★ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログ★

ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

なぜ、人々はアビイ・ロードを最高傑作と評価するのか?(229)

é¢é£ç»å

1 多数派はアビイ・ロード

(1)最高傑作とする人が最も多い

ビートルズのアルバムの中で最高傑作はどれか?」という質問をすると、大抵の場合、「アビイ・ロード」という応えが返ってきます。もちろん、「ラバー・ソウル」「リヴォルヴァー」「サージェント・ペパー~」「ホワイト・アルバム」も人気があるのですが、多数決ということになるとどうしてもアビイ・ロードに軍配が上がる形になります。  

私は、ビートルズの中で傑作と呼ばれるアルバムの性格を次のように位置づけています。これは、それぞれの人によって考え方が違うので、あくまでも私の個人的な見解です。

ラバー・ソウル~アイドルからアーティストへの転換点となったアルバム

リヴォルヴァー~完全にアーティストに軸足を移した実験的で革新的なアルバム

サージェント・ペパー~ポピュラー音楽界に革命をもたらしたアルバム

ホワイト・アルバム~ ビートルズの溢れ出る才能をてんこ盛りにしたアルバム

アビイ・ロードビートルズが究極の高みにたどり着いたアルバム

(2)何をもって最高傑作と位置づけるのか?

これは大変難しい問題ですよね(^_^;)あくまでも主観的な評価の問題なので、客観的な基準がないからです。

人によっては「アビイ・ロードは最高傑作ではない」という人もあります。「多くの人が傑作だと評価するので、何となくそう思い込んでいるファンが多い。」という意見や「内容以上に過大評価されている。」という意見もあります。

こういった批判的な意見を押しのけて最高傑作と位置づけるからには、何らかの理由が必要ですよね。それで、考えられる要素をいくつか挙げてみました。

2 売上げとチャートの記録

これは唯一の客観的なデータとして、文句の付けようがありません。

イギリスでの予約は、19万枚以上に登りました。10月4日にイギリスのアルバムチャートNo. 1となり、11週連続してその地位に留まりました。ローリングストーンズの「Let It Bleed」に一時的にその地位を譲ったものの、12月27日から最長6週間チャートNo.1を記録し、合計81週間チャートインしました。

1969年のイギリスのベストセラーアルバム、1970年の8番目のベストセラー、そして1960年代全体の4番目のベストセラーアルバムとなりました。

アメリカンチャートでは178位からスタートし、次の週に4位、3週目にトップに立つと11週間連続で1位を記録し、1971年5月までの83週間トップ200にチャートインしました。1970年にアメリカで4番目に売れたアルバムとなりました。

最初の6週間で400万枚が全世界で販売され、1969年末までにさらに100万枚が販売されました。これは、ビートルズで1000万枚を超えた最初のアルバムです。これ以降次々と記録が塗り替えられていくことになりましたが、この当時は、アルバムの売り上げが1000万枚を超えるのはとても珍しいことでした。

商業的な成功と作品の完成度が必ずしも一致しないことはよくありますが、これだけの数字を見せつけられれば文句のつけようがありません。ほとんどの人は事前に聴いてから購入しますから、それだけいいと思った人がたくさんいたわけです。まあ、「ポール死亡説」も売上に一役買った可能性も否定はできませんけどね(笑)

3 ジョンとポールが互いに妥協した

「Let It Be」セッションではメンバー間のギスギスがそのままアルバムに反映されてしまい、 完成度の低いものになってしまいました。

しかし、特に鋭く対立していたジョンとポールがアビイ・ロードでは互いに妥協したのです。ジョンは、シンプルなロックの原点に戻ろうとしていました。それに対してポールとマーティンは、サージェントのような趣向を凝らそうと考えていたのです。

この三者は、対立したままではまた「Let It Be」の二の舞になってしまうと考え、互いに譲歩して妥協する道を選びました。A面は、ジョンの意向を反映して一つ一つ独立した曲としてレコーディングされました。それに対しB面は、ポールとマーティンの意向を反映してメドレー形式が導入されました。

普通、芸術の世界ではどちらかの路線で押し切ってしまった方が良く、中途半端に妥協してしまうとほとんどの場合が失敗するのですが、このアルバムに関しては、成功した数少ない例のうちの一つだと思います。

4 個々の楽曲が持つとてつもないパワー

(1)「Come Together」からすべてが始まる

youtu.be

やはり、このアルバムを最高傑作にしている大きな要因の一つは、「個々の楽曲がとてつもないパワーを持っている」ということでしょう。アルバムを構成しているのは一つ一つの楽曲ですから、それらが弱ければ、当然アルバムの持つパワー自体も弱くなってしまいます。

一曲一曲を詳しく解説するだけでも、一つの記事だけでは足りないので別項に譲りますが、アルバムの最初の曲「Come Together」でまずやられてしまいますね。これは、このアルバムのオープニングを飾るにふさわしい傑作といえるでしょう。シンプルで古典的なロックのスタイルに戻った楽曲ともいえます。 

これを制作したジョンは、過去を振り返るのは嫌いなタイプで、 解散後のビートルズについてインタビューを受けても、そっけない返事をすることが多かったのですが、この曲については相当自信を持っていたようです。

歌詞は、比喩や暗喩を用いているため、リスナーによって何通りにでも解釈が可能です。ヨーコの名前がストレートに歌詞に登場しているくらいですから、彼女がこの楽曲に影響を及ぼしたことは否定できないでしょう。また、ポールのポピュラーな楽曲に対する皮肉とも取れなくもありません。

ジョンは、作詞作曲に対して薄れていた欲求を取り戻し、より焦点を絞って制作に没頭しました。この曲には神秘性があるとともに、不思議な魅力とウィットに富んでいます。この曲を筆頭に完成度の高い楽曲が次から次へと登場するのですから、自然とアルバム自体の完成度も高いということになります。

ポールの「Oh! Darling」も「Come Together」に匹敵する傑作といえるでしょう。何しろ、何かとポールに対して批判的だったジョンが、リードヴォーカルをやらせて欲しいと頼んだくらいですから。さすがにポールは断りました(^_^;)オールドスタイルのロックですが、情念の塊のようなポールの激しいヴォーカルが印象的な曲です。

youtu.be

ただ、「Maxwell's Silver Hammer」や「Octopus's Garden」には異論があるかもしれません。特に前者はポールの曲ですが、他のメンバーからは評価されませんでした。しかし、こういったほのぼのとした曲が入っていることも、アルバム全体の印象が重くなりすぎることを防ぐ効果があるように思います。

youtu.be

(2)ジョージがコンポーザーとしての才能を発揮

レノン=マッカートニーがあまりにも偉大すぎて、豊富な楽曲を持っていたにも関わらず、なかなかアルバムに収録される機会に恵まれなかったジョージでしたが、ついに珠玉の名曲が収録されることとなりました。「Something」「Here Comes The Sun」の二曲です。

youtu.be

ジョージが制作したこの傑作に当時の人々は驚愕しました。ビートルズのコンポーザーといえばレノン=マッカートニーと相場が決まっていましたから、まさか、そこにジョージが割り込んでくるとは誰も予想していなかったのです。

ジョンは、アルバムの中で最高の曲だと賞賛し、ポールもジョージが書いた曲の中で最も優れていると褒め称えました。レノン=マッカートニーすら脱帽せざるを得なかったのです。

ハリウッドの大物俳優だったフランク・シナトラは、「Something」を「20世紀最高のラヴ・ソングだ。」と激賞しました。それは良かったのですが、つい口が滑って「レノン=マッカートニーの名曲だ」と言ってしまったんです(笑)ビートルズのコンポーザーといえば、レノン=マッカートニーだと思われていましたから、仕方なかったかもしれませんね。

そこまではまだ許せますが、マイケル・ジャクソンまでもジョージ本人に対して「え? あなたが書いたんですか? レノン=マッカートニーだと思ってました。」と言ったというエピソードが伝わっています。大先輩に対していくら何でも失礼ですよね。

5 B面のメドレー

youtu.be

ジョンは評価しませんでしたが、多くの人が「You Never Give Me Your Money」から始まるB面のメドレーは素晴らしいと称賛しています。

このアルバムの魅力は、おそらくA面の多くの楽曲がオールドスタイルの王道を行く伝統的なロックで構成されていながら、 B面はそれとは打って変わってゴージャスなメドレーで構成されている点にあると思います。一つのバンドが同じアルバムの両面で全く違う顔を見せるという、離れ業をやってのけているのです。こんなアクロバットみたいなことは常人では不可能です。

リスナーは、まずA面で雲一つない晴天の下、車が一台も走っていない道路を優雅に走るゴージャスな気分を味わい、B面に移ると一転してまるでジェットコースターに乗せられたかのように、千変万化を遂げるビートルズサウンドに心地よく振り回されます。それが終わると何とも言えない満足感と余韻に浸ることができます。

6 アルバム全体が壮大な組曲となっている

組曲は、いくつかの楽曲を連続して演奏するように組み合わせ並べたものを指します。ビートルズがポピュラー音楽のアルバムの概念を変えたのですが、彼らが登場するまでのLPと呼ばれていた時代は、アーティストがそれまでに出した楽曲を集めたボーナス版みたいな位置づけでした。 

しかし、ビートルズは、ラバー・ソウルの時からアルバムの概念を書き換えて、それ自体を一つの作品として発表するようになりました。アーティストが、アルバムに自分たちの音楽性や音楽に対する考え方を込めるようになったんですね。 

アビイ・ロードが最初から明確な設計思想のもとに制作されたわけではありません。しかし、メンバー全員とマーティンが「これが最後のアルバムになるかもしれない」という想いを抱きながら、全員が渾身の力を振り絞って最高のアルバムを作ろうと取り組んだ結果、アルバム全体がひとつの統一されたものとなりました。

7 レコーディング技術の発達

é¢é£ç»å

アビイ・ロードが素晴らしい作品の一つになった要因は、これまでお話ししてきたようにメンバー全員の真剣な取組み、楽曲の完成度の高さ、メドレーの導入というアイディアなどが挙げられますが、レコーディング技術の発達という側面も見逃せません。

まず、サウンドがそれまでのアルバムより明らかにクリアになりました。これは、ミキシングコンソールが真空管製からトランジスタ製に替わったためです。

アビイ・ロード第2スタジオには、ソリッドステートコンソール、TG12345 MK1が導入されました。これは、それまで使用していた真空管製のREDDコンソールと比較して、優れたマルチトラッキング性能を発揮したのです。この最新機器が、このアルバムを最高傑作とするために不可欠な豊かなサウンドを提供しました。

それだけでなく、このコンソールが低音域の歪みを抑制したため、より明瞭で暖かいベースサウンドが提供されました。このことは「Come Together」で最もよく実証されています。

これは、当時としてはアナログがデジタルになったぐらいの大きな変化でした。もっとも、ジョージやリンゴはそれが嫌いで、前のミキシングの方を気に入っていたようですが、時代の流れには逆らえませんでした(^_^;) 

エンジニアのジェフ・エメリックはこう語っています。「新しいレコーディングコンソールは、オリジナルのリズムトラックにある特定の質感を与えた。それは、今までのコンソールのような攻撃的で固いサウンドではなかった。おまけにこいつが出してくれるサウンドは、ビートルズがアルバムのために持ってきた曲の多くにピッタリと合っていたんだ。さらに付け加えると、オリジナルのリズムトラックがより落ち着いたものになったため、オーバーダブも少し柔らかく、それほど荒っぽくしなくてよくなった。ミキシング作業全体が少し楽になったよ。」 

いかに優れた戦士であっても、その能力に相応しい武器を持たなければ、実力を発揮できません。滑り込みでしたがビートルズとマーティン、エメリックが最新鋭の機器を導入できたのは大きな支援となりました。そして、図らずもそれがこのアルバムのサウンドにマッチしていたのです。

8 ジャケット写真の持つインパク

The Beatles Abbey Road 1969 print on canvas, print on wood, print on steel or print on paper

楽曲そのものとは何の関係もありませんが、ジャケット写真がもたらしたインパクトは計り知れないものがあると思います。普通、ジャケット写真は、メンバーがカメラ目線でポーズを決めているのが普通ですからね。

ところが、このアルバムに限っては、メンバーはカメラにそっぽを向いていて横顔しか分かりません。しかも四人が見事に歩調を合わせて、歩幅もスタイルもピタリと合っています。この横断歩道が50年経った今日でも観光名所として世界的に有名なのは、ひとえにこの写真のおかげでしょう。

何枚も撮影したうち逆にスタジオに向かって歩く写真もあったのですが、4人の動きがバラバラで、とてもジャケットに採用できるクオリティーではありませんでした。

唯一採用されたのがこの一枚だったのですが、この写真の左手にEMIスタジオがあり、今改めて見てみると、ビートルズが長年レコーディングで苦楽を共にしてきたスタジオを後にして、オレたちはここから出ていく。もう二度と帰ることはない。」と宣言しているかのようです。哀しいですね…( ノД`)

長くなりましたが、これでアビイ・ロードについての解説を終わります。となると、次はいよいよ「解散」の話ということになりそうですが、それはしばらく保留しておくことにします。

来年が50年目ということもありますし、実は、正直なところあまり触れたくない話題なんですよね。50年前の出来事とはいえ、未だに触れると古傷が痛むような気がするんです( ノД`)「そんな昔のことをいつまで引きずってるんだ?(笑)」って笑われるかもしれませんが(^_^;)

(参照文献)THE BEATLES BIBLE, musicmusingsandsuch, enmore audio

(続く)