★ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログ★

ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

「Love Me Do」が地味な曲だなんて誰が言った?(437)

1 なぜ「Love Me Do」だったのか?

(1)ロックバンドらしくない曲

www.youtube.com

1962年10月5日、ビートルズは、ファースト・シングル「Love Me Do」でレコードデビューを果たしました。チャートこそ17位にとどまったものの、EMIレコードが宣伝に力を全く入れなかったにもかかわらず20位以内にランクインしたのは、無名の新人としては上々の滑り出しだったと思います。

ビートルズには他に素晴らしいシングル曲がたくさんありますが、Love Me Do」は、「記念すべきデビューシングル」という位置づけからあまり動いていない感じがします。もっと、この曲を評価してもいいのではないかと思ったのが今回の記事を書こうと思った動機です。以前の記事でハーモニカのことでかなり深掘りしましたが、この曲は、噛めば噛むほど味わい深くなる不思議な曲なんです。

「ノリノリのロックンロールではないが、ビートルズらしい曲」といってもいいかもしれません。彼らがデビュー当時、既にありとあらゆるジャンルの曲を制作できることを証明した作品でもあります。ビートルズは、ロックバンドですから、デビュー・シングルともなれば当然エレキギターをガンガン鳴り響かせたアップテンポな曲だろうと思いきや、まず耳に入ってくるのがプルージーなハーモニカのイントロです。

(2)ゆったりしたテンポ

そして、ゆったりしたテンポのバッキング演奏とヴォーカルが聴こえてきます。当時流行していたロックンロールやポピュラー音楽のあえて逆を行っている感じです。キラ星のごとく輝きを放っている他のビートルズのシングル曲と比較すると、地味なイメージを持たれているでしょう。バリバリのロックンローラーを自認していたバンドが、なぜデビューシングルとしてこの曲を選択したのかちょっと不思議に思えます。ミドルテンポで、ほとんど漂うような雰囲気のこの曲は、テンポの良さよりもゆったりとした気分を味あわせてくれます。

ビートルズは、セカンドシングルの「Please Please Me」のようにこの曲の演奏時間内に派手に盛り上がるようなポイントは作っていませんし、そもそもそのつもりもなかったのは明らかです。愛を求めることを単なるリクエストに単純化した歌詞は、60年代初期のポップスの基準からしても、十分に成熟しておらず、歌詞もメロディーも繰り返しが多いように感じられます。

このことは、イギリスの音楽ジャーナリストであるスティーヴ・ターナーが自著「A Hard Day's Write」で指摘しています。彼は、その中でこの曲に「Love」という言葉が20回以上も登場すると指摘しています。確かに、ただひたすら「愛しておくれ」と繰り返していますね。とてもシンプルですが、かえってその方が切々と訴えている感じが伝わってきます。

 

 

2 単調な曲ではない

1962年9月4日、EMIスタジオ

この曲は、コーラスとヴァースを通してよく練られた質感を提供し、ギターパートであったかもしれない一風変わったハーモニカソロが印象的で、そしてもちろん、ゆったりと漂うようなブルージーで哀愁さえ漂うイントロがあります。このハーモニカのパートが、ジョージ・マーティンに「Love Me Do」のシングルとしての可能性を確信させるのに役立ったのは明らかです。ビートルズが歴史的なラジオ進出曲としてこの奇妙な曲にたどり着いたのは、彼らの根底にある創意工夫とマーティンの確かなポピュラー音楽に対する感覚の賜物といえるでしょう。

サビ直前で「Ple-ee-ee-ee-eease」とポールとジョンの痛快なユニゾンが展開し、ポールの時折ふっと巧みに和らげるヴォーカルが流れ、リンゴのタンバリンを自然に取り入れた重みのあるリズムセクションがあります。アンディ・ホワイトは、UKアルバム・ヴァージョンでドラムを担当しています。ビートルズにしては単調な曲と思われがちですが、なかなか様々な工夫が凝らされていて味わいの深い作品になっています。

 

 

 どのジャンルかわからない

BBC Radio 6 Music - A Year in the Life: The Beatles 1962, Episode 2

この曲がポピュラー音楽に分類されることは間違いありません。しかし、ポピュラー音楽といっても幅広いジャンルがあるので、そのうちのどれかと聞かれると困ってしまいます。ロックではないし、フォークでもなくもちろんジャズでもない。一番近いのはブルースですが、それならラヴソングには不釣り合いです。つまり、どのジャンルにも分類できないというのがこの曲の不思議なところです。

音楽ジャーナリストのモーリー・マーシュは、こう語っています。「ビートルズが作った最高の曲でないことは確かだが、『Love Me Do』がその後の60年代の音楽のほとんどに影響を与えなかったと主張するのは難しいだろう。」

「1962年当時、ポップミュージックはまだ創世記の段階にあったが、この曲は完璧なポップソングのすべての要素を備えている。レノン=マッカートニーのハーモニーは、メインチューンであるはずの高音部と低音部のどちらがメインなのか、人によって見解が分かれるほどしっかりと織り込まれている。ビートルズを特別なものにしているのは、このような曖昧さと仕掛けなのだ」*1

彼女もこの曲の不思議な魅力について語っています。その一つは、どのジャンルにも分類できないところにあるのかもしれません。しかし、間違いなくポピュラー音楽の新しい扉を開いた曲であることは確かです。歌詞もメロディーもコードも、取り立てて凝ったものではありません。しかし、なぜか印象に残ります。ビートルズがもって生まれた才能に加え、ハンブルクでさまざまなジャンルの楽曲をレパートリーとしてきたことが、このユニークな曲を誕生させたのかもしれません。

 

 

4 多感なティーンエイジャーに刺さった

(1)ティーンエイジャーは何かを感じ取った

上に書いたことはこの曲の作り手の側からの分析ですが、逆にリスナー側の反応から分析してみましょう。1962年にリリースされたビートルズの「Love Me Do」は、このバンドの並外れたキャリアの幕開けを告げる重要な曲でした。

当時、ティーンエイジャーや若者たちは、ロックンロール、スキッフル、ポップミュージックの要素を組み合わせたビートルズの新鮮で刺激的なサウンドに魅了されていました。この曲のキャッチーなメロディ、シンプルな歌詞、エネルギッシュなパフォーマンスは多くの若いリスナーの共感を呼び、瞬く間にティーンエイジャーの間で人気を博しました。チャートでは必ずしも成功しませんでしたが、多感なティーンエイジャーにはしっかり刺さっていたのです。

(2)子どもの頃のスティングも興奮した

ポリス時代のスティング(中央)

スティングは、こう語っています。「10歳のある日、友人たちとウォールズエンドのプールで遊んでいたとき、プールの係員が置いていたラジオから『Love Me Do』が聴こえてきた。2人の声がハーモニーを奏で、5thと3thでピッタリとマッチしているのを聴いたんだ。信じられないと思った。私をミュージシャンにしたのはビートルズではなかった。私は、以前からそうなるつもりだった。でも、ビートルズが僕を作曲家にしたんだ」*2

5thと3thのハーモニーについては後で音楽を学んでから得た知識でしょうが、とにかく今まで聴いたどの曲とも違うことがわかったんですね。スティングや彼の友人は、当時まだ10歳の子どもでした。しかし、彼らも「Love Me Do」を初めて聴いた時、今までの音楽とは違うものを敏感に感じ取ったのです。

スティングは元々音楽の才能に恵まれていたかもしれませんが、彼の友人は普通の子どもたちでした。それでも彼らは、この曲が今まで聴いてきた曲とは違うと肌で感じていたのです。それは本当に感性の問題で、何がどうと理屈で説明できるものではありません。ティーンエイジャーにとってこの曲は、間違いなく音楽の新時代の到来を告げるファンファーレだったのです。

(3)少年時代のエルトン・ジョンも影響を受けた

エルトン・ジョン

イギリスの世界的アーティストであるエルトン・ジョンがこの曲を聴いたときは15歳でした。彼は、こう語っています。「学校にいたとき、友達のマイケル・ジョンソンが45(1分間に45回転するレコードのこと。シングル盤で多く使われた)を持って来て、『このバンドを聴いたんだけど、世界で一番ビッグなバンドになりそうなんだ』って言ったのを覚えている。それが『Love Me Do』だった。私はそれを聴いて『悪くない、悪くない』と言った。彼らが世界最大のバンドになるとは思えなかったが、結果的に彼は正しかった。彼は、ファンクラブで4番目の会員だったと思う。彼は、すぐに彼ら(の才能)を見抜いたんだ」エルトンの友人が、エルトンよりも先にビートルズの「Love Me Do」を聴いて彼らの才能に気づいたのです。やはり、これもティーンエイジャーにこの曲がちゃんと刺さっていたことを示すエピソードです。

エルトンはさらにこう続けました。「もちろん、1950年代がロックンロールでやったことはすごいけど、ビートルズは桁外れだったんだ。彼らは、レコーディングの方法に革命を起こし、とてもシンプルな機材を使っていたにもかかわらず、実験をし、素晴らしい曲を書いた」*3

他にも少年時代にこの曲の影響を受けたアーティストはたくさんいると思われますが、資料が見当たらなかったのでここまでにしておきます。

(参照文献)ポップマスターズ

(続く)

 

 

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(追記)

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*1:ユーロニュース・カルチャー

*2:ファーアウト・マガジン

*3:ファーアウト・マガジン