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ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

映画「Get Back」はビートルズの歴史を塗り変えた(総括)(381)

1 歴史を塗り替えた

トィッケナム・スタジオでのレコーディング

映画「Get Back」についての解説は前回で終了したのですが、もう一度映画全体を振り返ってみて、この映画がもたらしたものは何だったのかを考えてこのシリーズを締めくくりたいと思います。

私は、「この映画が素晴らしい芸術作品であると同時に、ドキュメンタリーとしてビートルズの歴史を塗り替えた」と考えています。というのも、前作の「Let It Be」では明らかになっていなかったことが、今回多く明らかにされたことです。それによって今まで我々が知らなかったことや誤解してきたことが数多くあったことに気づかされました。

もちろん、膨大なフィルムやテープが残されていて、それらの多くがピーター・ジャクソン監督によってカットされています。その中にも多くの真実が含まれているはずですが、残念ながらそれらは公開されていないため、我々は知ることができません。できればカットしない全体を知りたいのですが、それが公開される可能性は低いでしょう(ただ、研究者にだけでもいいので、限定的に公開してもらいたいとは思いますが)。

2 ポール主導で始めたのではなかった

(1)全員の総意でスタートした

Hey Jude」のプロモーションビデオの撮影

従来「Get Back/Let It Be」セッションはポールが主導し、あまり乗り気でない他の3人をリードする形でレコーディングしたという考え方が主流でした。それは多分に前作の影響があったからでしょう。

しかし、実際にはそうではなく「Hey Jude」のプロモーションビデオが2年振りのライヴでうまくいったことに気を良くしたビートルズが、次回は、ライヴ・アルバムを制作しようとして企画したのがこのセッションだったということが明らかになりました。つまり、全員の総意だったのです。

最初は映画にするつもりではなく、テレビの特番用の撮影という企画でした。ただ、企画自体がボンヤリしたものだったうえ、肝心の新曲がまだ仕上がっておらず、そもそもアルバムを作成すること自体に無理があったのです。期間が短かったのがさらに大きなプレッシャーになりました。それでセッション全体がダラけた感じになってしまったところは変わっていません。それでも、セッションを始めたのは4人全員が同意したことであり、決してボールが主導したわけではなかったのです。

(2)「ヤラセ疑惑」はデタラメだった

警察署に電話するダッグ巡査

通報を聞いて駆けつけた警察官を屋内から撮影していたシーンがあったため、「警官が駆けつけたのはヤラセだったのではないか」という疑惑が以前からありました。しかし、警官を撮影できたのは、隠しカメラが仕掛けられていたことによるものでした。しかも、それは前作を制作したマイケル・リンゼイ・ホッグ監督が、ビートルズが屋上で演奏すれば警官が駆けつけてくることを予想して仕掛けたものでヤラセでも何でもなかったのです。

 

 

3 ヨーコは何もしていなかった

ジョンを見守るヨーコ

ビートルズが解散した原因はヨーコがアンプの上に座っていたからだ」という話がまことしやかに語られてきました。しかし、彼女は、ジョンのそばにベッタリとくっついていたものの、特に何をするわけでもなくそこにいただけでした。

彼女は、レコーディングの間中編み物をしたり、リンダとおしゃべりしたりしていただけでした。時には、ジャムセッションで奇声をあげたりしたことはありましたが、あからさまにレコーディングの邪魔をするようなことはありませんでした。

ポールが「50年経ったらヨーコがアンプの上に座っていたからビートルズは解散したと言われる」とジョークで発言しただけです。これは単なる偶然ですが、驚くべきことにこの映画が公開されるまでは本当にそんな噂が流れていました。確かに、彼女がスタジオにいたことで他のメンバーにストレスがかかったのは事実でしょう。しかし、具体的に彼女が何をしたというわけではありませんでした。

 

 

4 ジョージの不満

(1)ついに脱退するまでに

ジョージの脱退に慌てる3人

ジョンとポールはずっとジョージを格下に見ていました。彼の作品がなかなかビートルズのアルバムやシングルに採用されなかったのはそのことを裏付けています。しかし、彼が自分の扱いに不満を募らせて一時脱退した時に、ジョンとポールが二人だけで真剣に話し合ったことは明らかにされていませんでした。

前作のホッグ監督は、秘密録音という掟破りの手法で彼らの会話を盗聴したのです。もちろん許可を得ずに録音したものですから、それを映画に使用できなかったのは当然でしょう。しかし、お陰で貴重な記録が残されました。

(2)ジョンとポールはことの重大さにやっと気づいた

ジョンもポールもジョージの脱退に驚き、話し合って彼の立場を理解しない自分たちに問題があると反省したのです。惜しむらくは、このような話し合いがもっと行われていれば、あのような形での解散にはならなかったのではないかということです。

ジョンがジョージの「I Me Mine」のレコーディングの時に、ヨーコとダンスを踊っているシーンが切り取られ、全く見向きもしていなかったように思われてきました。しかし、実際にはジョンやポールは、ジョージに様々なアドヴァイスをしたり、アレンジを提案したりして協力していたのです。

 

 

5 作曲過程が明らかになった

(1)みるみるうちに「Get Back」が完成した

「Get Back」を瞬く間に完成させたポール

アーティストがレコーディングするシーンは時折公開されたりしますが、おそらく作曲しているシーンはまず公開されることはないでしょう。それは、アーティストにとって一番見られたくないところだからです。それは音楽という芸術の特殊性かもしれません。

しかし、今回の映画では目の前で次々と作品が出来上がっていくところが明らかになりました。他の作品も同様です。これは、ほとんど他に類例を見ない異例のできごとです。最も顕著な例は「Get Back」でしょう。ポールがベースを適当に弾きながら口ずさんでいく中で、もうメロディーとコードがほぼほぼ出来上がっていたのは驚きでした。

(2)歌詞は後で完成させた

歌詞は、まだこの時点では完成していませんでした。そして、最初作った時はイギリスの移民政策に反対するプロテストソングという位置づけだったのです。しかし、そのままだとむしろ逆に移民に反対しているように受け取られかねないため、歌詞を変更してジョジョという架空の人物を作り上げました。誰しもジョンのことを指していると考えていましたが、実は語呂がいいから使っただけで深い意味はなかったのです。

(3)仮の言葉を入れておく

作詞方法として面白かったのは、ジョンがジョージにアドヴァイスしていたところで、いい歌詞が思いつかなければとりあえず適当な言葉を入れておいて、後で書き換えればいいと言っていたことでした。これは合理的な方法ですね。

ジョージは、名曲「Something」の制作にあたってかなり苦戦していました。特に歌詞がなかなか思い浮かばずジョンのアドバイスを受けました。このレコーディングには間に合いませんでしたが、「Abbey Road」には間に合わせました。

(4)レコーディングの途中でも書き換えた

ジョンもポールも一旦書いた歌詞でも気に入らなければ、レコーディング中でもどんどん書き換えていました。「Don’t Let Me Down」などの名曲でも、ジョンは、レコーディング中にひらめいた歌詞をすぐに書き換えていました。こうやって様々な名曲が出来上がっていたという過程を知ることができただけでも、この作品を観た価値があったと思います

 

 

6 ジョンはライヴに前向きだった

(1)笑顔もジョークもあった

ふざけるジョンとジョージ

確かに、この頃のビートルズの人間関係は決して良好だったとはいえませんでした。しかし、全く暗い雰囲気だったのかというと必ずしもそうではなく、笑顔もありジョークを飛ばしていたところも数多くあったのです。本当に仲が悪ければそもそもスタジオに集合することもしなかったはずですし、スタジオに入っても目を合わせなかったり口も聞かなかったりするはずです。

緊張関係の中にありながらも、互いに協力してレコーディングしようという姿勢は見て取れました。「解散」という言葉も出てきましたが、まだこの時点では具体的にその動きはありませんでした

(2)ジョンはライヴをやりたかった

これまでは、ジョンがライヴに反対していたと伝えられてきました。しかし、今回の作品ではむしろ彼は演奏したいと前向きだったのです。彼が懸念していたのは、セキュリティーの問題でした。それさえクリアできれば彼は人前で演奏するつもりだったんです。

むしろ、ライヴに積極的だったと言われてきたポールが一番反対していました。それは観客の前で演奏する仕上がりになっていないという理由でした。しかし、ジョンは、数曲ではあるがもう十分に仕上がったと考えていたのです。

ルーフトップで演奏された曲は、その後アルバム「Let It Be」に収録されるぐらい曲も演奏の完成度も高かったのです。真冬のロンドンのビルの屋上で、指がかじかむような寒さという劣悪な状況の下で、よくアルバムに収録できるほどのクオリティーの曲を演奏したと感心せざるを得ません。しかもセッションは、殆どだらけた雰囲気の中で行われていましたのに、いざ本番を迎えるとバッチリ決めてしまったところがビートルズの凄さを物語っています。

(3)暗いイメージを吹き飛ばしてくれた

この映画は、前作「Let It Be」が持っていたこの時代のビートルズの暗いイメージを吹き飛ばしてくれただけでなく、我々が知らなかったり誤解していたことを正してくれました。もっと早く教えてくれればと思いましたね。幸い私は、生きている間に知ることができて良かったです。少なくともこの頃のビートルズが最悪な状況だったわけではないということを知ってホッとしました。

さて、長らく続いたこのシリーズも終わりました。次は何について語りましょうか。

(続く)

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