- 1 ビートルズの曲も放送禁止になった
- 2 Come Together
- 3 I Am The Walrus
- 4 A Day In The Life
- 5 Lucy In The Sky With Diamonds
- 6 Back in the U.S.S.R
- 7 Being for the Benefit of Mr.Kite
1 ビートルズの曲も放送禁止になった
(1)BBCが放送禁止にした
イギリスにはBBCという公共放送があり、日本のNHKとよく比較されます。設立されたのもほぼ同時期で、どちらも公共放送であり国営放送ではありません。いずれも運営の主な原資は国民からの視聴料です。BBCは、公共放送という役割を担っているので、放送の内容に関するチェックも厳しく、多くの曲が様々な理由で放送を禁止されました。
BBCによく出演していたビートルズといえども例外ではなく、内容が不適切だと判断された曲は放送を禁止されました。ここでは、禁止された曲とその理由について考えてみたいと思います。
(2)若者が大人に反発した時代
1960年代は、社会が大きく変化した時代でした。戦後の暗黒時代は終わり、西欧諸国では経済が発展し始めました。団塊の世代が大人になったこの時期に、彼らは、親たちの世代に公然と反旗を翻したのです。サイケデリック、ドラッグ、自由恋愛を取り入れ、戦争、人種差別、物質主義に反発しました。この傾向は日本も例外ではなく、大人に反発する若者たちがデモを繰り返し機動隊と衝突していました。
もちろん、ビートルズがヒッピームーヴメントを起こしたわけではありませんが、カウンターカルチャーの指導者の一人であったことは間違いありません。欧米の若者は、宗教を信仰しなくなり、ビートルズやローリング・ストーンズのようなミュージシャンをアウトサイダーとして崇拝するようになりました。
(3)ポピュラー音楽の世界でも
やがて、優等生だったはずのビートルズが、公にはされていなかったもののドラッグを摂取していることを窺わせる行動をとり始めました。彼らは、マーマレードの空について歌い、自分がセイウチだと主張するような破天荒な歌詞を書き始めると、その変化は社会の保守的な人々を悩ませることになりました。ビートルズに限らず若者に巨大な影響を及ぼすアーティストたちが、続々と大人に反抗的な態度を取り始めたのです。
ポップ・バンドが世代間の対立を生んでいたことは、1960年代には明らかでした。ロックンロールが快楽主義的なライフスタイルを賛美していたことに反応し、BBCは、当時の音楽が不愉快で違法な行為を助長していると判断し、検閲して不適切であると判断すると放送を禁止しました。それでは、BBCが禁止したビートルズの6曲を検討してみましょう。
2 Come Together
(1)そこに引っかかったのか?
確かに、この曲は、ジョン独特の意味不明の歌詞が並びますが、だからといってどこが放送禁止になるんだと疑問に思ってしまいますよね?BBCは、リリース当初はこの曲の歌詞に不快なものを見つけられませんでした。しかし、後に1970年にキンクスの「Lola」を禁止したのと同じ理由で禁止しました。BBCは、特定のブランドに言及する歌に対して厳しく規制していたので、「コカ・コーラ」という商品名は電波に乗せてはいけないことになっていたのです。
(2)本当に気付かなかったのか?
でも、私は、この話に疑問を抱いているんです。いえ、事実じゃないと言っているわけではなく、BBCが歌詞に含まれているコカ・コーラの本当の意味に気付かなかったのかって。
だって、これは、清涼飲料水じゃなくドラッグであるコカインの俗語ですから、引っかかるとすればむしろそっちの方でしょう。お堅いBBCのことですから、コカ・コーラがコカインのことだとは気が付かなかったのでしょうか?
そういえば、1969年、ジョンがトロントのロックフェスに参加した時に、プロモーターにコカインの意味で「コカ・コーラをくれ」と言ったら本当にコカ・コーラを持ってきてしまい、ジョンが鬼のような形相で睨んだというエピソードがありました。
ジョンは、かつてこの曲について、「あれは、スタジオで作られたものだ」と語っています。「(詩人のティモシー・)リアリーが大統領か何かになろうとしたときに思いついた表現で、彼は、僕にキャンペーンソングを書いてくれと頼んできたんだ。試行錯誤したんだけど、なかなか思いつかなかった。それでこの『Come Together』を思いついたんだけど、彼にとってはダメだっただろうね。こんなキャンペーンソングはありえないだろ?」そりゃ、これではキャンペーンにはなりませんね。
3 I Am The Walrus
この曲も意味不明な歌詞ではありますが、禁止にするほどかと思いますよね。歌詞には、死んだ犬、エドガー・アラン・ポー、エッフェル塔など、奇妙な言葉が延々と続きますが、BBCが引っかかったのは、「淫乱な尼僧」と「女性が下着を脱ぐ」という歌詞が、BBCの目には性的に露骨すぎるという理由で禁止されたのです。
この曲の歌詞について、ジョンは、かつてこう語っています。「言葉には大した意味はなかったんだ。人々は、多くの結論を導き出すが、それは馬鹿げている。僕は、ずっと舌打ちをしてきた~すべて舌打ちをしてきたんだ。ただ、他の人がそこにどんな深みを見出すか......『僕はエッグマンだ』って、本当はどういう意味なんだろう?『プリンの容器』でもよかったんだ。そんな深刻な話じゃないんだよ」
4 A Day In The Life
BBCは、薬物への言及があるとしてこの曲を放送禁止にしました。「turn you on」という言葉には薬物を摂取させる、あるいは性的に興奮させるという意味があるというのです。ポールは、ローリング・ストーン誌の取材にこのことについて語っています。
「ティモシー・リアリーの『ターン・オン、チューン・イン、ドロップ・アウト(1966 年にティモシー・リアリーによって広められたカウンターカルチャー時代のキャッチフレーズで、社会をぶっ壊せというような意味があった)』の時代だったんだ。そして、僕らは、あの歌詞を書いた。ジョンと僕は、お互いに知っているような顔をしてね。ああ、これはドラッグの歌だ。分かってよね?』って。そうなんだけど、同時に僕らの曲はいつも曖昧で、これは、性的な意味もあるから…もう勘弁してくれよ!」どうやら、ポールもこの歌詞に薬物や性的な意味があることを認めざるを得なかったようです。
5 Lucy In The Sky With Diamonds
この曲は、発表された直後から薬物との関係が指摘されていました。何しろタイトルの頭文字をつなぐとLSD になりますからね。歌詞の内容もサイケデリックで、いかにも薬物を摂取した際の幻覚症状のように聴こえます。
BBCは、この曲をLSDに言及したものとみなしました。当時、ジョンは、この疑惑に反論し、息子のジュリアンが持って帰ってきたクラスメートのルーシーが描いた絵に触発されたと説明した。
ジョンが語ったこの有名なエピソードは真実だと思います。しかし、同時に薬物との関係も否定できないでしょう。薬物でトリップした体験がなければ、「万華鏡のような目をした女の子」などというフレーズは思いつかなかったと思います。
6 Back in the U.S.S.R
上記の曲とは異なり、これは、セックスやドラッグの問題ではなく、政治的に物議をかもす歌詞のため発売禁止になりました。歌詞は、アメリカに長い間潜伏していたソ連(現ロシア)のスパイが帰国する嬉しさを表現した陽気なものです。しかし、発売と同時にアメリカではかなり強い反響があり、歌詞を鵜呑みにしてビートルズがソ連に親和的な意識を持っているという意味だと一部では受け止められたのです。そうではなくてソ連には自由がないということを裏から皮肉っているんですが、歌詞を額面通りに受け止めてしまった人が当時はいたんですね。
ところが面白いことに、この曲は、60年代後半に親ソ連的であるという理由で放送禁止になったわけではないんです。BBCは、この曲のリリースから22年後の1990年、第一次湾岸戦争(イラクがクウェートに侵攻し、アメリカを中心として編成された多国籍軍がイラクに勝利しクウェートを解放した)が始まった時に禁止を決定したのです。
BBCは、イギリス国民を動揺させる可能性のあると判断した曲を放送禁止にしました。ケイト・ブッシュの「Army Dreamers」やプラスティック・オノ・バンドの「Give Peace a Chance」といった反戦的な曲や、ボブ・マーリーの「I Shot the Sheriff」やアラームの「Sixty-Eight Guns」といった戦争、死、銃を撃つ行為に注意を向けるような曲も含まれていました。
それにしても、「Back in the U.S.S.R」がなぜ引っかかったのかよく分かりません。かつてイギリスと冷戦状態にあった旧ソ連が舞台だったからでしょうか?今にして思えば「過剰反応」でしたね。
7 Being for the Benefit of Mr.Kite
この曲は、主にジョンが書いたもので、サイケデリックなサーカスをテーマにした曲です。歌詞のほとんどは、19世紀にロッチデールで行われたサーカスのポスターがヒントになっています。
BBCが放送禁止にした理由は、「馬のヘンリー」という歌詞がヘロインを表す二つの俗語を組み合わせたという理屈です。確かに、英語の俗語で馬もヘンリーもヘロインの意味があります。これが意図的なものであったかどうかは分かりませんが、当時、ジョンは、この曲が麻薬と関係があることを否定していました。まあ、これは偶然でしょうね。
(参照文献)ファー・アウト
(続く)
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