
- 1 『Memory』(1967年)——約60年間、誰にも知られなかった映像
- 2 BFIとはどのような機関か
- 3 『Memory』(1967年)——BFIアーカイブに眠り続けた映像
- 4 公式プロモ映像の撮影地について
- 5 ジョンの一人歩きシーンについて
1 『Memory』(1967年)——約60年間、誰にも知られなかった映像

前回の記事では、BFI(英国映画協会)の公式発表を根拠として、『Penny Lane』にはビートルズのメンバーが一切登場しない映像作品が存在するという事実をお伝えしました。
BFIがどのような機関であるかは、この記事の後半であらためて説明しますが、世界最古・最大規模の映像アーカイブ機関による公式の発表を根拠として示したにもかかわらず、なお一部の方から「信じられない」というご意見をいただいたことは、率直に言えば少し意外でした。
もちろん、それだけこの事実が長年知られてこなかった、ということの裏返しでもあると思います。今回はBFIについての説明も加えたうえで、あらためて整理してお伝えします。
まず今回の核心部分からお伝えします。
『Penny Lane』には、よく知られた公式プロモーション・フィルムとはまったく別に、同じ1967年に制作されたもう一本の映像作品が存在します。タイトルは『Memory』。監督は英国人映画作家のイアン・マクミランです(アビイ・ロードのジャケット写真で知られる写真家とは別人です)。
この作品は制作後にテレビ放映もされず、ほとんど一般に知られないまま、BFI(英国映画協会)のナショナル・アーカイブに約60年間保管されていました。 BFIが2026年2月4日になって公式に記事と映像を公開したことで、ようやく広く知られるようになりました。
2 BFIとはどのような機関か
youtu.beBFIのプロモーションビデオ
本題に入る前に、今回の情報源となっているBFIについて少し説明します。ここを理解していただくと、この話の信憑性がよりはっきりすると思います。
BFI(British Film Institute/英国映画協会)は、1933年にイギリス政府の公認のもとに設立された、映画・映像文化の振興と保存を目的とする機関です。設立から90年以上の歴史を持ち、この種の機関としては世界最古の一つとされています。王立勅許状(Royal Charter)によって運営される公的な慈善団体であり、政府からの直接助成金も受けています。アメリカの映画機関として知られるAFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)は、このBFIを部分的に範として設立されました。
BFIが運営する『BFIナショナル・アーカイブ』は、1935年に国立フィルム図書館として発足し、現在では映画・テレビ番組を合わせて27万5千点以上を所蔵する、世界最大規模の映像アーカイブです。フィルムの収集・保存・修復・公開において世界的な基準を牽引してきた機関であり、国際フィルム・アーカイブ連盟(FIAF)の創設メンバー4機関のうちの一つでもあります。
つまりBFIは、映像文化に関して世界で最も信頼性の高い機関の一つです。そのBFIが自らのナショナル・アーカイブを調査し、公式サイトで記事と映像を公開しているという事実は、情報の信頼性を裏付けるうえで非常に重要な意味を持ちます。
3 『Memory』(1967年)——BFIアーカイブに眠り続けた映像

繰り返しになりますが、この発表の主体は世界最古・最大規模の映像アーカイブ機関であるBFI自身です。関係者の証言でも、ファンのブログでも、SNSの投稿でもありません。
この作品に、ビートルズの4人は一切登場しません。BFIの公式解説によると、映像は「楽曲にインスピレーションを受けた人物たちと、リヴァプール郊外の街並みやセント・ジョージズ・スクウェアの彫像を組み合わせた構成」になっています。
BFIはこの作品についてこう記しています。「ほとんど完全に人物を画面から排し、場所そのものに向き合うことで、Memory は時代を超えたものと繋がっている(Focusing so exclusively on different locales, all but banning actual people from the frame, Memory connects to something out of time.)」
つまり、メンバーが登場しないことは制作上の欠落ではなく、この作品のコンセプトそのものなのです。
4 公式プロモ映像の撮影地について

次に、よく知られた公式プロモーション・フィルム(ゴールドマン版)についても整理します。撮影は1967年2月5日と7日の2日間で行われましたが、メンバーはリヴァプールに出向いていません。
- 2月5日
ロンドン東部・ストラトフォード(エンジェル・レイン周辺)
4人が馬に乗る/街を歩く
- 2月5日
ロンドン・チェルシー(キングス・ロード)
ジョンが一人で歩くシーン
- 2月7日
ケント州セヴノークス(ノール・パーク)
赤いジャケットで馬に乗るシーン/屋外テーブルのシーン
- 別日・監督単独
リヴァプール(実際のペニー・レイン周辺)
46番バス、待合所、白馬に乗った消防士など
リヴァプールの映像はゴールドマン監督がメンバー不在で別途撮影したものです。『The Beatles Bible』にも「リヴァプール周辺の映像は、監督がビートルズのメンバーを伴わずに撮影した(without The Beatles' involvement)」と明記されています。
5 ジョンの一人歩きシーンについて

「ジョンが一人で歩くシーンはリヴァプールではないか」と思われる方も多いでしょうが、実はあのシーンの撮影地は、ロンドン・チェルシーのキングス・ロードです。
『The Paul McCartney Project』には、著者のロバート・ロドリゲスがこのシーンを「as if in a nostalgic reverie(懐かしい夢想にふけるように)」と表現したうえで、撮影地はロンドンであると記しています。『Beatles Bible』のコメント欄にも「ジョンの歩行シーンはチェルシーのキングス・ロード(マーカム・スクウェア付近)で撮られた」との補足があり、複数の資料が一致しています。
リヴァプールの街並みとロンドンで撮影されたメンバーの映像を編集でつないでいるため、全体として「リヴァプールの街を歩いているように」見えます。これがゴールドマン版プロモの構成上の特徴です。
(参照文献)
- BFI「The mystery music video for The Beatles' Penny Lane」
- BFI「About the BFI」
- BFI「A history of the archive」
- BFI Player「Memory (1967)」
- The Beatles Bible「5 February 1967: Filming: Penny Lane」
- The Paul McCartney Project「Penny Lane – Promotional film」
- Wikipedia「英国映画協会」
(続く)
