★ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログ★

ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

「ブッチャー・カバー」を撮影したカメラマン(423)

いわゆる「ブッチャー・カバー」のジャケット

1 ブッチャー・カバーとは?

「ブッチャー・カバー」と聞いても、ビートルズファン以外の方には何のことだかわからないと思います。ブッチャーとは、英語で食肉業者のことです。つまり、「食肉業者をモチーフにしたジャケットカバー」ということになります。1966年6月にアメリカとカナダでキャピトル・レコードがリリースしたアルバム「Yesterday & Today」のカバーに採用されました。もちろん、正式なタイトルではなく俗称です。ジャケットが食肉業者をモチーフにしていたので、こう呼ばれることになりました。

 

 

2 撮影したのはロバート・ウィテカー

若き日のウィテカー

ロバート・ウィテカーは、1939年にイギリスで生まれたオーストラリア人を父親に持つカメラマンです。彼は、メルボルンのフリンダース・ストリートでペントハウス・フォトスタジオという写真工房を経営していました。1964年のビートルズのオースラリアツアー中にウィテカーは、マネージャーのブライアン・エプスタインと知り合いました。ウィテカーは、ジャーナリストの友人と一緒に、ユダヤ人ニュースの記事のためにブライアンとのインタヴューに同行したのです。

ウィテカーが撮影した写真は、記事とともに公開されました。オーストラリアのファンから贈られたブーメランを持ち上げるポールとジョージ、そしてブライアンの写真が、彼が撮影したビートルズの最初のショットになりました。彼は、こう語っています。「私は、エプスタインの写真を撮影した。彼が孔雀みたいに臆病な人物だと感じたので、彼の頭の周囲にクジャクの羽をレリーフにしてみたんだ。その写真を見て彼は仰天したよ。」ウィテカーはすぐに彼らの仲間として信頼される存在となりました。

この時から1966年まで、ウィテカーは、ビートルズの写真を撮影し続けました。キャピトルのアルバム「Beatles '65」、UK EP「The Beatles' Million Sellers」「Yesterday」「Nowhere Man」「A Collection Of Beatles Oldies」の裏表紙、ファンクラブ第3弾のクリスマスレコードのスリーブに彼の写真が掲載されています。日本人にとっても想い出の深い、日本公演の一連の写真も撮影しました。

 

 

クジャクの羽で覆われたブライアンのポートレート

日本武道館のステージに上がるビートルズ

日本のホテルで熱心に絵を描くビートルズ

3 ブッチャーカバーの撮影

ハンス・ベルメールの人形を使った作品の一つ

1966年3月25日、ビートルズは、ロンドンのチェルシーにあるスタジオでフォトセッションに参加しました。ウィテカーは、ドイツのシュールレアリスト、ハンス・ベルメールが制作した、バラバラになった人形やマネキンのパーツのイメージからヒントを得て、ビートルズの名声を風刺する作品を制作することを思いついたのです。

彼は、こう語っています。「ビートルズが生肉と人形と差し歯に覆われている写真を撮影した。ビートルズにこれらの物を被せて、彼らも本質的には人々と同じあり、彼らがまともだという考えを破壊しようとしたんだ。」

「私は、世界中で人々が偶像や神のように、4人のビートルズを崇拝しているのを見てきた。私にとって、彼らは、ごく普通の一般人だった。しかし、ファンが彼らに注ぐ感情は、キリスト教がどこに向かっているのかを考えさせるものだった」

ウィテカーの目には、アイドルとしてのビートルズを神のように崇拝する人々が滑稽に映ったのかもしれません。それで、それを風刺するような写真を撮影したんですね。ただ、あまりにショッキングな写真だったので、様々な憶測を生みました。

ビートルズがマスコミや世間から受けた扱いや、キャピトル・レコードがアメリカ市場向けにアルバム曲の並び替えにこだわったことへの抗議だなどと唱えた人もいました。しかし、ウィテカーは後にこれらを否定し、すべて自分の考えだと主張しています。

 

 

The Best Beatles songs, Ranked.

4 ウィテカーのインタヴュー

Robert Whitaker Photography | San Francisco Art Exchange

彼は、インタヴューで次のように答えています。

Q: ビートルズが肉の塊や首切り人形に囲まれているあの写真は、どのようにして生まれたのか?あなたのアイデアか、それともビートルズのアイデアか?

A:もちろん、私のアイデアだ。本来ならアイコンになるはずの3枚の写真の一部だったんだ。しかも、ラフなものだった。今思えば、あの写真の背景は、すべて金色にすべきだった。ビートルズの頭の周りには銀色の光輪があり、宝石がちりばめられるはずだったんだ。「The Unseen Beatles」という本に載っている写真がもう2枚あるがカラーではない。

Q:撮影の準備はどのようにしたのか?

A:大変だったよ。近所の肉屋で豚肉を買い、人形工場で人形を、眼球工場に行って、眼球を探さなければならなかった。仮歯もね。この写真にはたくさんのものが写っている。ジョンが最後に書いた言葉は、この表紙についてだったと思う。それは、私の本のテキストを書いたマーティン・ハリソンに指摘されたものだ。私は、それすら知らなかったのだが、とても勉強になった。

Q: なぜ肉と人形なのか?あの写真の意味については、何年も前からいろいろな憶測が飛び交っている。最も有力な説は、ビートルズが米国で自分たちのレコードをぶち壊したとして、キャピトル・レコードに抗議したものだというものだ。

 

A:くだらない。まったくナンセンスな話だ。もし、この3枚の写真が3部作、あるいは3枚組になったなら意味があったはずだ。この本にはもう一組、ビートルズが背中を向けてソーセージにぶら下がる少女の写真がある。そのソーセージは、へその緒のようなものだった。これは、いくつかの章を開く始まりだったんだよ。

Q: レコードジャケットに採用されたとき、そして採用が取り消され、別の写真に置き換えられたとき、あなたは動揺しましたか?

A:そうだな。ビートルズがトランクに座っている写真も撮ったんだが、元のカバーの上にそれが貼られたんだ。その時、私は、とても困惑したのを覚えている。だが、純粋かつ単純に私がそれに困惑する理由はなかった。なぜなら、これは確かに、あるグループの人々を表現するにしては、かなり衝撃的な作品として解釈できるからだ。*1

差し替えられた後のジャケット

Funny Photographs of The Beatles Taken by Robert Whitaker in 1964 ~ Vintage  Everyday

5 ウィテカーの真の狙い

(1)宗教画のようなイメージだった

ムーラン大聖堂の三連祭壇画

ウィテカーが意図した三連祭壇画(パネルが三つある祭壇画)は、ビートルズが宗教的な偶像に見えるようにレタッチされる予定だったのです。この装飾は、肉やダミーの土臭さと対照的であり、名声の下にあるグループの平凡さを強調するものでした。

「このジャケットは未完成のコンセプトだった。織りたたみ表紙(3枚の写真を並べてつなぎ目で折りたたんで1枚にしたもの)を構成する一連の写真のうちの1枚に過ぎなかったんだ。ビートルズの頭の後ろには金色の光輪があり、その光輪の中にちょっと貴重な宝石が置かれる予定だった。そして、その背景にはさらに金箔が貼られていて、まるでロシアの偶像のようだった。ちょうどジョンが『イエス・キリストよりビートルズの方が人気がある』と言った直後だった。物質世界では、それは極めて正しい言葉だったのだ。」*2

同じような時期にジョンの「キリスト発言」が大問題に発展するのですが、敬虔なクリスチャンを除けば、物質文明が発達し、特に若者たちのキリスト教離れは顕著になっていました。

 

 

(2)採用されなかったアウトテイク

ソーセージを持って立つビートルズ

ジョンの頭に釘を打つポーズを取るジョージ

ウィテカーの著書「The Unseen Beatles」に収録されたセッションのアウトテイクは、この三連祭壇画の形を示すものでした。最初の写真は、カメラに背を向け、両手を上げて驚きや崇拝の表情を浮かべる女性に向かって、ビートルズが立っているものです。ビートルズは、へその緒を象徴するソーセージの紐を持ち、自分たちが他の人たちと同じように生まれたことを強調しています。

三連の中央のパネルは、現在「ブッチャー」の写真として知られているイメージで、肉屋の白衣を着たビートルズが、肉の塊や人形のパーツに囲まれています。最後のパネルは、座っているジョンの後ろにジョージが立ち、ジョンの頭に釘を打つようにハンマーを握っている写真です。これは、ビートルズが現実的な存在であり、崇拝すべき偶像ではないことを強調するためのものでした。この写真は、「Yesterday & Today」の表紙に登場する前に、イギリスの音楽新聞で「Paperback Writer」の広告に使われていました。

(3)評価は様々だが

「Paperback Writer」のプロモーションビデオ撮影中のワンショット

私は、彼の狙いはある程度理解できるものの、それが人々に正確に伝わるかというとちょっと疑問に思います。ビートルズが赤ちゃんを切り刻んで惨殺した殺人者の集団にしか見えないし、不気味に笑っているからよけいに猟奇的で怖いですよ。

それはともかく、このジャケットはリリースされてすぐに回収されたので、マーケットに出回ったのものは数が少なくて希少価値が高く、コレクターにとっては重要なアイテムになっています。

(参照文献)ビートルズ・バイブル、ロバート・ウィテカー公式写真サイト、ニューヨークタイムズ   この記事を気に入っていただけたら、下のボタンのクリックをお願いします。

にほんブログ村 音楽ブログ ビートルズへ
にほんブログ村

下の「読者になる」ボタンをクリックしていただくと、新着記事をお届けできます。