★ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログ★

ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

ようやくルーフトップにたどり着いた(372)

アップルビルの屋上を下見するリンゴとポール

※この記事は、映画「Get Back」の「ネタバレ」を含んでいるので注意してご覧ください。

1 即興で「Can You Dig It」を演奏

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ビートルズは「Can You Dig It」を演奏し始めました。これは珍しく全員の名前がクレジットされています。映画の字幕では「Dig It」と表記されています。しかし、この日レコーディングされた曲は、12小節のブルース形式で、歌詞もメロディーも「Let It Be」に収録された「Dig It」とは異なっています。

演奏している途中で、ジョージの妻のパティがスタジオに入って来ました。以前なら家族といえども立ち入り禁止でしたが、ジョンがヨーコを同伴するようになってからその不文律も破られました。ジョンは、演奏が終わった後「ジョージー・ウッドの『キャン・ユー・ディグ・イット』でした。次は『聞け 天使が来る』です」とふざけて裏声でセリフを入れましたが、この部分がアルバムに採用されました。

 

 

2 インドがビートルズにもたらしたもの

(1)インドで覚醒したビートルズ

インドに滞在したビートルズ

撮影16日目の25日を迎えました。ここで、インドに滞在していた当時のビートルズの記録映像が映し出されます。スタジオでは、ポールがメンバーとインドに滞在していた時の思い出話をしています。猿が交尾しているシーンが記録されていますが、ボールがこれをヒントに「Why don’t we do it in the road?」を制作したのは有名な話です。

ポールは、こう語りました。「僕らはもっと自分自身でいるべきだった。」しかし、それに対してジョージが「『自分自身でいる』ってジョークもいいところだな。自分は何者かを探しに行ったわけだから。」と反論しました。

ポールは「で、見つけた。」と応えましたが、ジョージは「そうなら、全員今みたいになってない。」と結論付けました。ジョンは「Act naturally(自然に振る舞え)か。」と言葉を足しました。これはもちろん、リンゴがかつてアルバム「Help!」でレコーディングしたカヴァー曲のタイトルです。

何だか禅問答みたいなやり取りですが、彼らは、インドへ自分探しの旅に出て、超越瞑想を体験し、眠っていた自我が覚醒しました。インドへの訪問は、ビートルズに多大なインスピレーションをもたらした反面、互いの自我が衝突することによるメンバーの分裂という大きな副作用ももたらしたのです。

(2)レコーディングが進まない

ビートルズにレコーディングを進めるよう促すジョンズ

この日ビリー・プレストンは、1日テレビに出演していてレコーディングに参加できませんでした。ビートルズは、またダラダラとオールディーズを演奏して時間を潰します。

やっとやる気を出したジョンの掛け声で「Two Of Us」のレコーディングを再開しました。しかし、再開したものの、相変わらず真剣なレコーディングではありませんでした。プレストンがいなくなったとたんにこれです。

たまりかねたのか、ジョンズが「一曲ずつ仕上げるんだろ?弾けるようにね。撮影するんだろ?そして、仕上げたら次の曲にかかる。」と口を挟みました。なかなか曲が仕上がらず、ビートルズが本当にレコーディングする気なのかどうか、彼も苛立っているようです。彼が別の仕事で出発するのは木曜日、そしてこの日は土曜日です。もう本当に時間がありません。

 

 

3 「For You Blue」が登場

(1)ジョージのひらめき

ラップ・スティール・ギターを弾くジョン

ここでジョージが「ピアノなんだけど、悪いピアノの音が欲しいんだ。」と話し始めました。何かひらめいたようです。「グリン、古いホンキートンクの音にできない? グランドピアノの音でなく。」と注文をつけました。

ホンキートンクとは、カントリー・ミュージックを演奏する酒場です。大体そういうところには安っぽいピアノが置いてあるんですね。スタジオにあるのは、ブリュートナーのグランドピアノでした。ホンキートンク風の音にするために弦の上に新聞紙を引きました。せっかくのブリュートナーも台無しですね。

ジョージが続けます。「この曲でイメージしたのは昔のブルースマンだ。ひどい制作環境の中で1テイクで完成させちゃう。僕らは4テイクだな。」「For You Blue」がここで登場しました。

(2)ほぼ完成に近かった

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映画「Let It Be」でも撮影されたレコーディング・シーンが登場します。ジョンが持ち込んだラップ・スティール・ギターを膝の上に置き、バーで弦を押さえて演奏しています。おそらく、彼は、それまでほとんどこの楽器を演奏したことはなかったはずですが、なかなか上手いものですね。

1テイク撮りましたが、ほとんどアルバムに収録されたヴァージョンに近い仕上がりになっています。どうやら曲としては、既にこの時点で完成していたようです。ジョンは、自分のギターがいい感じだったのに気を良くして、もう1テイク演奏しようとジョージを促しました。

レコーディングを終えてコントロール・ルームでテープを聞いたジョンは、珍しくもう1度やろうとメンバーに促しました。ボールが「何で?何のために?」と尋ねました。いつもとは逆のパターンですね。それに対してジョンは「彼の望むギターのため」と応えました。そして、もう一度レコーディングされたテイクが最終的にアルバム「Let It Be」に採用されることになったのです。

 

 

4 ライヴ撮影ができない

(1)プリムローズ・ヒルでのライヴは取りやめ

ここで、「プリムローズ・ヒルでのライヴは不可能となる」とだけ字幕が入ります。なぜ取りやめになったのか理由は示されていません。おそらく、セキュリティーの関係で問題があるとして、当局が許可しなかったんでしょうね。

ビートルズの久々の有観客ライヴということになれば、たとえゲリラ・ライヴで行ったとしても、噂を聞きつけた群衆が狭いエリアに殺到しますから、思わぬ事故が発生した可能性は大いにありました。ですから、ここでのライヴを断念したのは適切な判断だったと思います。

(2)ビートルズと監督との意見の食い違い

演奏はやりたいと主張するジョン

ホッグ監督は、「元はショーとアルバム、ショーのライヴ盤だ。今はショーが消えてる。」と危機感を露わにしました。彼としてはライヴを撮影するのが究極の目的でしたから、それをやらないのでは撮影している意味がありません。

これに対してジョンは「演奏するのは好きなんだ。ただ、ステージで演奏するだけなら。だから、特番に賛成した。弾くだけだ。誰もライヴや特番をやりたくない。要するに誰も外に出て行きたくないわけだ。僕はただ流れに任せてやってきた。」

ビートルズとホッグとの意見が食い違っているのはこの点ですね。ビートルズは、演奏すること自体はむしろやりたいんですが、有観客となるとセキュリティーの問題等で抵抗があったのです。ポールも何とかこのプロジェクトを盛り上げたいと思っていましたが、なかなか良いアイデアが浮かびません。

(3)ホッグは有観客のライヴにこだわった

有観客のライヴにこだわるホッグ

しかし、ホッグは、どうしても有観客でやりたいという主張を変えませんでした。彼は、そもそもテレビの特番を撮影するということで招かれたわけですから、そう考えるのが当然でしょう。

それがレコーディング風景の撮影で終わってしまったのでは、盛り上がりのないただの記録映像になって、もはや特番とはいえなくなってしまいます。しかも、ダラダラ演奏している時間が大半でしたから。もちろん、記録としては大変貴重なものが残されたことにはなりましたが、それは、当初の目的ではありませんでした。

ビートルズと監督は、根本的なところで食い違ってしまっているので、なかなか妥協点が見つからないわけです。プロジェクトの企画を曖昧なまま始めてしまったため、行き詰まってどうにもこうにもならなくなってしまいました。

 

 

5 ついにルーフトップのアイデア

(1)ホッグとジョンズが捻り出した

ジョンズの提案に目を輝かせるポール

ビートルズは、色々と話し合いましたがなかなかまとまりません。ここで次のような字幕が入ります。「あと数日で別のライヴ会場を確保するのは不可能だ。だが、ボールが望む盛り上がりについて、マイケルとグリンからある案が出された。最も手頃な場所で最終ライヴを行うという案…」

グリンからこのアイデアを提供されたポールが目を見開き、喜んだように見えました。ここでようやく、ルーフトップ・コンサートのアイデアが出たのです。難産の末に最も望ましい形に落ち着いたと言えるでしょう。

ビルの屋上ですから通行人からは見えないし、野次馬が殺到することもないので、セキュリティーの問題はありません。ビートルズも観客が見えませんから、プレッシャーを感じないで演奏できます。

ただ、問題はロンドンのど真ん中で、大音量でコンサートをやればすぐに近所から警察に通報が入り、警官が駆けつけてくる事態になるということです。騒音を撒き散らした「治安妨害」ということで逮捕されてもおかしくありません。しかし、むしろビートルズは、その方が面白いと思っていた節があります。

(2)治安妨害に問われるかも

屋上ではしゃぐリンゴとポール

ポール、リンゴ、マル、ホッグが屋上を下見しました。ホッグは、犯罪に問われるおそれがあることを懸念していました。彼が撮影の総責任者ですから、ビートルズより彼が逮捕される可能性の方が高かったですからね。

ここでまた字幕が入ります。「問題は機材の重量に屋上が耐えるかだ。」そうです、ビルの屋上は、そもそもそんな重量のある物を置く設計にはなっていませんから。結果的にはできたんですけどね。重い機材を置いたせいで天井に穴が開き、ビートルズがドスンと落ちたら大事故になったところでした。演奏が全部終わった後で、そんなハプニングが起きたらもっと盛り上がったかもしれませんが。

(続く)

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