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ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

「I Am the Walrus」の歌詞の意味をあえて考察してみる(499)

 映画「I Am the Walrus」に出演したジョン

1 大胆な変化を遂げた

(1)1960年代後半

I Am The Walrus - Remastered 2009 ‑ 曲・歌詞:ザ・ビートルズ | Spotify

前回の記事でジョン・レノンサルバドール・ダリシュルレアリスムとの関係について解説しました。その続きのようなお話しになりますが、「I Am the Walrus」の歌詞について考えてみたいと思います。ジョンは、この意味不明な歌詞について、世間がああだこうだと議論するのを嘲笑って楽しんでいたのですが、あえて彼が仕掛けた罠にはまってもがいてみるのも逆に面白いかもしれません。

ビートルズの後期は、グループのサイケデリックで実験的な傾向によって特徴づけられます。ビートルズは、ありとあらゆるメディアからさまざまな情報源を引き出し、多種多様な要素を織り込んだ音楽を作り上げました。ビートルズは、1960年代後半に音楽に明確な変化をもたらした唯一のグループではありませんでしたが、彼らの作品は、間違いなく最も大胆な変化をもたらしました。

ビートルズの劇的な方向転換は、ドラッグの体験、その時代特有の反抗的な精神、ボブ・ディランの影響といったいくつかの重要な要因がなければ起こらなかったと言っても過言ではありません。彼らは、時代がもたらした産物であると同時に、大胆で新しい音楽の未来への道を切り開いた先駆者でもありました。

(2)ボブ・ディランの影響

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ディランは、バンドの軌跡にとって決定的な存在でした。彼らは、想像力と自覚のある同世代の人たちと同じように、プロテストソングを歌い始めたころから彼の大ファンだっただけでなく、ディランは、マリファナをバンドに紹介してバンドを一瞬にして変貌させました。

その影響は、1965年の「Rubber Soul」となって現れました。これは実質的にはドラッグの影響を受けて制作された初のアルバムであり、彼らがスタンダードな音楽から初めて本格的に脱却した作品でした。

この時代におけるディランの影響は、音楽的かつ精神的なものでした。彼は、1965年に「Bringing It All Back Home in 1965」で大胆にエレクトリックに転向し、プロテストソングから知的なシュールな言葉遊びへと移行したことで、ポピュラー音楽の範囲が広がったのです。

特にジョンは、この進化に魅了されました。ビートルズの最後の5年間で、彼の歌詞は、時折遊び心のある歌詞を残しながらも、より複雑で抽象的、そして世俗的なものになっていきました。この変化は、彼の作品がまとまり始めていたある種の展望の一部となりました。

 

 

2 様々な素材からヒントを得た

(1)ルイス・キャロルにインスパイアされた

ルイス・キャロル

この時期のビートルズとジョンの変化を最もよく表す曲の一つが、「I Am the Walrus」です。サイケデリック音楽の絶頂期にリリースされたこの曲ですが、バンドは、独創的なアルバム「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」でこのジャンルへのアプローチをすでに完成させていました。この曲は、シュールでほとんど意味不明な言葉遊びをしているように見えますが、かなりの深みと内容を持っています。

何度も反復されるエッグマンとグーグーガ・ジューブという言葉は、人々の脳裏にハッキリ刻み込まれています。エッグマンのモデルは、アニマルズのエリック・バードンであることは以前にご紹介しました。ジョンは、この曲が2回のLSDによるトリップ、ルイス・キャロルの資本主義に関する詩的な批判、「鏡の国のアリス」に登場する「The Walrus and the Carpenter(セイウチと大工)」、妻のオノ・ヨーコとの出会い、ビート・ジェネレーションの伝説的人物アレン・ギンズバーグが愚かなやり方でハレ・クリシュナ運動に人生を捧げたことにインスピレーションを受けたと説明しています。

(2)セイウチのアイデア

ルイス・キャロルの「セイウチと大工」

「セイウチのアイデアは、『不思議の国のアリス』の続編である『鏡の国のアリス』に出てくる詩『The Walrus and The Carpenter(セイウチと大工)』からきている」と1980年のプレイボーイのインタヴューにジョンは答えています。「ルイス・キャロルが、資本主義や社会システムについてコメントしているなんて思いもしなかったよ。ビートルズの作品について人々がそうしているように、彼の真意について深く掘り下げたことはなかった。後になって、この物語を読み返して、セイウチが悪者で、大工が善人だと気づいたんだ。ああ、間違った男を選んでしまった。『I am the carpenter』と言うべきだった。でも、それじゃ違うだろ?」

ジョンの「それじゃ違う」の真意はわかりませんが、もう人々の脳裏には「Walrus」がしっかりと刻み込まれています。ゴロもピッタリだし、結果的にこれで良かったんじゃないでしょうか?元々キャロルにインスパイアされたのがきっかけの一つですから、オリジナルに忠実である必要はないですし。

 

 

3 ある特定のターゲットがあった

(1)「ELOフリーク」に向けた曲だった

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この時期のジョンの曲は、彼の精神と人生経験を反映しており、表面上の突飛なサイケデリックさゆえに多くの人が見落としがちな深みを生み出しています。2016年に出版された「Lennon on Lennon: Conversations With John Lennon」には、1974年のラジオインタヴューが掲載されています。その中で、彼は「I Am the Walrus」は「ELOフリーク」に向けた曲だと明かしています。

ELOとはElectric Light Orchestraエレクトリック・ライト・オーケストラ)の略で、1971年、ジェフ・リンやベヴ・ベヴァンらが中心となってデビューしたイギリスのロックバンドです(混同されがちですがELPエマーソン・レイク・アンド・パーマー)とは別のバンドです)。この曲は、ELOに代表されるプログレサイケデリック・ポップのポピュラーな形態を崇拝する新しいタイプのリスナーのためのものだ。それは、これらのソングライターが含む本質的なテーマに沿ったものであり、言葉に込められた十分すぎるほどの思考の材料を与えてくれるからだ」と明かしています。

1960年代後半から70年代前半にかけて、クラシックやジャズ、現代音楽などの要素を取り入れた、高度な演奏技術による複雑で実験的な音楽ジャンルであるプログレッシヴ・ロックが大流行していました。ピンク・フロイド、イエスジェネシス、EL&P、キング・クリムゾンなどがその代表とされています。ジョンは、こういう曲を作ればELOフリークに熱狂的に受け入れられると考えたと発言しています。ただ、ELOがデビューした頃にはビートルズは解散していましたから、ELOフリークに向けて制作したというより、彼らが気にいるジャンルの曲だと言いたかったのかもしれません。

(2)お気に入りの曲の一つ

「それでは、『Magical Mystery Tour』から一曲演奏するよ。すごく奇妙で、私のお気に入りのアルバムの一つだ。『I Am the Walrus』だ」と彼は言い、「もちろん、私が作ったから、私のお気に入りの曲の一つでもあるんだ!」と付け加えました。自分の作品でさえ酷評する彼にしては珍しいですね。「でも、それは100年経っても人々の興味をそそるだけのちょっとした仕掛けが詰まった曲の一つでもあるからだ。これはELOフリーク向けなんだよ」ELOフリーク向けと自ら語っています。彼の言葉を裏付けるように半世紀以上経っても色あせていませんから、100年経っても人々の興味をそそることは間違いありません。

この曲を、一見してばかばかしく中身のない言葉の羅列でしかないと批判するのは簡単です。それでも、ジョンは、リスナーが何度も聴きたくなるような、音楽の背後にある精神をもっと深く掘り下げるような、テーマの肉付けをたっぷりと盛り込んでいました。それが、彼らが今でも世界最大のバンドである理由の一つでもあるのです。

 

 

4 「crabalocker fishwife」とは何だ?

この歌詞の意味について何百万人ものリスナーが歌詞の意味を探ろうとしています。それがジョンの仕掛けた罠であり、彼は、自分の曲を綿密に分析する人々を嘲笑しました。歌詞の一部は、意図的に意味不明にしているため、文学的な精査に耐えられないのです。確かに、歌詞の意味を理解しようとするのはナンセンスかもしれませんが、あえてチャレンジしてみましょう。それはそれで楽しいかもしれません。

中でも「crabalocker fishwife」は意味不明の最たるものです。なにしろ「crabalocker」という英語はなく、ジョンの造語なのですから。ですから、和訳しようがありません。「fishwife」とは、魚を行商する女、または口汚い女という意味の俗語です。今日に至るまで、この曲は、ジョンがLSDを常用していた当時の曖昧な想像力の中に包み込まれています。私たちにできるのは、それが何を意味するのかを推測することだけですが、的中させることはできません。おそらく、ジョン自身も答えられなかったでしょう。やはり一筋縄では行きませんね。でも、手掛かりはあるんです。もう少し探ってみましょう。

(参照文献)ファーアウト

(続く)

 

 

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