- 1 傑作が誕生する前の予兆だった
- 2 1965年~「Help!」「Rubber Soul」対「Today!」「Summer DaysAnd Summer Night)」
- 3 アーティストへ踏み出した「California Girls」
- 4 アルバム「Help!」の革新性
- 5 そして「Rubber Soul」へ
1 傑作が誕生する前の予兆だった
(1)ビーチ・ボーイズもアーティストへ軸足を移し始めた
ブライアン・ウィルソンも1964年にマリファナを吸い始め、ビートルズと同様、それは、彼の曲作りにすぐに影響を与えました。彼が最も早くマリファナを使った曲の一つが、1964年に「When I Grow Up(To Be a Man)」のB面としてリリースされた「She Knows Me Too Well」です。メランコリックなトーン、豊かなハーモニー、自虐的な歌詞、ブライアンの高らかなファルセットなど、まるで「Pet Sounds」のための練習曲のようですが、この曲は、そのアルバムのどの曲にも劣らない素晴らしい作品です。
この年、ビーチ・ボーイズが発表した曲の中で最も「Pet Soundsの原型」に近い曲といえるでしょうが、それだけではありません。「In My Room」のようなバラードと「She Knows Me Too Well」のようなバラードの間のギャップを、「The Warmth of the Sun」のユニークなコード進行と風通しの良いハーモニーが埋めました。
これはタイトルのイメージに反して、海岸の天気ではなくケネディ大統領の暗殺に触発されて制作されたものです。1964年の「All Summer Long」でビーチ・ボーイズもまたビートルズと同様、アルバムを中心にしたポピュラー・ミュージックへの道を歩み始めたのです。
(2)傑作が誕生する前の予兆
「Today!」や「Pet Sounds」ほど完璧ではありませんが、「The Beatles For Sale」でビートルズが扉を開いたように、ビーチ・ボーイズも初期のアルバムを「シングル曲、カヴァー曲そしてそれらを埋める曲」で構成するという従来のスタイルから脱却し始めたのです。「We'll Run Away」や「Girls on the Beach」などのバラードは、「Pet Sounds」以前のビーチ・ボーイズの曲の中で最も純粋に美しく、タイトル曲のレッキング・クルーによるアレンジは「I Get Around」と同じように、ギター/ベース/ドラムから構成されるロックからビーチ・ボーイズを解放することに役立ちました。
ビーチ・ボーイズやビートルズが1964年に発表した作品は、「Pet Sounds」や「Rubber Soul」「Revolver」のような記念碑的なものはありませんが、この過渡期を振り返ると、これらの傑作に至る道は、傑作が誕生する前の予兆を示していたのだと気づきます。
2 1965年~「Help!」「Rubber Soul」対「Today!」「Summer DaysAnd Summer Night)」
(1)対決の構図
彼らが意図したものであったのかどうかは分かりませんが、「Today!」は、「The Beatles For Sale」に対するビーチ・ボーイズの回答のように感じられます。アルバムは、3か月間隔でリリースされ、各バンドがマリファナを吸い始めてから初めてのアルバムでした。どちらのアルバムも制作者がハードスケジュールで疲れ果てた末にリリースされたため、より落ち着いたトーンになり、各バンドの初期のヒット曲から明らかに路線を変更したことが示されました。
「Rubber Soul」は、シングルの時代が終わってアルバムの時代が始まった瞬間であり、「Today!」も「For Sale」もまだアルバムとしての最終形態には至っていませんでしたが、彼らは限りなくそれに近づいていました。「Today!」の影響がなければ、「Rubber Soul」は全く別物になっていたかもしれません。また、ブライアンが「Today!」で実験していなければ、「Pet Sounds」は誕生しなかった可能性も十分にあります。
(2)過小評価されがちだが
1965年の夏、ビーチ・ボーイズとビートルズは、それぞれ「Summer Days (And Summer Nights!)」と「Help!」というニューアルバムを1か月違いで発表しました。両バンドにとって、これらのアルバムは「初期」の終わりを告げるものであり、その後に続く傑作のちょうど頂点に存在するものでした。
また、どちらもややもすると過小評価されがちなアルバムでもあります。表面上は、まだ「初期」のように見えてはいるのですが、一般的に評価されるよりもずっと「Rubber Soul」や「Pet Sounds」に近いものです。どちらも、バンドは、自分たちがなりたいと思っている姿とこうあって欲しいと期待されている姿の間に挟まれているように感じられます。これらの作品は、両バンドのスリリングな過渡期のアルバムなのだという想いで改めて聴いてみると、その劇的な変貌の道のりが見えてくるような気がします。
3 アーティストへ踏み出した「California Girls」
(1)明らかに進化した
ビーチ・ボーイズの場合、芸術性と大衆性の間に挟まれていることが、「California Girls」ほど明確に示されているアルバムはありません。表面的には、60年代初期のヒット曲を生み出した太陽の下でカリフォルニア・サウンドを楽しむバンドというイメージですが、もう少し掘り下げると、「Good Vibrations」のような曲への道を開くのに役立つミニ叙事詩ともいえるものです。
1965年、ビーチ・ボーイズとビートルズはLSDという新しいドラッグを見つけ、ブライアンは、最初のトリップで「California Girls」の大部分を書き上げました。この曲は、オーケストラのイントロから微妙に複雑なアレンジまで、「Pet Sounds」と同様に音楽的に複雑なものになっています。
(2)「Ticket To Ride」からインスパイアされた
この曲は、ビートルズが1965年4月にシングルとしてリリースし、同年8月に「Help!」に収録した「Ticket To Ride」から直接インスピレーションを得たものです。その影響は否定できないものの、ブライアンは、この曲を自分のものとして制作し、その結果、どちらのバンドの曲とも違うサウンドになりました。
ただ、「Ticket to Ride」との比較に焦点を当てると、ギター・ブレイク、ドラム・フィルなどいくつかの点で「Girl Don't Tell Me」の方が類似性が高いといえます。この二曲の類似性は、多くのリスナーが以前から指摘しています
また、「Summer Days」には「Today!」のB面ほどまとまったセクションはありませんが、「Pet Sounds」を示唆する瞬間がたくさんあります。アカペラで締めくくる「And Your Dreams Come True」は、「Pet Sounds」とそれに続く「Smile」を満たすことになるサイケデリックなハーモニーの完成形です。また、「Amusement Parks U.S.A」は、「Fun, Fun, Fun」の不気味で邪悪なサーカス・ヴァージョンといった感じで、ブライアンがいかに変わっていっているかが分かります。
4 アルバム「Help!」の革新性
「Summer Days」と同様、「Help!」も、その後のまとまったコンセプト・アルバムというよりは、新しいアイデアを集めたものであるかのような印象を受けます。しかし、それらのアイデアは、ビートルズの中でも画期的なものでした。
時代を超えたゴージャスなバラードで、ビートルズで初めてストリングス・アレンジを使用し、その後の数枚のアルバムへの橋渡しともいえるバロック・ポップへの道を切り開いたのです。ビートルズは、「Today!」のB面から影響を受けていたとも考えられます。
ポールの「I've Just Seen A Face」、そしてジョンがボブ・ディランの影響を受けて制作した「You've Got to Hide Your Love Away」などは、ビートルズがそれまでのロックンロール路線からはずれ、フォーク・ロックの領域に踏み込んだことを明らかにしました。ジョンは「It's Only Love」で初めて歌詞の中で恍惚感について言及し、ジョージは「I Need You」で「Rubber Soul」の原型となるフォーク・ロックを披露しました。
この2曲は、ともにより深みのあるものになっています。タイトル曲は、文字通り誰かに助けを求める叫びであり、バンドの初期のラヴ・ソングよりも倦怠感と内省的な雰囲気を漂わせ、「Ticket To Ride」は、サイケデリックなサウンドを基調としており、まるで「Revolver」の予行演習であるかのように聴こえます。
5 そして「Rubber Soul」へ
1965年末、ビートルズは「Rubber Soul」を発表し、ポピュラー音楽界を変えました。ポピュラー・ミュージシャンが、アルバムを単なる曲のコレクションではなく、一つの壮大な声明として世に送り出したのはこのときが初めてでした。そして、これらの曲は、フォーク、ロック、ジャングル・ポップ、サイケデリアなどの様々な要素を、それまでの明るいラヴ・ソングの痕跡を残すことなく、スムーズに融合させたものだったのです。
LSDの影響が曲作りに色濃く出ており、ジョージは、インド音楽に興味を持って「Norwegian Wood」にシタールを加え、サイケデリック・ロックを開始させました。このアルバムでは、意識が内部へと向かう中で生み出されるドラッグ・サウンドがちりばめられ、歌詞はかつてないほど深く、ヴォーカルのハーモニーも高らかに響きました。このハーモニーは、少なくとも部分的にはビーチ・ボーイズに触発されたと考えてもいいかもしれません。
(参照文献)ブルックリン・ヴィーガン
(続く)
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