★ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログ★

ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

ミドル・エイトのマジシャンだったビートルズ(389)

The Beatles on “Sunday Night At The London Palladium”, January 1964 photo  by Dezo Hoffmann 

1 ミドル・エイトとは

(1)サビに入る前の繋ぎ

ビートルズ シェイ スタジアム

ミドル・エイトとは、J-POPで言うところのBメロでしょうか?サビに入る前のAメロとのつなぎの役割を果たします。ブリッジとも呼ばれますが、厳密に言うと、ブリッジはAメロを受けついて曲を展開するのに対し、ミドル・エイトはそこで曲調や歌詞を変えて変化をつけるパートです。

もちろん、彼らがそれを発明したわけではなく、彼らがメジャーデビューする前から存在したのですが、ある意味で彼らが完成させたと言ってもいいのかもしれません。そのくらいビートルズは、ミドル・エイトの使い方が上手かったのです。

実は、「Aメロ」「Bメロ」「サビ」という音楽用語は、J-POP独自のもので海外では使いません。海外ではAメロを「ヴァース」、「Bメロ」を「ミドル・エイト(ブリッジ)」、サビを「コーラス」と呼びます。ビートルズは、もっぱらミドル・エイトと呼び、曲の真ん中にある8小節の音楽として効果的に使うことを意識していました。

(2)効果的に使った

通常、ミドル・エイトは、曲の中で繰り返されることもありますが、一般的には一度だけ登場し、音楽的にはキーやテンポの変化が現れる明確な出発点です。歌詞においてミドル・エイトのセクションは、メッセージの変化が現れる場所です。映画の主人公が変化や啓示を受けるセクションのようなものだと考えてください。

もちろん、ビートルズのすべての曲にミドル・エイトが含まれているわけではありません。「Strawberry Fields For Ever」「Help」「Helter Skelter」「For You Blue」といった作品では使われていません。ジョンは、ポールやジョージよりも、ミドル・エイトを入れない曲を好んで制作しました。しかし、彼や他のメンバーがその特別なセクションを加えたとき、それは、しばしば世界有数の音楽の創作につながったのです。いくつか具体例を挙げて検討してみましょう。

 

 

2 Please Please Me(1962年)

この曲ができあがった当初は、ロイ・オービソンのようなスローな曲でしたが、プロデューサーのジョージ・マーティンの助言によりアップテンポにアレンジすることで、全英チャート1位こそ獲得できなかったものの、彼らの最初のヒット曲となりました。

この曲では、コーラスから一瞬リンゴのソロでブレイクし、ジョンが恋人に対する不満を早口で畳みかけるように歌うことで、恋人にもっと自分を構って欲しいという切実な想いが伝わってきます。この曲で彼らのミドル・エイトの使い方が確立されたのです。ジョージとポールは「in my heart」でジョンのヴォーカルに呼応し、クライマックスの「with youuuuu」で音程を上げる直前までの16秒の間に行われました。

3 Piggies(1968年)

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ジョージは、ハープシコードの上でキーを上昇させて、上流階級の人々を皮肉ったミドル・エイトを制作しました。ジョージは、この箇所で上流階級の人々に皮肉を込めたメッセージに切り替えたかったのですが上手くいかず、言葉が少し重くなりすぎたと感じていました。たった一行なんですが、それがなかなか思いつかなかったのです。相方に聞けばヒントが得られたジョンやポールと違って、一人で制作していたジョージが苦労したところです。

思いあぐねた彼は、母親のルイーズに意見を求めました。すると、彼女は、思いっきり殴ってやるというユーモラスな歌詞を即座に思いつき、重くなり過ぎた歌詞を軽くしてこの曲が持つイメージを軽い調子にすることに貢献しました。

4 This Boy(1963年)Yes It Is(1965年)

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ジョンは、この2曲が基本的な構造において同じ曲であることを認めています。1950年代風のバラード・ソングに深く浸ったこの曲は、2曲ともクラシックなミドル・エイトのセクションに入り、リンゴがシンバルを静かに叩き、ポールとジョージがジョンのバッキングで叫びながらも口ずさむハーモニーを奏でています。このミドル・エイトには大きなパワーがあり、どちらの場合も曲のヴォリュームがソフトなレベルに戻り、最後のヴァースを演奏しています。

「This Boy」については、レコーディング セッション中のある時点で、ミドル・エイトの歌詞が書かれた可能性があると指摘されています。ただ、その部分のメロディーラインと歌詞が複雑であるため、その可能性は低いようです.  また、その日に曲を完全に録音するのに擁した時間は約1時間程度でしたから、セッション中に書かれた可能性は低いでしょう。やはりホテルの寝室で2時間かけて完成したと推測されます。

5 Girl(1965年)

The Beatles 全曲解説 Vol.96 〜Girl|Taiyo Ikeda|note

ビートルマニアの時代、ビートルズは部屋に押し込められた閉塞的な生活の中で、自分たちを楽しませる方法を見つけなければなりませんでした。その彼らの遊び心がこのミドル・エイトに表れています。

このミドル・エイトも素晴らしいですよね。女性に別れを切り出すと、彼女の方から泣きついてきて別れられない。そんな苦しい主人公の心境を切々と歌い上げています。

ところが、そんな素晴らしい叙情詩であるにもかかわらず、ポールとジョージが「チュチュチュチュチュ…」とスキャットしている言葉は「女性の乳房」の俗語だったんです。でも、当時のリスナーはほとんど誰も気づきませんでした。

 

 

6 Nowhere Man(ひとりぼっちのあいつ)(1965年)

ビートルズが初めて制作した1ヴァース+コーラスで始まり、そのままインストゥルメンタル・セクションに進む曲です。ジョージのキラキラしたリッケンバッカーサウンドも注目すべきところです。

この曲は、Aメロで孤独な男の客観的な状況を歌っていますが、ミドル・エイトに入ると一転して主人公がその男に語り掛け、元気を出せと励ましています。また、ミドル・エイトが曲中に2回登場し、2回目は、1回目と異なる歌詞に変更されているという珍しい曲でもあります。この辺りが芸の細かいところですね。

7 No Replay・I Don’t Want To Spoil A Party(1964年)

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ジョンとポールの緊密なハーモニーをフィーチャーした、ほぼ同じミドル・エイト構成のキャリア中期の2曲の代表作です。こういう形式のサウンドは、この時代のアルバム「Help」「Beatles for Sale」「Rubber Soul」を経て確立され、その後のキャリアを通じて続くことになります。

8 From Me To You(1963年)

ポールは、この曲のミドル・エイトから始まるコードチェンジは、ソングライターとしての彼とジョンにとって天の啓示だったと語っています。彼らが従来のコード進行の道から外れたのはこれが初めてでした。

ポールは、彼らの経験を説明しながらこう語っています。「僕たちは、バスの中で『From Me To You』を書いたんだけど、最高だった。あのミドル・エイトは、僕たちにとってとても大きな出発点だった...ごく普通のCからG、そしてFに変わったとする。ごく普通の曲だが、これがト短調Gm)になる。ト短調とCを行き来すると、まったく新しい世界が広がるんだ!興奮したよ!」

9 The Long And The Winding Road(1969年)

冒頭から一貫して美しいバラードですが、ミドル・エイトがこの名曲を一気に開花させています。ビートルズには悲哀を歌った曲は意外と少ないのですが、このミドル・エイトを挟むことで悲しみに加えて荘厳な雰囲気が醸し出されます。

 

 

10 Something(1969年)

Something - Wikipedia

この12小節に及ぶミドル・エイトは、ビートルズの最も強力な成果物の一つです。劇的な盛り上がりですね。この部分は、下降するコード進行になっています。エンディングは、もう空きトラックがなかった為、ジョージ・マーティンがこの曲のオーケストレーションをレコーディングしている間に、ジョージがギターソロをライヴで演奏しました。ビートルズ時代のジョージのソロの中でも出色の出来栄えです。

11 We Can Work It Out(1965年)

ビートルズ全員が参加して制作した曲です。ジョンとポールのソングライティング・パートナーシップの頂点に立つともいえるこのミドル・エイトは、彼らの最強の作品と言えるかもしれません。

ポールが恋人との現在進行形の上手くいかない恋愛を歌う一方で、ジョンは、人生はとても短く時間がないと、より哲学的なミドル・エイトを書き下ろしました。ジョージは、さらに、ここのリズムを途中から3/4拍子のワルツにすることを提案し、ミドル・エイトを繰り返して曲を締めくくることにしました。

 

 

番外編

これをミドル・エイトと呼ぶべきかどうか分かりませんが、「A Day in the Life」の中間部は素晴らしいです。冒頭からの2分17秒に始まり、オーケストラが終わった後、目覚まし時計のベルが鳴り、別の穏やかなセクションに向かって慌ただしく進み、目が覚める数分前の夢の混沌を少し象徴しています。曲に興味深いセクションを追加することに加えて、オーケストラのブレイクとミドル・エイトは、曲に描かれているストーリーをリスナーに思い起こさせてくれます。

(参照文献)カルチャーソナー

(続く)

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