※この記事は、映画「Get Back」の「ネタバレ」を含んでいるので注意してご覧ください。
1 耳コピで楽譜を書いていた
(1)ビートルズからは提供されていなかった
グリン・ジョンズが出版物の歌詞に間違いがあることをディック・ジェイムズに指摘すると、彼は「ミスはあるが、なくす努力をしている。」と応えました。「我々が校正し、2人がチェック。最後にジョージ・マーティンが見る。それでミスがあったら純然たる見過ごしだ。」レコードに添えられている歌詞カードは、こんな風にして制作されていたんですね。
元々ジョン、ポールそしてジョージ(リンゴも)が制作した曲ですから、彼らから歌詞とコードを書いたメモを渡してもらえば何の間違いも起こりません。普通は、楽曲の制作者が音楽出版社に対して楽譜(少なくとも歌詞とコード)を提供します。そうでないと出版できませんから。
(2)なぜ直接受け渡ししなかったのか?
それなのに、ジェイムズは彼らから何も受け取らず、ノーザン・ソングス社の担当者がレコードを聴いて楽譜を起こし、社内の校正を経たうえで、マーティンが最終的にチェックするという大変回りくどいことをしていたわけです。ビートルズが制作したものをそのままジェイムズに渡すだけでよかったはずなのに、なぜこんなことをしていたのかは分かりません。小説だって作家が書いた原稿を出版社に渡し、それが本として出版されるのですからね。
しかも、ジョンズは、校正していても間違いがあると指摘していました。そりゃ、耳コピだから間違えることもありますよ。ビートルズは、楽譜は書けなかったからそこは仕方ないとしても、歌詞とコードは分かっていたんですから、それを渡せば良かったのになぜそうしなかったんでしょうか。
2 0.5%分の話とは?
(1)ホッグが話していた?
ジョージが少し遅れてスタジオにきてホッグに挨拶し、彼がそれに応えました。そして、「リンゴ『君の0.5%分の話聞く?』」と字幕が入りますが、私は、これに違和感を覚えました。同じ個所を何度聞き直してもリンゴの声ではなく、ホッグの声です。しかも、リンゴの横顔が映っていますが、明らかに彼は、何も話していません。
この時、ホッグは、後頭部が映っているだけなので分かりづらいのですが、彼がジョージに尋ねた言葉のようです。ジョージがカメラの正面に座っており、ホッグは彼の右斜め前に座っていましたから、彼がジョージに話しかけるには自然に顔を左斜め前に向けるため、カメラに後頭部を向ける形になります。
(2)0.5%分の話とは?
おそらくこの「0.5%」とは、リンゴが保有しているノーザン・ソングス社の持株比率のことではないかと思います。ジョージもリンゴも同社の設立時に株式を保有していたのですが、1965年に同社が株式を公開したため彼らの持株比率が下がり、この頃には0.5%になっていたと思われます。ジョージは「別に」とやんわり断りました。もう知ってる話ですし、彼にとっては思い出したくもない話ですからね。
ジェイムズは、何とかビートルズの機嫌を取ろうとあれこれ話しかけていました。これもたらればのお話ですが、彼がビートルズにもっとに有利になるよう契約を見直していれば、メンバー同士のギスギスした雰囲気もかなりマシになっていたでしょう。
3 「Get Back」のセッションを再開
(1)ポールが再び仕切りだす
ジョンズがスタジオにコントロールルームをセッティングしている様子が映し出され「即席コントロールルームは完成間近」と字幕が入ります。その間にビートルズは「Get Back」のセッションを行いました。ポールがジョンに何か話しかけています。どうやらAメロのギターの奏法についての話だったようで、ジョンが何度か試しています。
ポールがギターのアレンジについて、ジョージにあれこれと指示を出し始めました。「普通にコードをひいてたろ。普通のAを。ドラムと一緒に迫って。いいかい?」「もっとひいてくれなきゃ、リードのところを。」
どうやら、ポールのヴァースの「Get Back」の直後のギターの奏法について指示していたようです。ただ、ポールもやって欲しいことを表現する適切な言葉が見つからず、イラついていた様子がうかがえます。ジョージは黙って聞いていましたが、内心は面白くなかったでしょう。
(2)レコードの音源に近づいてきた
ポールは、この曲をクラシックなロックっぽいアレンジにしたかったようです。彼があれこれと注文をつけるのにたまりかねたジョージが、「クラプトンを呼べよ。」と応えました。これに対し、ポールは「ジョージが要る。君が必要なんだ。ただ、シンプルにやって欲しい。」と応えました。要するに、昔のロックンロールみたいに、シンプルにあまりテクニックを使わないでくれ、ということですね。
「リンゴと一緒にオフビートで頼む。」ポールは、リンゴには殆ど何も言わないのに、ジョージにはやたらと注文をつけていたのが目立ちます。もっとも、これも編集されてますから、リンゴに指示していたカットもあったのかもしれません。
ジョージが指示通りにやってみると、レコードの音源に近づいて来ました。つまり、ポールの指示は的確だったことが分かります。とはいえ、ジョージもこれだけこと細かく指示されるとウンザリしますよね。何しろ弾くたびに注文を付けられるんですから。
4 「ジョジョ」は単なる思い付きだった
(1)ジョンとは無関係だった
ポールは、セッションを続けながら、まだ完成していなかった歌詞に取り組みました。驚くべきことに、ジョンが自発的にポールが思いついた歌詞をメモし出したのです。ポール「ロレッタ・マーシュは女と思ってた。」「欧米風の名前は何だろう?ジョジョ…。」
ここで初めてこの曲の主人公であるジョジョの名前が登場しました。ポールが思いついた主人公の名前をそのまま歌詞に採用したんですね。「君が元いた場所に帰れ」という歌詞を含むこの曲は、ビートルズから離れようとしているジョンに対するポールのメッセージ・ソングと受け取られがちです。ジョジョという名前も、ジョンを想定しているのだと考えられてきました。しかし、この制作過程を見る限り、ポールがたまたま思いついただけで、ジョンと似ているのは偶然の一致に過ぎなかったことが分かります。
(2)ジョンが歌詞を補足した
名前はジョジョと決まりましたが、姓の方が決まりません。ポールは、カーター、ウィリアムズなど色々な名前を思いつくまま並べました。そして「ジョジョ・ジャクソンはアリゾナの家を出たが…」ようやくここまで出てきましたが、後が続きません。
そこで、ジョンがポールの歌詞を補足して「彼はそれが続かないと知っていた」と続けました。レノン=マッカートニーというクレジットで長年にわたって共作してきた彼らでしたが、解散から約1年前のこの頃にはもうとっくにそんな関係は解消していました。しかし、なぜかこのシーンを観ると、それでもわずかながらお互いに協力し合っていたということが分かり、少しホッとした気持ちになりました。
5 オレは辞める
(1)クラブで会おう
セッションが終わり、ランチ休憩に入りました。ここで突然ジョージが「バンドを辞める。」と言い出しました。「いつ?」「今だ。」「代わりを探せよ、NME(音楽誌)で募集すればいい。」「また、クラブで会おう。」という言葉を残してスタジオを後にしました。色々なことでフラストレーションが溜まっていたうえに、セッション中にポールからあれこれ指示されたことでついに我慢の限界が来たんですね。ホッグもさすがにこれはまずいと判断し、カメラを止めました。
そして、ジョージがその日に書いた日記がクローズアップされます。「1969年1月10日 起床 昼までリハーサル ビートルズを脱退 帰宅」とのみ記されています。こんなプライベートなものをいつどうやって撮影したのでしょう?
(2)3人の話し合い
昼食後、ジョン、ポール、リンゴの3人は、スタジオへ戻りました。ジョン「辞めるなら辞めさせろ。戻らないならクラプトンを入れる。」ジョンの口からこの言葉を初めて聞いた時は耳を疑いました。10年以上にもわたり苦楽を共にしてきたメンバーの1人が脱退したというのに、突き放したようなものの言い方です。しかも、ジョージの代わりにクラプトンを入れるなんて。
ここで、ビートルズの運転手からアップルコア社の経営責任者となっていたニール・アスピナルが登場しました。彼は「ジョージの立場はつらいよ。何かやったり演奏するとなると彼対ジョンとポールだ。それが続けば最後はキレるさ。」とジョージの行動に理解を示しました。彼は、メンバーではなかったため、却って客観的にビートルズを見ていて、ジョージの置かれた辛い立場をよく理解していたのです。
(3)復帰するよう説得することにしたが
印象的だったのは、ジョン、ポール、リンゴの3人が寄り添うようにスタジオの隅で話していたことです。彼らは、ジョージを説得して復帰するよう決断しました。彼らもこのまま放置できないと考えたのです。ここまでで10日の撮影は終わりました。
12日の日曜日に3人は、ヨーコとリンダを加え、リンゴの家に集まり、これからどうするかを話し合いましたが結論は出ませんでした。これでパート1は終わりです。この結論を知らない人は、これからどうなるんだろうとヤキモキしたかもしれません。
(続く)
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