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ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

映画「Get Back」はこれまでのイメージを一新するか?(327)

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映画「The Beatles : Get Back」の先行上映のPR写真

1 ビートルズ史上最悪のセッション

(1)長らく語り継がれてきた

THE BEATLES: GET BACK,” A DISNEY+ ORIGINAL DOCUMENTARY SERIES DIRECTED BY  PETER JACKSON, TO DEBUT EXCLUSIVELY ON DISNEY+ | The Beatles

「『Get Back/Let It Be』は、ビートルズ史上最悪のセッションだった。」というのがこれまでの定説でした。その主張を裏付けてきたのが、マイケル・リンゼイ・ホッグ監督が制作したドキュメンタリー映画「Let It Be」です。

その映画全体から漂ってくるビートルズを覆いつくす何ともいえない陰鬱な雰囲気と、メンバーのトゲトゲしい様子が映し出されていました。この映画を観れば「あの時点でもうビートルズは終わっていた。」と誰もが感じたでしょう。

(2)ジョンの回想

1969年1月の「Get Back/Let It Be」セッションは、すべてが緊張していたわけではありませんが、ビートルズは、しばしば互いに対立していました。ポールは傲慢に振る舞っているようにみえ、ジョンは、重度のヘロイン中毒でヨーコと片時も離れようとはせず、ジョージは一時的にビートルズを脱退し、リンゴは、ほぼ1か月間、ただ黙ってプレイしていました。

ジョンは、このセッションについてこう語っています。「一言で言えば、ポールは、そろそろビートルズの映画をもう1本作るとか、ツアーに出るとか私たちに何かをやってほしいと思っていた。いつものように、ジョージと私は、『ああ、やりたくないな。』などと言っていた。でも、ポールがセッティングして、どこにツアーに行こうかとか、色々話し合ったんだ。私は、ただ付き合っていただけで、その頃にはヨーコがいたから、私は、どうでもいいと思っていた。クスリでずっとラリっていたしね。私は、くだらないことはやらなかった。みんはそうさ。」

「ポールは、我々がリハーサルをするとか...サイモンとガーファンクルみたいに、常に完璧を求めていた。だから、彼は、我々がリハーサルをしてからアルバムを作るという考えを持っていたんだ。もちろん、我々は怠け者だし、20年も演奏してきたんだし、いい大人なんだから、お行儀良く座ってリハーサルなんてしないよ。とにかく、私はそうだ。」

「我々が夢中になることはなかった。何曲か演奏してみたけど、誰も全く乗り気じゃなかった。トゥイッケナム・スタジオで、ずっと撮影されているのは耐えられなかった。私は、撮影のスタッフたちに立ち去って欲しかったんだが、我々は、朝の8時からスタジオにいた。朝8時とか10時とか、見知らぬ場所で、ずっとカラフルなライトで照らされ、カメラで撮影されながら、音楽を作ることなんてできなかったよ。」*1

(3)見方を変えるべきではないか?

The Beatles: Get Back: Release Date And Other Quick Things About The Peter  Jackson Docuseries - CINEMABLEND

ジョンが語っているように、ポール以外のメンバーは全くやる気がなく、いくらポールがレコーディングしようと必死に説得をしても、なかなか重い腰を上げようとしませんでした。彼らは、この前のホワイトアルバムのセッションで心身をすり減らして疲れ切っていましたから、むしろ、それをまったく意に介さず続けて次のレコーディングを始めようとしたポールのメンタルの強さには恐れ入ります。

しかし、本当にやる気がなかったのなら、スタジオに来てレコーディングなどしなかったはずです。それが他のメンバーもポールの説得に応じて取り組み始めたのは、やはり心のどこかでは、曲を制作してレコーディングしたいという気持ちがあったからでしょう。

もっとも、いざレコーディングを始めてみると、完璧主義者のポールが何度もテイクを重ねたり、あれこれ指示を出したりすることに他のメンバーはウンザリしていました。ポールがもう少し妥協すべきだったのか、それともそれでは良い作品にはならなかったのか、この辺りの判断は難しいところですね💦

このセッションが、メンバーやスタッフにとって不快なものだったことは事実です。ただ、これまでは暗い側面ばかりがあまりに強調されすぎていて、セッションの間中、メンバーがずっと険悪な雰囲気だったかのようなイメージを持ってしまいがちです。しかし、実態は必ずしもそうではなかったということが分かってきました。

 

2 新しいドキュメンタリー映画が公開予定

(1)新たなチャレンジ

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ピーター・ジャクソン監督

これまでの定説を覆すかのように、そこに新たな一石が投じられました。「ロード・オヴ・ザ・リング」などで知られるピーター・ジャクソン監督が、撮影済みのフィルムや音源から新たな編集を加え、新たなドキュメンタリー映画として「The Beatles: Get Back」を制作したのです。

この映画は、2021年8月に映画館での封切りを予定していましたが、同年6月17日、配給元であるウオルト・ディズニーが劇場公開からストリーミング配信に切り替えると発表しました。新型コロナのパンデミック収束がまだ見通せない現状で、映画館でどれだけ集客できるか確信を得られなかったのでしょう。

月額8ドル(約900円)のストリーミングサービス「ディズニープラス」で3回に分けたシリーズとして、11月25日に配信されることになりました。本来、この映画は、2020年に封切られる予定でしたが、それがパンデミックの影響で2021年に延期され、最終的には配信という形式になりました。

この映画は、1969年1月にホッグがトゥイッケナム映画撮影所で撮影した56時間に及ぶ未公開映像に加え、アルバム「Let It Be」のレコーディング・セッションから、そのほとんどが未発表のままだった140時間に及ぶ音源、そして1970年に公開された映画「Let It Be」の映像を基に編集されています。

(2)高いハードル

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笑顔を見せるメンバー

しかし、ジャクソンも勇気がありますね。ビートルズをテーマにするというだけで、とてつもなくハードルが上がります。ヘタをすると自分の名声に傷をつけてしまうことになりかねません。

ロン・ハワード監督が「The Beatles: Eight Days a Week – The Touring Years」を2016年に公開し、グラミー賞を受賞するなど成功を収めましたが、あの作品は、アイドル時代のビートルズを描いたものでした。それに比べると「Let It Be」はメンバーの関係が険悪になっていた頃に映像化されたものですから、普通に考えればとても成功するような作品になるとは思えません。

しかし、ジャクソンは、膨大な量のフィルムと音源を丹念に拾いながら、地道な編集作業を続けました。そして、彼には頼もしい助っ人がいました。ニュージーランドのパーク・ロード・ポスト・プロダクションが映像の修復作業を担い、ビートルズのプロデューサーであったジョージ・マーティンの息子であり、映画「Eight Days a Week」でもサウンド・リマスターを担当したジャイルズ・マーティンとサム・オケルがロンドンのアビイ・ロード・スタジオで映画に使われる音源のミックス作業を行いました。

(3)お宝を発見

ジャクソンも編集作業に取り掛かる前は、黒一色に塗りつぶされたようなセッションというイメージを持っていましたが、実際に作業を開始すると、映画では使われなかった和やかな雰囲気のシーンがたくさん残されていたことが分りました。彼にしてみれば、思わぬお宝を発見して、興奮で小躍りしたい気持ちだったのではないでしょうか?まるであの当時にタイムスリップして、スタジオで自分の目の前でビートルズが名作を制作していく過程を見ていたような気分だったでしょう。

3 関係者のコメント

youtu.be

(1)ピーター・ジャクソン

監督のピーター・ジャクソンはこう語っています。「このプロジェクトは、嬉しい発見に満ちていた。史上最も偉大なバンドが彼らの最高傑作を創り上げていく制作風景の全貌をこっそりと観察する特権を与えられたことは大変光栄であり、ディズニーが配給会社として名乗りを上げてくれたことも非常に嬉しく思っている。」

(2)ポールとリンゴ

Paul McCartney, Ringo Starr To Perform Together | GRAMMY.com

ポール「ビートルズのレコーディングが実際にどんな様子だったかという真実を映し出したこの映画の制作のために、ピーターが我々のアーカイヴを掘り下げてくれたことを本当に嬉しく思う。我々の友情や愛がこの作品によって蘇り、我々が共に過ごしたとてつもなく美しい時間を私に思い起こさせてくれる。」

リンゴ「この映画の公開が本当に楽しみだ。ピーターは素晴らしい監督で、この作品に収められている映像全てに心が踊った。あの頃の我々は、ただただ笑い合ったり、世に知られているヴァージョンとは似ても似つかぬような演奏をしたりして、何時間も一緒に過ごした。あの喜びに溢れていた時間を、ピーターは、この映画の中で描き出してくれることだろう。この作品は、ビートルズの姿がそうであったように、平和と愛に満ちたものになると思う。」

リンゴは、かつて前作の映画をあまりにも暗いシーンばかりをクローズアップしすぎていると批判していました。しかし、ようやく長年に亘って腫れ物に触るかのように扱われてきたセッションの歴史を塗り替えてくれる作品が登場して、嬉しく思ったんでしょうね。

(参照文献)ザ・ビートルズ・バイブル、ブルームバーグ、ユー・ディスカヴァー・ミュージック

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*1:ジョン・レノン、1970年「レノン・リメンバーズ」ジャン・S ・ウェナー