- 1 ドラムキットの配置が違った!
- 2 バスドラムのフロントヘッドを取り払った!
- 3 ノーマン・スミスとジェフ・エメリックの貢献
- 4 リヴォルヴァーからサウンドが変わった!
- 5 リンゴ独特のスティック捌き
1 ドラムキットの配置が違った!
前回の宿題の答えです。一つだけリンゴのキットが普通の右利きのドラマーと違うところは、シンバルの位置です。
普通は、大きいライドシンバルを右手側、左のハイハット側には小さなクラッシュシンバルを置くんですが、リンゴはここだけは逆にしました。
上から見降ろすと左側に大きなライドシンバルがあるのが分かります。やっぱり左利きなので、そういう配置にした方が、利き手の左手でライドシンバルを力を込めて叩けるからでしょうね。
これが普通の配置だと「シャ~ン」という音になりますが、逆に置き換えると「グワァ~ン」という音になります。
2 バスドラムのフロントヘッドを取り払った!
ここから暫くは、カンケ氏のお話が中心になります。
リンゴは、レコーディングの時にバスドラムのフロントヘッドを取り払いました。
70年代に入ると当たり前のようになりましたが、60年代当時としては大変画期的な方法でした。システムエンジニアのジェフ・エメリックという入社したての若者が色々創意工夫した結果、レコーディングの際に生に近いサウンドを得るにはこの方法が良いと気づいたんです。
フロントヘッドを付けたままだとライヴの時は構わないんですが、レコーディングだと何となくボワ~ンとしたぼやけたサウンドになってしまうんですね。フロントヘッドがあるとそれが障壁になってしまって、サウンドの輪郭がぼやけてしまうんです。
だったら外してしまえということになり、それでマイクをバスドラムのところに置けば、リンゴがバスドラムをキックしたサウンドをストレートにマイクが拾うんです。
そのうえ、響いたサウンドも要らないということで、そこに毛布やセーターなどを詰め込んでミュートしたんですね。それで、サウンドがタイトになりました。
こうすることで非常に綺麗な生のサウンドを得られるようになったんです。それまでは、ドラムのサウンドをそのまま拾ってレコーディングすれば良いという考え方だったんでした。
しかし、そのうち考え方が変わって、それぞれのドラムから出ているサウンド一つ一つを丁寧に拾ってレコーディングし、後でバランスを取った方がより生に近いサウンドになるということが分かったんです。これは、ポピュラー音楽の歴史上において非常に革命的な出来事です。
3 ノーマン・スミスとジェフ・エメリックの貢献
ビートルズのサウンドが素晴らしかったのは、前期においてはノーマン・スミスという優秀なレコーディング・エンジニアの貢献によるところが大きいです。彼はアルバム「ラバー・ソウル」までを担当し、およそ100曲のレコーディングに携わりました
彼の後を継いだのが、21歳でレコーディング・エンジニアになったばかりのジェフ・エメリックという若者です。ポールがベースの音をマイクで拾うというやり方に満足せず、いきなりミキサーに突っ込んでサウンドを出したのは、余計なサウンドはいらないという考え方からでした。それに応えたのが彼です。
ビートルズのサウンドは、「ペーパーバック・ライター」と「レイン」からガラリと変わりました。これは、エメリックの手腕によって非常に綺麗な生のサウンドを録音することができるようになったことが大きいです。
4 リヴォルヴァーからサウンドが変わった!
エメリックは、アルバム「リヴォルヴァー」で壮大な実験を始めたんですね。レイン、ペーパーバック・ライターに関しては、まだポールがベースをミキサーに直接突っ込むという手法を採用していませんでした。
しかし、彼は、スピーカーを2個使い、片方をマイクに変えてレコーディングするという画期的な手法を編み出しました。それが「レイン」です。
やはり、ベースとドラムの協調が素晴らしいですね。お互いにつかず離れず絶妙にシンクロしています。
この曲は、レコーディングの際はもっと早いスピードでレコーディングし、編集でスピードを落としたのです。ですから、シンバルの音がシャーンというサウンドではなく、ボワーンと間延びした感じに聴こえます。
他にリンゴのドラミングの代表として挙げられるのは「カム・トゥゲザー」です。
リンゴは、タムの上に布を置いてサウンドをミュートしていました。面白いのは後年になってからリンゴが自分自身のドラムについて解説しているのですが、実は、カム・トゥゲザーについての解説が間違っているんです(笑)リンゴ自身が勘違いというか、記憶違いをしているんですね。
本人のドラミングと実際にレコードから聴こえるサウンドとは違うんですよ。むしろ、リンゴのことを研究している人の方が本人より詳しくなっているんです。そりゃ、50年も経てば本人も忘れちゃいますよね(^_^;)
それに何せ「フィーリングの帝王」ですから、ビートルズ時代も演奏の度にサウンドが違っていたわけで、レコードとライヴのサウンドが違っていたとしても全然不思議ではありません。それがリンゴという人なんです。
因みに彼がこの時使っていたドラムはラディックで、バスドラムは22インチだそうです。見ただけで分かるんですね。
5 リンゴ独特のスティック捌き
リンゴのドラミングは、ワイパーが車のフロントガラスを洗うように、ハイハットをスティックで左右に叩くところに特徴があります。これは見た目で分かりますね。
初期の頃は特に顕著でした。映像でリンゴの手元が抜かれることがあまりないので分かりずらいのですが、この動画を観ると比較的良く分かると思います。
「オール・マイ・ラヴィング」にしても「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」にしても、意外に遅いカウントで叩くことができます。これを普通のドラマーが叩くとどんどん早くなってしまうんです。それは、タメがないからなんですね。
しかし、リンゴは、左右にスティックを振ることでタメを作って、タイミングをあえて遅らせていたわけです。良い意味でのもたつき感というか、後ろに引っ張るようなモッタリとした感じが出ています。リンゴは、こうすることでグルーヴ感を出せることを誰から教えられることもなく自分で編み出したのでしょう。
ビートルズのメンバーは、前の3人全員が体温計を振るようにギターやベースのネックをシェイクしていました。こうすることで、ゴーストノートといって聴こえるか聴こえないかくらいの音量でサウンドを出していたんです。
「聴こえないサウンドなんて出しても意味ないんじゃないの?」と思われるかもしれません。しかし、バンドのリズム、グルーヴにおいては、その聴こえないサウンドをどれだけセンス良く入れられるかが重要なポイントになります。
それが出来なかったのが前ドラマーのピート・ベストです。彼は、単調なサウンドしか出せなかったので、この独特なグルーヴ感を出せなかったんです。
ところが、リンゴは、それを出すことができました。この違いがとてつもなく大きいんです。私の知る限りでは、このドラマーが一番リンゴのフィーリングに近いサウンドを出しているのではないかと思います。
ビートルズのグルーヴ感は、ブラックミュージックから来ているものだと思われますが、ビートルズは、全員がこのフィーリングを共有していました。だから、バンドとして成立したんです。
おそらく、ビートルズがゴーストノートを使ってグルーヴ感を出すことに成功した最初のブリティッシュ・ロックグループではないかと考えられます。これは、レッド・ツェッペリンなどの後輩のバンドたちに大きな影響を与えました。
つまり、バンドがスウィングしてるんですね。単にチクチクチクチクとリズムを刻んでいるのではなく、ジュンジュンジュンジュンというような感じでリズムを刻んでいるんです。言葉で伝えるのはかなり難しいですが(^_^;)
ビートルズをカヴァーしているバンドの皆さんが気づいていることだと思いますが、ビートルズって入口は易しいというか、聴いてる分には簡単に演奏できそうに思えるんです。
ところが、いざ実際にやってみると意外と難しくて、レコードやCDから聴こえてくるあのサウンドとちょっと違うものになってしまうんですよね。その秘密は、どうやらこの辺りにありそうです。
「話の内容が濃すぎてついていけない。」という方は、こちらをどうぞ。
おまけ
「オレの人生で最も幸運だったのは、ビートルズのメンバーだったことさ。反対に最も不幸だったのは、観客としてビートルズを観られなかったことさ。」ーリンゴ・スター
(続く)
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