1 ビートルズは常に革新的だった
ポップミュージック制作の世界に革命を起こしたバンドとして称賛されるビートルズは、数多くの音楽的革新で有名です。独自のレコードレーベルを設立することから、サンプリングの非常に初期の例を使用することまで、このバンドは新しい音楽技術とテクニックの追求に専念しました。しかし、その激しい革新性は、特にライブ環境で複雑な楽曲を演奏する際に、ビートルズにしばしば困難をもたらしました。
ビートルズの初期の頃、バンドは主にポップの世界に活気を与え、既存のヒット曲に独自のアレンジを加えることで評判を築いてきました。彼ら自身のオリジナル曲でも、彼らの音楽は、他の多くのバンドで成功したのと同じポップの定式に従う傾向がありました。
コード進行など曲のスタイルはとてもユニークでしたが、初期のバンドの構成はギターとベース、ドラムといったシンプルなものでした。キーボードなど他の楽器が加わるのはもう少し後になってからでした。ビートルズは、それでは飽き足らなくなり、サウンドや影響について実験し始めてから、彼らは、はるかに興味深く複雑な楽曲を制作し、アレンジや編集を加えるようになりました。
「Revolver」「Rubber Soul」、そして、もちろん「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」のようなアルバムは、ロックやポップミュージックの風景を永久に変え、時代を先取りしたバンドの物語を語りました。特に「Sgt. Pepper's」では、ビートルズはさまざまな革新的で新しいテクニックを採用し、曲の構成もどんどん複雑になっていきました。結果として生まれたレコードは、いくつかの曲がバンドのメンバーの頭痛の種であったとしても、間違いなく史上最高のアルバムの一つです。
2 「Being for the Benefit of Mr. Kite!」の複雑なベースライン
(1)演奏面でも優れていた
ビートルズの最大の強みは、通常、楽器の技術ではなく作曲、アレンジやレコーディングなどで発揮されていました。彼らの演奏テクニックは、1960年代の音楽シーンの中でその作曲能力に比較すると、特に優れているとは評価されていません。それでも、「Sgt. Pepper’s」は、ビートルズに、見過ごされがちな音楽の熟練度を披露する機会を何度も与えました。
彼らは、高度なテクニックをひけらかさずサラッと使っているので、リスナーには気づかれにくいのです。特にポールは、レコードに数え切れないほどの複雑なベースラインを注入しました。その中の一つが「Being for the Benefit of Mr. Kite!」です。
(2)ポールのお気に入りのベースライン
19世紀のサーカスのポスターから意外なインスピレーションを得たこの曲は、ポールの見事なベースラインが貢献したこともあり、「Sgt. Pepper’s」の中でも傑出した曲となっています。この曲のベースを演奏しようとした人なら誰でもすぐにわかるように、この曲は、一発で演奏するのが信じられないほど難しいのです。
しかし、その複雑さがポールにこの曲をお気に入りにさせたようで、彼は、インタヴューに答えてこの曲を「おそらく私のお気に入りのベースライン」と呼んでいます。ポールのビートルズ時代のベース演奏といえば、一般的には「Something」「Rain」などが傑作として挙げられることが多いのですが、本人はこの曲がお気に入りなのです。
3 複雑なベースライン
(1)歌いながら演奏するのは難しい
ポールは、こう語っています。「複雑だからだよ。ちょっと難しいベースラインなんだ。そして本当に難しいのは、歌いながらベースを弾くことなんだ」とポールは続けました。「頭はそちらに(ヴォーカルに)、指は(もう一方に)動くからね。それをやるのは本当に奇妙な組み合わせだけど、メロディアスなベースラインだし、僕は気に入っているよ」
ヴォーカルを担当するベーシストが難しいのは、メロディーラインとベースラインが一致しないことです。もちろんコードは同じですが、ベースはメロディーとは違うラインのため、ヴォーカルとは違うことをやらなければなりません。下積み時代から慣れっことはいえ、この曲のベースラインはとても複雑で、ヴォーカルを同時に担当するのはかなり難しいのです。
(2)ソロライヴでも演奏している
ただ、ベーシストであるポールにとって幸運だったのは、ビートルズは「Sgt. Pepper’s」のリリースの1年前にライヴ活動を中止していたため、彼がステージでこの曲を演奏することは想定されていなかったことです。もちろん、彼のことですから、たとえステージに立ったとしても何の苦もなく演奏できたでしょう。
しかし、この曲への愛を語るポールは、後にソロパフォーマンスでこの曲を披露し、この難しいベースラインを巧みに演奏するという大きな挑戦を自らに課しました。この曲を通常のセットリストに取り入れた後、彼は、2013年にローリングストーン誌に次のように語っています。「『Mr. Kite!』はとてもクレイジーで風変わりな曲なので、セットリストを一新できると思ったんだ。それに、この曲をやったことがなかったんだよ。ビートルズのメンバーでこの曲を(コンサートで)演奏した人は誰もいなかったんだ… 挑戦的な曲だよ」
70歳を過ぎてこの難しい曲をライヴのセットリストに入れるのは相当勇気がいるったと思います。しかも、これはジョンの曲で彼がリードヴォーカルを担当していました。しかし、ポールは、果敢に挑戦して見事に成功しました。
(3)他の楽曲のベースとの違い
この挑戦は報われたようで、この曲は、ソロとしてのライヴでファンにとって確実に人気の曲となりました。作曲されてから60年近くが経ち、ポールにはこの曲の演奏をマスターする十分な機会が与えられたのかもしれません。「Being for the Benefit of Mr. Kite!」のベースラインは、他のビートルズの曲といくつかの点で異なります。リズムとメロディーなどいくつかの要素でこの雰囲気を引き立てています。以下にその違いを挙げます。
4 具体的に何が違うのか?
(1)リズムとグルーヴ感
この曲のベースラインは、特にリズミカルでシンコペーションが多く、カーニヴァルの跳ねるような楽しい雰囲気を強調しています。つまり、ビートからわずかにずれた音を頻繁に演奏することで、曲のサーカスのような雰囲気を引き立て、ドライヴ感のあるほとんど飛び跳ねるようなリズムを生み出しています。シンコペーションは、曲のエネルギーを前進させるような、強く何度も繰り返されるテンポを生み出しています。
オフビートを強調した繰り返しパターンに従うことがほとんどで、ダウンビートではなく拍の「アンド」に音が落ち着くことが多くなっています。また、曲のマイナーな箇所を強調することが多く、暗く少し不穏なトーンを作り出す音を使っています。これは、他のビートルズの曲、例えば「Come Together」や「Something」などがよりスムーズで流れるようなベースラインであることが特徴なのとは対照的です。
(2)メロディアスさとハーモニー
その一方で、このベース・ラインは非常にメロディアスで、曲全体の混沌としたサーカスのような雰囲気に密接に沿った、独特のやや不気味で曲がりくねったパターンを特徴としています。しばしば半音階的な音を弾き、異なるオクターヴの間を飛び越えることで、曲にしっかりとしたハーモニーの基礎を提供しながらも、不安感を生み出しています。
対照的に「Hey Jude」や「Let It Be」などの曲では、ベースラインは、よりシンプルで和音の基盤を支える役割が強調されています。(1)とは矛盾しそうですが、それを何の違和感も持たせずに成立させてしまうところがポールの凄さです。
この曲では、ベースラインが他の楽器(特にオルガンやドラム)と密接に絡み合い、全体のサウンドに対して独特のテイストを提供しています。他のビートルズの曲では、ベースがより明確に和音のルートを強調することが多いのとは対照的です。また、ビートルズが実験的な音楽スタイルを追求していた時期の作品であり、ベースラインもその影響を受けています。他の曲、特に初期の作品では、より伝統的なロックやポップのスタイルに従ったベースラインが多く見られます。
これらの違いにより、この曲のベースラインは、ビートルズの他の楽曲と比べて独自のキャラクターを持っており、曲全体の雰囲気を形成する重要な要素となっています。
(参照文献)ファーアウト
(続く)
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