5 野太い系
ポールが低音で野太いヴォーカルを聴かせます。
1 レディー・マドンナ
「エルヴィス・プレスリーか?」と思わず聴き耳を立ててしまう程、バリトンでそっくりな声を出しています。
それもそのはず、ポールは、実際に「エルヴィスの声」を意識したと後に語っています。この作品を初めて聴いた人は、声が低いので「リンゴ・スターが歌っている」と勘違いした人もいるようです。いや、リンゴはこんなに上手くないですから(^_^;)
そして、そのプレスリーがこの作品をカヴァーしているんですから面白いですね。
聴き比べてみるとプレスリーの方がポールより甘い歌声なのが意外です。イメージでは、ポールがプレスリーっぽく歌っているように思えるのですが。
また、1994年のインタビューでは、ポールがピアノの前に座りどんな曲を作ろうかと考えたとき、サウンドをブルースっぽいブギウギ風にしたいと思い、ファッツ・ドミノ(R&Bの大御所)を思い浮かべ、彼のように歌ってみようと考えたために、ちょっと変わった歌声になったと語っています。これまた面白いことに、ドミノもこの曲をカヴァーしています。
う~ん、これもポールのヴォーカルとはちょっと違いますね(^_^;)「曲調はドミノ風で作り、ヴォーカルはプレスリー風で歌った」という辺りが正確なところかもしれません。
2 アイヴ・ガット・ア・フィーリング
高いキーでしかも力強いヴォーカル。まさにポールならではですね。2017年の来日公演でも披露してくれました。流石に「Yeah!」とシャウトするところは省略してましたが(^_^;)
ジョンとポールがお互いにカウンター・メロディーでヴォーカルを入れていますが、絶妙にシンクロしています。歌詞もメロディーも違うのに何ら違和感を感じさせません。
おそらくどのバンドでもこんなマネはできないでしょう。しかも、解散寸前の4人がバラバラになっていた頃ですからね。
3 ホワイ・ドゥント・ウィー・ドゥ・イット・イン・ザ・ロード?
「野太い」といえば、これが一番かもしれません。
メロディーはAメロしかなく、歌詞も単調です。曲も極端に短く2分もありません。そもそもこれでアルバムに収録できるクオリティなのか疑問に思います。ホワイトアルバムはこの手の曲が多いんですよ。1枚組のアルバムだったら間違いなく外されていたでしょう。
それに歌詞にも問題があります。「道路で***しようぜ。誰も見てないんだからさ。」という歌詞ですが、これは流石にヤバいでしょ?この曲は、ビートルズがインドのリシケシュに滞在している時に、ポールが路上で交尾している猿を見かけ、それをヒントに作ったんです。
ところが、これが聴いてみると意外にハマるんですよね(^_^;)なんかクセになってしまいます。
後期のポールについては辛口のジョンですら「この曲は、彼のベストの1つだ。」と語っています。え?マジで?また、レコーディングの時に自分を参加させなかったことに憤りを感じたとも語っています。
ポール自身もこの曲には自信を持っていて、良いヴォーカルだったと語っています。う~む、天才の考えることは分からん┐(´~`;)┌
最初の4小節は、ドラム、手拍子とアコースティックギターのボディを叩いてリズムを取っていますが、これは、ポールのヴォーカルが入りやすくするためです。なお、リードギターを弾いているのもポールです。レコーディングは彼とリンゴだけで行いました。
ポールは、この野太いヴォーカルだけをレコーディングしたわけではなく、エンジニアのケン・タウンゼンドに対し、「1ヴァースは抑え気味に、1ヴァースはラウドにしたい。」と指示しました。テイク4では優しい歌声でレコーディングしました。それは、アンソロジー3で聴くことができます。
ただ、やはり、この曲のイメージからすると、ホワイトアルバムに収録されたヴァージョンの方が合っていますね。
4 ゴールデン・スランバーズ
タイトルを翻訳すると「黄金の眠り」であり、幼い子供を寝かしつける子守唄をモチーフにした内容の歌詞です。ですから、Aメロはそれに相応しい優しいヴォーカルになっています。
しかし、途中でタイトルを歌い始めるところから、突然力強いヴォーカルに切り替わります。とても子どもを寝かしつけるような優しいヴォーカルじゃありませんね。せっかく寝た子どもが起きてしまいます(^_^;)Smile awakeのところは、喉を絞めつけてシャウトしています。
これについてポールはこう語っています。「私は、とても強いヴォーカルを乗せたことを覚えている。それは、こういった優しいテーマの曲だったから、逆に力強いヴォーカルが必要だと思ったんだ。とてもうまく歌えて満足したよ。」
5 バースデイ
ポールが敬愛してやまないリトル・リチャードのヴォーカルスタイルをここでも発揮しています。ハイトーン・シャウト系に分類してもおかしくありませんが、この曲でもポールの力強いヴォーカルを聴くことができます。
ポールが上のメロディー・パート、ジョンが下のパートを歌っています。ポールが「ダ~~~~~~~ンス」と力強くシャウトするところがしびれますね。
6 コーラス系
いよいよこれでラストです。これはもちろん、ポールだけではなくジョンやジョージとの共同作業で完成した作品ですが、他のバンドとの圧倒的な差が生まれるのは、絶妙なコーラスワークの賜物です。
しかも、彼らは、正統な音楽のレッスンを受けていませんでした。つまり、天賦の才で下積み時代からハモれたのです。
1 ビコーズ
ジョン、ポール、ジョージの3人が最初から最後まで一貫してコーラスで通すという異色の曲で、ビートルズとしてはもちろん唯一ですし、他のアーティストでもあまり見かけない珍しい作品です。ジョン、ポール、ジョージの3人が3回ダビングを重ねて何と9声のコーラスになっています!
3人は、20~30回は歌いました。音程は正確だったのですが(それだけでも凄いですけどね)、一つ一つの言葉をピッタリと合わせるのが難しかったんです。相変わらず仕事中毒のポールは別として、ジョンもジョージも忍耐強く何度もチャレンジしました。レコーディング・エンジニアのジェフ・エメリックも感嘆した程のチームワークでした。
例によってポールが一番高音のパートを担当してますが、いやはやそのキーの高いこと(^_^;)シャウトしていないだけまだマシですが、良くこんな高音で何度もテイクを重ねましたね。
なお、アンソロジー3ではインストゥルメンタルなしのアカペラを聴くことができます。ハーモニーの美しさにうっとりさせられます。
ビートルズは、コーラスでメロディーラインの上下をクロスさせるというテクニックを良く使いましたが、この曲でもturns me onのところでジョンとジョージのパートが入れ替わります。
一番難しいのは、Love is old, love is newのパートです。他のパートに比べて短いだけに却って合わせるのが難しいんですね。
この作品は、mojoが選んだロック・ヴォーカル・ハーモニー・トップ10の第7位にランクされました。「3人の絶妙なハーモニーにより、歌詞は比較的飾り気のないシンプルなものでありながら、リスナーに不思議で超越的な体験を味合わせる。3人がそれぞれヴォーカルを違う方向へ向けることで、それまでの彼らの作品の中でも傑出した貴重なものとなった。」と評しています。因みに第1位は、ビーチ・ボーイズの「グッド・ヴァイブレーション」でした。
…とここまで書いて来たのですが、コーラスは、3人のチームプレイなのでポール枠ではなく、別枠で特集することにします。
コーラスはですねえ、ホントにスゴくてビートルズの素晴らしさにため息が漏れてしまいますね。ということでポールのヴォーカルの特集記事は今回でラストです。いやあ、こんなに長くなるとは…(^_^;)
(参照文献)THE BEATLES MUSIC HISTORY、mojo、真実のビートルズ・サウンド完全版
(続く)