- 1 解散したバンドが新曲をリリースする?
- 2 AIで合成したのではない
- 3 映画「GET BACK」が道を開いた
- 4 AIでジョンのヴォーカルを合成したように誤解された
- 5 ジョージが気に入らなかった
1 解散したバンドが新曲をリリースする?
今回は、ビートルズの秘書だったフリーダ・ケリーについて書くつもりでしたが、ビートルズの「最後の新曲」「Now and Then」がリリースされたので、話題をそちらに変更します。
1970年に解散したバンド、しかもメンバーの内二人は他界しています。それで新曲をリリースなんて普通はあり得ないのですが、ビートルズに関しては、それが可能になってしまうという稀有な存在なんですね。ジョン・レノンが過去に作成したデモテープに収録されていた未発表の音源を掘り起こし、AIを使って完成させたのです。これを新曲と呼んで良いのかどうかについては議論のあるところですが、そこはとりあえず置いておいてこの曲について解説します。
2 AIで合成したのではない
(1)ジョンの声がそこにあった
2021年に公開されたピーター・ジャクソン監督のドキュメンタリー映画「Get Back」の音声を強化するために使用されたのと同じAIテクノロジーを活用して、メンバー4人全員が登場する待望の「最後の」ビートルズの曲「Now and Then」が2023年11月2日にリリースされました。
ポールは、声明で「ジョンの声はそこにあった。透き通っていた」と述べました。「かなり感動したよ。僕たち全員がそれを演奏するんだ。これは、本物のビートルズのレコードだ。僕らが2023年になってもまだビートルズの音楽に取り組んでいて、まだ一般の人が聴いたことのない新曲をリリースしようとしているのは、とてもエキサイティングなことだと思う」
(2)ジョンのヴォーカルを取り出した
AIを使ったというと「楽曲をAIで合成した」と誤解されそうですが、そうではありません。ジョンのヴォーカルだけを取り出すことは従来の技術では不可能だったのですが、AIにより可能となったのです。
「Now and Then」は、1970年代後半にニューヨーク市のダコタビルにあるジョンの自宅で彼によって作曲され、演奏されました。1994年、オノ・ヨーコは、「フォー・ポール」とラベルされたカセットに収録されたデモをポールに渡しました。このカセットには、ジョンの「Free As a Bird」と「Real Love」のデモも含まれていました。後者の曲は、ポール、リンゴ、ジョージによって完成され、ビートルズ・アンソロジー・プロジェクトの一環としてシングルとしてリリースされました。
しかし、技術的な限界により、「Now and Then」でのジョンのヴォーカルとピアノを分離して、他のメンバーがレコーディングした新しいパートと同期させることができなかったのです。そのため、他の3人のメンバーでのレコーディングは棚上げされました。この曲を再現したくても、当時の技術ではどうにもならなかったんですね。
3 映画「GET BACK」が道を開いた
(1)ジョンのヴォーカルを分離した
それから4半世紀以上後になって、ジャクソンはAI支援ソフトウェアを使用して、ビートルズの最後のアルバム「Let It Be」をレコーディングしているマイケル・リンゼイ・ホッグの 1970年の映像からオリジナルの音声をデミックスし、楽器、ヴォーカル、会話を分離しました。音声と画像を「Get Back」ドキュメンタリーシリーズに組み込んだのです。
デミックスとは日本語では音声分離と呼ばれ、ミックスされた音源から元の複数の音源を分離することを言います。AI技術により従来の常識を超える分離精度を実現できるようになりました。デミックスは、ミックスされた音源を分析し、周波数帯域や位相情報などを利用して、元の音源を再現することで実現されます。
その後、このテクノロジーは、2022年にアルバム「Revolver」の新しいミックスを作成するために使用され、生存しているバンドのメンバーにジョンの「Now and Then」のデモを再現させるきっかけを与えました。ジャクソンとエミール・デ・ラ・レイらが率いるサウンド・チームは、今回も同じ手法を使ってジョンのオリジナルのヴォーカル・パフォーマンスを彼が演奏しているピアノのサウンドから分離しました。
(2)ジョンが部屋に戻ってきたようだった
リンゴは、声明の中で次のように述べました。「ジョンが部屋に戻ってくることにこれまでで最も近い状況だったから、僕ら全員にとってとても感動的なことだった。本当に素晴らしいよ」
ポールとリンゴは、1995年にジョージがレコーディングしたギター・パートと、ポール、ジャイルズ・マーティン、ベン・フォスターが書いたストリングス・アレンジメントをフィーチャーしたこの曲の新しいパートをプロデュースしました。「Here, There and Everywhere」「Eleanor Rigby」「Because」のオリジナル音源からのバックヴォーカルが新曲に織り込まれています。ジェフ・リンが追加プロデュースに貢献しました。
4 AIでジョンのヴォーカルを合成したように誤解された
2023年6月、ポールは、BBCラジオ4に出演し、カセットテープからジョンのヴォーカルを「抽出」するためにAIが使用されたと語りました。「我々は、このAIを通じてジョンのヴォーカルを純粋に取り出すことができた。その後、通常のように音源をミックスできる。そうすることで、ある種の余裕が生まれるんだ」
彼の発言は、AIがジョンのパフォーマンスの部分を人為的に加工して制作したのではないかという疑念を人々の間に引き起こしました。その後、ポールは、彼が引き起こしてしまった「混乱と憶測」についてさらに詳しく述べ、「現段階ではあまり多くは言えないが、明確にしておきたいのは、何も人為的または合成的に作られたものではないということだ」と明言しました。
「それはすべて本物であり、僕らは、皆そこで演奏している。僕らは、いくつかの既存の音源をクリーンアップした。このプロセスは、何年にもわたって行われてきたんだ。僕らと同じように皆さんにも気に入ってもらえることを望むよ」
AIを使用したと聞くとジョンのヴォーカルを合成したのではないか、との疑念がわいたのも致し方無いかもしれません。しかし、冷静に考えてみればそれは絶対ないと断言できます。そんなことをしたら、ジョンのみならずビートルズを冒涜したと非難されかねないからです。そんなリスクを冒してまでやるようなことではありません。
この曲は、グリニッジ標準時で11月1日午後7時30分にプレミア公開されるメイキング動画として13分間のドキュメンタリーで事前公開され、同月2日に正式に公開されました。同月3日には、ビートルズの1962年のデビューシングル「Love Me Do」との両A面シングルとしてリリースされ、ポップアーティストのエド・ルシャによるカヴァーアートがフィーチャーされました。
5 ジョージが気に入らなかった
(1)存在は明らかになっていた
「Now and Then」の存在は、ファンにとって驚くべきことではありません。すでに海賊版は市場に出回っていました。1997年、ポールは、Qマガジンの取材に対し、ジョージが「気に入らなかった」ため、この作品はお蔵入りになったと語りました。
「あまり良いタイトルではなかったし、少し手直しが必要だったが、美しいヴァースがあり、それをジョンが歌っていた」と彼は語りました。「(しかし)ジョージは、それが気に入らなかった。ビートルズは民主主義なので、僕らは、リリースしなかった」ポールは、後にニューヨーカー紙の取材に対し、ジョージがジョンのデモは音質が悪すぎて使い物にならないと公開に反対したと公にしました。ビートルズは、全員一致が原則で1人でも反対があるとやらなかったのです。
(2)オリビア・ハリスン、ショーン・オノ・レノンの発言
亡くなったジョージの妻であるオリビア・ハリスンは声明で次のように述べています。「1995年に遡り、数日間スタジオでトラックの作業を行った後、ジョージは、デモの技術的問題は克服できないと感じ、トラックを満足のいくまで仕上げることは不可能であると結論づけた。十分に高い水準である。もし、彼が今日ここにいたら、(息子の)ダーニと私は、彼がポールとリンゴと一緒に『Now and Then』のレコーディングを完了するのに心から賛成したでしょう」ジョージが生きていれば、喜んでレコーディングに参加したであろうと語っています。
ジョンの息子であるショーン・オノ・レノンもこの曲の制作について次のようにコメントしています。「これは父、ポール、ジョージ、リンゴが一緒に作った最後の曲だ。それは、タイムカプセルのようなもので、すべてがとても意味のあるものだと感じる」4人のビートルが一堂に会するのはこれが最後かもしれません。
「Now and Then」のCDなどのリリースは、「赤盤」「青盤」として知られるコンピレーションの新版に先立ってリリースされ、ビートルズの全シングル・ディスコグラフィーを網羅するように拡張され、赤盤には12曲、青盤には9曲が追加されます。
(参照文献)ザ・ガーディアン
(続く)
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(追記)
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