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ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

映画「Get Back」は素晴らしいドキュメンタリー作品である(ネタバレあり)(349)

The Beatles: Get Back (2021) directed by Peter Jackson • Reviews, film +  cast • Letterboxd

1 素晴らしい作品

(1)配信の恩恵

2021年11月25日からディズニー+で配信が開始された映画「Get Back」パート1のレビューです。当然、ネタバレを含んでいるのでご注意下さい。

大きなスクリーンで観られなかったのはちょっと残念でしたが、配信のおかげで何度もリピートして観られます💖劇場公開であれば記憶を頼りに書くところですが、配信になったおかげで詳細に触れられるので、暫くこのシリーズを続けることにします。

映画の感想を一言で言えば「素晴らしかった」です。これまでの「ゲット・バック・セッション」に対して、私が抱いていた暗いイメージを吹き飛ばしてくれました。

私は、マイケル・リンゼイ=ホッグ監督が制作した1970年公開の前作の映画「Let It Be」や様々な著作物等によって作り上げられた、解散当時におけるビートルズに対する暗いイメージを50年以上にわたって抱えてきました。そして、それは、全世界の多くの人々も同じだったと思います。

(2)暗いイメージを払拭してくれた

「Let It Be」を観た時は本当に辛くて、あれ以来解散の話題について触れることすら長らく封印し、このブログでようやく触れたばかりでした。かなり免疫ができたとはいえ、それでもまだ、この頃のビートルズに対する暗いイメージを持っていました。しかし、この映画は、そういったトラウマを綺麗に払拭してくれたのです。ピーター・ジャクソン監督に感謝します。

全く同じフィルムや音源を使っているにもかかわらず、未使用の映像や音源を元に新たな視点で編集を加え、映像や音源をリマスターすることによって制作されたこの作品に触れ、私の中では正に「コペルニクス的転回」が起きました。

一つの作品で、これほどまでにあの当時のビートルズのイメージが変わるとは驚きです。長年の呪縛から解き放たれた感じがします。その他にもこれまで語られてきたこととは違う印象を受けた部分が数多くありますが順に紹介していきます。

 

2 巧みな構成

(1)1956年からスタート

www.youtube.com

映画は、ゲット・バック・セッションからスタートするのかと思いきや、1956年のリヴァプールに遡ってスタートします。いきなりセッションのシーンから入るよりも、まずは、ビートルズがどんなに偉大なバンドだったのかという足跡を、ジョン・レノンがリーダーとなってアマチュアバンドであるクオリーメンを結成した当時から時間の経過を辿って、観客に思い起こさせる作業は必要だったと思います。この辺りは、監督あるいは脚本家の構成の巧みさを感じさせますね。

映画の最初でバックに流れる楽曲は、クオリーメン時代にポールが作曲し、初めてレコーディングした「In Spite Of All The Danger」です。そこから、時系列で彼らの名曲が次から次へと流れ、とてつもないバンドだったんだということを改めて思い知らされます。

(2)栄光も試練もあった

彼らは、クオリーメンからビートルズ、そしてアマチュアからプロに転向し、キャヴァーンの下積み時代からハンブルク巡業を経て、1962年にメジャーデビューすると瞬く間に全世界をビートルマニアで埋め尽くしました。ゲット・バック・セッションにたどり着くまでには、エドサリヴァン・ショーへの出演、MBE勲章の受賞、マニラでの危機、ジョンのキリスト発言、コンサートの中止、ブライアン・エプスタインの死、インドでの修行、アルバム「サージェント・ペパー~」の成功、映画「マジカル・ミステリー・ツアー」の公開、アップルコア社の設立など様々なできごとがありました。

 

3 ビートルズはやる気だった

(1)ライヴ盤を制作するつもりだった

ここから字幕と当時の映像で、ビートルズゲットバック・セッションに取り組んだ経緯が説明されます。彼らは、1966年のコンサート中止以来2年振りに、1968年9月にトゥィッケナム・スタジオで久々に多数の観客の前で「Hey Jude」のプロモーションビデオを撮影しました。

この経験に満足した彼らは、次回の作品をライヴ盤にすると決めたのです。ライヴは、テレビ特番として放送することにしました。ライヴなのでオーバーダブや音の加工は一切しないという方針でした。

(2)これまで伝えられてきたことと違う

The Beatles: Get Back a film montage from Peter Jackson | Born To Listen

この辺りも今までの定説とはちょっと違いますよね。ゲット・バック・セッションは、ポールが主導して、あまり気の進まない他の3人をスタジオに引っ張ってきて、レコーディングが始まったとされていました。しかし、この映画の説明では、全員が次のアルバムをライヴ盤で制作しようとしていたことが分かります。

つまり、他の3人は、ポールに引きずられるようにスタジオに来たのではなく、全員が自分の意思でスタジオに来て作曲しながらレコーディングし、その様子を撮影するつもりだったということですね。さらに、撮影した映像は、あくまでテレビ特番用のものであって、映画にする予定ではなかったということも分かります。

彼らが解散していなければ、ライヴ・アルバムとテレビ特番が完成するはずでした。新たな資料の発見によって、過去の歴史が覆されることはままありますが、これもその一例かもしれません。

 

4 まずプロジェクトありきだった

(1)セッションの経緯が分かった

大きな問題だったのは、「まずプロジェクトありきで、プランが明確になっていなかった」ことです。リンゴは、1月24日に別の映画である「マジック・クリスチャン」に出演することが決まっていました。アップル・フィルムで製作を担当していたデニス・オデールは、既にトゥィッケナム・スタジオをビートルズの記録映像の撮影用に押さえていました。

彼は、リハーサル場にステージ1を勧めました。後のテレビ特番もここで撮影が可能でした。1月の最終週には、マジック・クリスチャンの撮影のために明け渡さなければなりませんでした。

…と、映画のスタートから10分31秒経ったところまで、駆け足でビートルズの歩んできた道を辿るとともに、どのような経緯でセッションが始まったのかを観客に理解させました。巧みに観客を誘導したところがジャクソンの腕の見せ所ですね。

(2)ライヴをやることだけが決まっていた

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マイケル・リンゼイ=ホッグ(右から2人目)

そして、この映画の前作である「Let It Be」の監督を務めたマイケル・リンゼイ=ホッグが登場し、ここから彼が監督した記録映像に切り替わることが分かります。彼は、1940年生まれですから、当時はまだ28歳です。元々映画にするつもりではなく、ドキュメンタリーとしてテレビ特番にするつもりだったので、監督自身が映像に登場しています。

彼は、すでに「Paperback Writer」などビートルズの作品のプロモーションビデオをいくつも制作した実績がありました。また、お蔵入りにはなったものの、ローリングストーンズ主演の映画「ロックンロール・サーカス」も彼の作品です。彼がリハーサル映像を撮影し、それをテレビ特番に組み込むことになっていたのです。

最終リハーサルは、1月18日と決定しました。その翌日の19日と20日に観客を入れてライヴを行い、それを撮影してすぐに放送する予定だったのです。

(3)一日ごとに日付が消されていく

面白い工夫だと感じたのは、1969年1月のカレンダーがアップになり、セッションの初日である2日からスタートしてその日のエピソードが終わると、順を追ってカレンダーの日付に✖️が付けられてシーンが進行していくことです。これでプロジェクトの進行状況が、観客にリアルに伝わります。

さらに、こうすることでスケジュールがとてもタイトで、僅か2週間余りで14曲を完成させ、なおかつライヴもやらないといけないという、とんでもなく切羽詰まった状況であったことが分かります。そういう視点で見ると、メンバーやスタッフの焦燥感がとてもよく伝わって来ます。この辺りの演出は見事ですね。

5 多くの問題があった

(1)楽曲の制作過程は映像にしないのが普通

映画やテレビドラマの世界では、「メイキング映像」というものが存在します。すなわち、どのような過程で作品が制作されたのかを記録し、後で公開するのです。あるシーンがどのように撮影されたのか、本番以外のシーンもカメラを回しておいて後で編集します。撮影の裏側や俳優の素顔などが観られるのでなかなか興味深いですよね。

しかし、最初から映像として撮影されていることが分かっている俳優と違って、ミュージシャンが楽曲を制作する過程は普通は撮影したりしないものです。おそらく、一番見られたくない部分ではないでしょうか?

(2)なぜ音楽では少ないのか?

ドキュメンタリー映画『ザ・ビートルズ:Get Back』予告編と写真が公開

ミュージシャンが楽曲を制作するシーンを撮影した映像には、あまりお目にかかったことはありません。ミュージシャンでないとその違いを説明するのは難しいと思いますが、おそらく音楽の制作は、頭の中で考える作業が多いので、他人がいたり、カメラが回っていたりするところでは集中できない、ということが理由なのではないかと思います。

たまにライヴ会場で、開演直後や衣装替えの間にアーティストの映像が会場で流されることがありますね。その時に楽曲の制作風景が映っていることもあります。しかし、あれは、あくまで観客へのサービスショットみたいなもので、アーティストも分かったうえで制作過程のほんの一部を切り取って流しているだけです。

レコーディングも同じです。ビートルズが長年、スタッフ以外は絶対にスタジオに入れなかったのは、無関係な第三者がいるとジャマになるからです。

他にも様々な問題点がありましたが、長くなるので続きは次回で。

(続く)

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