- 1 エリザベス女王も実はビートルズファンだった
- 2 女王から夕食会に招待された
- 3 女王はビートルズについて詳しかった
- 4 国家的式典でビートルズの曲をリクエストした
- 5 音楽理論にも詳しかった
- 6 立場上公にはされていなかったのだろう
1 エリザベス女王も実はビートルズファンだった
(1)関係者の証言
マーガレット王女が熱心なビートルズファンだったことは、(390)でお伝えしましたが、実は、エリザベス女王もビートルズの大ファンだったのです。
女王の逝去後、彼女がビートルズをとても好きだったことが、ハンブルク時代からビートルズをよく知るドイツの元欧州議会議員によって明らかにされました。ハンス=オラフ・ヘンケルは、全世界で40億人以上の聴衆が見守った女王の壮大な葬儀の後、自身の驚くべきエピソードを語りました。
(2)アーリー・ビートルズ時代の友人
2019年に欧州議会を退任したヘンケルは、ビートルズのベーシストだったスチュアート・サトクリフの恋人である写真家のアストリッド・キルヒャーと交際したことがあると告白しました。1961年、ヘンケルが21歳のとき、スチュアートとアストリッドの二人は、彼を世界的に有名な歓楽街であるレーパーバーンに連れて行き、そこでジョン、ポール、ジョージを紹介しました。この時のドラマーはまだピートだったので、リンゴは知りませんでした。
2 女王から夕食会に招待された
(1)突然の招待
それから約40年後、82歳のヘンケルはこう続けました。「2000年に女王がベルリンにやってきて、新しい在ベルリン英国大使館を正式に開設した。当時私は、イギリスのCBIに相当するドイツ産業連盟(BDI)の会長をしていた。驚いたことに駐ドイツ英国大使のポール・レバー卿が、ベルリン・グルンヴァルトの大使公邸で行われた女王を讃える夕食会に、私と妻を招待してくれた。」
ドイツ産業連盟会長という肩書がどれほど重要なのかは知りませんが、エリザベス女王から直接招待を受けるほどのものではなかったと思います。招待された本人は、とても驚いたことでしょう。
名誉なことではあるものの、彼自身、なぜ自分たちが招待してもらえたのか、その時点では理由が分かりませんでした。彼が会場に到着したとき、他の招待客は12人しかいなかったのです。よほど選び抜かれた人々だったのでしょう。
(2)なぜ招待されたのか
ヘンケルは、こう付け加えました。「ポール卿が我々を女王と殿下に紹介した後、私は、なぜ自分たちが重要なレセプションに女王から招待されたかに気づいた。フィリップ殿下は、私の伝記を読んで、私が1961年と1962年にハンブルグのロック・クラブでビートルズと頻繁に会っていたことを知ったのだ。」
つまり、フィリップ殿下がヘンケルの伝記を読んで、彼がアーリー・ビートルズ時代のメンバーと付き合いがあったことを知り、女王ともどもぜひその時の話を聞きたいと思ったのですね。その頃のビートルズの話を聞きたいとわざわざ招待したいぐらいですから、これはファンで間違いないと言っていいでしょう。
(3)アーリー・ビートルズの話
女王への紹介の中で、レーヴァーは、ヘンケルのドイツ産業界での地位やIBMヨーロッパ社長としての前職だけでなく、彼とビートルズとの過去の関わりについても言及しました。ヘンケルは、こう語っています。「驚いたことに、女王陛下は、ビートルズのことで私と知り合いになりたかったのであり、当時ドイツの産業界でかなり重要な地位にあった私のことではまったくなかったのだ!」
女王も殿下もヘンケルの地位や肩書には全く関心がなく、彼がアーリー・ビートルズの友人であったことに関心があったのです。彼も「なあんだ、そういうことか。」と納得したと同時に、この偶然訪れた幸運に感謝したでしょう。40年も昔にビートルズと付き合いがあったおかげで彼は、生涯会う機会がなかったであろう女王に会えたのですから。
3 女王はビートルズについて詳しかった
(1)かなり知識を持っていた
ヘンケルは、こう語っています。「ビートルズについて楽しい会話ができた。女王陛下は、ハンブルグがビートルズに果たした役割に詳しいだけでなく、ビートルズの音楽がいかに好きかということを自ら語ってくださった。」
「それだけでなく、1999年、ビートルズのリード・ギタリスト、ジョージ・ハリスンの自宅が強盗に襲われ、彼が重傷を負ったことをかなり正確な言葉で語られた。彼女は、その出来事を一方では同情的に、他方ではかなり正確に描写しておられた。」
エリザベス女王は、ビートルズにMBE勲章を授与はしましたが、実質的にそれを決定したのは当時のウィルソン首相でした。彼女がファンだったということはあまり公には報道されてこなかったと思います。
(2)女王との楽しい会話
ヘンケルは、女王から聞くまでジョージの事件のことについては知りませんでした。彼は、女王が彼のことについてとても詳しく知っていて、その知識と個人的に辛い気持ちを自分たちと共有したことに気づいてとても驚いたと語っています。
「その後のレセプション、ディナー、そして女王、皇太子、大使、他のゲスト、我々の世話をしてくれた侍女との会話を存分に楽しんだ。」自分の昔話を女王を始め、高貴な人々が熱心に聞いてくれるのですから、こんなに楽しいことはありませんよね。
4 国家的式典でビートルズの曲をリクエストした
フランスの元大統領であるフランソワ・オランド (在任:2012年5月15日~2017年5月14日)は2014年6月、第二次世界大戦の連合軍ノルマンディー上陸70周年記念式典で国賓としてエリザベス女王を待遇しました。彼は、女王がかつて国賓晩餐会で共和国軍の楽団にビートルズを演奏するよう、少し英語のアクセントが混じったフランス語で頼んだことがあったと回想しました。
彼は、ロイター通信にこう語っています。「あるとき、共和国軍がクラシック音楽を演奏していたので(エリザベス女王に)何かリクエストはありますかとお尋ねしたら、ビートルズを演奏できますかとおっしゃった。それでオーケストラは、ビートルズの曲を数曲演奏した。」
日本人にはピンと来ませんが、第二次世界大戦の連合国にとって、連合軍がフランスのノルマンディーに上陸したことを記念する式典はとても重要なイヴェントです。そこでビートルズの曲をリクエストするとは、やはり女王がファンであることを示すエピソードといえるでしょう。
残念ながら、軍楽隊が何を演奏したのかまでは分かりません。しかし、突然のリクエストに応えられたということは、軍楽隊にもビートルズは浸透していたということですね。そのことを報道したニュースです。
5 音楽理論にも詳しかった
(1)ロンドン・フィルハーモニーの演奏会
おそらく2006年だと思いますが、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団がビートルズの曲を演奏しました。女王もポールもその演奏会に出席していました。上に引用した動画は、ロンドン・フィルのイエスタデイの演奏なのですが、その時のものかどうかは分かりません。
ショーが終わって、ポールと女王が話していると、高齢の紳士がポールにビートルズの曲の新しいアレンジについてどう思うかと尋ねました。おそらく楽団のアレンジの感想を聞きたかったのでしょう。
彼が応える前に女王が応えました。「それは新しいアレンジではなく、マルチトラックのテープの中で、オーケストラのどこでどの部分の進行を演奏すべきかを決めただけです。」つまり、それは、楽団員の誰が何を演奏すべきかという問題であって、新しいアレンジの問題ではないということです。
女王は、ビートルズの音楽をアレンジすることはできないと言いたかったのです。なぜなら、音楽の専門家は、ビートルズのような画期的な音楽をどのようにアレンジしたらいいのか分からないからです。言い換えると、ビートルズの曲は完成度が高いために、アレンジが困難だということですね。
ポールは「女王陛下は、そこまで理解されているのか。」と衝撃を受けました。それまでは一般のファンと同じで、理論的なことは分からないけど、とにかく好んでいらっしゃると思っていたのです。
(2)音楽理論にも精通していたようだ
もちろん、さすがにこれは言い過ぎで、ビートルズの曲はアレンジできますし、実際に多くのアーティストがアレンジしています。しかし、その完成度が高いために、プロであるからこそうかつに手を出せない、ヘタにアレンジするとオリジナルの良さが台無しになってしまいかねないという意味でなら正しい指摘でしょう。
このエピソードが事実なら、女王は、ビートルズの音楽そのものについてもかなり専門的な知識を持っていたようです。幼い頃から超一流の音楽家たちによるクラシック音楽のレクチャーを受けていたでしょうから、楽器が演奏できるのはもちろん、音楽理論についても正確に理解していたのでしょう。ただ単にビートルズの音楽が好きというだけではなく、理論的に分析していたとしても不思議ではありません。
ただ、残念ながら上記の二つのエピソードとは異なり、このエピソードの出典が明らかでないので、事実かどうかは分かりません。
6 立場上公にはされていなかったのだろう
オランド元フランス大統領の話が報道されたのは、2022年9月11日、つまりエリザベス女王の逝去後です。ヘンケルも同じですね。
エリザベス女王がビートルズファンだったということは、彼女自身も周囲の人々も公にはしていなかったと思います。英国王は「君臨すれども統治せず」として政治にはかかわらないことになっていますから、政治的発言を差し控えるのは当然のことです。
しかし、趣味に関しても特定の個人やグループのファンということが明らかになってしまうと、彼らをひいきにしているようで立場上まずかったのかもしれません。ヘンケルもオランドも女王が存命中は彼女に配慮したか、あるいは王室からの要請で公にしなかったのでしょう。
(参照文献)エクスプレス、ヒンダスタン・タイムズ
(続く)
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