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ビートルズを誰にでも分かりやすく解説するブログです。メンバーの生い立ちから解散に至るまでの様々なエピソードを交えながら、彼らがいかに偉大な存在であるかについてご紹介します。

「Do you want to know a secret」は実は複雑な構成の曲である(542)

The Beatles: For the Record: Do You Want to Know a Secret

1 曲に隠された三つの秘密

ジョンとシンシア

「Do you want to know a secret」は、ビートルズのファーストアルバム「Please Please Me」に収録されている曲で、ジョージが初めてリードヴォーカルを担当しました。作詞作曲はレノン=マッカートニーとなっていますが、主にジョンの作品です。

初期のビートルズらしいロマンティックでほのぼのとした曲ですが、実はこの曲の背後にはいろいろな秘密が隠されています。タイトル通り「Do you want to know a secret」ですが、それを少し掘り下げてみましょう。

シンシア・パウエルと結婚したばかりだったジョンでしたが、ファンが離れることを恐れたマネージャーのブライアン・エプスタインは、彼女の存在を極秘にしていました。彼らは、ブライアンが用意したリヴァプール8番地の住宅に住んでいました。この曲は、ビートルズに関わる三つの重要な秘密が存在することを巧みにほのめかしています。

まず、1962年8月、ビートルズのリーダーであるジョンは既婚者になりました。この出来事だけでも十分に衝撃的でしたが、さらに、彼の妻は妊娠していたのです。さらに、夫妻が一時的に住んでいたフォークナー・ストリート36番地の住宅はブライアンの所有で、しばらくの間、彼の秘密の逢瀬の場となっていました。彼は同性愛者でしたが、1960年代初頭のイギリスではそれはまだ違法だったのです。

この曲の三つの秘密の一つでもマスコミやビートルズのファンに明かされていたら、新進気鋭の若手バンドの運命は全く違った方向を向いていたかもしれません。「Do You Want to Know a Secret」は、実は厳重に守られた極めて個人的で、感情に満ち溢ふれた秘密に対する賛歌だったのです。

 

 

2 幼い頃と成長してから聞いた曲

(1)白雪姫と七人の小人

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ジョンが制作したこの曲は、他の多くの曲と同様に音楽好きでバンジョーをよく弾いていた母、ジュリア・スタンリー・レノンにインスピレーションを得たものです。彼女は1937年のディズニーのバラードである「I'm Wishing」(「白雪姫と七人の小人」より)を幼い息子に優しく歌っていました。「I'm Wishing」の冒頭部分で、白雪姫は願いを叶える井戸の周りに止まった鳩の群れに語りかけます。彼女はこう問いかけます。「秘密を知りたい?言わないって約束してくれる?」

3歳か4歳のジョンが、白雪姫の歌が大きな秘密を明かすという約束に、熱心に耳を傾けていた様子が目に浮かびます。幼いジョンが、歌の他の要素にも魅了されていたことは明らかです。後にジョンの楽曲に「コール&リピート」として取り入れられるエコー、「聞いて(間)秘密を知りたい?」となる絶妙な間、そして心に残るマイナーリードラインの魔法などです。しかし、3,4歳の頃に聴いた曲を覚えていて、そこから作曲のインスピレーションを受けるとはやはり天才は違いますね。

(2)「ザ・ステレオズ」の曲「I Really Love You」

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しかし、「Do You Want To Know A Secret」の発展には、後に受けた影響も加わりました。アンソニー・ロブステリ著「I Want to Tell You」の中で、ジョージは、「Do You Want To Know A Secret」はアメリカのコーラスグループである「ザ・ステレオズ」の曲である「I Really Love You」をモデルにしていると述べています。

ステレオズの曲はテンポが速くメロディアスではありませんが、ジョンは1950年代の「ドゥーワップサウンドを採用しています。また、ステレオズのコード進行を借用し、さらに発展させています。ジョンは生涯を通じてあらゆる種類の音楽を吸収し、それらを全く異なるものへと変貌させることができたのです。  

3 ユニークな曲の構成

(1)曲中では再登場しないイントロ

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ロブステリは「Do You Want To Know A Secret」が「曲中では再登場しないイントロ」という非常にユニークな手法をリスナーに提供していることを称賛しています。確かに、ビートルズの他の曲では、イントロに使われたメロディーが曲中でも再度登場することがよくあります。しかし、この曲のイントロは曲中で再登場しないのです。

また、ジョンは生涯ジャズに興味がないと主張し続けていたにもかかわらず、この曲にはジャズ的な雰囲気が漂っていると指摘しています。また、ロブステリは、ジョンが「マイナーii」から「マイナーiv」へのコード進行を採用した点を称賛しています。ジャズにおいて、II(マイナーii)コードからIV(マイナーiv)コードへの進行は、サブドミナント・マイナー進行の一般的な形です。

これはおそらくビートルズがカヴァーした「Till There Was You」から借用したものと思われます。ロブステリによれば、ジョンはこの手法を「All I've Got To Do」や「Across the Universe」でも再利用していると主張しています。ジョンは、効果的な手法を発見するとそれを巧みに活用し、再利用したのです。

(2)音楽専門家はこぞって称賛した

ティム・ライリーは著書「テル・ミー・ホワイ」で、「『Do You Want to Know A Secret』はビートルズの初期の曲の中でも特によくできた曲の一つ」だと主張し、「(リズム)ギターの下向きのチャンク・ア・チャンク(サウンドのひとかたまり)の動きによるフックが、『ドゥー・ワ・ドゥー』のバックコーラスに反映されている」と指摘しています。

さらにライリーは、かつてジョンを魅了した白雪姫のイントロダクションと同様に、ジョンの珍しい「歌/語り」によるイントロダクションが聴く者を魅了すると指摘しています。ライリーは「ジョージが『僕がどんなに君を本当に愛しているか、君は決して知ることはないだろう/僕がどんなに君を大切に思っているか、君は決して知ることはないだろう』と切々と語る短いイントロダクションは、Emで始まり、Gを経てヴァースのキーであるEへと移行する」と述べています。

著書『ザ・ビートルズ・アズ・ミュージシャンズ』におけるウォルター・エヴェレットも同意見で、イントロのコードを「カラフル」で印象的であり「メロドラマ的な効果」があるものと評しています。でも、ジョンがこの曲を書いたときはまだ22歳だったんです!キャリアの初期にもかかわらず、曲の構成は実に複雑です。ジョンが意識的にそうしたわけではありませんが、彼の天賦の才能がこのような複雑な曲の構成を生み出したといえるでしょう

1963年6月、ビリー・J・クレイマー&ザ・ダコタスがこの曲をチャート1位に押し上げました。しかし、多くの人にとっては今でも最も記憶に残るのは、やはりビートルズのオリジナル・ヴァージョンでしょう。ジョージのスカウス訛りが色濃く残るヴォーカルは「secrrrret」や「close-ah」を喉の奥で鳴らすような発音でファンを魅了しました。また、彼の「I’m in love with you」の荒々しさは「抗しがたい魅力がある」と評されました。

 

 

4 あるはずのない関係を明らかにした曲

(1)レコーディング

1963年2月11日、ビートルズはヘレン・シャピロ・ツアーの間に1日だけ休みを与えられ、コンサートを抜けてファーストアルバムのレコーディングに臨みました。「Do You Want to Know A Secret」はあっさりと完成しました。

メンバーの承認を得るバッキングトラックを作るのに4テイクと2回の失敗がありました。その後、ジョン、ジョージ、ポールが一緒に歌うことでジョンのリードヴォーカルにタイトなハーモニーが加わり、リンゴが2本のドラムスティックを叩くなど、パーカッションも追加されました。これらはトラック7と8に追加されました。

(2)ありとあらゆる点で複雑な曲

ポールは、ブリッジ部分に貢献したと述べています。1962年から63年にかけて、2人の若いソングライターはトラックの空白部分を埋めました。しかし、ウィルフレッド・メラーズが「神々の黄昏」で指摘しているように「Do you want to know a secret」は「ジョンがジョージのために書いた」ものです。そして、メラーズは「I’m in love with you」という歌詞の「痛ましい装飾音」により、後期のジョンの作品によくある珍しく告白的な曲を聴くことができるとしています。

「Do you want to know a secret」は、あるはずのない関係を明らかにしているようにみえるのですが、実はそこには隠された関係があるのです。それがジョンの新しい妻との秘密の結婚であれ、ブライアンの秘密の恋愛であれ、ジョンが失った「百万人に一人の女性へ、そして友へ」と長年繰り返される想い話であれ、そこには痛みと情熱が存在しています。

さらに、この曲をうまく歌えなかったと思っていたジョージは、誠実さと不安を絶妙なバランスで表現しています。「for a week or two」と歌うべきところを「for the week or two」というスカウス訛りを使っているところさえ、この曲に本物らしさと魅力を与えています。「Do You Want to Know a Secret」はシンプルなバラードですが、それでも美しくメロディアスな作品です。

(参照文献)カルチャーソナー

(続く)

 

 

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