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再発盤された「Revolver」の魅力~音楽界に革命を起こしたのは実はこのアルバムだった?(400)

「Revolver」の2022年再発盤

1 リミックスで新たな魅力を発見

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2022年の「Revolver」の再発盤では、驚くべきことに、ジョンのはかなく悲しい曲からリンゴが楽しく歌うポップな曲へと進化する過程を「Yellow Submarine」のワーク・テープでたどれます。ビートルズが「Yellow Submarine」を物悲しいフォークの小曲から陽気なポップ・ミュージックへとアレンジし直すなんて、誰も思いつきそうにありませんが、テープは嘘をつきません。アコースティックなサウンドに磨きをかけつつ、スタジオで気まぐれにアレンジしたことで、彼らは、より親しみやすくポップな「Yellow Submarine」に到達したのです。

反復と大胆不敵な実験は、常にビートルズの特徴ではありましたが、「Revolver」では、彼らが革新的なサウンドに向かって真っ直ぐに加速していることが分かりました。その理由の一つは、数年間の激動の時期を経て、人生経験が彼らの芸術にしみ込んでいったことにあるといえます。

 

 

2 あらゆるジャンルに取り組んだ

1966年4月初旬から6月末までの間に録音された「Revolver」は、サイケデリック・ジャングル、オーケストラ・ポップ、R&Bの影響を受けたロック、力強いフォークなど、さまざまなジャンルの音楽が敷き詰められたパッチワークのような作品です。

このアルバムは、彼らのスタジオの魔術師的な段階の始まりでもありました。「Tomorrow Never Knows」の中で渦巻くめくるめくテープ・ループは、これまでと同様に華麗で幻想的であり、ロック以外の楽器編成も取り入れています。「Love You To」では、ジョージがゲスト・タブラ奏者のアニル・バグワットと共にシタールを演奏し、「Eleanor Rigby」では下降するストリングスが重厚さを与えています。

普通、一つのアルバムの中でこんなに多くのことに取り組めば、まとまらなくなって空中分解してしまいます。しかし、ビートルズが天才たるところは、破綻をきたすどころか一つの作品として統一の取れたアルバムとして完成させたことにあります。考えてみれば「Tomorrow never knows」などのような前衛的な曲と「Eleanor Rigby」のようなクラシックを思わせる音楽が同居していて、なおかつ統一が取れているところは、改めて驚きを覚えます。

 

 

3 ジャイルズ・マーティンの手腕

(1)オリジナルテープのデミキシング

ジャイルズ・マーティン

「Revolver」のリミックスは、純粋に音楽を聴くことだけに焦点を当て、そのサウンドを現代の制作水準に近づけてくれるであろうと長い間期待されてきました。プロデューサーのジャイルズ・マーティンは、父(ジョージ)の足跡をたどり、新しいAI技術を活用し、クラシックなモノラル・アルバムのステレオ・ミックスを作成しました。

彼は、ピーター・ジャクソンのオーディオ・チームと協力して原曲のサウンドを分析し、オリジナルテープのデミキシング(一つの音源から各楽器の音を分離・抽出すること)を行い、楽器ごとに個別のトラックを作成するという技術を導入しました。その後にこれらを個別にリミックス、リマスタリングすることで、より充実したサウンドに仕上げることができました。このような音楽へのAI技術の導入は、他のモノラル名盤のリミックスの可能性を高め、DJやMCが新しい楽曲を試聴する機会もこれまでにないほど増えるといえます。

スーパー・デラックス盤をオリジナルのモノラル音源と比較すると、その音質の差は歴然としており、画期的なものであることがわかります。現代のようなストリーミングの時代には、初期のアルバムの音質の悪さのため、これからファンになるかもしれない多くのリスナーがビートルズの楽曲を楽し可能性がありました。

このリミックスは、この問題を解決し、彼らのサウンドを現代的にすることを目的としています。これこそまさに決定版であり、現代の制作技術を駆使して質感豊かなサウンドと、リスナーが「心を消して、リラックスして、下流に流れていく」ような没入感を実現したのです。

(2)「Revolver」のリミックス盤の特徴

「Revolver」は、必ずしも2017年の「Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band」のリミックスのような万華鏡のような深みを備えてはいませんが、それを決して軽んじているわけではありません。むしろ、「Revolver」が新しくディテールを描き出してくれたおかげで、曲のより深い意味を教えてくれるのです。

より顕著になったのは、「Here, There and Everywhere」でのうす暗いバックハーモニーが、この曲を昔ながらのロックンロール・ラヴソングとして作り変え、「I Want to Tell You」でピアノが主人公の不安を映し出し、ポールの「Taxman」のブンブン唸るウォーキング・ベースがジョージの歌詞の痛烈でシニカルなトーンを際立たせていることです。

 

 

4 ビートルズは常に前進した

(1)デモ・テープの魅力

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「Revolver」の作業用テープやデモは、アーカイブの観点からも魅力的で、ビートルズが楽しんでレコーディングしていることが窺えます。「And Your Bird Can Sing」のあるテイクでは、彼らは、笑い転げ、かろうじて曲をやり遂げました。

デモの多くは、このアルバムが極めてメランコリックなものになった可能性を示唆しています。ジョンのホームデモである「She Said She Said」は、メロディーを微調整してより荒々しく、より禁欲的な「Here, There and Everywhere」は、語り手が手の届かない誰かを恋い慕っているように感じられます。

「Revolver」再発盤には、1966年の単独シングル「Paperback Writer」とそのB面「Rain」の素晴らしいアップデートも収録されており、実速度で演奏された「Rain」のセッション・テイクは、これがビートルズの名曲の一つであることを十分に証明しています。

(2)型にはまらなかった

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このボックスセットに付属する本の序文で、ポールは「僕らの方式は何かと聞かれたら、ジョンと僕は、もし方式が見つかったらすぐに捨てると言った」と書いています。それは確かに、ビートルズのカタログの中で急速なサウンドの進歩を説明するものであるといえます。このアルバムに限りませんが、ビートルズは、一つの型にはまることを嫌いました。それにさえはまっていれば間違いない鉄板の方式は確かに存在するかもしれませんが、それはマンネリに陥ってしまうという危険もはらんでいることを意味します。ビートルズは、常に失敗を恐れず前を向いて進んだのです。

この彼らの姿勢が「Revolver」のサウンドをいまだに生き生きとさせている理由でもあります。ビートルズは、スタジオ・アルバムを制作するたびに、自分たちを表現し、音楽を前進させるための新しい方法を模索してきました。「Revolver」は、彼らが努力し、さらに野心的な音楽を生み出すための土台を築いたアルバムなのです。

 

 

5 ジャケットも革新的だった

クラウス・フォアマン

ジョンからジャケット・デザインの依頼を電話で受けたビートルズハンブルク時代からの友人であるクラウス・フォアマンは、EMIスタジオへ向かい、3分の2ほどレコーディングが終わっていたアルバムから、最初に「Tomorrow Never Knows」を聴きました。聴いた曲のイメージを元に彼がスケッチを描いたところ、髪の毛が強調された4人の描写をビートルズが気に入り、そのまま作業を進めました。

クラウスは、ジャケットを3週間ほどかけて仕上げました。白黒にしたのは、カラフルなジャケットが当時は多かったので、より目立つと思ったからです。

クラウスが描いたイラストを元に、ロバート・フリーマンが撮影した写真をコラージュし、斬新なイメージに満ちたポップ・アート的なジャケットはこうして完成しました。その際クラウスは、ジョージの髪のなかに自分の顔写真とクレジットを入れ、さらにポールの耳に中にも自画像を描いています。ジャケットもアートであることを改めて認識させました。

 

 

6 なぜもっと評価されてこなかったのか?

タイミングの悪いことに、このアルバムがリリースされる直前の1966年7月頃にジョンの「キリスト発言」を巡って、アメリカで大規模な反ビートルズ運動が巻き起こっていました。「とにかく、彼らは、ジョンの『ビートルズはイエスより人気がある』というコメントで大ダメージを受けていたので、誰もレコードについて語ろうとはしなかった」とアメリカの作家であるロバート・ロドリゲスは語っています。「彼らは、そのアルバムの存在をほとんど公けにせず、その曲を演奏することさえせずにツアーに出た。そのため『Eleanor Rigby』は、すぐにナンバーワンにはならなかった」

ビートルズは、この革新的なニューアルバムを全世界に向けて大々的にアピールしたかったのですが、おり悪しくジョンのキリスト発言が飛び出してしまい、彼らは、沈黙を余儀なくされました。このアルバムがとてつもなく革命的なものであったにもかかわらず、大きな評判にならなかったのは、そういった不幸な偶然があったのです。そして、その時点での評価がその後も定着してしまい、「ポピュラー音楽会に革命をもたらしたアルバム」という名誉ある称号を次の「Sgt. Pepper」に譲る結果になってしまいました。

しかし、今回の再発盤をきっかけに、もう一度見直してみる必要があるのかもしれません。ちなみに「New Music Express (2013)による史上最高のアルバム500選」では「Sgt. Pepper」や「Abbey Road」を抑えて2位にランキングされています。

(参照文献)ガーディアン、ミューズ、エスクアィア、ユーディスカヴァーミュージック

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