポールが写っていました。フォアマンなりのユーモアです。
(2)最終的には気に入ってくれた
すると、マーティンが「ああ、クラウス、これはダメだ」と指摘しました。ポールは「素晴らしい。いいじゃないか。そのままでいいよ」と言いました。それでもマーティンが「別の写真と交換できないか?」と言い出しました。結局このアイデアはボツになったんですね。ポールはそのままでいいと言ったのですが、さすがにこれはまずかったかもしれません。
その後、みんなが細かい部分について話し始め、「ああ、ヘルメットをかぶっているのは僕だ」とか「ああ、これは誰?ジョンだ!」と口々に言い始めました。その時点になると彼らがこのカヴァーを気に入ってくれているのが明らかになったので、フォアマンはホッとしました。
3 フォアマンが気に入っていたところ
(1)奇妙でシュールな要素の組み合わせ

ファン雑誌か何かから借りてきた写真が1枚あったのですが、その中でメンバーの1人がストライプの服を着ているものがありました。ところが、それがまっすぐじゃなくてゆがんでいたのです。こういうちょっと奇妙でシュールな要素の組み合わせがフォアマンは好きでした。
シュールなタッチと、みんなが笑ってしまうようなジョークっぽい部分の組み合わせです。彼にとってはこの組み合わせが、実際にやってみてすごく楽しかったのです。彼は、ジョンの鼻とアーモンド型の目がお気に入りでした。このアルバムは、ビートルズがサイケデリックな作品に初めて着手した内容でしたから、こういった視覚的に遊び心満載のコラージュはそれにぴったり沿うものでした。
(2)ジョージは口と目が写真になった
ただ、フォアマンがビートルズの中で描くのが一番苦労したのはジョージでした。彼は美しい顔立ちでしたが、フォアマンに言わせると、一目でこれがジョージの顔だと言えるような特徴がなかったのです。確かに、ジョンはがっしりした顔つきだし、ポールは童顔だし、リンゴは鼻が大きくて愛嬌のある顔です。
そのため、フォアマンはジョージを描くのにかなり苦労しました。彼は何度も描こうとしましたがうまく描けませんでした。それで最終的に、雑誌の写真をコピーして貼り付けました。ですから、ジョージの口と目は手書きではなく写真になっています。ちょっと不思議に思えますが、裏にはこういう事情があったんですね。でも、この部分が写真になっているため妙に生々しくて、なぜ写真にしたんだろうと色々想像できて面白いです。
4 フォアマンを信頼して自由にやらせてくれた

「Revolver」は素晴らしいカヴァーであるだけでなく、当時の「フラワーパワー」という色彩の爆発的な流行にあえて逆らうモノクロのデザインを選んだことが最も賢明な判断でした。それがこのアルバムをより一層際立たせ、時代を超えた作品になったのです。
フォアマンがありがたいと思ったのは、彼が何を提案しても完全に自由だったことです。モノクロでもいいかと聞いたら、彼らは同意してくれました。彼らは以前フォアマンの作品を見ていたので、彼がそういうことができると分かっていたのでしょう。ビートルズは、フォアマンにそれだけの才能があると認めて彼に全てを任せたのです。ですから、フォアマンはあまりプレッシャーを感じず自由にデザインできました。
5 校正刷りはセピア色だった!
(1)当初はモノクロではなかった
フォアマンは、素晴らしいデザインを制作できたと満足しています。しかし、まだ誰にも話していないことがもう一つありました。彼は印刷会社から校正刷りを受け取ったのですが、それがなんとセピア色で印刷されていたのです。それを受け取った彼は「一体何をやってるんだ?」と驚きました。
なぜ印刷会社がそんな色にしたのかは分かりませんが、おそらく、当時のカヴァーはフルカラーが当たり前だったので、いくらなんでもモノクロはないだろうと勝手に判断したのかもしれません。あるいは、フォアマンの指示が伝わっていなかった可能性もあります。
フォアマンは、すぐさま印刷会社に電話して「これはひどい。これではダメだ」と抗議しました。大袈裟ですが、こんなカヴァーができあがったら自分は死ぬんじゃないかとまで思ったのです。アーティストは妥協を許しませんからね。すると会社は「わかりました」と言ったのですが、彼は、それでもまだ不安だったので印刷会社まで車で行き、自分の希望を担当者にきちんと伝えました。そのおかげで彼の構想通りモノクロで完成しました。セピアではあれほど鮮烈なイメージにはならなかったでしょう。
(2)グラミー賞の最優秀アルバムカヴァー賞を受賞
フォアマンは、初めてアルバムを手にして心から喜びました。もちろん、自分がデザインしたカヴァーは素晴らしく、理想通りの仕上がりだと確信していましたが、改めてレコードを手にしてしみじみと実感が湧いたのです。ただ、彼にとってはカヴァーの仕上がりよりも、レコードをターンテーブルに置いて曲を聴くことの方が重要でした。カヴァーは自分がデザインしたし、仕上がりもチェックしているのでもうわかっていましたから。それより彼は、このアルバムがどんな作品かを早く知りたかったのです。
フォアマンは「Revolver」のカヴァーと、ビートルズが自分にカヴァーのデザインを依頼してくれたことをとても誇りに思っています。もちろん、彼らが与えてくれたチャンスを自らの才能で見事に生かした彼の業績は賞賛に値します。そして、このカヴァーは、グラミー賞の最優秀アルバムカヴァー賞を受賞しました。ロック&ポップアルバムのレコードカヴァーにグラミー賞が授与されたのはこれが初めてです。つまり、カヴァーがアートとして初めて公式に認められたのです。これを皮切りに、ビートルズは「Sgt. Pepper」「White Album」「Abbey Road」といった歴史に残るカヴァーを世に送り出すことになりました。
(参照文献)ゴールドマイン
(続く)
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