1 世界初、観客席が美しく輝く光の海に変わった!
(1)ジョンは神経質になっていた
プラスティック・オノ・バンドがデビューするわずか数分前、ジョン・レノンは、舞台裏で神経質にタバコを吸いながら部屋の中を歩き回っていました。コカインをキメて少し落ち着きを取り戻したものの、やはり、久しぶりの大舞台を前にして緊張を隠せなかったのです。その様子を見たジョニー・ブラウアは、司会者のキム・ファウリーを呼び、ジョンがどのようにバンドを紹介してもらいたいと思っているのかを聞いておくように指示しました。
キムは、楽屋にやって来るとジョンを前にして緊張しました。ジョンは、こう紹介してくれと彼に依頼しました。「ビートルズのジョン・レノンではなく、クリームのエリック・クラプトンでもない、正にプラスティック・オノ・バンド、ありがとう。」
初めて大衆の前に自分のバンドを紹介してもらうのですから、もっと色々な修飾語をつけて格好をつけても良さそうなものですが、そこは、ジョンらしい素っ気なさで簡単にまとめました。あるいは緊張のせいで、そこまで頭が回らなかっただけなのかもしれませんが。
(2)キム・ファウリーの機転を利かせた粋な演出
それに対して、キムはこう応えました。「私は、あなたのことをよく理解していますし、あなたに気に入ってもらえるアイデアがあります。」彼は、そう告げると身を翻して楽屋を出て行きました。さて、彼は、一体何をしようというのでしょうか?
彼は、会場内のすべての照明を落とさせた上で、さっそうとステージに上がると観客にこう呼びかけました。
「皆さん、マッチとライターを取り出してください。今から私がジョン・レノンとエリック・クラプトンを紹介します。そしたら皆さんは、火をつけてトロントへようこそと彼らを大いに歓迎してもらいたいんです。」火災予防のために現場で警備していた消防署員は驚きましたが、ファウリーは無視しました。
数分後、ステージに戻った彼は、再び観客に呼びかけました。「さあ、マッチに火を付けて。レディース&ジェントルマン、『ザ・プラスティック・オノ・バンド』です。ブラウアとウォーカーがお届けするザ・プラスティック・オノ・バンド、『Give Peace a Chance, Give Peace a Chance』」
観客は、彼の指示通りそれぞれにマッチやライターを点火しました。その瞬間、観客席が美しく輝く光の海に変わったのです!どうですか、このめくるめく幻想的な光景は?
2 世界初の観客席でのライトアップ
(1)ジョンを感動させた
数分後、彼は、その光の海へバンドを連れてステージに戻ってきました。「今では、彼の頭の中に何があったのか、何がインスピレーションを与えたのかは分かっているが、ファウリーがとっさに思いついたんだ。」とブラウアは回想しています。
ジョンは、その時の光景をこう語っています。「素晴らしかった。段々と照明が消えていった。こんなパフォーマンスは、それまで見たことも聞いたこともなかった。私の人生で初めての経験だと思う。観客がみんなキャンドルやライトを灯したんだ。」
ビートルズのローディーでジョンに同行していたマル・エヴァンズもこう回想しています。「ファウリーは、本当に素晴らしいことをやった。彼は、スタジアムのすべてのライトを落とさせて、観客全員に協力するように呼びかけた。何千もの小さな光が巨大なアリーナ全体に突然輝いた瞬間は、本当に信じられない光景だった。」
これは、ファウリーがとっさに思いついたファインプレイと言って良いでしょう。観客は、タバコを吸うためにマッチかライターを持っていました。みんなが一斉にそれに火をつけると、観客席がまるで美しく輝く光の海に変わったのです。ジョンもこの素晴らしい演出に心を奪われ、リラックスしてステージに立てたのです。これがなかったら、彼はもっと緊張したまま演奏していたかもしれません。
(2)観客によるライトアップの始まり
クロスは、このできごとが、単にジョンがステージに上がったときに、彼を不思議な光の海で歓迎したというだけに留まらず、その後、コンサートでライターを掲げる観客、あるいは、21世紀にスマートフォンの画面を照らす観客という、今では広く行われるようになった観客によるライヴ・パフォーマンスの誕生でもあると付け加えました。
今や、世界中の人々がペンライトやサイリウム、スマートフォンなどを使って、ライヴ中に暗い会場内に光の海を作り出すようになりましたが、おそらくこれが世界初と言ってよいでしょう。
唯一の問題は、バイカーたちが「ジョン・レノンにはそんな程度でいいだろうが、ドアーズにはもっとシャレた歓迎をしてやろうぜ。」と考えたことでした。彼らは、ほうきが収納されたクローゼットを壊し、掃除用のほうきをすべて取り出し、ジッポーのライターから燃料を取り出して点火し、トーチにしてステージの前に出てきました。これは明らかな器物損壊行為ですが、もはや止めようもありませんでした。
3 ついにジョンのステージがキックオフ!
(1)ジョン・レノン、3年ぶりにステージに立つ
満を持してジョンがギターを携えてステージに登場しました。ステージに上がる前はあれほどナーバスになっていた彼でしたが、観客の前に立つと自然にスイッチが入ったのでしょうか、生気を取り戻した感じでした。それにファウリーの粋な演出によって、素晴らしい光景を目にすることができましたから、テンションが大いに上がったでしょう。
ジョンは、ギターを軽くつまびきながら、ヨーコが持っている歌詞カードに真剣に目をやりました。昔からライヴでは歌詞をよく間違える彼でしたが、今回はリハーサルすらやってないんですからなおさら不安です。詰めかけた観客に「今晩は」と挨拶し、「我々は、今まで一緒に演奏したことがないから、良く知ってるナンバーを演奏するよ。」と語りました。
そして、アイドル時代によくやっていた軽くダンスするおどけた仕草をし、クラプトンとアイコンタクトを交わして演奏を始めるタイミングを探りました。ジョン(エリック、もういいかい?)クラプトン(兄貴、いつでもいいぜ)こういうミュージシャン同士のステージ上でのやり取りはかっこいいですよね💖
世界中のファンが長い間観ることができなかったステージがやっと観られるようになったのです。それもイギリスでもなくアメリカでもなくカナダで。
(2)オープニングは、「Blue Suede Shoes」
Blue Suede Shoes - John Lennon & Plastic Ono Band - Toronto 1969
オープニングの曲は、カール・パーキンスの「Blue Suede Shoes」でした。下積み時代から何度も演奏した曲ですし、10年もこの業界の第一線を走り続けてきたんですからね。いかに3年のブランクがあったとしても、すぐに昔の感覚を思い出したようです。ただ、歌詞がうろ覚えのせいもあり、まだ探り探りの感はありましたが、不安は消え去りました。
クラプトンのギターワークも冴え渡っていました。ただ、クラプトンが、ライヴの間中ずっとチラチラ不安気にジョンを見ながら演奏していたんです。何とか彼に合わせようと必死だったんでしょうね。
すると、曲の途中からヨーコがナゾの行動を始めました💦白い布袋を持ち出してそれを頭からすっぽりと被ったのです。彼女独特の前衛芸術なんでしょうが、このパフォーマンスが何を意味するのか、観ている側にはさっぱり分からなかったでしょう(^_^;)
(3)アーリー・ビートルズから最近の曲まで一気に演奏
Money - John Lennon & Plastic Ono Band - Toronto 1969
続いてアルバムでもカヴァーした「Money」です。ヨーコが袋の中でずっとゴソゴソしてるんですが、遠くからだと観えなかったというか観えない方が良かったでしょう(^_^;)続いて「Dizzy Miss Lizzy」です。これもビートルズ時代からお馴染の曲です。この辺りまで来ると彼もノッてきたのか、声がよく出るようになっています。
そして、いよいよオリジナル曲へと移ります。
You Make Me Dizzy Miss Lizzy - John Lennon - Toronto 1969
(参照文献)SEGARINI: DON'T BELIEVE A WORD I SAY, VICE, MUSIC CONNECTION, THE TORONTO DREAMES PROJECT
(続く)
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