★ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログ★

ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

アーリー・ビートルズのイメージを確立させたアストリッド・キルヒャーを讃える(271)

Astrid Kirchherr (the Beatles classic photographer) RIP

1 相次ぐ訃報

ついこの間、ビートルズの師匠ともいえるリトル・リチャードの訃報に接したばかりなのに、それからまたアストリッド・キルヒャーの訃報に接することになってしまいました💦彼女は、2020年5月12日、81歳でこの世を去りました。

様々な形でビートルズを支えてくれた人々が次々とこの世を去っていく。いつかはこの日が来ると覚悟していても、本当に悲しいです。ビートルズのメンバーも含めて、こちらの世界より天国の方が賑やかになってしまいました。

世界中のビートルズファンが彼女の死を悼み、功績を讃え、謝意を表しました。代表的なものとして、ビートルズの伝記作家として著名なマーク・ルイソンは、ツイッターで次のようにつぶやきました。「ダンケ・シェーン、アストリッド・キルヒャー。知性的で、インスピレーションを与え、革新的で、大胆で、芸術的で、物事をよく理解し、良く気が付き、美しく、賢く、愛に溢れ、多くの人を高揚させる友人であった。ビートルズへ彼女が贈ってくれた物は計り知れない。」この言葉に彼女の功績と人となりが込められているように思います。

今回は、また予定を変更して、彼女のことについて書こうと思います。

2 「Kirchherr」の発音について

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(1)彼女の姓は何と発音する?

本題に入る前にですね、「彼女の姓である『Kirchherr』をどう日本語表記するか?」という問題を解決しておく必要があります。というのも、色々な表記があってどれにすべきか悩ましいところなんです💦彼女に限らず、外国人の名前や地名など固有名詞の表記方法は、誰しも頭を悩ませる問題ですね。

マーク・ルイソンの「TUNE IN(誕生)」上巻の日本語版では「キルヒヘル」と表記しています。他の文献でもこのように表記している例が散見されますが、これについて私は、英語圏やドイツ語圏の人が本当にそう発音しているのか、以前から疑問を持っていたんです。

というのも、私は、大学で第二外国語にドイツ語を選択したんですが、「er」は確かに、「エル」と発音すると学習しました。しかし、それが語尾に来た場合は、英語と同じように「アー」と母音化するとも学んでいたからです。

調べてみると語尾の「er」「エル」と発音するのは、今では80代以上の高齢者のようですね(^_^;)それより後の世代の人は、「アー」と発音するようになっているようです。例えば、ドイツの詩人、フリードリヒ・フォン・シラーは、太宰治の「走れメロス」の中では「シルレル」と表記されています。つまり、その頃はそう発音していたんですね。

ベートーヴェンがシラーの詞「歓喜に寄す」に感激して作曲したのが、あの名曲「交響曲第9番 歓喜の歌」です。流石に、今時シルレルとは言いませんよね。

 

(2)語尾の発音の変化

語尾の発音がこのように変化したのは、おそらく、20世紀に入り全世界でラジオが普及し、アナウンサーが、情報を少しでも多くリスナーに伝えようと次第に早口になったことにあるのではないかと思います。「エル」より「アー」の方が発音しやすいですから。

実際、ドイツ人の会話のスピードは、昔に比べてかなり早くなっているようです。しかし、これはドイツに限ったことではなく、全世界で同じような傾向にあるのでしょうね。

もう一つ例を挙げると、ドイツ語で皇帝は「Kaiser」と言います。発音は「カイザー」ですが、古くは「カイゼル」と発音していました。最後にカイゼルと呼ばれたのは、第一次世界大戦を引き起こしたヴィルヘルム二世です。アーリー・ビートルズハンブルクで出演していたクラブは「Kaiserkeller」(カイザーケラー)でした。「皇帝の地下室」という意味です。「カイゼルケレル」とは言いません。

疑問が解決しないので、Facebookでドイツ人のファンに質問してみました。すると、英語でもドイツ語でも「キルヒャー」と発音するという答えが返ってきました。ただ、英語圏のニュースでは「キルチャー」と発音しているように聞こえるものがあります。


Astrid Kirchherr

いずれにしても、英語圏であろうがドイツ語圏であろうが、「キルヒヘル」と発音しているニュースは一つもありませんでした。ですから、これだけは絶対にないと断言できます。ドイツ語の動画サイトでは「キルヒャー」と発音しています。「キルヘア」とも聞こえますね。


Arne Bellstorf und sein Comicbuch über die Hamburger Jahre der Beatles | euromaxx

何だか「ギョエテとは俺のことかとゲーテいい」って川柳みたいな話ですが、以上書いたとおりの事情で、このブログではキルヒャーで統一することにします。

 

3 アストリッド・キルヒャーの功績

(1)アーリー・ビートルズのイメージを確立させた

Astrid Kirchherr, photographer of the Beatles' early days in ...

ドイツ人カメラマンであるアストリッド・キルヒャーは、下積み時代にハンブルクへ巡業に来ていたビートルズの写真を数多く撮影し、その芸術性の高さからいわゆる「アーリー・ビートルズ(メジャーデビュー前のビートルズ)」のイメージを確立し、それを後世に伝えるという多大な貢献をしたことで知られています。

当時は、まだモノクロ写真が一般的な時代でした。しかし、モノクロであることが、かえって飾らない若きビートルたちの素顔を切り取ることに成功しています。つまり、全体のトーンが抑えられていることによって、むしろ逆に彼らの内面が浮かび上がっているのです。

カメラの前の彼らは、無表情かほんのわずかに微笑を浮かべているだけです。ふざけることも媚びることもしていません。メジャーデビューしてから、アイドルとして撮影された写真のほとんどが笑顔だったのとは対照的です。そこにリアリティーを感じます。

リーゼントに黒の革ジャン。貧しいし粗野だけど、劣等感など微塵も感じさせません。彼らは、アストリッドのカメラの前で「今はこんなみすぼらしい姿だけど、今に見てろ、絶対売れてやる!」という過剰ともいえる自信に満ち溢れた姿です。

彼らは、レンズ越しに成功した自分たちの姿を夢見ていたのでしょう。まだまだ荒削りだけれど、才能に溢れるビートルたちとその時代背景が、写真を見るたびに鮮明に浮かび上がってきます。これらの作品は、ビートルズの作品とともに永遠に後世まで語り継がれるでしょう。

 

(2)アーリー・ビートルズのイメージを後世に伝えた

Amanda Scott's tweet - "#RIP Astrid 🙏 Astrid Kirchherr was a ...

アーリー・ビートルズは未だに人気が高く、好んで小説、映画、舞台など数多くの作品の題材にされています。中でも1994年に公開された映画「BACKBEAT」は有名ですね。これだけ多く作品化されたのは、アストリッドの写真で彼らのイメージが鮮明に残されていたため、後世の人々がそれを手がかりに彼らの人物像を明確に描き出せたことが大きいといえます。逆に、彼女の存在なくしてこれらの作品はなかったでしょう。

デビュー前の彼らは、リーゼントに黒の革ジャン、ブーツといういかにも不良というスタイルでした。しかし、プロになってレコードを出したいという音楽にかける情熱は凄まじく、ハンブルクで安いギャラでロクな宿泊施設もあてがわれず、朝から晩まで毎日演奏させられ、気性の荒い船員たちにからまれるという過酷な労働条件の中で、どうやったら観客を楽しませられるかを肌で感じ取り、メキメキ実力を上げていったんです。

多くの人々が2年間という短い期間の彼らに魅力を感じるのは、スーパースターが味わった厳しい下積みの苦労とそれを跳ね除けようとする若さと燃えたぎる野心、アストリッドとスチュの恋やメンバーの葛藤など、わずかの期間の間に様々なエピソードが詰め込まれているからでしょう。


Backbeat (1994) ORIGINAL TRAILER [HQ]

(3)ビートルズを励まし、多くのインスピレーションを与えた

追悼アストリッド・キルヒャー 彼女が撮った初期ビートルズの素顔 ...

ビートルズが毎日相手にしていた観客は、リヴァプールの熱狂的なティーンエイジャーではなく、酒や女を目当てに歓楽街へ遊びに来た男たちばかりで、ロクに音楽など聴いていません。彼らのファンらしいファンはほとんどいなかったのです。

そんな毎日にさすがのビートルたちも心が折れそうになりました。「オレたちは、一体どこへ向かっているんだ?こんなことをしていて、本当に売れるのか?」と何度も疑心暗鬼に陥ったんです。

そんな彼らをアストリッドと友人のフォルマー、フォアマンらが毎日クラブに通い、励ましてくれたのです。アストリッドは、目を輝かせて「あなたたちには素晴らしい才能があるわ。きっと売れる日が来る。それを信じて音楽を続けるのよ。」 と熱心に語りかけました。

しかも、彼女自身が才能に溢れたプロの写真家であり、知性と教養にあふれた素晴らしいセンスの持ち主でした。彼女の知性にあふれた会話、優れた芸術的センス、洗練されたファッションなど、ありとあらゆるものが若きビートルたちを大いに励まし、刺激を与えたのです。

全然、書き足りないのでこのお話をしばらく続けます。

 

(続く)

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