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ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

映画「Get Back」〜ジョージの叫び「オレはエリック・クラプトンじゃない!」(355)

※この記事は、映画「Get Back」の「ネタバレ」を含んでいるので注意してご覧ください。

1 長年モヤモヤしていたものがやっとスッキリした

(1)映画「Let It Be」と写真とのギャップ

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レコーディングの合間に和やかに談笑するビートルズ

私の心の中に長年ずっとモヤモヤしていたものがありました。それは映画「Let It Be」に映し出されていたビートルズはとても暗い雰囲気だったのに、その映画の中で撮影された写真では、メンバーの笑顔が数多く見られたことです。

「こんなにメンバーが笑顔を見せている写真が数多く残されているのに、なぜ映画はあんなに暗い雰囲気だったのだろう?」とそのギャップの大きさに戸惑いがあったのです。今回の「Get Back」を観て、やっとそのモヤモヤが氷解しました。前作では明るいシーンが殆どカットされていたんですね。ゲットバック・セッションでビートルズは、常にカメラが回り続けているという緊張感から、セッションに集中できずストレスを溜めていた。」といったエピソードが、解散以来この映画が公開されるまでもっともらしく語られて来ました。

(2)カメラが回っていたせいではなかった

ビートルズがジョージの「All Things Must Pass」に取り組んでいる合間に、ポールが何かドリンクを頼むかメンバーに尋ねると、彼らは、それぞれ好みのドリンクを注文しました。彼らは、このシーンに代表されるように終始リラックスしていて、緊張しているような素振りは見られません。ずっとカメラが回っていたために、緊張が続いていたという話が公然の事実であったかのように流布されてきましたが、そうではなかったということが映像ではっきりしました。

とはいえ、メンバー間に緊張が走った場面もありました。しかし、それはセッション全体の中の一部であり、ビートルズは、カメラが回っていたことが原因で緊張していたわけではありません。

本当にイヤだと思ったのなら、カメラを止めるよう求めれば良かっただけです。そもそもテレビ特番用にライヴ映像を撮影しようと考えたのは彼ら自身だったのですから、緊張する方がおかしいですよね。彼らがストレスを感じていた主な要因は、ライヴの日程が迫っているにもかかわらず新曲が思うように仕上がらず、先の見通しがまったく立たないことでした。

 

2 フェイズとは?

(1)「フェイズが欲しい」

ジョージがポールに対し「オーバーダブは一切なしという今回のアイデアはすごくいいと思う。」と、このセッションの方針に賛成であることを明らかにしました。さらに「今までは『ここは後で音を重ねよう』って態度だったろ。」と付け加えました。スタジオで編集を重ねるのは、もういいという気持ちだったんでしょうね。

すると、ジョンが「ライヴをやってる連中もフェイズやエコーなどの手を加えている。でも、僕らは4人でアンプも4つのみだ。フェイズが欲しい。」その発言を受けてジョージが「アレックスが建設中のスタジオに組み込むさ。」と応えました。

(2)フェイズ(位相)とは

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同位相の波形

フェイズは、日本語で「位相」と翻訳されます。音楽では、音波の波形の位置を指します。音は楽器の振動から生ずる波なので、上下動を繰り返しながら、楽器からマイクへと伝わっていきます。

この時、音を拾うマイクが一つなら問題ないのですが、複数になるとマイクに到達する時間や位置でズレが生ずるため、位相もズレて音が干渉して弱くなってしまうのです。完全に反対の逆位相になると音が互いに打ち消し合います。ノイズキャンセリング・イヤホンは、この効果を利用したものです。

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逆位相の波形

そこで、フェイズのズレによって音源が弱くなることを防ぐため、それを調整する機材が必要になります。ジョンが欲しいと言ったのは、そのためのエフェクターまたはフェイズシフターなどの機材のことです。ライヴをやるにしても必要な機材がない状態では、アーティストは、十分なパフォーマンスを発揮できません。

 

3 ジョージが正論を展開したが

(1)アレックスとは?

会話の中に登場したアレックスとは、通称「マジック・アレックス」と呼ばれた人物で、ジョンに気に入られてアップルに潜り込み、莫大な金を浪費して何の役にも立たない機材を作った食わせ物です。ジョンは、彼にスタジオを作るよう命じ、彼は、アップル社内に作ったのですが、全くレコーディングには使えない代物だったので、結局ビートルズは、EMIのスタジオを借りなければなりませんでした。

このシーンを観ながら「あんなヤツを信じちゃダメだよ。」と思ってしまいました。記録映像を観てそんなことを思ったところで、どうしようもないことは分かっているんですが、つい感情移入してしまったんですね。

(2)ジョージが正論を展開したが

ジョージは、「他人の曲でも自分が書いたと思えるようでないとね。それぐらい真剣に関わらないと。僕が唯一、真剣に関わったのは『ホワイトアルバム』だ。」と続けました。

この発言の前半は正論ですが、今まではそんなことをわざわざ言う必要もありませんでした。この辺りは、メンバーのコミュニケーションが上手くいっていなかったことを窺わせます。しかし、ジョージが言いたかったのは、そんな建前ではなくてもっと根深いものでした。

 

4 ジョージが現場の空気をピリつかせた

(1)自分に対する扱い

この機会にジョージは、自分の楽曲に対するジョンやポールの扱いに対する不満を表明したのです。自分が関わったというのは、やっと自分の楽曲がアルバムに採用されて、自分がメンバーをリードしてレコーディングできたことを指しています。

それまでジョンもポールもジョージの楽曲を評価していませんでした。ホワイト・アルバムに収録された「While My Guitar Gently Weeps」は名曲ですが、こんな素晴らしい曲を提供しても、彼らの評価は変わりませんでした。

また、ジョージは、二人が自分の楽曲のレコーディングでは、真剣にバッキングしてくれなかったことをずっと不満に思っていました。もっとも、二人から言わせれば「十分に貢献しただろう。」といったところでしょうね。

どちらの主張に分があるかは意見が分かれるところですが、メンバーの様々な発言などから言えることは、総じてジョンとポールのジョージに対する評価が低かったことは否定できなかったようです。それは、この後に起きた事件で顕在化しました。

(2)話が止まらない

いずれにせよ、これは内輪の話ですから、部外者の前では絶対にしない類のものです。まして、カメラが回っているところならなおさらしません。しかし、ジョージは、カメラが回っていることを忘れてしまっていたのか、よほど不満が溜まっていたのか、とうとうと本音を語りました。

ビートルズ結成当時から「クワイエット・ビートル(静かなビートル)」と呼ばれ、あまり自己主張しないタイプと思われてきた彼でしたが、この時ばかりは珍しく、日頃から抱いてきた不満をはっきりと口にしたのです。

(3)ジョンもポールも黙って聞いていた

ジョンもポールもジョージの話を黙って聞いていました。饒舌な二人のことですから、ジョージの主張に対して反論があるならしたはずです。しかし、二人とも沈黙したままだったのは、彼らにも思い当たるフシがあったからでしょう。

ポールは、葉巻をくゆらせながらジョージの話を聞いていましたが、ジョージが一旦話し終えると、うつ向きながらささやくような声で「そうだな」と応えました。彼の内心までは測りかねますが、おそらくジョージの言うことももっともだと思ったのではないでしょうか?この時ばかりは、流石に現場の空気がピリつきました。

 

5 オレはエリック・クラプトンじゃない!

(1)ジョージの苛立ち

hard mike on Twitter: "an hour in and so far my favourite parts of get back  (besides the music) are george harrison's turtlenecks  https://t.co/uMkOKUXoCX" / Twitter

ジョージは、話題を変えてオールディーズはやらないのかと二人に尋ねました。確かに、レコーディングではなくライヴをやるなら、新曲ばかりでなくむしろファンがよく知っているオールディーズを入れた方が喜ばれますよね。話題を変えたことで、ジョージの不満は収まったかのように思われましたが、ここから堰を切ったように溢れ出したのです。

「聞いてくれ。僕とエリックとの違いだが、僕はギターを弾くが歌うこともある。彼は、ギターだけだ。リードを弾く。だから、ずっと弾き続けることができる。僕も今は弾けるようになった。色々覚えた。特に速いフィンガリングとかね。」

「エリック」とはもちろん、ジョージの親友であり、天才ギタリストとして名高いエリック・クラプトンのことです。彼は、デビューして間もない頃から「ギターの神様」と崇拝されていました。

(2)「オレはエリック・クラプトンじゃない!」

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ジョージがこんな話をしたのは、「オレは、エリック・クラプトンじゃない!」と言いたかったのでしょう。ジョージは、何かといえばクラプトンと比較されることに対して不満を持っていたのです。

クラプトンは、後にヴォーカルもやるようにはなりましたが、専門はギタリストであり、ギターに専念して自分のやりたいように弾けました。彼は、色々なバンドのメンバーになりましたが、いずれも長続きしなかったのは、ソロギタリストの方が向いていたからでしょう。

彼と違ってジョージは、ビートルズというバンドの一員であり、しかもジョンとポールという二人の天才がいました。彼は、リードギターを弾いただけでなく、リードヴォーカルもコーラスも担当していたのです。

レノン=マッカートニーが次々と繰り出してくる楽曲にピタリとマッチするリードギターとヴォーカルを求められるという負担は、相当なものだったはずです。そんな立場でも彼は、自分の楽曲を磨き上げていたんです。このように、そもそもジョージとクラプトンでは果たすべき役割が違うのだから、彼が自分とクラプトンを比較するなと言いたくなったのももっともだと思います。

(続く)

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