★ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログ★

ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

ジョージ・マーティンは編曲者としてクレジットされるべきだった(434)

1 ビートルズを育てた名プロデューサー

(1)プロデューサーの仕事

コントロールルームで作業中のマーティン

ジョージ・マーティンは、ビートルズのプロデューサーとして彼らが世界的なアーティストとなることに多大な貢献をした人物であり、その功績から「5人目のビートル」とも呼ばれています。

プロデューサーは、レコードやCDなどの音源からライヴや映画で使われる音楽に至るまで、音楽制作全般を指揮する総合的な責任者です。プロデューサーの仕事内容は、アーティストのコンセプトの決定、作詞家・作曲家の選定、音楽制作の総指揮などが含まれます。また、アーティストを売り出すためのコンセプトを決めたり、それに基づく楽曲制作やレコーディング、プロモーション、それらに関わる予算管理なども担当します。

(2)編曲とは

音楽の編曲とは、既存の楽曲に手を加えて、別の編成やジャンルやスタイルに作り変えることです。編曲の目的や方法はさまざまですが、一般的には以下のようなことを行います。

①楽器の種類や数を変えて、音色や音量やバランスを調整すること。②和声やリズムやメロディを変化させて、雰囲気や表現力を変えること。③演奏形式や構成を変えて、長さや流れや効果を変えること。④旋律や歌詞などの一部を引用して、新しい楽曲を作り出すこと。

編曲は、作曲者の意図や楽曲の特徴を理解しながら、編曲者の創造性や技術を発揮する作業です。編曲は、音楽の可能性を広げる重要な役割を果たしています。オリジナル曲が編曲によって全く違うサウンドになることも珍しくありません。そして、まさしくこの意味で、マーティンは、ビートルズの数々の楽曲を劇的に素晴らしく仕上げたのです。

 

 

2 マーティンは編曲も行った

(1)編曲者としても多大な貢献

楽譜を書くマーティン

マーティンは、一般的にプロデューサーとして知られていますが、彼は、ビートルズの楽曲の編曲にも大きく貢献しました。彼らのデビューシングルである「Love Me Do」のレコーディングで、マーティンは、ジョンにハーモニカを吹くように指示しました。新たな楽器を追加し、曲をよりブルージーサウンドに変えたのですから、これは、まぎれもなく編曲の一例です。

ハーモニカは、セカンドシングルの「Please Please Me」でも用いられ、ビートルズの初期のサウンドの特徴的な要素となりました。また、この曲ではオリジナルのテープの回転速度を早くすることで、よりアップテンポな仕上がりになり大ヒットに繋がったのです。元のテープは破棄されているのでわかりませんが、おそらく元のテンポではあれほどのヒットにはならなかったでしょう。

「Can’t Buy Me Love」でイントロをなくし、曲の冒頭でいきなりサビに入るというアイデアもマーティンが提供しました。ポールが最初に作ったアイデアでは普通にイントロから入るものでしたが、いきなりサビから入ってリスナーにガツンとインパクトを与えて曲の世界に引きずり込む大胆なテクニックです。これは、原題のポピュラー音楽でも盛んに用いられています。

(2)楽譜を書きオーケストラを指揮した

オーケストラを指揮するマーティン

マーティンは、オーケストレーターとしてもビートルズサウンドに多大な貢献をしました。クラシック音楽の訓練を受けた彼は、オーケストラの作曲、編曲、指揮を担当しました。「Yesterday」では弦楽四重奏、「Eleanor Rigby」では、ストリングスの編曲と指揮を担当しました。

「Penny Lane」では、ピッコロトランペット、「All You Need Is Love」「A Day In The Life」では、オーケストラの編曲と指揮を担当しました。彼が楽譜を書くシーンは記録されていませんが、ビートルズのオリジナルを聴いて即座にサラサラっという感じで書き上げたのではないでしょうか?

他にも、「I Am the Walrus」「Strawberry Fields Forever」「Golden Slumbers」などで弦楽器や管楽器などの編曲を手がけています。彼は、編曲することでビートルズの音楽に豊かな色彩と表現力を与えました。彼のオーケストレーションがなければ、あれほどのサウンドの広がりや荘厳さはリスナーに伝わらなかったでしょう。

 

 

3 自ら演奏もした

(1)鍵盤楽器をよく演奏した

マーティンが自ら楽器を演奏してレコーディングに参加した曲もあります。「Good Night」では、ハーモニウムチェレスタ(いずれもピアノに似た鍵盤楽器)を演奏しました。また、「Being for the Benefit of Mr Kite!」ではハーモニウムを演奏し、既存のスチーム・オルガンのレコーディングの断片を切り取って再構成する(事実上のサンプリング)ことで、サーカス団のテントの中のような雰囲気を作り出しました。他にも、「Penny Lane」「A Day In The Life」「Golden Slumbers」などでピアノやオルガンなどの鍵盤楽器を演奏したり、ストリングスやブラスなどの編曲を手がけたりしています。

(2)思われている以上に多い

www.youtube.com

マーティンは、一般的に思われている以上に多くのビートルズの楽曲で演奏しています。イギリスのピアニストでありユーチューバーでもあるデイヴィッド・ベネットは、マーティンが最も貢献したと思われるビートルズの27曲を紹介しています。

ジョンとポールが自分たちの手に負えないような複雑なパートを演奏できる人物を必要としていたときに、彼らのキーボード演奏を担当しました。「Lovely Rita」「Good Day Sunshine」、そして特に印象的な「In My Life」といった曲でマーティンの演奏を聴くことができるのはそのためです。

マーティンは、この曲のためにピアノ・ソロを書くようにビートルズから依頼されましたが、彼は、すぐに自分が作曲したものは要求されるテンポで弾くには難しすぎることに気づきました。そこで彼は、バンドのビリー・J・クレイマーと仕事をしたときに役立った、彼自身が言うところの「ワインドアップ(巻き上げ)ピアノ」のレコーディング・テクニックを使ったのです。

これは、エンジニアがテープを半分のスピードまで落とし、マーティンがキーを1オクターヴ下げて演奏するというものでした。そして録音を通常のスピードで再生すると、ピアノのキーは1オクターヴ上がり、「In My Life」で聴けるようなハープシコードのような素晴らしい音色が生まれたのです。

上の動画はこの曲のピアノソロだけを取り出して、速度を落として再生したものです。おそらくマーティンは、こんな感じでレコーディングしたのでしょう。完成した作品を聴けば、このテクニックがいかに劇的な効果を生んだかがよく分かります。

www.youtube.com

マーティンは「Rocky Raccoonのピアノ・ソロでも同じテクニックを使い、「Fixing a Hole」「Because」では本格的にチェンバロを弾いています(後者はエレクトリック・モデル)。

 

 

4 なぜ編曲者としてクレジットされていないのか?

(1)当時の事情

EMIハウス、1960年

上記のように、マーティンは、ビートルズの楽曲を数多く編曲しているのに、編曲者としてクレジットされていないのはなぜでしょうか?これには、当時の音楽業界の慣習や契約上の問題があったからだと思われます。具体的な事情はわかりませんが、以下のような理由が考えられます。

ビートルズは、自分たちの曲を自分たちでアレンジするという姿勢を貫いており、マーティンの編曲は、あくまで彼らのアイデアを実現するためのサポートという認識だった。

②マーティンは、プロデューサーとしてEMIに雇用されている社員であり、編曲に関して別途報酬を受け取ることができなかった。サラリーマンが自社の仕事をしても、別途報酬が支払われることがないのと同じですね。

③当時のレコード会社や出版社は、編曲者に対して著作権料を支払う義務がなかった。

④マーティン自身が良い作品を作ることで満足していて、それで報酬を得たいとは思っていなかった。

今では、編曲者の立場は改善されており、国や業界の事情によっても異なりますが、一般的には10~15%ぐらいの印税が入るようです。現代ではDTMを使って様々なアレンジができる時代であり、アレンジ次第で曲の印象がガラリと変わるのでアレンジャーの地位はとても高くなっています。

(2)クレジットされていなくても高く評価されている

スタジオでのマーティン

以上のような事情から、マーティンは、ビートルズの楽曲における編曲者としてクレジットされることはありませんでした。しかし、彼の貢献は、ビートルズはもちろん、ファンや音楽関係者から高く評価されています。

ベネットが指摘するように、現在ではプロデューサーの貢献が比較的わずかであっても、作詞作曲のクレジットと印税を受け取るのが一般的となっていますが、マーティンがビートルズと仕事をしていた頃はそうではありませんでした。しかし、彼は、報酬とは関係なくいい仕事をしたかったのです。

1995年、彼はBBC Radio 4の「Desert Island Discs」にこう語っています。「とても素晴らしい人たちと仕事をし、偉大なアーティストたちと仕事をし、とても幸運だった。恨みはまったくない」これは、決してきれいごとではなく偽らざる彼の本心でしょう。

(参照文献)ニューヨークタイムズ、ミュージックレーダー

(続く)

 

 

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