１ ガールズグループがチャートを席巻していた
（1）ガールズグループとは？
今回は、ビートルズがどれだけガールズグループの影響を受けたかについてお話しします。ビートルズがモータウンサウンドなどのブラックミュージックから多大な影響を受けたことは広く知られていますが、同じように女性だけで編成されたガールズグループ（ガールグループ）からも多大な影響を受けていました。
もともと女性のコーラスグループは、男性や女性のソロシンガーのバックにコーラスを入れることがメインの役割でした。やがて彼女たちは、独立したコーラスグループとしてデビューしました。
女性が複数（多くの場合３人）集まることで一気に華やかなイメージを観客やリスナーに与えます。それだけでなく、一人一人のヴォーカルのテクニックがそれほど高くなくても、コーラスにすることで個々のヴォーカルがカヴァーされるため、曲にさえ恵まれれば売れるというメリットがありました。
（2）商業的な動機から生まれた？
一人の才能のあるシンガーを見つけ、スターにまで育て上げるには多大な時間と経費、労力を必要とします。しかし、ルックスのいい女の子たちを集めて歌わせれば、多少歌が下手でもアイドルとして売れるのではないか、ということにポピュラー音楽の制作サイドが気づきました。できの良い曲を彼女たちに与え、レッスンは必要最小限にして手っ取り早くデビューさせ、スターにすることで商業的な成功を収めようと考えたことから始まったのではないでしょうか。
ガールズグループの歴史をさかのぼると、古くは1937年にアメリカでデビューしたアンドリューズ・シスターズが挙げられます。1950年代後半になると、ガールズグループは、実力のあるソングライターやプロデューサーたちから曲を提供されて、ヒット・シングルを続々と生み出すようになりました。当初は、手っ取り早くスターを作ろうとした試みでしたが、やがて歌唱力も十分にあるグループが登場するようになりました。
２ ロックンロールを演奏するのは男性だけ？
（1）ロックンロールバンドは男性ばかり
ロックンロールは、1950年代から流行し始めましたが、演奏するのは男性のバンドというのがお決まりになっていました。女性のコーラスグループはたくさん存在したのに、女性だけで編成されたプロのバンドが登場するのは、もっと後の時代になってからです。これもなぜそうなったのかはよくわかりません。
男性のロックンロールバンドが憧れていたのは、エルヴィス・プレスリーやバディ・ホリー、チャックベリー、リトル・リチャード…いずれも男性ばかりです。もちろん、ガールズグループは男性にも人気がありましたが、彼女たちの音楽を自分たちに取り入れたのは、ビートルズぐらいではないでしょうか？「男のオレたちが女の子の曲を歌うなんて冗談じゃない」というのが、普通のバンドの意識だったような気がします。というより、そんな発想すらなかったでしょうね。
（2）ロックンロールをマイルドにした
ガールズグループのサウンドは、ブラック・ドゥーワップ、ロックンロール、ホワイト・ポップのミックスでした。エッジの効いたロックンロールをティーンエイジャー向けにポップにし、1960年代初頭にソングライターとプロデューサーは、生き生きとしたリードヴォーカル、バックヴォーカルの響き渡るハーモニー、豊かなストリングスアレンジ、ドライヴするビートが特徴のオリジナルサウンドを作り出しました。これは、ポピュラー音楽に大きな転機をもたらしました。ボーイズ向けだったロックンロールをマイルドにして、ガールズにも親しめるように工夫したんですね。
（3）様々なジャンル
ガールズグループの音楽が様々なジャンルに亘っていたことは、ビートルズに大きな影響を与えました。彼女たちが音楽のジャンルにこだわる必要なんてないんだということを教えてくれたのです。ビートルズは、ドイツのハンブルクでの巡業中に様々な客層に受けるために、ジャンルにこだわらず演奏のレパートリーを増やしました。
その経験に加え、ガールズグループのスタイルも取り入れることで、他のバンドにはないヴァラエティに富んだ楽曲を演奏する魅力にあふれたグループになりました。ガールズグループの音楽を取り入れた彼らの実力は、ドイツのハンブルグでの巡業でさらに磨きがかかることになったのです
３ 女の子の心情が巧みに表現されていた
（1）女の子にしか分からない気持ち
ガールズグループは、もうこの頃から単純なラヴソングではなく、結婚、愛、喪失や失恋など10代の女性の悩みを歌ったのです。改めて楽曲の内容を見てみると、これらは、ビートルズが好んでテーマにしていたものばかりです。こういった揺れ動く繊細な女の子の心情は、決して男性だけのグループでは気づくことはできなかったでしょう。
その意味でビートルズがガールズグループの音楽に接しそれを取り入れたことは、ティーン・エイジャーの女性たちの共感を呼ぶのに大変効果的だったといえます。女の子にしか分からない気持ちって絶対ありますからね。
（2）ガールズグループは広く受け入れられた
1958年から1965年にかけて、ロージー・アンド・ザ・オリジナルズ、シャンテルズ、ロネッツ、クッキー、レインドロップス、シャングリラといったガールズグループのサウンドがアメリカのチャートのトップテンを賑わせていました。彼女らの曲の多くは、ジェリー・ゴフィンとキャロル・キング、バリー・マンとシンシア・ワイル、ジェフ・バリーとエリー・グリニッジといった売れっ子の作曲家チームが書いたものです。
彼女たちの歌い方には素朴さが溢れていて、リスナーに伝わりやすいようにあえて単純化されたところがありました。音楽的、文章的な要素にも、若い女性の気持ちを代弁するような微妙な工夫が施されています。それが同世代の女性たちの共感を呼んだのでしょう。
４ ビートルズに多大な影響を与えた
（1）コード進行やテーマ
ガールズグループの楽曲のコード進行は、しばしばモーダル・インターチェンジ（借用和音。メジャー進行の中にマイナーのコードを交ぜること）を使用しています。これは一曲の中でキーを変える転調とは異なるテクニックですが、ビートルズが、転調というテクニックを盛んに使うようになったのは、あるいはこのガールズグループの影響なのかもしれません。
歌詞は、新しい恋の喜び、失った恋の悲しみ、交互にやってくる嫉妬などの感情を表現し、女性の同級生のいたずらや意地悪な側面を美化し、無邪気さを武器にして正直な気持ちを強調しました。また、愛の対象としてアンチヒーローをグループのリーダーとして取り上げることが多い傾向にありました。アメリカのアーティストであるグレッグ・パンファイルは、リズムアンドブルースやロックンロールに次いで、このスタイルがビートルズやその仲間のイギリスのミュージシャンの音楽に重要な影響を及ぼしたことを指摘しています。
もし、アメリカで受け入れられることがビートルズ現象に必要な要素であったとすれば、その意味において、ガールズグループの音楽は、大きな役割を果たしたといえるでしょう。なぜなら、彼女らの音楽のハーモニー、歌詞、アレンジ、コール＆レスポンスなどといった音楽を構成する種々の要素は、少なくともアメリカでの商業的な受容という観点から、初期のビートルズの成功の要因の一つになったと考えられるからです。
（2）ゴスペルが源流
ガールズグループの音楽は、アフリカ系アメリカ人、特にゴスペルを源流として発展しました。クリスタルズ、ロネッツ、ディキシー・カップスなどのガールズグループは、彼女らの楽曲で盛んに使われたコード進行や、12小節のブルースなどのような標準的なフォーマットを使っていました。これらのパターンは、ビートルズ、特にジョンが初期の商業的ヒット曲の多くに盛んに使用し、BBCでカヴァーした曲やリリースした曲の中でも際立っています。彼女らが使ったコード進行は、古くからあるパターンです。
しかし、時折トリック・コードや転調を使ったことは、ガールズグループの音楽にそのルーツとなっていた音楽を超えた洗練されたレヴェルを与えました。それと同じように、歌詞もまたそれまでアメリカのポピュラー音楽では考えられなかった社会問題や階級問題を提起し、しばしば新境地を開拓することになったのです。
（参照文献）サウンドスケイプス、ブリタニカ
この記事を気に入っていただけたら、下のボタンのクリックをお願いします。
下の「読者になる」ボタンをクリックしていただくと、新着記事をお届けできます。
（追記）
30分の無料配信舞台公演に出演しました。3月22日からアーカイブ配信を開始します。とてもスリリングなドラマなので是非ご覧ください。こちらから視聴チケットを入手できます。
上に掲載したアイコンのいずれかをクリックしていただき「カートに入れる」→「ゲスト購入する」で必要事項を記入していただくと、配信用URLがメールで届きます。それをクリックするとYouTubeで試聴できます。
