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ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

ブライアンが生きていればビートルズは解散しなかったのか?(302)

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ブライアンの急死を伝える新聞を食い入るように読む女性たち

1 永遠のテーマ

The Fifth Man: Brian Epstein and the Beatles - The New York Times

「ブライアン・エプスタインが生きていれば、ビートルズは解散しなかったのではないか?」という議論は、ビートルズが解散した1970年から50年経った2020年になっても未だに続けられています。

もちろん、これは現実の話ではなくあくまで仮定の話ですから、誰もが自由に議論できますし、証拠を示す必要もありません。ただ、仮定の話とはいえ、説得力を持たせるためにはある程度の論拠が必要です。

 1  ブライアンが生きていれば解散はしなかった

 2  ブライアンが生きていても解散した

結論は、この二つに集約されます。さて、あなたはどちらを採りますか?この問題について検討する前に、整理しておかなければならないことがあります。それは。ビートルズとブライアンとの間のマネジメント契約」のことです。

 

2 マネジメント契約が期限切れを迎える

(1)期限切れ寸前だった

The Beatles sign management contract with Brian Epstein – The Beatles Bible

1967年のビートルズとブライアンとの関係性について検討しておく必要があります。というのも、彼らは、マネジメント契約を1962年10月1日に締結し、その期間は5年間とされていたのです(1月に最初の契約を締結しましたが、リンゴが正式にドラマーとして加入したため改めて締結)。正確には、1967年10月8日をもって彼らの契約は失効する予定でした。しかし、図らずも期限が切れる前にブライアンが亡くなってしまったため、あまりそこは問題になりませんでした。

彼らがマネジメント契約を継続するつもりであれば、それを更新する必要がありましたが、果たして彼らにその気はあったのでしょうか?私は、ブライアンの死とビートルズ解散との因果関係について議論する際に、これを検討することが大きなポイントになると考えています。

(2)大事なことを見過ごしていないか?

ところが、意外にこの点については、見過ごされてしまいがちで、あまり議論されていません。でも、この点について検討をしないで議論しても、それこそ「砂上の楼閣」のような非常に危うく脆いものになってしまいます。

もし、彼らがマネジメント契約を更新しなかったら、どうなりますか?ブライアンが生きていてもマネージャーでなければ、もはやビートルズとは何の関わりもなく、当然、彼らの解散を止めることもできませんでした。

多くの人は、この前提を忘れて、マネジメント契約が半永久的に継続するという「暗黙の前提」の下に議論しています。確かに、あくまで仮定の話に過ぎませんから、そんなに突き詰めて議論する必要はないのかもしれません。

ただ、そうはいっても、推測する以上は合理的で筋道を立てた議論が必要です。前提が大きく変わってしまっているにもかかわらず議論を続けたとしても、それは、粗雑な議論であり、時間と労力のムダというものでしょう。

そこで、今回は、この点を踏まえた上で考察してみたいと思います。ここで、作家であり、ビートルズファンでもあるマイケル・ガーバーの見解を土台にして議論してみたいと思います。最終的にどう評価するかは、読者の皆さんそれぞれで判断してください。

 

3 契約を更新する気はなかった?

(1)数人の識者が指摘している

ビートルズのプロデューサーであるジョージ・マーティンは、78年に出版した著書「All You Need Is Ears」の中で、ビートルズは、間違いなくブライアンとの関係を解消するつもりだった。」と断言しています。そこまで断言する以上、彼なりに確証があったのでしょう。

ビートルズに最も近い立場にいた関係者の証言ですから、かなり重みがあります。そして、同じことを主張する人は他にもいます。

(2)アルバート・ゴールドマンの主張

ブライアンとビートルズの間の当初の契約では、マネジメントの手数料として収入の25%をブライアンが受け取ることになっていて、それが1967年10月8日で終了することになっていました。アルバート・ゴールドマンは、アメリカの学者であり作家ですが、彼は、2001年に出版した「ザ・ライヴズ・オヴ・ジョン・レノン」の中で、「ブライアンが1966年にEMIとの契約を再交渉した際に、自分がビートルズのマネジメントをするかしないかに関わらず、その収入の25%を永久に受け取るという契約書にサインしていた。ビートルズは、誰一人としてその契約書を見ていなかった。」とゴールドマンは書いています。

「後になってブライアンが何をしたかを知った時、彼らは、深くショックを受けた。」ゴールドマンの主張では、「ブライアンがビートルズを欺き、それを彼らが知った時にブライアンは終わっていた。彼が死んだ(自殺?)ために、この最後の裏切りは表面化しなかっただけだ。」*1

これがもし事実だとすれば、ブライアンがビートルズに献身的に貢献したという輝かしい功績の最後に泥を塗る結果となってしまいますが、私は信用していません。というのも、何の根拠も示されていないからです。

また、このゴールドマンは、かなりいかがわしい人物のようで、この著書についても根拠なく一方的な思い込みで書き連ねれたとしか思えないような記事を残しています。他の元メンバー、シンシア、ヨーコ、マーティンら関係者も一斉に彼を非難しています。なので、これについては信用しない方がいいでしょう。

 

4 フィリップ・ノーマンの主張

(1)ビートルズにその気はなかった

Philip Norman interview about Mick Jagger biography (part 4) - YouTube

ジャーナリストのフィリップ・ノーマンもその著書「シャウト!」でこの点について触れています。なお、この著書は、2020年にローリングストーン誌のコリン・フレミングが選んだ「ビートルズ関連書籍ベスト10」では7位にランク付けされています。もっとも、ポールは、内容に誤りがあるとして不満を漏らしています。

ゴールドマンがいい加減な記事を書いていたため、彼らの見解が一致している箇所は少ないのですが、期せずしてこのショッキングな事実については一致しています。ノーマンは、イギリスで多くのアーティストのマネジメントを引き受けていたラリー・パーンズの言葉を引用し「彼(ブライアン)は、すでにシラ(ブラック)を失っており、ビートルズは彼に(契約を更新しない意向を)通告していた。」*2

シラは、ビートルズと何度か共演したこともある人気女性ソロシンガーです。ブライアンは、彼女ともマネジメント契約を締結していました。しかし、彼女との契約はすでに切れていたのです。ノーマンも「ビートルズは、ブライアンとの契約も更新しないつもりだった。」と主張しています。

(2)結論は同じだが理由が違う

しかし、ここで一つ気になることがあります。ゴールドマンとノーマンは、その理由について意見が分かれているのです。

ゴールドマンは、ブライアンに対して不満を抱いていたのはジョンであり(アラン・クラインに対して、ブライアンとは確実に手を切るつもりだったと語った。)、逆にポールは、ブライアンとの距離を縮めていたのではないかと示唆しています。

これに対してノーマンは、全く逆のシナリオを描いており、ポールは、ブライアンがEMIとの再交渉を行ったことについて、特に感慨を抱かなかったと述べています。「ビートルズは、マネージャーをもはや必要としないと感じるようになり、ポールがその考えを主導した。」とノーマンは語っています。

5 ジョナサン・グールドの主張

Amazon | Can't Buy Me Love: The Beatles, Britain, and America | Gould,  Jonathan | Rock

以上を踏まえて、ジョナサン・グールドの「キャント・バイ・ミー・ラヴ」を読んでみると、注目すべき価値のあるもう一つのヒントがあります。「1967年5月に彼が睡眠療法を受けていた療養所を訪れた友人たちは、彼がグループのマネージャーとしての彼の将来について疑問を表明しているのを聞いて驚いた。」では、ブライアン自身は、自分がビートルズのマネージャーではなくなると思っていたのでしょうか?結論を急がずに、グールドの言葉を引用してみましょう。

「エプスタインとポール・マッカートニーは、ビートルズが所有する投資会社の設立について議論を始めた。後に『アップルコア』と呼ばれる会社の構想は、1967年10月にグループとの契約が満了したときに、ビートルズとNEMSの利害関係を切り離そうと考えていたエプスタインの計画と完全に一致していた。1967年8月のメロディーメーカーのインタヴューでは、彼は、自信を持って『彼らが他の誰にもマネージメントされることに同意しないと確信している。』と応えていた。」*3

さて、以上の情報をどう整理したらいいでしょう?話が長くなるので続きは次回で。

 

(参照文献)ヘイ・ダルブログ

(続く)

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*1:アルバート・ゴールドマン「ザ・ライヴズ・オヴ・ジョン・レノン

*2:フィリップ・ノーマン「シャウト!」

*3:ジョナサン・グールド「キャント・バイ・ミー・ラヴ」