1 音楽の方向性の違い
ビートルズの会議を録音したテープの続きです。
ジョンは、ポールに他のメンバーは誰も「Maxwell's Silver Hammer」を気に入っていないと告げたのですが、それに対してポールは反発するどころか、彼自身も気に入っていないと応えたのです。あれあれ、自分で認めちゃったんですね💦
ジョンは、こう語っています。「人気が出るからといって、その曲を書いた人も含めて誰も気に入っていない曲をアルバムに入れるのはおかしいと思った。『Ob-La-Di, Ob-La-Da』と『Maxwell』は、そういう音楽が好きな人たち、例えば、メアリー(ホプキンス)とかに渡した方がいいんじゃないかな?クオリティーの高いものが必要になるのは、シングルの時だけだ。アルバムでは、自分たちが本当に好きなものだけをやればいいんだ。」*1
ポール以外のメンバーは、「Ob-La-Di, Ob-La-Da」を気に入らずシングルカットされなかったのですが、それならと他のバンドがカヴァーしてチャート1位を獲得しました。ビートルズとしてリリースすれば、間違いなく1位を取れていたはずなのに、もったいないことをしたなと思います。
確かに、芸術性の高い曲はビートルズらしさを感じさせますが、こういう肩の凝らない曲があっても、それはそれで良いんじゃないかと思います。後に青盤にも収録されましたからね。
2 ジョンの言動は矛盾していなかった?
(1)メンバーのぬるい反応に見切りをつけた?
私は、前回の記事で「この会議でジョンがビートルズの将来のことについて積極的な発言をしていたのに、そのわずか後に脱退することをメンバーに告げるという矛盾した行動に出たことは不可解だ。」という趣旨のことを書きました。
しかし、改めて考えてみると、この会議ではジョンの提案に誰も積極的に乗ってこず、「ヌカに釘」のような態度だったのです。会議で大した成果も得られなかったため、ジョンがビートルズに見切りをつけたとも考えられます。
ただ、ジョンは、ビートルズからの脱退を告げた同じ日に、キャピトルレコードとの契約にサインしていますから、やはりすぐに脱退する気はなかったと言わざるを得ません。「契約はするけど、それが終わったら脱退する。」という位の意味だったのでしょう。
(2)ポールが激しく動揺した
彼がうっかりしていたのは、「ポールがジョンの言葉を額面通りに受け取ってしまい、大変なショックを受ける。」ということを計算に入れていなかったことです。結果的に「ポールの脱退宣言」という最も望ましくない方向に事態が動いてしまいました。
実際、この会議の後、ビートルズが再びアルバムをレコーディングするために集まることはなかったので、この会議は、ほとんど意味をもちませんでした。不思議なのは、ビートルズの存続に最もこだわっていたはずのポール、そして、彼ほど積極的でなくても、まだソロになるのは時期尚早と考えていたジョージが、今後の活動について積極的に発言しなかったことです。
おそらくポールは、メンバーとの確執で心身ともに疲れきっていて、新たなレコーディングについて考える気力がなく、またジョージは、ジョンとポールに対する不信感が拭えず、積極的に発言する気にならなかったのかもしれません。ジョンは、他のメンバーのこのようなぬるい態度に見切りをつけて、脱退の意思を固めたのではないでしょうか?
3 ジョージはマネージャーをスカウトしていた
(1)アリス・クーパーのマネージャー
1970年代初頭にグラム・ロック、ショック・ロックの象徴となったアーティストのアリス・クーパーは、最近のインタビューで、マネージャーのシェップ・ゴードンがジョージからビートルズのマネジメントを依頼された事実を公表しました。
ゴードンは、アリス・クーパー以外にも沢山のアーティストのマネージャーを引き受けていたのですが、それらをすべて整理し、クーパーだけの専属になると決心しました。そして、彼以外に契約していたアーティスト全員に電話をかけ、契約を解消したのです。
(2)ジョージからマネージャーのオファーが来た
その直後、ゴードンは、ジョージからビートルズのマネージャーになってくれないかと電話で依頼されました。クーパーは、ビートルズのマネージャーになるなんて、ゴードンのキャリアの中でも最大のチャンスだから、是非引き受けるべきだとゴードンに勧めました。
クーパーも器がデカいですよね。信頼するマネージャーを引き抜かれそうになったら、普通は全力で止めるでしょうに。
しかし、ゴードンは、クーパーの勧めを断り、自分が管理しているアーティストの仕事が続いている間は、それらを全て責任を持ってマネジメントすると応えました。ジョージにとっては残念な回答でしたが、立派な態度でした。
4 ジョージのオファーを断った!
(1)クーパー以外のマネージャーを辞任
クーパーは、当時の様子をこう語っています。
「ゴードンは、ルーサー・ヴァンドロス、ブロンディたちをマネジメントしていた…ジプシー・キングス、グルーチョ・マルクス、ラクエル・ウェルチもだ。彼は、ある日、私をオフィスに呼び、『君とグルーチョ以外の連中を見てくれよ、私は、もう頭がおかしくなりそうだ。今から彼ら全員に電話してマネージャーを辞任すると伝えるから、ここにいて聞いていてくれ。』と言った。私は、分かった、オーケーと応えた。」
ゴードンの誠実な人柄が浮かんできますね。彼は、正々堂々とクーパーの目の前で他のアーティストのマネージャーを辞任する意思を彼らに伝えたのです。
「彼が電話している間、私はそこに座っていた。私は、とても満足した。これでこれからも彼とやっていけると確信した。」
「我々は、シャンパンのボトルを開け、彼は、こう言った。『これで終わったよ。私と君だけだ!』私は言った『素晴らしい!』ってね。」
(2)ジョージからオファーが来た
しかし、話はそれで終わりませんでした。「電話の呼び出し音が鳴り、ゴードンが受話器を取って話した後、席に戻ってきた。」
「彼は、こう言った。『信じられないだろうけど、ジョージ・ハリスンだった。私にビートルズのマネージャーになってほしいって頼んできたよ。』彼が引き受けていたミュージシャン全員のマネージャーを辞めた直後に、ビートルズが彼をマネージャーとしてスカウトしたんだ!」
何と、ゴードンがクーパー以外のマネージャーを全て辞任した直後に、ジョージ自らがゴードンに電話して、ビートルズのマネージャーを引き受けてくれないかとオファーしてきたのです。偶然とはいえ、まるでシナリオが用意されていたかのようですね。
(3)オファーを断った!
「私は『やりなよ!ビートルズのマネージャーを引き受けるって返事しろよ!』とゴードンに言った。」このクーパーの勧めにもかかわらず、ゴードンは、ジョージの依頼にこう応えました。「私は、あなたをマネジメントするつもりはありません。私は、あなたのビジネスのサポートならしても構いませんが、ポールとジョンとリンゴとジョージがお金について議論している場にいたくないんです。ビートルズのマネージャーを引き受けたら、私の残りの人生が台無しになってしまいます。」
それを聞いて、ジョージはこう応えました。「君の言いたいことは、よく分かったよ。」まあ、そう言われればジョージもあきらめざるを得ません。もっとも、ゴードンは、ビートルズのマネージャーは辞退しましたものの、ビジネスのサポートは引き受けました。
並の人間なら、渡りに船と飛びついたでしょう。ビートルズのマネージャーがどれほど大変かは、ブライアン・エプスタインの苦労を見ても分かりますが、知名度は一気に上がりますし、間違いなくキャリアアップに繋がります。しかし、ゴードンは、あっさりオファーを断りました。
ゴードンがジョージのオファーを断ったのは、クーパーの専属マネージャーとしてずっと仕事を続けていきたいということが主な理由でしたが、それとともに、ビートルズが抱えていたゴタゴタに巻き込まれたくないということもあった、というよりそれがイヤだった可能性の方が大きかったでしょう。ということは、ビートルズの内紛は、もはや世間では周知の事実だったともいえますね。
5 ジョージは何を考えていたのか?
このエピソードがいつの時点のものなのかは分かりませんが、ビートルズがアラン・クラインとマネジメント契約する前と考えられます。また、クーパーとゴードンの証言がありますから、事実であることも間違いないでしょう。クーパーが長らくこのエピソードを公表しなかったのは、ジョージのイメージダウンに繋がりかねないと懸念したのかもしれません。
では、ジョージは、何を考えてゴードンを引き抜こうとしたのでしょうか?少なくとも、まだしばらくはビートルズとして活動を続けるつもりだったことは間違いありません。そうでなければ、わざわざマネージャーをスカウトなんかしませんから。
彼としてはレノン=マッカートニーの束縛から逃れ、いずれはソロになるつもりでした。このままビートルズにいても飼い殺し状態でしたから。
しかし、ソロとしてやっていけるだけのキャリアはまだ十分ではなかったので、もう少しビートルズのジョージ・ハリスンとして実績を積んでから、ソロになろうと考えていたのでしょう。ですから、いくらメンバーの関係が険悪になっていても、今解散されると困るわけです。
これも「たられば」の話になりますが、「ハゲタカ」のアラン・クラインではなく、ゴードンがビートルズのマネージャーになっていたら、解散は、もう少し先に延びたかもしれません。しかし、彼のように冷静に判断できる人物なら、戦場に飛び込んで十字砲火を浴びるような無謀なマネはしなかったでしょう。
(参照文献)ザ・ビートルズ・バイブル、ロックセリブリティーズ
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