- 1 ポールのツアーギタリストとして参加した
- 2 1週間で40曲以上を覚えるという過酷な課題を与えられた
- 3 レコーディングとステージの違い
- 4 ライヴの演奏はレコードと同じではない
- 5 ベースも演奏する
- 6 ソロを正確に演奏すること
1 ポールのツアーギタリストとして参加した
(1)ブライアン・レイとは
ブライアン・トーマス・レイは、2002年以来ポール・マッカートニーのツアーバンドでギタリスト、ベーシスト、バックヴォーカリストとしていつもポールを支えてきました。彼がポールのツアーに参加して学んだことについてお話しします。
彼は、ポールのツアーギタリストとして参加することになったきっかけについてこう語っています。「2002 年の初め、 同じくポールのツアーでドラムを担当しているエイブ・ラボリエル・ジュニアが私を2002年のスーパーボウルの試合前のショーでポールと一緒に演奏するよう推薦した後、プロデューサーのデビッド・カーンが私に電話をくれた」
(2)ギターもベースもできるミュージシャンが必要だった
「その夜、ニューオーリンズのホテルで最初の短いオーディション/パフォーマンスを終えて、みんなでおやすみなさいを言っていたとき、ポールが私の方を向いて『ブライアン、ようこそ!』と言ったんだ。私は、信じられなかった。私は、隣に立っていたエイブのほうを向いて『彼は今、私が聞いた通りのことを言ったのかい?』と尋ねた。するとエイブは、『そうだよ!』と答えた。それ以来、我々は、 16年以上一緒にいるけど勢いが衰える気配はまったくない」
そもそものきっかけは、エイブがポールにレイを紹介したことです。どうやら、ポールは、ギターもベースもできるミュージシャンを探していて、そのことをエイブも知っていたようです。というのも、ポールのツアーでは彼は主にベースを担当しますが、時々ギターやキーボードも担当するので、彼に代わってベースを担当してくれるミュージシャンが必要だったからです。ボールがレイのスキルを見て、これなら自分のバンドで使えると思ってスカウトしたというわけです。
2 1週間で40曲以上を覚えるという過酷な課題を与えられた
ブライアン・レイが2002年にポールのバンドに加入したとき、1週間で40曲以上を覚えるという課題を与えられました。いくら 一流のギタリストとはいえ、そんな短期間で数多くの曲を覚えるというのは相当困難だったと思います。 しかし、レイは意外にも冷静でした。
「幸運なことに、私は、ずっとビートルズを聴いていたので、彼らの曲のほとんどをすでに知っていた。もちろん、ポール・マッカートニー自身が率いるバンドで演奏するとなると、状況は大きく異なる。言うまでもなく、私はその曲にどっぷりと浸かった」
元々レイはビートルズファンで、何度も彼らの曲を聴いて演奏もしていました。しかし、そうは言っても、ボールのバンドでツアーとして参加するのであれば、高いクオリティーが求められます。
3 レコーディングとステージの違い
(1)単純ではなかった
しかし、レイは、すぐにビートルズの曲のレコーディング方法とステージ上での演奏方法には違いがあることに気づきました。「ファンとしてこれらの曲を聴いて評価するのは、私たち全員がそうしてきたように、それは楽しみ方の一つだ」
「しかし、それらを掘り下げて分析し始めると、その創造性と奥深さに驚かされる。単純に聴こえるものでさえ、まったく単純ではない。私は、これらの曲の素晴らしさに常に驚かされ、その気持ちはますます強くなっている」
(2)ギタリスト、ベーシストへのアドヴァイス
レイは、その稀有な立場から、ファブ・フォーの楽曲をレパートリーに取り入れたいと考えているギター(およびベース)奏者に対して、独自の洞察力を持っています。
「ビートルズのレコードを尊重するのは大切だ。一方で、カラオケのようなサウンドにはしたくない。私のようにレコードを聴いて育った人間にとっては、レコードはDNAの一部なんだ。アップストロークもダウンストロークもすべて覚えている」
「これらすべてを考慮すると、これらのレコードは、実際の人間が部屋で作ったものだということを覚えておくことが重要だと思う。ビートルズは、感じたことを演奏し、お互いに反応した。レコードの中には1テイクで行われたものもあれば、複数テイクを必要とするものもあり、それぞれが前のレコーディングとは異なっていた」
「もし、あなたが私と同じようにこれらのレコードを聴いて育ったなら、それらはあなたのDNAの一部だ。あなたは、アップストロークとダウンストロークをすべて記憶している」
4 ライヴの演奏はレコードと同じではない
(1)演奏スタイルは異なる
「ポールと演奏するとき、彼は、レコードのようにピアノ、ギター、ベースのすべてのサウンドを演奏しようとはしない。レコードのように歌ったりもしない。誰もレコーディングを真似しようとはしないんだ。ビートルズの曲を演奏したい人へのアドヴァイスは、自分の感じたままに演奏することだ。レコードを枠組みとして使い、あとはやってみることだ」
しかしながら、その一方でレイは、ギタリストは、ビートルズのギターの音色に近づくよう努めるべきだと考えています。「これは、曲をライヴで演奏する上で非常に重要な部分だと思う。オリジナルの精神で曲を演奏したいなら、音色を忠実に保つことが役に立つ」
(2)ギターの種類は多くなくていい
「ビートルズの6弦の音色パレットをカヴァーするのに、膨大な種類のギターは必要ない。たとえば、ビートルズの古い曲を演奏するときは、ジョージが当時使っていたような大きなホローボディのグレッチを使う。ペダルボードのEQを上げて、トレブリーを少し増やす。『All My Loving』のロカビリー風ソロを演奏するときは、スラップディレイをちょっと加える。これでうまくいく。ビートルズの後の曲では、ジョージが弾いていたSGやレスポールに方向転換する」
「難しそうに思えても大丈夫だ。この作業には大量のギター・コレクションは必要ない。フェンダーとP90ギター(SGのような)があれば、ビートルズの曲のほとんどを演奏できるはずだ」
「自分が聴いているサウンドにかなり近いものを選ぶだけだ。各ギターのアンプとEQを調整して、きれいな音や汚い音にしたり、少しコンプレッションを加えたりすれば、うまくいく。エフェクトをたくさん使う必要はない」
5 ベースも演奏する
(1)初めはただひたすら演奏した
レイは、ポールがギターやピアノを演奏しているときにグループのベースも担当しているため、彼のベースラインの演奏についても独自の洞察力を持っています。しかし、彼が感じたほど、この仕事が大変なものだと感じる人はいないでしょう。
「最初の6か月間は、ただパートを正しく演奏したいだけだったので、ほとんど目を上げなかった。ポール・マッカートニーが15フィート(約4.5m)離れたところにいるから、気を散らされたくなかったんだ。精神的におかしくなっていたんだろう」
(2)ポールのベースラインは再現できない
さらに、ポールは、彼のベースラインを同じしなやかなタッチと音色で再現するのは不可能だと認めています。「彼のフレットボードへのタッチはとても慎重でありながら、同時にとても軽やかだった。いくつかのレコードでは、彼がフレットレスベースを弾いているように聴こえる。フラットワウンド弦の上を滑るように弾いているのが聴こえる。彼の演奏は特異だ。おそらく、彼がギタリストからベースに転向したからだろう。私と同様、彼もベースが最初の楽器ではなかった」
「彼と同じベースを使うことは重要ではない。私は、へフナーやリッケンバッカーは使わない。バイクの後ろから引きずり出されたような1963年製のフェンダーPベースを弾いている。完全にボロボロだがサウンドは最高だ」
「ポールと演奏するとき、彼は、レコードと同じようにすべての音符を演奏しようとはしない。誰もレコードを真似しようとはしない」
(3)あるパートは本当に難しい
「そして、特定のパートは完璧に演奏するのが本当に難しいということを覚えておいてほしい。たとえば、『Getting Better』では、最初のコーラスで彼は、素晴らしいウォーキング4分音符のベースラインを演奏するが、他の2つのコーラスでは持続的な2分音符を混ぜている。ライヴで演奏するときは、その点を尊重したいと思っている。しかし、あるときリハーサルでコーラスを間違えたので、ポールが『毎回同じように演奏したらいいじゃないか』と言ってくれた。私は『レコードでやったやり方がとてもクールですから』と答えた。
「誰もポールのようにこれらの曲を演奏することはできないと承知の上で言うけど、いつものように、大切なのは情熱と愛を持って演奏することだ」
6 ソロを正確に演奏すること
最終的なルールとして、レイは、ビートルズの楽曲を最もうまく演奏するには、ソロを正確に演奏することが不可欠だと語っています。「ソロは、できる限り正確に演奏することが求められる。『Get Back』のジョン・レノンのソロを例に挙げよう。彼は、ポールのヴォーカルを真似していた。ジョンは、ソングライターだったから、あのソロにとても敬意を持って臨んだのだと思う。私は、ジョンと同じようにあのソロを演奏しようとベストを尽くしている。実際、両方のソロをね」
「最後にポールが少し伸ばすように勧めてくれたので、4小節ほど余分にやる。BBキングやクラプトンの感じを少し入れて、適切だと感じる何かをする。でも、まずは誰もが知っているソロを完璧に弾けなければ、そんなことはしない。他の方法で演奏することは考えられない」
(参照文献)ギター・プレイヤー、ポール・マッカートニー・プロジェクト
(続く)
この記事を気に入っていただけたら、下のボタンのクリックをお願いします。
下の「読者になる」ボタンをクリックしていただくと、新着記事をお届けできます。